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十六話 フロアボスの予感

 それからどれ程の時間が経過しただろうか。


 闘争の音が止むと同時、血塗れの穂先が弧を描いた。ぶん、と風を斬る音を残し、傘に残った水を払うような血振りの動作を一度。


 ひと通りの魔物の掃討を終えたのか、己の得物である槍の〝古代遺物(アーティファクト)〟を肩に乗せ、オーネストは肩越しに振り返った。


「————なぁ、アレク。なんでお前、サンダーボルトしか使わねえの?」


 鼻が曲がるほどの死臭に眉一つ動かす事なく、平然とした様子で問い掛けられる。


「あ?」

「いやお前、攻撃系の魔法全般使える癖に、サンダーボルトしか使ってなかったろ。ついでに言やぁ、ジジイの時もか」


 ……言われてもみれば、そんな気もした。


 無意識のうちに、何かがあればサンダーボルトの魔法を使っている気がする。

 魔法学院にいた頃はどんな場合でも対処出来るようにと色々な魔法を適宜使っていたというのに。


 そんな折。

 どうしてか、ふと、脳裏にとある人物の顔が浮かび上がった。


 それは、いつぞやの王太子の顔。


 自信家で、それでいて過剰過ぎる自信のわりに、実力といった中身がペラペラな王子様。


 ————コイツは僕が倒す! だからお前らは手を出すんじゃない!!


 目に見える手柄が欲しくて仕方が無かったのだろう。そう口にし、彼の手に負える筈もない魔物に突っ込んで行く王太子を守る為に俺がどれだけ苦心していた事か。


 そのせいで使えもしない補助魔法を一から学ぶ羽目になり、そしていざという時に助けられるようにと、一番発動速度の速いサンダーボルトを……。

 と、考えたところでカチリと硬質な音が響いたような気がした。例えるなら、欠けていたパズルのピースが埋まったかのような、そんな音。


「…………」


 そういえば、いざという時、王太子を助ける為に俺はひたすらサンダーボルトの魔法のみを鍛えていたんだったと思い出す。


 しかし、王太子のお守りの為に鍛えていた名残りと言う事だけは憚られた。

 ……それを言ったら絶対、オーネストに笑われるだろうから。


 だからぷぃ、と顔を逸らし、次いで視線もオーネストから適当な場所に移す。


「……さ。先を急ごうか」


 まるで先のやり取りが無かったかのように振る舞い、そして足を進めようとして。


「なに隠し事してやがる。言え」


 責めるような眼差しと共に、行く先を阻まれる。


「……気のせいだろ」

「ほぉー。オレさまに隠し事とは良い度胸してンなぁ!? オイ!?」

「お前もさっき散々隠し事してただろうが!?」


 忘れたとは言わさん。

 つか、どの口が言ってんだよ!!

 と、散々に責め立ててやるも、オーネストの面の皮の厚さは世界一。


 どこ吹く風と言わんばかりに、「んな過去の話はもう忘れちまったよ!」と言いやがるオーネストに殺意を覚えた俺は悪くない。


「……騒ぐのは別に良いけど、アレの中を確認する前に勝手にへばる事だけはやめてね」


 オーネストが悪い筈なのに、何故かヨルハの呆れの視線が俺にまで向けられていた。

 とんだとばっちりである。


「……アレってなんだよ、アレって」


 不明瞭な言葉故に思わず聞き返した俺は、ヨルハの視線の先に目を向ける。

 数秒程かけて目を凝らすとそこには荘厳としか形容しようがない古びた鉄の扉が小さく見えた。


「……あぁ、セカンドフロアボスか」


 通称、中ボス。

 またの名を、〝安全地帯(セーフティポイント)〟。


 扉の先には次層に続く道を守る魔物——フロアボスより一段階弱いフロアボスが存在している。

 故に中ボス。


 ただ、セカンドフロアボスが存在する鉄の扉の中はダンジョン内に存在する他の魔物から襲われる心配はなく、一度倒してしまえば扉の外に出ない限り、その場所は〝安全地帯(セーフティポイント)〟と化す。


 扉の外に出た場合、一定の時間が経過すると、やがてセカンドフロアボスは復活を遂げてしまうのだが、一度倒してしまえば気兼ねなく休憩出来る点から冒険者の中では〝安全地帯(セーフティポイント)〟と呼ばれていた。



