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味方が弱すぎて補助魔法に徹していた宮廷魔法師、追放されて最強を目指す  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
四章

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百八話 それぞれの想いと道理

 本当に、僅かな邂逅。

 どうして、このタイミングで行われたのか。

 もしかすると、何かしらの条件があったのかもしれない。


 ともあれ、だ。


「どうにも、今日は俺も(、、)ツイてるらしい」

「何をしたのかは知らないが……そら見たことか。私の言う通りだっただろう? 今日の私はツイてるんだ」


 五感を封じられ、絶体絶命の状況にありながら、しぶとくも命を繋げたという理由が眼前には広がっていた。

 その理由に、得意げに声を上げるガネーシャが一枚噛んでいる事は明らかで、今はその声に肯定する他なくて俺は苦笑いを浮かべた。


 即座にロンが俺達を殺せなかった理由。

 それは、ガネーシャの持つ〝古代遺物(アーティファクト)〟〝運命神の金輪(フォルトゥナ)〟による無差別乱発。

 お陰で、ロンは思うように俺達に手出しが出来なかったのだろう。


 輝きを放つ腕輪と、天変地異でも起こったのかと錯覚してしまう光景が全てを物語っている。


「……確かに、こうなると否定は出来ないな」


 加えて、意図しない母との邂逅。

 〝魔眼(レジェレ)〟の覚醒。


 そして何より────ロンとダンジョン(ここ)で出会えたという偶然。


 それらを考えれば、ツイているという言葉では足らないだろう。

 何故ならば、俺がロンと対等に戦える可能性が生まれるのは、ダンジョンの中という限定された空間においてのみの話であったから。


「──────」


 焦点の合わない虚な瞳ではなく、確かな理性の宿る瞳。

 言葉も正しくロンに向けられており、傷を負って初めて対応していた筈の俺の様子が、間違いなく彼を見据えている。


 痴れている筈の感覚が、完全に戻っている。

 それを理解したからこそ、息を飲み、ロンは驚愕に目を見開いていた。


「……何を、したのかね」

「何をしたと思う」


 律儀に答えてやる理由も、義理もない。

 これは、決して盤上不敗の一手とも言える「夢」を掻き消した訳ではない。

 ただ、上書き(、、、)をしただけ。


 視覚ならば、見えるように上書きを。

 聴覚ならば、聴こえるように上書きを。


 何もかもを上書きし、補完した。

 俺がやった事は、ただそれだけ。


 勿論、それをする場合、『夢』を上回る何かでなければ土台無理な話だ。

 そうでなければ、上書きなど出来る訳もなく、塗り潰されるだけだから。


 だから俺は、その為にダンジョンの力を利用した。

 厳密には、ダンジョンコアに含まれる力を利用した────共鳴という形で。

 そうする事で、限定的に力を借り受ける事が出来るのだと理解したから(、、、、、、)


