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二十一話 〝クソ野郎〟は謀る

 不安を駆り立てるロクでもない言葉の羅列。それと同時に、徐々に垣間見えてくるロキ・シルベリアという男の本質。


 つい抱いてしまう根拠のない嫌な予感に、顔をしかめざるを得なかった。


「……で、なんだけれども。それにあたって僕も1つ、キミに質問してもいい? 勿論、答えたくないなら答えなくてもいいよ。それならそれで違う方法を探すだけだから」


 その物言いに、少しだけ身構える。

 そして、一体何を聞かれるのやらと思いつつも、その先に続くであろう言葉を待ち、


「キミさ、さっきの戦闘で何で得物を使わなかった?」


 打って変わって、緊張すら感じられる真摯な表情で俺に問いてくる。


「キミ、戦士系でしょ? ひと通り観察させて貰ったんだけど、間合いの取り方が魔法師のソレじゃなく、前衛戦士のソレだ。ついでに言うと、根っからの魔法師にしては誘いが上手すぎる。この場合、〝ヘイト〟取りが上手いって言うべきかなあ。……一番厄介そうで、だけど一番倒しやすそう。その認識を相手に植え付けるのが上手すぎるよキミ。いくら仲間を信頼してるとはいえ、この深層で躊躇なくアレは出来ない。だったら、それが習慣付いていると考えるべき、でしょ?」

「……よく見てるな、あんた」

「そりゃ、僕はこれでも補助魔法師だし。状況把握も仕事のうちじゃん?」


 上手すぎる。

 という部分については否定してやりたかったが、この際は置いておく。


 幾ら強い力とはいえ、攻撃が来る場所さえ分かっているならば、それは微塵も脅威足り得ない。

 だから誘う。

 攻撃がこの場所に来るようにとその身を危険に晒そうとも、あえて誘う。


 その考え方が、本来後衛として認識される魔法師らしくないとロキが指摘していた。


「で、回答は?」

「必要無いと判断したから」

「……へえ?」


 意外そうに片眉が跳ねる。


「という事は、だ。得物を使いすらしなかった理由は、それが一番合理的であるとキミ自身が判断したからって事かなあ? 怪我でも、トラウマでも、使えない理由があるわけでなく、ただただそれが最善であったから」

「……側にはオーネストがいた。だからあえて剣を出して防ぐ理由はないだろ。俺が防ぐまでもなくアイツが防ぐだろうし。だったら、俺は魔法に徹してた方がいい。ただそれだけだよ」

「成る程。成る程。流石というべきか、パーティーでの戦い方をよく分かってる。でも、それじゃあ駄目だねえ。合理的過ぎて、騙しにこれっぽっちも向いてない」


 ダメ出しが入る。

 ノンノン、と首を左右に振られ、ロキは続け様、右の人差し指と左の人差し指を使ってバッテンを作ってみせた。


 ……人知れず、俺の中の苛々ゲージが上昇した。


 そんな折、


「————待って、ロキ。もしかしなくても、アレクに前衛させようとしてる?」

「お。流石はヨルハちゃん。察しがいいねえ」

「……やっぱり。でも、それは認められないよ。技量云々の前に、武器がない(、、、、、)


 突如としてヨルハが会話に割り込んだ。

 ただ、彼女の発言が満足いくものであったのか。ロキはそれに破顔で応える。

 しかし、対してヨルハの表情は正反対と言い表すべき決定的な拒絶の色が浮かび上がっていた。


 基本的にダンジョンの深層攻略では、〝古代遺物(アーティファクト)〟を所持している事が前提となっている。

 その理由は、ダンジョンで手に入る〝古代遺物(アーティファクト)〟でなければ、深層のフロアボスとの戦闘で間違いなく壊れてしまうから。


 魔法学院にいた頃は例外的に一部の教師やらOBやらから一時的に〝古代遺物(アーティファクト)〟を借り受けていたが、あの時と今は違う。


 人手による生産武器の得物が特別脆いという事はないのだけれど、それでも深層のフロアボスと戦うのであれば間違いなく〝古代遺物(アーティファクト)〟の所持は必須。そしてそれは、魔法で生み出す得物も例外ではなかった。


 だから、ヨルハは拒む。

 けれど、


「じゃあもし、僕がその武器を持っていたとすれば?」


 その限りじゃないのかなあ?

