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三十話 フロアボス⑤

「まか、せろ……ッ!!!」


 目の前には〝三点封陣〟をモロに食らい、無数に魔法陣より這い出てくる白の鎖に絡み付かれている〝首無し騎士(デュラハン)〟が一体。


 敵の最大の脅威たる移動速度を封じた上で、最大出力でここに魔法を叩き込めと。

 そう言わんばかりの光景が目の前に出来上がっていた。

 ならば、やる事はただひとつ。

 ここまでお膳立てされたのだ。

 だったら————。


「広がれ————!!!」


 場を見事整えてみせた上で、トドメを俺に委ねたロキの判断が間違いでなかったと、俺は証明しなくてはならない。


「————〝多重展開(アクセラレーション)〟————!!!」


 手にしていた〝古代遺物(アーティファクト)〟を収め、無手となった手のひらを敵に向けながら紡ぐ言葉。


 本日2度目の〝多重展開(アクセラレーション)〟。

 ズキリ、と鋭い痛みが頭に走るも、口の端をゆるく吊り上げ、それがどうしたと笑う。

 精一杯の強がりを敢行する。


 やがて、宙に広がるは金色の魔法陣。

 その数は、天井知らずに増え続けていく。


 空に蒔かれた星が如き煌めきを伴い、その場に居合わせた全員の注意を否応なしに引き寄せる。


 ……折角、なんだ。

 三百六十度、すべて隙間なく覆ってしまえ。

 最大出力で、最大規模で、そして最速を求めて、全力に、全開に、全身全霊に————。


「ッ、グ、ァァァアアアアア————ッ!!!!!!!」


 魔力を急激に消費させるという行為が身体に齎す影響は甚大。霞む視界の中、行動を縛る白の鎖に抗わんと身体を上下左右に動かし、暴れ、ガシャン、ガシャン、と擦れる音を響かせて〝デュラハン(倒すべき敵)〟はもがいていた。

 そして、予測不可能な最後の足掻きを試みる。


 ……しかし。


 それでも、尚。


 俺がやる事は何ひとつ変わらない。

 だから、これでくたばってくれ。胸中で言葉を並べ立てながら俺は薄く笑った。



『……俺は、役立たずの元宮廷魔法師だぞ?』



 せめて、せめて。

 その自虐を「そんなの知るか」と躊躇なく跳ね除け、手を差し伸べてくれたヤツにまで失望されたくはなくて。

 友人たちにまで、失望されたくはなくて。


 故に後はその己の心を、感情を、気持ちを形に変えるだけ。

 だから、視界に赤が入り混じろうとも。

 立っている感覚さえも曖昧になろうとも。


「そんなのハ、関係、なイんだよな」


 俺の限界以上を、今この瞬間に掴み取れてしまった理由は、たったそれだけの事。

 そして、敵を覆うように、虚空に30を超える魔法陣が描かれた。


「……くたばれ」


 残すはあとひと工程。

 そんな折、ふらり、と身体が揺らぐ。

 四本足の〝化け物〟との戦闘。そして先の近接でのやり取り。それらで蓄積した疲労が一斉に波となってどっ、と押し寄せた。


 でも、それでもと口を開き、そして仰向けに倒れながら、


「————〝雷鳴轟く(サンダーボルト)〟————!!!!」


 これでもかと言わんばかりに喉をふるわせ、屈託のない笑みを浮かべながら叫び散らす。

 直後、迸る一筋の雷光。

 それは二、三、四、五と瞬く間に数を増やし、そして一本の線の攻撃である筈の雷光は面となって逃げ場を塞ぎ、雨霰と殺到を始める。


『————ボク達は、他でもないアレク・ユグレットを必要としてるんだ』


『————良いとこ全部持ってけアレク・ユグレット————!!!』


「……はっ」


 過ぎる言葉。その数々。


 お前は、必要ない。「役立たず」が。


 ……ヨルハやロキ、そしてオーネスト達の言葉が4年もの間向けられ続けていた言葉を上塗りしてゆく。塗り潰してゆく。


「……やっぱり頼られるってのは、悪くないなあ」


 立て続けに響く轟音。

 空気が爆ぜたと錯覚する程の衝撃音を耳にしながら浮遊感に包まれ、俺は背中から地面に倒れ込んだ。


「頼り頼られじゃなくてよぉ。4人で、ダンジョンで馬鹿騒ぎする。の、間違いなンじゃねえか?」


 やがて、映り込む人影がひとつ。

 仰向けに倒れる俺を覗き込むように、そいつは見下ろしていた。


「なあ? アレク」

「……オーネスト、お前、俺が倒れるの黙って見てたな」


 手を貸してくれてても、バチは当たらないと思うぞ。と、言外に訴えてやるも、「さて、どうだったかねえ?」と態とらしく恍けられる。


「とはいえ、こりゃ何処からどう見ても〝勝負(、、)〟はオレさまの勝ちだよなぁ?」


 にまにまと。

 短くない付き合いだからこそ分かる正真正銘の屈託のない笑みをオーネストは浮かべていた。


 未だ鳴り止まずに続く〝雷鳴轟く(サンダーボルト)〟の轟音に紛れながらもその〝勝負〟という言葉はすんなりと俺の頭の中に入り込んでくる。


「…………あ゛ッ」


 やる事はやった。

 俺に出来る事は全てやり切った。


 ……そんなノリで倒れ込んだはいいものの、完全に〝勝負〟の事についてが頭から抜け落ちていた。


 ルールはただ一つ。

 先にぶっ倒れた(、、、、、)方が負け。


「罰ゲーム。これを忘れたとは言わさねえぜ?」

「ぐッ」


 ま、アレクが約束を違えるようなヤツじゃねえ事は知ってるンだぜ? オレさまの知ってるアレクは潔いヤツだとも。あーだこーだと理由をつけて逃げようとするヤツじゃあねえとも。


