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二十六話 フロアボス①

* * * *


「キミ達2人には取り敢えず、近接で時間稼ぎをして貰う予定でいるから。で、アレクくんには準備が整ったら僕が合図を出す。それまではまあ……頑張ってよ」


 キミ達なら何とかなるっしょ!

 わっはっはっはっは!!


 などと、巫山戯た様子で態とらしく笑うロキの言葉を話半分に聞きながら、彼から渡された〝古代遺物(アーティファクト)〟の具合を俺は確かめていた。


 銘を、〝天地斬り裂く(シュヴァルト)〟。

 〝古代遺物(アーティファクト)〟と言われなければ間違いなく気付かないであろう無骨な剣。

 ずしり、と〝魔力剣(ソード)〟に比べれば確かな重量が感じられるものの、かと言ってそれは振るう事に影響が出る程のものではなかった。


 ————基本的にあの〝クソ野郎〟は良くも悪くも嘘吐きだ。だから、得物の具合の確認は念入りにしとけよ。


 そのオーネストの助言に従ってはみたが、問題という問題は見受けられない。


「んじゃ、問題もないみたいだし、僕もやる事やっときますかねえ」


 渡された〝古代遺物(アーティファクト)〟に何の問題もないと俺が判断を下し、収めようとしていた事を見越してか。

 ロキがそんな言葉を紡ぐ。


「てなわけで、クラシアちゃん協力をお願いぎッ!?」

「……だから、〝ちゃん〟呼びしないでって散々言ったわよね」


 本来、何事もなく紡がれた筈であったロキの言葉は、クラシアが反射的にゲシっ、と足の脛を容赦なく蹴り付けた事により、途中から苦悶の声に変わっていた。

 身体中を走り抜けるその痛みにロキは思わず屈みかけるも、何とか踏ん張り、涙目で耐えてみせる。


「よ、ヨルハちゃんは許してくれたのに」

「生憎とあたしはヨルハみたいに寛容じゃないの。嫌なものは嫌。分かった?」


 これ以上、不快にさせるつもりなら手伝わないわよと言われたところでロキは一度、口を真一文字に引き結び、気を取り直さんとばかりに咳払いを一回。


「……さっきまでクラシア〝さん〟とだけ話してた理由の一つが(、、、)、ここからの移動についてちょっとした協力をして貰う為でねえ」

「協力?」

「そっそ。馬鹿正直に徒歩で探すとあっては幾ら時間があっても足りないじゃん? だから、便利な魔法をこう、ちょちょーっとね。ただ、その魔法って魔力をゴッソリ使うんだけど、僕1人だと中々にキツくてさあ」


 だから、クラシアの手を借りようとしていたのだと彼は言う。


「僕だけだと、〝転移魔法(テレポート)〟を使うにはちょっと心許ないじゃん?」


 何気ない調子で口にされたその言葉であったが、しかし、その言葉一つで場が凍り付いた。


「……オイ。〝転移魔法(テレポート)〟っつったらどっかのお国の秘匿魔法じゃなかったか」


 十数秒と訪れた沈黙。

 やがて、沈黙を破ったのは意外にもオーネストであった。

 もうロキの言葉には一切耳を傾ける気がないのかと思っていたけれど、どうにもそれは違うようで。ただ、浮かべる表情はひどい呆れ顔であった。


 そしてヨルハはといえば、いち早く厄介事の気配を感じ取ったのか。目を逸らしてボクは何も聞いていませんという態度を断固として貫いていた。


 〝転移魔法(テレポート)〟。


 それはダンジョンにおいて次層に向かう際に強制的に掛けられる魔法の一つ。

 ただ、馴染み深い魔法である反面、その実態については謎ばかり。

 その為、数十年前から〝転移魔法(テレポート)〟について国ぐるみでその研究を行なっていたとある国の上層部を除き、〝転移〟に関する魔法は誰にも扱えない。それが誰しもの共通認識であった。


「……ふはっ、まだまだ尻が青いねえ。いいかい。人生の先輩から有難いお言葉をお教えしてあげよう。何事も、バレなきゃいいんだよ」

「う、うわー……」


 ロキのその言葉が示唆する答えとはつまり、何らかの方法で〝転移魔法(テレポート)〟についての情報をくすねたという事。


 その発言に、ヨルハは特にドン引きしていた。

 やがて、四方向から向けられる軽蔑の眼差しにロキは耐え切れなくなったのか。


「……なんだよ、その目。それも、4人して。……と、というかねえ!? これを聞いて、見て、今から一緒になって使うキミらも、もう僕と同罪なんだからね!? ほら! 一蓮托生! 仲良くしようよ! ねえ! おい!」