 と、ロキが意地の悪い笑みを浮かべた。


「……持ってるならね」


 仮定の話をして何になるのと呆れるヨルハに対して、ロキはといえば浮かべた笑みを崩さず見詰め返すだけ。


 その態度に、ある可能性が脳裏を過ったのか、一転してヨルハはハッ、と息をのむ。


「……まさか、持ってるの? ロキが、近接武器の〝古代遺物(アーティファクト)〟を?」

「それがびっくり、持ってるんだなあ(、、、、、、、、)これが」


 ロクに武器を扱えない人が何で持ってるの……? と、本気で驚くヨルハや、無言で聞きに徹していたクラシアの瞠目を前に、


「いやあ、偶々これ、誰も使わないって事で余っててさあ。だったら、僕が虚仮威しにでも使うからって言ったらみんなが譲ってくれてねえ」


 ほら、僕ってば騙す事が役目だったりもするし? などと口にしながら左の腕をこれ見よがしに突き出し、手首に嵌められていた銀のブレスレットを見せびらかす。


「で。キミ、剣は使える?」


 ロキの視線がヨルハから俺に戻る。


「……それなりに」

「って言ってるけど実のところは?」


 そして、再度その視線はヨルハに向く。


 ……だったら初めからヨルハに聞け。

 と、言ってやりたくもあったけれど、曖昧な返事をしたのは俺だったので、小さくため息を吐き出すだけにとどめた。


「ボクも今のアレクの技量はよく知らないけど、〝闘技場〟でのやり取りを見た限り、剣だけでもギルドマスターと普通に戦える程度には強いと思うよ」

「それは重畳(ちょうじょう)。だったら、申し分ないねえ」


 そう言って、ロキは身に付けていた銀のブレスレットを外し、「はい」と言って差し出してくる。


「一応これ、剣の〝古代遺物(アーティファクト)〟。銘は〝天地斬り裂く(シュヴァルト)〟。権能は名前の通り、斬れ味が良いってのと、魔法との相性がアホほど良いって事くらい。でもまあ、これがあれば十分でしょ(、、、、、)


 剣を扱う身からすれば、斬れ味が良いというだけでもう剣としては十分過ぎる。


「……で、俺に剣を使えって?」

「そっそ。これで漸く本題に入れる訳なんだけれども、もう一体のフロアボスと戦うにあたって、キミには取り敢えず、魔法は一切使用しないで欲しいんだよねえ」

「……本気?」


 そのとち狂った発言にはこれまで一言も口出ししていなかったクラシアも、堪らずそう聞き返していた。


「相手は〝死霊系(アンデッド)〟。なのに、魔法を使うなって馬鹿なの?」


 そして、刺々しい言葉が続く。

 しかし、それが正論であった。

 だから俺も、ヨルハも言葉にこそしなかったが、クラシアのその発言に同意していた。


「まぁまぁ。言葉は最後まで聞こうよ。何も僕は、最初から最後まで使うな。とは言ってないじゃん? それに、さっきトドメを刺せとも言ってるんだし。ただ、僕が合図するまで魔法を一切使わずに剣だけで戦って欲しい。そう言いたいだけなんだから」


 ……要するに、剣を強く印象付けさせ、俺を剣士として誤認させたいと。

 ロキはそう言いたいのだろう。


 でも、本能で行動し、知性という知性が存在していない魔物にそんな事をしても意味はないのでは。そう思った矢先、


「言ったでしょ? 小汚く、不意を打つって。ま、さっきの魔物みたいなヤツなら軽くおちょくれば良いだけの話なんだけど、フルプレートの方が色々と厄介でねえ」


 そのせいでこうして助けを求める羽目になったんだよね。と付け足される言葉。


「兎に角、馬鹿正直に挑むのは論外なんだよ。だけど、まあ、ここから先は実際に見て貰った方が早いだろうねえ」


 言っても多分、納得してくれないだろうし。と、此方をまるで信用していないかの物言いに、ヨルハが口をむっ、と曲げる。


「……それは、聞き捨てならないね」

「じゃあ聞くけど、明らかに洗練された剣技を扱う知性の備わった(、、、、、、、)フロアボスがいるんだよねえ。って僕が言って、キミら信じてくれるの?」


 しかし、ロキの口から言い放たれたその言葉は、これまでのフロアボスに対する常識を粉々にぶち壊す内容の発言であった。

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