「まぁ、答えを待ってやるつもりも。待ってやれるほどあんたを侮る気はないんだけどな」


 〝ダンジョンコア〟には、不思議な力がある。

 〝裏ダンジョン〟と呼ばれる〝楽園(エデン)〟へと続く道を作り上げる為の力。

 そしてもう一つ、魔法師にとっての触媒。

 魔法の効力を上げる為の魔導具染みた力だ。

 だが、ダンジョンが造られた経緯を理解するものからすれば、ダンジョンコアの力がその程度(、、、、)な訳がないと気づいた事だろう。


 そもそもダンジョンとは、神を抑え込む為に苦肉の策として神が造り出した檻なのだから。

 その力は。その奇跡は、代償すらなしに死人を蘇生する事は勿論、凡その願い事を叶えられる全知全能なものである。故に、その力を僅かでも使ったならば。


「────〝多重展開(アクセラレーション)〟────」

「……な、に」


 高速で展開された魔法陣が、今度(、、)は消えなかった。

 普段の、それも十数倍はあろうかという物量。視界に収まり切らない程のそれは、ロンからすれば良い的だった。

 ガネーシャ達と力を合わせた時のように、丸ごと全て消し去る腹づもりだったのだろう。

 なのに、幾ら『夢魔法』を行使しても、それが消えない。

 ロンの反応から、そう思っているであろう事は手に取るように分かった。


「────〝天蓋星降(ステラカーテン)〟────ッッ!!!」

「チ、ィッ」


 消す事は、不可能。

 術者の五感を消す事も、不可能。


 だが、『夢』が使えなくなった訳ではない。

 故にこそ、ロンは応戦という選択肢を掴み取った。


 けれど、その選択が何の障害もなく許される事はない。


「────危ねえ、危ねえ。危うく、〝道連れ〟をしてやるところだった」


 手に得体の知れない小瓶を携えた外套の男が、笑う。

 最中、展開される〝古代魔法(ロストマジック)〟。しかし、〝星屑の祈杖(ステラティオ)〟を介してダンジョンの力を借り受けていない彼の攻撃は、『夢』によって呆気なく消される。

 でも、構わないと言わんばかりに。

 学習をしない愚者のように、外套の男は面白おかしそうに笑いながら繰り返す。


「お前の『夢』に、限界がねえ事はよく分かった。でもよ、その力。全くのリスクなし、って訳じゃないだろ?」


 愚直に、何度も。何度も。何度も。何度も。

 一瞬で消し飛ばされるとしても、少なからずの労力がそこにはある。


 あえてわざわざ広範囲にされたものを消し飛ばずのだ。顔にこそ出ていないが、消費する力もそれ相応だろう。


 いくら無尽蔵とはいえ、ノーリスクに無尽蔵な訳がないのだ。

 事実、ロンの息はほんの僅かであったがあがっていた。

 

「……だから、何だと言うのだね」


 狙いを定めた〝天蓋星降(ステラカーテン)〟から逃れるように、ロンが俺達の下へと肉薄を開始。刹那の時間で距離をゼロへと詰めにかかる。

 『夢』で消せずとも、相殺すらせずとも、ここまで距離が離れていなければ安易に撃ち放てまい。


 言葉はなくともそう言っているであろうロンの行動は、正しくその通りという他なくて。


「だから、何だと言うのだね。だからワタシが引き下がるとでも思ったか? だから、ワタシが諦めるとでも思ったか? 笑わせるなよ……? ワタシの人生が、予定通りに進んだ試しなど、一度としてなかった。故に、この程度の支障は支障と言わんのだよ」

「下がれ、ガネーシャ!!」


 割り込む。


 ロンにとっての優先すべき脅威は、『夢』の効かない俺と、『夢』の効果を受けながらも、抵抗らしい抵抗が出来ていたガネーシャの二人。

 だからこそ、すぐに始末出来る人間かつ、脅威を減らす為にとガネーシャを狙ったのだろう。


 直後、響き渡る金属音。

 杖と、剣の交錯する衝突音が殷々と鳴り響き、共に飛び散る火花が辺りを物色する。


 だが、拮抗した状況を作り出せたのは僅か数合まで。

 軌跡の後すら残る剣撃を前に、俺が押し負けるのは最早、必然だった。


 ロン・ウェイゼンは、元より魔法使いとして名を馳せた人間ではない。

 彼は、騎士として名を馳せた人間だ。


 ならば、俺が近接戦闘で及ばないのは自明の理。捌き切れなかった剣撃によって、斬り裂かれた頬からツゥ、と血が滴り、擦過傷特有の鋭い痛みが肌を灼く。

 だが、全く対応出来ない訳ではない。


 その理由は、俺が常日頃よりオーネストと剣を合わせていたからでも、〝剣聖〟メレア・ディアルを始めとした規格外の剣士と斬り結んだ経験があったからでもない。

 勿論、一因ではあるだろうが、一番の理由は間違いなく、彼の剣が恐ろしく真っ直ぐで清廉で、基本に忠実な本物の騎士の剣だったからだろう。


「……他に、選択肢はなかったのかよ」


 故に、口を衝いてそんな言葉が出てくる。

 