「ふざけんじゃねえ」


 それは俺とオーネスト。ヨルハとクラシアの心境が見事に一致した奇跡的な瞬間であった。

 己の罪をごくごく自然に他者にまでなすり付けてくるあたり、流石は〝クソ野郎〟と呼ばれるだけの事はある。


「……ただまあ、無為に体力を消費しないで済むなら今はそれが一番か。勿論、もしもの時はそこのロキさんに責任を全て押し付けるとして」


 俺がそう言うと、まあ、それなら……。

 といった空気が漂い始め、それに伴いロキの口の端はぴくぴくと痙攣していたけれど、あえて見て見ぬ振りをする。


「それで、〝転移魔法(テレポート)〟って言っても俺達を一体何処に転移させるんだ」

「一応マーキングはしてるけど、あくまでそれだけ。その場所と、フロアボスとの位置関係は全く僕も知らないねえ」

「……望む場所に転移じゃなくて、指定の場所に転移って事か」

「そっそ。だから、もしかすると転移した先がフロアボスの真正面だった。って場合も十二分にあり得ちゃう。……いつでも戦闘に入れるように警戒はしといてねえ」


 その言葉を最後に、ロキは右の手のひらを地面に向けた。

 生まれる白銀の魔法陣。


 手のひらサイズのソレが地面に描かれるや否や、じわりじわりとその大きさが拡大されてゆく。

 倣うように、ロキに続いてクラシアも手のひらを地面に向けた。


「……なら、先に武器出しとくか」

「ボクも魔法を掛け直しとくよ」


 借り受けた〝古代遺物(アーティファクト)〟をもう一度発現させる。

 続くようにオーネストも〝貫き穿つ黒槍(アルマレステカ)〟を発現。


 キィン、と音を立てて再び、〝補助魔法〟付与の為の魔法陣が一重、二重と次々に浮かび上がってゆく。


「1人余計な〝クソ野郎〟がいるが、こういうのも随分と懐かしいなぁ?」


 がしゃり、と音を立てて黒槍を肩で担ぐオーネストが突としてそんな言葉を紡いだ。


 これはダンジョン攻略。

 それも、フロアボスに挑む前によく見る光景であった。


 念入りに準備の確認をして、掛けられるだけ〝補助魔法〟を付与し、武器も全て出して、ポーションの確認、退路を把握した上で、いざ。


 ……きっとだから、オーネストはそんな事を口にしたのだろう。



「確かに。自称『天才』のオーネストくんを除けば完璧なメンバーだったねえ」

「ざけんな。てめえの事だよ! 〝クソ野郎〟!!」


 しかし、その発言に対して、あえて揶揄いにいく悪戯好きの男が一名。

 うんうん。と鷹揚に頷きながら返事をするロキに対して、オーネストが声を荒げていた。


「……おい、〝クソ野郎〟」

「なにかな、オーネストくん」

「今回のこの一件、これは間違いなくでけえ〝貸し〟だよなあ?」


 この一件とは、ロキ含む彼のパーティーメンバーの救出の為に64層に潜った事について。


「……ま、そうなるね」


 不承不承。

 嫌そうにロキがオーネストの言葉に首肯する。


「分かってンならいい。だったらオレさまが言いてえ事も分かるよなあ? ……これが終わったら、〝終わりなき日々を(ラスティングピリオド)〟を推薦(、、)しろとリーダーに伝えとけ」

「推薦ってえ?」

(とぼ)けるってんならオレさまは今ここで地上に引き返してもいいンだぜ?」

「……わーかってるよ。全部恙無く終わった時は、ちゃんとリーダーに話しとくって」


 観念したように、ロキはため息を漏らしていた。


「……推薦って言うと」

「決まってんだろ、アレク。Sランクパーティーへの昇格の推薦だ。あれ、1つ以上のSランクパーティーの推薦と、ギルドマスターの承認がなけりゃAからSにゃ昇格出来ねえ仕組みだろ? だから、その推薦役をコイツらにして貰う」


