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四十一話 深まる謎

「————その前に一つ、いいかしら」


 さあ、話を始めるか。

 といったところでそう口にしたのは、お菓子を手にするオーネストに不機嫌な視線を送り続けていたクラシアであった。


「あン?」


 出鼻を挫かれ、眉を顰めるオーネストを物ともせず、言葉が続けられる。


「……あの場でこそ、あたしは何も言う気はなかったけれど、今回の件、色々とおかしい(、、、、、、、)と思わない?」

「というと?」

「この事はさっきまでヨルハとも話してたんだけれど、仮にもSランクの人間が、〝闇ギルド〟の連中に遅れを取る事があるのかしら」


 しかも、あの〝ネームレス〟の人間が。


 あえて強調するように言葉が付け足されると同時に、オーネストの表情に僅かながら皺が刻まれる。


「〝緋色の花(リクロマ)〟の時のように、ダンジョンで〝フロアボス〟に対して予想外の事が起きた、であればまだ納得は出来たけれど、今回は〝闇ギルド〟、でしょう?」


 Sランクの人間は、〝ギルド〟に位置する人間の中でも最高峰。しかも、ここは数あるダンジョンの中でも特に難易度の高いダンジョンが集まるフィーゼルの街。


 そこを拠点としているSランクの人間が、いくら単身の時を狙われたからといって〝フロアボス〟でなく、〝闇ギルド〟の人間に易々と倒される、なんて事があるのだろうかと。


「じゃあ、ルオルグが俺達に嘘をついてるとか?」

「ううん。それはないと思うよ。ルオルグは色々と抜けたところはあるけど、〝ど〟が付くほどのお人好しだから」


 クラシアの発言を踏まえて、俺がそう言うと、間髪いれずにヨルハが首を左右に振って否定する。


「だからきっと、嘘はついてない(、、、、、、、)

「……甘党が、何か隠してるっつーわけか」

「うん。それに、魔物相手ならまだしも、人相手であればどう考えても、マーベルさんよりロキを選ぶべき。そう思わない?」


 〝タンク殺し〟64層にて一度だけ行った共闘。

 オーネストと終始喧嘩をしていたというイメージがあまりに強いが、あの時場を掌握していたのは間違いなく、ロキであった。


 あの読みの深さは、人間にこそ真価を発揮するもの。

 それは、俺にでも分かった。


「メンバーとの折り合いって言ってたけど、ボクもクラシアと同じで〝何か〟があるんだと思う。だから、ロキじゃなくてマーベルさんなんだと思う」


 ただ、あの場で突っかかっても、ルオルグは教えてくれそうになかったから黙ってたけれど。

 そう言ってヨルハは苦笑いをした。


「……〝何か〟、か」

「だったら、手っ取り早くマーベルから聞き出しにいくか? どうせ今の時間帯ならまだ〝クソ野郎〟含め、〝ギルド〟にいンだろ」

「……ロキなら口が軽いからポロって言ってくれそうだけど、マーベルさんだからなあ……」


 ヨルハの反応を見る限り、ルオルグとマーベルから聞き出す、という事は難しいのだろう。


「だったら、他のメンバーに聞くってのは?」

「無理ね」


 ならば、と思って声を上げるも、クラシアにその発言は一刀両断されてしまう。


「アレクはまだ知らねえと思うが、〝ネームレス〟ってパーティーは完全な寄せ集めなんだわ」

「……ルオルグも言ってたな、それ」


 ルオルグと話をしていた時にも、少しだけ言い辛そうに「寄せ集め」という言葉を使っていた事を思い出す。


「言い換えちまえば、あそこは一応パーティーの形にはなっちゃいるが、実質、ソロの人間が4人集まってるだけだ」


 だから、パーティーメンバー同士の関係はバラバラで、誰が何処にいるのかなんて事はパーティーメンバーにすら攻略時以外分からねえと思うぜ。と、オーネストは言葉を付け加える。


「……い、や、待てよ。そういや、一人いるな。〝ネームレス〟の人間で、話を聞ける奴が」


 その言葉の真意には、直ぐに辿り着く事が出来た。


 たった一人だけいるのだ。

 今現在の、居場所が明らかになっている〝ネームレス〟の人間が、一人だけ。


「……それ、副ギルドマスターが許すのか?」


 まだ新参とはいえ、ギルドマスターであるレヴィエルが度々怒鳴られている様を目の当たりにしていたからこそ、まず先に口を衝いてそんな言葉が出てきていた。

 特に、怪我人に対して過保護な副ギルドマスターがそれを許してくれるとはあまり思えなくて。


「言い包めちまえば良いだけの話だろ……ヨルハが」

「ぼっ、ボク!?」


 唐突に役目を押し付けられた事で、ヨルハが驚愕に声を上げる。


 〝ネームレス〟の人間の中で唯一俺達が話を聞けそうな人物————それは今回、重傷を負い、治癒師であるフィーゼルの副ギルドマスターに厄介になっている者を指していた。


「……こういうのは言い出しっぺがやるもんじゃないのかなあ」

「分かってるとは思うが、そういうのオレさま無理なんだわ」

「だったら、言い出さないでよオーネスト……」


 俺の場合はフィーゼルに来て日が浅く、その上、副ギルドマスターとの接点が無さすぎて怪しまれるだけなので現実的ではなく。

 クラシアはあの性格の為、これもまた現実的ではなかった。


「でも、甘党の誘いに乗るンなら、フロアボスの情報と、何で〝闇ギルド〟の連中に重傷を負わされる羽目になったのか。その理由を聞いといて損はねえだろ」

「……そうなんだけどさあ。ボクも副ギルドマスターの事は苦手なんだよ」


 なんて言うか、話し難いというか。


 ひとりごちるように続けられたヨルハのその言葉に、俺も胸中で同意する。


 〝ギルド〟フィーゼル支部副ギルドマスター、アイファ・フォネシア。


 基本的にギルドマスターであるレヴィエルに対して怒っているイメージしかない上、言葉で上手く言い表せないが、何故か話し難い。

 それがレヴィエルが話しやす過ぎる弊害であるのかは定かでないが、何にせよ、俺もヨルハと同じ印象を抱いてしまっていた。


「それとも、ぶっつけ本番でいくか? リーダー(、、、、)

