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四十三話 お決まりのセリフ

* * * *


「取り敢えず、最低限の決め事だけしておくか」


 ヨルハが持って来ていた〝メビウスリング〟を手首に嵌め、その具合を確かめながら俺はオーネスト達に言葉を投げ掛ける。


 図書館に篭り、フィーゼルのダンジョンについての知識も頭に叩き込んでおいて良かった。

 そんな感想を抱きながら俺は言葉を続ける。


「〝ラビリンス〟のダンジョン内に無数に点在する転移陣。その配列は、24時間おきに変化する」


 そして、変化するタイミングは、昼の12時。

 故に、


「だから、これまでであれば(、、、、、、、、)朝の11時を目処に、見つかっていても、見つかっていなくても一度ダンジョンを出よう。って言うつもりだったんだが」


 そのタイミングでダンジョンの外にいなければ、予期せぬ事態に見舞われたのだと判断が出来る。だから、このくらいの決め事は必要だった。


 ただ、幸運な事に〝タンク殺し〟64層にて、ロキから便利な魔法をクラシアが教わっていた。


「今回はそれはしない。その代わりにダンジョンに入った場所で、転移陣を仕掛ける。で、それをまず〝安全地帯(セーフティポイント)〟である中ボス部屋を見つけ次第、中と転移陣を繋いでおいてくれ。要するに、そこを集合場所にする」


 ロキがとある国家からくすねてきた〝転移魔法(テレポート)〟は魔力の消費が膨大である事に加えて、転移先はダンジョンの中の場合、同フロアが限界。という制限を踏まえて尚、便利過ぎる魔法であった。


 ただし、〝転移魔法(テレポート)〟を扱う適性に、俺とオーネストは恵まれず、クラシアとヨルハの2人だけしか扱う事が出来なかった。

 それもあっての俺とクラシア。

 オーネストとヨルハの分け方であった。


「ハっ。まさか、クソ野郎の手癖の悪さが活きる時が来ちまうとは」


 64層の時はロキに対して四人で散々ボロクソに言った記憶しかないが、それはそれ。

 これはこれである。

 ロキが聞けば「ふっざけんなッ!?」なんて怒る気がしたけど、バレなきゃオーケーである。


 なにせ、当人であるロキもそう言っていたのだから。


「ただ、それをすると他の奴らまで繋いだ先に転移してくる可能性があるんだよな」


 踏み抜きさえすれば効果が現れるのが〝転移魔法(テレポート)〟。

 故に、たとえばそれが俺達であれ、オリビアであれ、〝闇ギルド〟の人間であっても例外なく転移して来てしまうという注意点があった。


「問題ねえ。寧ろ、それは好都合ってもンだろ。踏み抜いたのが誰であれ、オレらからすりゃ探す手間が省けて万々歳だ」


 どちらにせよ、オリビアがダンジョンに足を踏み入れていた場合は、障害は可能な限り倒さなくてはならない。

 だから、その可能性の話を共有出来さえすれば、もう何も問題はなかった。



 やがて、そうこう話しているうちにギルドから少し離れた場所にあるダンジョンの一つ。


 〝ラビリンス〟の入り口にまで俺達はたどり着いていた。

 そして、そこにはぐるぐると円を描くように忙しなく歩き回る見知った顔があった。


「……あ、ギルドで姿みないなあって思ってたけど、今日はミーシャちゃんが当番だったんだ」


 その場にいた誰よりも先にその正体を看破したヨルハが、彼女の名前を口にする。


 以前、ギルドマスターであるレヴィエルとの間で通行証を巡って手合わせをする事になった一件然り。

 基本的に、ダンジョンは付近に位置するギルドの管理下に置かれる事となっていた。


 そして、ダンジョンの入り口には一人か、二人、常にギルドの職員が配置される決まりがあり、ちょうど今日、〝ラビリンス〟に配置された職員が以前、レヴィエルとの手合わせの際に出会った少女——ミーシャであったらしい。