 ……などと言葉を並べ立て、逃げ道を塞いでいくあたり、性格がクソとしか言いようがない。

 一言で表すと、最悪である。


 しかし、この勝負を言い出したのは元はといえば俺自身。故に、甘んじてこの罰ゲームは受け入れなくてはならない宿命にあった。


「だがまあ、オレさまも鬼じゃねえ」


 何を思ってか。

 そんな言葉がオーネストの口から続いた。


「結果的に、今回はアレクに不利な〝勝負〟になっちまってる。つーわけで、だ。特別に罰ゲームは軽いもんにしといてやるよ」


 目を細め、柔らかな笑みを浮かべてそう発言するオーネストであるが、彼の瞳の奥にはどうしてか、目に見える表情とは別の感情が湛えられているような。そんな気がした。


「だから————」


 そして、


「————4年前みてぇな隠し事は、もうナシだ。クラシア(潔癖症)でも、ヨルハでも、オレさまでもいい。悩みがあるンなら、必ず3人のうちの誰かに打ち明けろ。1人で抱え込むな。分かったか? これが、てめえへの〝罰〟だ」


 砂糖よりも甘ったるい〝罰〟が告げられた。


「はっ、……軽いにも、程があるだろ」

「あン? なら、うんと重いヤツにしてやろうか? ああ?」

「……勘弁してくれ」

「だろう。だろう。オレさまの寛大な心に枕を濡らして感謝するンだな」

「……そうするわ」


 下手に何か言ってうんと重い〝罰〟に変えられる事だけは避けなければならない為、ここは素直に頷いておく事にする。


 そんな、折。


「……いやいやぁ、お疲れ様ぁ」


 すっかり元気が削がれ、疲労感がこれでもかと言わんばかりに滲んだ声が割り込んでくる。


 糸目の見慣れない男性に肩を貸して貰いながら近付いてくる声の主——ロキはオーネストと同様に俺の様子を覗き込んできた。


「かれこれ色んな魔法師を見てきたけど、一度にあれだけ同時に展開出来る魔法師は初めてだったよ。お陰で倒せた。きっとキミじゃなかったら、今頃第二ラウンド始まってたかも」


 そう言って顔を動かしたロキの視線の先には、白い鎖に捕われながらも、ゆっくりと風化を始めていた〝首無し騎士(デュラハン)〟だったものが映り込んでいた。


あの量(、、、)で、ギリギリだった。いやあ、あの俊敏性に加えて耐久性も一級品とか反則だよね、反則。……僕はもう2度と戦いたくないや」


 げっそりとした表情を見せるものの、何処となくロキにはまだ余裕があるような、心なしそんな気がした。


「ああ、それと。アレクくんに貸してあげてた〝古代遺物(アーティファクト)〟。あれ、あるじゃん? リーダーがさ、キミにあげるって。今回助けてくれたお礼に、プレゼントするってさ」


 これでいいんでしょ? リーダー。


 と言って、ロキは己が現在進行形で肩を貸して貰っている相手である糸目の男に話を振る。


「ええ。それで問題ありません。勿論、これはただの気持ち。オーネスト君の要求も、私が責任をもって果たすと約束しましょう」

「こっちの〝クソ野郎〟じゃなく、あんたがそう言うならそれが本当なンだろうなあ。……オイ、アレク。その〝古代遺物(アーティファクト)〟は気兼ねなく貰っとけ。〝クソ野郎〟の言葉だと裏がある気がして信じられねえが、こっちのリウェルが言うなら問題ねえ」


 リウェル。

 恐らくそれが視界に映り込む糸目の男の名であり、ロキが所属するSランクパーティー〝緋色の花(リクロマ)〟のリーダー。


 〝古代遺物(アーティファクト)〟の話題が出るや否や、ロキにそれを返そうとしていた俺の行動を制止するようにオーネストは言葉を口にしていた。


「そんなに僕ってば信用ないかなあ」

「ねえな」

「ありませんね」

「ないと思う」

「あれ! もしかして僕の味方ここに居ない!?」


 頼みの綱らしきリウェルからも即答で信用ないと言われるあたり、誰彼構わずロキは嘘を吐きまくっているのだろう。


 その姿はびっくりするほど鮮明に、脳裏に浮かび上がってきた。


「ま。そんなどうでも良い事は一旦置いておくとして。……この度はありがとうございました。それと、————良いパーティーですね」


 流石はリーダーと言うべきか。

 ロキの扱い方を完全に心得てしまっているリウェルの視線は既に、俺とオーネストへ向けられていた。


 「僕はどうでも良くないと思うんだっ!!」と、声を荒げるロキを無視して会話が進む。


「はんっ」


 そしてオーネストは、鼻で一度笑う。

 何を当たり前の事をと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべていた。


「当ったり前だろ。何せオレらは、『伝説(、、)』のパーティー〝終わりなき日々を(ラスティングピリオド)〟なンだからよ————」

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