 ちょうど良い感じの〝貸し〟も出来た事だしな。と言ってオーネストは、ふは、と息だけで笑う。


「……でもオーネストくぅん。皮算用するにはまだ早くないかなあ?」

「好きなだけ言ってろ。心配せずとも、てめえのちっせぇ度肝を抜いてやっからよぉ!?」


 そして睨み合いが始まった。


 ……飽きねえのなお前ら。

 と、胸中で言葉を呟きながらも、俺は彼らから視線を逸らした。


「喧嘩をするのは2人の勝手だけど、そろそろ準備整うわよ」


 クラシアのその言葉がやってきた時。

 手のひら大のサイズであった魔法陣は4人を軽く覆い尽くせる程に広がっており、魔法付与の際に聞こえてくる金属音が忙しなく鳴り響いていた。


 次いで、光の粒子のようなものが足下に広がる魔法陣から続々と浮かび上がる。

 そしてそれは数を増してゆき、やがて視界を覆い尽くす程の量となった折————襲う、浮遊感に似た独特の酩酊感。



 〝転移魔法(テレポート)〟。



 次の瞬間、周囲の景色が丸ごと入れ替わった。



「……さっすが僕。完璧過ぎない? これえ」



 鼓膜を掠めるロキの声。

 しかし、それも刹那。

 すぐにその声は響き渡る凄絶な剣戟の音に上書きされた。



「オーネスト」


 隣にいたであろうオーネストの名を呼んだ時、既に俺の身体は動いていた。

 そして、同様にオーネストもまた。

 

 得物を手にしたまま、一気にギアを跳ね上げ、駆ける。駆ける。駆け走る。


 視界には人影が2つ。

 尋常でない動きをし、動くたび火花を散らす黒いナニカが1つ。


 転移した場所から音の生まれる場所まで目算数百メートルといったところ。


 大地を踏み締め、1秒、1秒でその距離を縮めてゆき、そして————。



「そこ退けぇぇええええええ!!」

「そこ代われえええええええ!!」


 重なり合う、言葉。


 目の前に広がる鉄火場を捩じ伏せんとばかりに、オーネストと一緒になって叫び散らす。


 次いで、ここに来て更に速度をあげる。限界まで引き絞られ、弓から放たれた矢の如き速度を伴い、一陣の暴風となって突き進む。


 それはヨルハの〝補助魔法〟があるからこそ、出来てしまう芸当であった。



 やがて、見えていた米粒程度の大きさであった人影は既に明瞭なものへと移り変わっており、判然としていた。


 痩躯の男と、女が一人ずつ。

 浅くない傷を負っている事は明白で、破れ裂けた衣類と共に傷跡が見え隠れしている。


 きっと、だから。


 だから、彼らは俺とオーネストの叫びに「考える」というワンクッションすら置かずに従ってくれた。バックステップで、後ろに退いていた。


 直後、生まれた距離の間に割り込むように、俺とオーネストは躍り出る。


 漸く姿がはっきりと直視出来た敵の姿は、事前にロキから聞いていた通りの、全身フルプレートの騎士らしき何か。


「————くたばれ」


 頰が裂けたかのような笑みを貼り付けながら、紡ぐ一言。突き出される黒槍、その穂先。

 まるで吸い込まれるかのように、ソレはフルプレートの騎士めいた相手の頭部へと向かった。

 まさしく必殺の一撃。


 しかし、散ったのは火花のみ。


 苦もなくフルプレートが手にする無骨な大剣に弾き返され、オーネストの表情が目に見えて歪んだ。


「悪いが2人掛かりだ」


 けれど、攻撃はそれだけにとどまらない。

 打ち合う瞬間に、更に距離を詰めていた俺は地面を這わせるように、手にする剣を振り上げる。


 オーネストに意識が向いている今。

 大剣を使って弾いた今であれば防御は間に合わない。ならば、まず間違いなく攻撃は命中する。


 ……しかし。


「ま、じかよッ……」


 人体であれば間違いなく筋肉は勿論、骨もただでは済まないだろう人外の挙動でもってしてその一撃を躱される。


 やがて、右足を軸に、フルプレートがぐるりと回転。俺とオーネストを同時に相手せんと、薙ぎの一撃が真一文字を描くように眼前に走った。

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