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四十二話 消えたオリビア

「……不味くないか、これは」


 真っ先に浮かび上がった可能性は、オリビアと呼ばれていた人間が、治癒室から「逃げ出した」というもの。

 ベッドの付近を見てみると、逃げ出さないように魔法を施していた痕跡がある。

 加えて、それを強引に破った痕跡も。


 そして各々が口を閉じて考えを巡らせる中、


「————ダンジョンにでも向かいやがったか?」


 何を思ってか。

 オーネストがそんな事を口走った。


 聞く限り、オリビアと呼ばれる人間は重傷を負っている筈だ。だから、回復し切っていない状態でダンジョンに向かうなど、間違いなく自殺行為。

 しかし、


「……んー。それ、割と良い線行ってるかも」


 オーネストの言葉に対して、唸りながらロキも同調していた。


「オリビアの場合は、プライドが高いし」


 だから、〝闇ギルド〟の人間に襲われ、一人重傷を負ってしまった。という事実に腹を立て、何かしらの報復に向かったって可能性は否めない。

 言外にロキはそう告げる。


「……でも、それが本当だとすれば不味いよね。多分オリビアさん、一人で向かってるだろうし」


 ここで響いてくるのは、〝ネームレス〟が「寄せ集め」のパーティーである事。

 普通、ここは他の仲間を頼る場面であるのだが、〝ネームレス〟の人間にその普通は適用されはしない。


「そりゃ当然だろ。あの無愛想は人に頭を下げて頼み込むようなやつじゃねえよ」


 治癒室をこうして強引に抜け出したのは間違いなく、それをするだけの理由があったから。

 怪我人に対しては特に過保護となる副ギルドマスターが許しそうもない行為、と絞り込めば大方の予想はついてしまう。


「で、どうするんだ、これ」


 関わるなという事であれば、それで構わないというのが本音。

 ただ、多少なり足を突っ込んでしまった以上、我関せずを貫くとなれば、どうしても痼が残ってしまう羽目になる。


「オリビアさんが〝闇ギルド〟の人間に遅れを取った理由をマーベルさんは知ってるんだっけ」

「知ってんじゃない? 一方的だけど、マーベルのやつはオリビアの事を『大親友』とか呼んでるし」


 ま、僕には断固として教える気は無いみたいだけどね。

 不貞腐れたようにヨルハの問いにロキがそう答える。しかし、それも刹那。


「……いや、待てよ。オリビアがいなくなったと知れば、流石のマーベルも喋らざるを得ない、か?」


 何か閃きでもしたのか。

 ぶつぶつとひとりごちるように呟きを漏らしながら、ロキは思案。そして、


「この状況さえあれば、後は適当に理由こじつけとけば押し切れそうだよねえ……」


 犯罪者もびっくりの悪人顔を浮かべ、多少の脚色はあって当然。などというトンデモ発言を時折溢しつつ、ロキは俺達に向けて口を開いた。


「よし。今日は特別に、ちょっと僕が一肌脱いできてあげようじゃないか!」

「単純に、自分が知りたかっただけだろ」

「はい、オーネストくんは余計な事を言うから仲間外れ決定ー!!」


 そんな子供染みたセリフを言い捨てて、ロキは俺達に背を向け、マーベルのいるであろう場所へと走り去ってゆく。


 それから数分後。


 ————ええええぇぇええええええ!!