「よ、ヨルハさんっ!!」


 ヨルハが声を上げた直後。

 ミーシャもこちらの存在に気付いたのか。

 どこか縋るような口調で、一直線に駆け寄ってくる。


「たっ、たいへんなんです!! ギルドマスター! ギルドマスターを急いで呼ばないといけなくて」

「あー、うん。何となく事情は察せたから、一旦落ち着こう? ほら、深呼吸。深呼吸」


 吸ってー。

 吐いてー。

 と、ヨルハの指示に従うミーシャの様子から、何かがあった事は間違いなかった。

 そしてこのタイミングである。


 恐らく、オーネストの予想通り、〝ラビリンス〟にオリビアがやって来たのだろう。


「確定ね」


 隣でそう口にするクラシアの言葉に胸中で同意しながら、もう一度だけ〝メビウスリング〟の具合を確かめるべく、反対の手をあてた。


「……みなさん妙に落ち着いてますけど……って、あっ! もしかして、もう既に話伝わってる感じ、ですか……?」


 事態をミーシャも察したのか。


 〝タンク殺し〟の攻略を進めてる筈のみなさんが〝ラビリンス〟に来るわけがありませんし……。

 などと言葉が続けられる。


「治癒室からオリビアさんが抜け出してたから、もしかすると〝ラビリンス(ここ)〟にやって来てるんじゃないのかって事になってね。見てきてってマーベルさんからボク達が頼まれたんだ」

「……や、やっぱり、抜け出して来てたんですね」


 顔を引き攣らせ、そして嘆息。


「副ギルドマスターから許可を貰ったって、大嘘じゃないですか……」


 どうやら、オリビアはミーシャに嘘をついて強行突破して行ったらしい。


「重傷を負って間もねえやつに、あいつが許可を出すもンかよ」

「……ですよねえ。だから、一応私、止めようとはしたんですけど……その、力及ばずと言いますか」

「あー、うん。ミーシャちゃんには難しいよね。オリビアさん、Sランクパーティーの人間だし……ボクみたいに補助魔法特化ってわけでもないし」


 しかも、オーネスト曰く〝ネームレス〟の人間は全員が真っ向から戦える者達の集まりである。

 とてもじゃないが、手負いとはいえ、ミーシャに強行突破しようと試みるSランクパーティーの人間を止められるとは思えなかった。


「で、なんだけれど。今からボク達でオリビアさんを連れ戻してくるから、ミーシャちゃんはギルドに戻ってマーベルさんに事情を話しに向かって貰ってもいい?」

「あ、はい! それは勿論構わないんですが、ただ……」


 奥歯に物の挟まったようなその言い草に、俺達は首を傾げる。


「何か、オリビアさんの様子がいつもと違ったような気がするんですよね。こう、何と言いますか。急いでるような(、、、、、、、)