「今更、その問答が必要かね」


 確固たる戦う理由がある。

 ロンにとってそれは、曰く正義であり、その切先が今更、俺の言葉一つでぶれる訳もなかった。寧ろ、怒りを増幅させるだけの引き金でしかなかった。

 でも。それでも、だ。


「……ああ、必要だ(、、、)。あんたには。あんたにだけは、俺がここにいる理由を教えてやらないといけないから」


 息もつかせぬ剣撃の嵐。

 剣と杖が交差する音を聞きながら、それに掻き消されないようにと、俺は声をあげる。


 十合、二十合、三十合────。

 しかし、剣の道を生きてきた人間からすれば、経た年月の浅い俺の剣など、いいカモでしかないのだろう。

 辛うじて防げていた筈の攻撃によって、徐々に明確な差が生まれ始める。


「ヴァネサ・アンネローゼを助けに来たのが一番の目的だ。でも、俺は……俺達は、メア・ウェイゼンに頼まれて、あんたを止めにもやって来たんだ」


 言葉を口にしている余裕など、本来俺にある訳もない。にもかかわらず、言葉を紡ぐ。

 実力の差に開きがある以上、目の前の攻防に向けるべき注意や思考を発言という行動に割けば割くだけ、それは目に見えた傷という代償に変わってゆく。

 否、それどころか、ロンは赫怒の形相で瘧のように身体を震わせながら、血走らせた目を大きく見開いて叩き付けるように剣を振るってくる。


「────メアに、止めろと頼まれただと?」


 空気が、硬直する。

 緊迫とした空気が漂い、間断のない攻撃を続けていたロンの手が初めて止まった。

 けれど、即座に攻撃の手は再開される。


「そんな訳が、あるかッ。ワタシは。ワタシが、あの子を殺したのだ。ワタシは、あの子に恨まれて当然の人間だ……。あの子は、ワタシのせいで命を絶った。絶つ事を選ばざるを得なかった……!! それは、紛れもない事実だ!!」


 剣の荒が目立ち始める。

 だが、それでも剣の実力は伯仲とは程遠い。


 そして、こちらが本来の口調なのか。

 これまでの道化染みた取り繕った仮面が剥げ始めていた。


「だというのに、メアに頼まれて? 止めにきただと? あり得ない。それだけは、あり得ないのだよ」


 悲しみとも、怒りともつかない響きが言葉に滲む。

 それはきっと、ロンにとってメアが蘇生された事実に気がついた。ついていない以前の問題であるからなのかもしれない。

 もっと根本的な理由があるからなのかもしれない。


 恐らくそれは────。


「……ハ。嗚呼、そうか。そういう事かね。そういう体で(、、)、ワタシを止めようとしていたのかね。成る程、であるならば、合点がいく。であるならば、キサマらがメアの偽者を用意した理由にも説明がつく。そしてならば尚の事、ワタシは、」


 濃密な殺気と共に言い放たれる言葉。

 続けられるであろう言葉は容易に想像が出来た。


 最中、危機が迫る。


 だが、先程口にされた発言の差異に、逼迫した状況であって尚、俺は疑問を抱かずにはいられなかった。


 俺達の下に現れた不思議な少女。

 メア・ウェイゼン。


 彼女の本当の正体は分からない上、あの出会いが真に偶然であったのかも分からない。

 でも。だけど、あの慟哭のような悲鳴染みた言葉が、偽ったものでない事は理解が出来た。


 それは、本能的なものであり、かつ、宮廷魔法師として過ごした中で、魔窟のような宮廷で多くの嘘や偽善をこの目で見てきたから断言出来たことだった。

 少なくとも彼女は、本気で目の前のロンの事を父と呼び、心配をしていた。

 本気で止めてくれと願っていた。

 救ってくれと願っていた。


 今ならよく分かる。

 きっとそれは、彼なりのメアの為の贖罪が、メアの望むものとはあまりに乖離していたから。食い違っていたから。齟齬があったから。

 どこまでも、すれ違っていたから。


「……あんたは、メアに恨まれてると思ってるのか」

「逆に聞くが、恨まれない理由があるのかね」


 全てを、何もかもを犠牲にしてでも成し遂げようとしていた娘の蘇生。


「妻も助けられず、娘も助けられず、どころか、死ぬ理由をワタシ自身が作り出した。ワタシは、あの子に何かを与えてやるどころか、奪う事しか出来なかった。何故。なぜ、そんなワタシが恨まれていないと思う……!!」