 と、大声量で聞こえて来るマーベルの声。

 それからというもの。ドタドタと足音を響かせ、治癒室にまで駆け込んで来るマーベルの姿を目にするのにさして時間は要さなかった。


* * * *


「……不味い事になっちゃったなあ。まさかあの状態で抜け出すとは思わないじゃん。包帯ぐるぐるだよ? ミイラだよ? ……はあ」


 疲労感に満ち満ちた様子で、ぐちゃぐちゃになったベッドを見詰めながらマーベルはそう呟いた。


「……取り敢えず、リーダーとクリスタにルオルグとレヴィエルを呼びに行って貰ってるとはいえ、いくら何でもこれは不味いよねえ」


 それ程までに余裕がないのか。

 不味い、不味いと同じ言葉をマーベルが連呼する。


 やがて、どうしようもないと悟ったのか。

 数十秒ほどの沈黙を挟んだ後、ゴソゴソと何かを探すようにポケットに手を突っ込みながら


「……オリビアから又聞きした話だから、それが本当の事なのかは分からないんだけどね」


 隠してもしょうがないから、もう言うけどと前置きを一つ。

 収められて拳大の石——〝核石(コア)〟を取り出し、何を思ってか。


「襲ってきた〝闇ギルド〟の連中の中に、これを食べるやつ(、、、、、)がいたらしいんだよ。そのせいで、遅れを取ったらしくて」

「……食べる?」


 反射的に問い返すと、殊更にゆっくりな首肯が返ってきた。


「そう。食べるやつ。〝核石(コア)〟を体内に取り込んでパワーアップ、みたいな感じ」


 これ見よがしに空いている手で握り拳をつくり、〝核石(コア)〟をゴン、ゴンと軽く殴りつけて到底食べられる代物じゃないよねと言わんばかりに苦笑い。

 ただ、そのせいで重傷を負う羽目になったのだとマーベルは言う。


「でも、〝闇ギルド〟の中でも更に頭のネジがぶっ飛んだあの連中(、、、、)なら、そのくらいやっちゃいそうでっしょ?」


 その一言に、誰一人として反論を口にしようとはしなかった。


 〝闇ギルド〟の中にも正規のギルドのようなコミュニティが存在しており、それは大きく三つに分ける事が出来た。


 一つ目に、正規のギルドを追い出された人間達によって組織されたコミュニティ。

 主にここは犯罪者の巣窟となっている。


 二つ目に、犯罪者や、表には出せない依頼のみを受ける専門のコミュニティ。

 依頼内容が依頼内容の為、実入りが良く、正規のギルドに属さずにそちらに属す人間もいるとかいないとか。


 そして三つ目に、マーベルが言う頭のネジがぶっ飛んだ連中こと————〝魔神教〟とも呼ばれる集団である。

 特に彼らの場合、何をするにせよ手段を選ばない節があり、それ故に〝核石(コア)〟を食べると言われても否定する事は憚られた。


「それと、もう一つ何かオリビアが隠してたっぽかったんだけど、わたしにすら教えてくれなくてねえ」


 強行突破して出て行った理由は、きっと隠していたもう一つの理由だと思うんだよね。

 そう締めくくられた。


「……じゃあ、その理由を聞く為にもルオルグを待つしか無いか」

「あー……それなんだけどね。多分、ルオルグも知らないと思うよん。元々〝ネームレス〟自体、パーティーメンバーに細部まで情報共有行うような人達の集まりじゃないし。何より、『大親友』のわたしですら教えて貰ってないんだから!!」

「の割に、黙って出て行かれてるけどね」

「ロッキーは黙れ」


 ゴスっ!

 と、痛々しい音を立てて流れるようにグーパンチがロキに炸裂していた。


「……そう言うわけだから、ヨルハちゃん達頼まれてくれないかな。〝ラビリンス〟のダンジョン入り口にいるギルド職員に、オリビアの姿を見たかどうか。……わたし一人だと、多分その確認にすら向かわせて貰えないから」


 一人で向かわせてしまっては、オリビアを追って突っ走る可能性が否めないから。

 という事なのだろう。

 ロキの存在を気にするように告げられたその様子から、そう察した。


「別に確認するだけならボクは構わないけど……」


 ダンジョンに向かってオリビアを追い掛けなくて良いんですか、と。

 多分、ヨルハはそう尋ねようとしたのだろう。


 そんな折。


「————72層のボスはなンだ」


 オーネストが煩わしそうに声を上げた。


「お前は聞かされてンだろ。答えろ」

「……ゴーレムって聞いてるよん」

「なら決まりだ。72層行きの〝核石(コア)〟あンだろ。それ寄越せ(、、、、、)


 そう言って、早く寄越せと催促をするように、オーネストは右の手を突き出す。


「俺と、アレクが〝古代遺物(アーティファクト)〟を手に入れたんだ。なら、次はこいつらの分も取りに行かなきゃだろ。だから、72層に向かう。そンだけだ」


 〝古代遺物(アーティファクト)〟とは、ダンジョンに存在するフロアボスを倒した際に確率で出現するアイテム。

 ただ、フロアボスの種類によって出現する〝古代遺物(アーティファクト)〟の種類も決まっていた。


 そして、ゴーレムから出現すると知られている〝古代遺物(アーティファクト)〟は——杖。

 主に、補助を務める人間に優位に働くようになる代物であった。


「……一応、人間を相手にする可能性もあるけど大丈夫?」

「……最近は全く出会ってなかったけれど、ガルダナの王都ダンジョンであたし達、散々襲われてるから心配いらないわよ」


 魔法学院の卒業生や、教師達から〝古代遺物(アーティファクト)〟を俺達が借り受けている事を聞きつけてか。

 それを狙った輩から幾度となく襲われた経験があった。


 在りし日に思いを馳せた事で辟易し、疲れた表情でクラシアがそう答える。


「〝タンク殺し〟の〝核石(コア)〟は?」

「部屋に置いてるよ」

「そっか」


 〝核石(コア)〟というものは、二つ以上ダンジョンに持ち込む、持ち帰る事が不可能とされている。それ故のヨルハに対しての確認。


 ヨルハの返事を耳にし、その懸念が無くなった事を確認してからマーベルは手にしていた〝核石(コア)〟をオーネストに手渡した。


「この前からお世話になりっぱなしだねえ」

「気にすンなよ、タダってわけじゃねえから」

「あれ。なんでここでオーネストくんは僕を見るわけ!? おかしくない!? おかしいよね!」


 今回はマーベルの頼みなのに!

 と、嘆くロキに、流石に今回ばかりは同情せざるを得なかった。

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