「……急いでる?」


 苛立っている。

 であればまだ理解が出来た。


 傷を負わされたのだ。

 そのくらいの感情は抱いて然るべきだろうから。けれど、ミーシャの口から出てきたのは急いでる。という言葉。


「あ、いや、私が思っただけなので、特に深い意味はないんです! すみません……」


 それを最後に、ひとまず私はギルドへ報告に戻りますね。

 とだけ告げてミーシャは走り去ってゆく。


「あいつの言葉、アレクはどう思うよ」

「さあ? こればっかりは中に入ってみない事には何も分からないだろ」

「それもそうか」


 オリビアが何かを隠しているにせよ。

 その何かについては、中に入れば自ずと分かる事。


「案の定と言うか。オリビアさんは〝ラビリンス〟の中に入って行っちゃったみたいだし、ボク達はボク達で急がなきゃ」


 恐らく傷は未だ癒えていない筈。

 であれば、少しでも急がなければならない。


 そうして、俺達は〝ラビリンス〟のダンジョンの前へと足を進める。


 入り口は他のダンジョンと同様に、空間がねじ曲がったかのようにぐにゃりと歪んでおり、様々な絵の具が混ざり合ったかのような色合いが視界に映り込む。


「そう言えば、〝ラビリンス〟だけは特別仕様なンだっけか」


 足を踏み入れようか。

 といったところでふと、オーネストが口を開いた。


「転移陣だらけのダンジョンだからか、いきなり持ってる〝核石(コア)〟に適した階層まで飛べるらしいな」


 図書館で頭に叩き込んだ知識を披露する。


 通常のダンジョンでは、〝核石(コア)〟を手にしていれば、取得した〝核石(コア)〟の階層までのフロアボスとの戦闘を避けられる。

 だけの効果しか発揮しないのだが、〝ラビリンス〟だけは特殊で、転移陣だらけのダンジョンであるからか。


 持っている〝核石(コア)〟に適した階層まで足を踏み入れた瞬間に転移する仕組みとなっているらしい。


 実に便利、ではあるが、俺達のようなパーティーは全員揃って本領発揮。

 なところが否めない為、〝ラビリンス〟の攻略はあんまり気が進まないというのが本音だった。


「あー、それだそれ。つー事はだ。移動時間も短縮出来るって事で、今回は前回より更にサクッと終わらせちまうか」


 〝闇ギルド〟のクソどもを蹴散らして、無愛想を回収して、〝古代遺物(アーティファクト)〟でも取って帰るとすっか。

 

 けらけらと笑いながらそう口にするオーネストの言葉に、俺も同意する。


 そして、俺とオーネストの視線が一斉にヨルハへと向いた。


「……二人してどうしたの」


 クラシアはいち早く何かを察したのか。

 あたしは知らないと言わんばかりに目を逸らし、早々とヨルハを見捨てていた。


「ダンジョン攻略と言やあ、ちょっとした儀式みてえなもん、あったよなあ?」


 それは魔法学院時代は俺とオーネストの二人だけで言い合っていた決め台詞。

 しかし、今の〝終わりなき日々を(ラスティングピリオド)〟のリーダーは俺ではなく、ヨルハ。


 ならば、折角だしここはヨルハに言わせよう。

 俺とオーネストの心境はこの瞬間、合致していた。


「あった、あった。あれがないと、俺達のダンジョン攻略は始まらないよな」


 そしてオーネストの悪ノリに、俺も乗っかる。

 厳密に言えば今回はダンジョン攻略をするわけではないのだが、あえてそこは考えないでおく。


 やがて、俺達が何を言わせたいのか察したのか。ヨルハは半眼で俺達を見詰めながら呆れ混じりに口を開いた。


「……二人はボクにあれを言えと? あのセリフ、恥ずかし過ぎるんだよ……それにほら、クラシアなんて知らないふり決め込んでるし」


 自分にまで被害が及ばないように自己防衛しちゃってるじゃんとヨルハの指摘が飛ぶ。


「安心しろ。潔癖症にもいつか言わせてやる」

「一生言う気はないわよ」


 知らないふりを決め込んでいた筈であるのに、オーネストのその発言にはすかさず反応するクラシアを前に、笑わずにはいられなかった。


 そして、数十秒と無為に時間が過ぎ。


「ほら、ヨルハもリーダーなンだから、スパッと言ってオレらの気合いを入れてくれよ」


 あのセリフを言わない事には進む気はねえぞと言わんばかりの態度を貫くオーネストと俺に業を煮やしたのか。


 はたまた諦めたのか。


 ああああああ!! もう!! 言えば良いんでしょ、言えば!! と、半ばやけくそになりながらも、


「……今回だけだからね」


 そう前置きを一つ。

 そして続け様に、


「————度肝抜いてやるよ!!〝終わりなき日々を(ラスティングピリオド)〟!!!」


 何だかんだと最後は付き合ってくれるお人好しのヨルハがそう叫んだのを聞き届けてから、俺達は〝ラビリンス〟に足を踏み入れた。

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