「どうする?」

「どうするって、行くしかねえだろ」


 全員の意見を確認しようとするヨルハの声を押し切ろうとするのは勿論、オーネスト。


 ダンジョン内に複数存在するセカンドフロアボスの〝安全地帯(セーフティポイント)〟で休んでいるかもしれない。

 という少なくない可能性を加味すればすれ違わないように一度、覗いておくのが吉。


 だが、扉を開けてしまったが最後、強制的にセカンドフロアボスとの戦闘が始まってしまう。


「……ま、中にいるかいないかは置いておいて、この辺りで休憩を入れておくのも悪くないかもしれないわね」


 ダンジョンに潜ってから一体、どの程度時間が経過した事だろうか。

 ダンジョンでは基本的に時計の不携帯が推奨されている。時間は時に、己の精神を追い詰める毒と化すから。その言葉は、魔法学院に在籍していた時も口酸っぱく言われ続けていた。


「それに、64層はこれが初めてだったし、人を探すならダンジョンの情報共有は早めにしておかなきゃいけないでしょう?」


 いつ魔物に襲われるか分からない場所ではおちおち情報共有も出来やしないとクラシアが言う。


 その発言に、あえて反対する理由はなく、俺も同調する。


「決まりだね」


 ————と、これからの予定が決まった。


 そう思ったところで、唐突にずしん、と不自然に地面がほんの僅かに揺れる。

 先程のように戦闘を繰り広げていたならば間違いなく気付かなかったであろう小さな揺れ。


 耳をすますと、地響きのようなおどろおどろしい音が鼓膜を掠めた。


「……あン?」


 それにオーネストも気づいたのか。

 周囲に伝播する微かな振動と音に誰よりも先に反応を見せ、不思議そうに片眉を跳ねさせる。

 やがて、


「おいおいオイ。これ、もしかしなくとも当たりを引いた(、、、、、、、)んじゃねえか?」


 もしや、先程のオーネストと同様、周囲にその存在を知らせんとあえて騒がしくしているレヴィエルの仕業か。と、一瞬思うが、これは戦闘音というより、破壊音。


 闇雲に何かを破壊した時に生まれる音の類だ。


 しかも、その音は止む事を知らないと言わんばかりに立て続けに鳴り響く。


「……相当怒ってるね、これ」


 耳に届いた微かな音で、戦闘とは程遠いその破壊音が怒りによって振るわれているものであるとヨルハが指摘した。


 魔物には基本的に言葉は通じないが、それでも人と比べればよっぽど逆上しやすい生き物であると知られている。


 恐らく、こんな遠くにまで音を響かせているのであれば暴れているのは間違いなくフロアボスクラスの魔物。

 そして、相手は間違いなくお冠。


 相手の冷静さを欠かせる事は魔物を倒す上で有効な手段足り得るものであるが、言葉の通じない魔物に対してここまで憤怒を爆発させられるように挑発を繰り出せる器用な人物は決して多くはない。


 腹立つポイントを的確に突いて、突いて、突いて、突き続け、人を食ったような態度で煽り続ければきっとこんな感じになるんじゃないだろうか。と考えたところで、


「……そういえば、ちょうどお誂え向きのクソ野郎がクリスタのパーティーに居たわね」


 苦虫を噛み潰したような表情でクラシアがそう口にした。

 やがて、周囲に伝播するように、ヨルハ、オーネストとその苦々しい表情が広がってゆく。


「……あー、そういや、いたな。脳筋ゴリラのとこにはクソ中のクソみたいなやつが確かにいたわ」


 評価は最底辺。

 その様子から、その者について聞いたところで間違いなく罵倒しか出てこないであろう事は容易に察する事ができた。


「良い機会だ。アレクも、覚えとけ」


 何も知らない俺を気遣ってか。

 オーネストは言い聞かせるように言葉を紡いでいく。


「————ロキ・シルベリア。あっちで魔物を怒らせてるのは間違いなく息を吐くように腹立たせてくれるSランクパーティー随一のクソ野郎だ。人呼んで————〝クソ野郎〟だ」


 ……それ、絶対人呼んでじゃなくてオーネストが一方的に呼んでるだけだろ。

 そう思ったが、クラシアやヨルハまで渋面を浮かべてる手前、指摘する事は憚られた。

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