「……あ、相変わらず性格が悪すぎだろ」

「はっ、ンなもん、今更だろ」


 パーティーを背負う人間が、人事を尽くさないつもりなのかと。


 普段は絶対にヨルハの事をリーダーと呼ばない癖に、こんな時に限ってあえてリーダーと呼ぶオーネストにそう言わずにはいられなかった。


「……分かったよ。やればいいんでしょ。やれば。……はぁ、ボクが毎回貧乏くじ引かされてる気がする」


 言葉の最後に、小さく聞こえたその言葉は多分、何一つ間違っていないと思った。

 ただ、肯定してしまうと余計にヨルハを追い詰めてしまう事になるので胸の中に留めておく。


「そうと決まれば折角だ。今から行くか」


 タイミングが合えば、副ギルドマスターとも会わずに済むだろ。


 窓越しに広がる夜闇を一瞥しながら、オーネストはそう口にした。



* * * *


「————……なんで、てめえがいンだよ」


 宿を後にした俺達は、再びギルドに向かい、中に位置する治癒室と呼ばれる一室を前に5人(、、)でタイミングを計っていた。


 ヨルハがわざわざ治癒室に入り、用があるからと副ギルドマスターを外に連れ出すのは難易度が高過ぎるとして、出て来るタイミングを待っていたものの、かれこれ十数分も経過してしまった上、余計な人間も一人増えてしまっていた。


「僕の面白いぞセンサーがこう、びんっびんに反応しちゃってさあ。これはオーネストくん達の後をつけるしかないなって!!」


 そう言って喜色満面の笑みを浮かべながら俺達に混ざるのは通称、〝クソ野郎〟ことロキであった。


「……そうか。ならちょうど良い。てめえが副ギルドマスターの相手しろ」

「えぇー……嫌だね」

「誰かこいつをどっかに投げ捨ててこい」


 苛立ちめいた様子で、投げやりにオーネストは言葉を吐き捨てた。


「……ま、冗談はこのくらいにして。さっきからキミ達何してるの?」


 普段のおちゃらけた様子はなりを潜め、ロキに尋ねられる。


「……治癒室に用があるんだ」


 だから、俺がその問いに答える事にした。


「治癒室に? またどうして?」


 何か入り用な道具でもあった? と続け様に聞いてくるロキの言葉に、俺はどうしたものかと言葉を探しあぐねる。

 クラシアやヨルハも言い包める言葉を考えてくれているのか。

 渋面を浮かべていたが、良い答えは浮かんでこないようで。


「あー……もしかしなくても、〝ネームレス〟の一件が関係してる?」


 その一言に、ぎくりとしてしまう。

 言い詰まったのが決定打となったのか。


「あー、分かるよ分かる。マーベルのやつも僕にだけはなぁーんか教えてくれないんだよね。しかもだよ? オリビアから無理矢理に事情を聞き出したらとんでもない噂を流すとか脅してきたんだよ!? 僕、パーティーメンバーだよ!? 普通に考えてあり得なくない!?」



 ————それは単純に、あんたに信用がないからだろ。



 この時、ロキを除いた俺達の心境はぴったりと合致したのだと答え合わせもしていないのに何故か分かってしまった。


「……怪我を負ったのはオリビアさんなのね」


 少しだけ、難しそうな顔でクラシアが言う。


「……よりにもよって、無愛想の奴かよ。となると、あんまり聞き出せねえかもな」


 続くように次はオーネストが言葉を紡ぐ。


 相変わらずのオーネストのあだ名のお陰で、オリビアと呼ばれた人物がどういう人間なのかが何となく見えた。


「でも、そういう事ならさっさと治癒室に行けばいいのに。どうしてみんなしてこんな場所で様子うかがってるの?」


 心底不思議そうにロキが言う。


「いや、だって、中には副ギルドマスターが」


 居るから出てくるのを待っているのだと俺が口にしようとして。


「————うんにゃ、今は副ギルドマスターいない筈だよ?」


 何言ってんの?

 と言わんばかりに首を傾げられる。


「確か今日は副ギルドマスター、レヴィエルと一緒に何処かに出かける予定があった筈————って、ああ、それでキミ達僕に副ギルドマスターの相手しろとか言って————」


 道理で出てくる気配が一向に感じられないはずだ。


 そんな感想を抱きながら、俺達はロキの言葉を最後まで聞く事なく治癒室へと毒突きながら足早に向かう。


 ……時間を無駄にした。


 などと各々好き勝手に呟きながら、十数秒ほどで治癒室の前にたどりつき、躊躇いなくオーネストはドアを押し開けた。



 そして俺達の視界に映り込んだ光景は、


「————誰も、いない?」


 まるで泥棒でも入ったのかと思わず感想を抱いてしまう程に荒れた治癒室と。

 使われた形跡こそあるものの、もぬけの殻となったベッド。


 そして、窓が開けられていた事により、外から吹き込む風に揺らされる白いカーテンのみであった。

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