 贖罪だけではないのだろう。

 大切な存在だからこそ、助けたいという至極真っ当な想いもそこにある。


 けれど、それはロンにとって使命感であり、義務感であり、必然であり、唯一出来る彼なりの償い方であると決めつけてしまっている。


 漸く分かった。


 だから、メアは止めてくれと懇願したのか。

 ロンが不幸になる以前に、そんな事はこれっぽっちも望んでいなかったから。


 そして、その願いが果たされた時、死という形でロンがメアの前から姿を消すと分かっていたから、彼女は止めたかったのだ。


 だから。だから。




「────それは、違う」




 こうして、メア・ウェイゼンは戻って来てしまった(、、、、、、、、、)のだろう。

 どうにかして搾り出したような声音は、俺にとって聞き覚えのあるものだった。

 それは紛れもなく、メアのものだった。


「なに、考えてやがる……っ」


 いの一番に反応をしたのは外套の男。


 声のした方へ視線を向けると、たった一人でメアがいた。

 そこに、オーネスト達の姿はなく、肩で息をするその様子から一人で抜け出して来たのだと一目で理解する事が出来た。


「わたしは、そんな事は望んでない……!! それに、恨んですら、ない。恨む訳がない……!! 恨んでなかったから。わたしは、お父さんに生きていて欲しかったから、迷惑を掛けたくなかったから、だからあの時────」


 最後まで言葉が口にされるより先に、メアの発言は強制的に遮られる事となった。

 その理由は、ロンが敵意の焦点をメアに向けたから。


 俺との戦闘の最中であるにもかかわらず、俺へ割く労力を削ってでもロンはメアを殺しにかかる。

 ロンは目の前のメアを、メアとして認識していないから。

 己が娘の存在を侮辱するナニカとしか捉えられないから。


「なんで戻ってきた!!!」


 展開されたロンの魔法の対処に掛かりきりだった俺に代わり、ロンの行く手を外套の男が阻む。

 

 あえて二手に分かれた理由は、勿論、ガネーシャを助ける為ではあったが、メアを逃す為でもあった事に何故気付かないのだと責め立てているようでもあった。


「……わたしは、他でもない当事者だから」


 自分一人の力ではどうにもならない。

 だが、だからといって全てを誰かに委ねるのは違うのだと彼女なりの考えを口にする。

 故に、リスクを背負ってでも己一人でここへ戻ってきたのだと。


「その考えが間違ってるとは言わない。だけど、」


 あまりにその選択は危険過ぎだ。



 言葉を口にするより先に、攻撃が飛んでくる。背筋が凍る程の寒気を齎す魔法攻撃。

 黄金の波紋が予兆として虚空に現れ、怒涛の連撃猛攻が描かれた魔法陣から頭上より降り注ぐ。


「……っ、ぐッ」


 俺はそれを、防ぐ事で精一杯であった。


 ロン・ウェイゼンを前にして、俺は誰かを守りながら戦うという事が出来ない。

 何故なら、それだけの実力差を持ち得ていないから。


 試みた瞬間に綻びが生じる。

 それは、明確な傷となり奇跡的なバランスで保たれている今の拮抗に近い状況が呆気なく崩れ落ちる事を意味する。


 もし、それが出来るとすれば。

 出来る可能性があるとすれば、恐らく〝リミットブレイク〟を使った場合。


 だが、それは駄目だった。

 それは、選べない。


 己の身体の限界が云々の話ではなく、もっと違う使えない理由があった。


(────……恐らくは、保たない)


 視線を向ける。

 その先は、今しがた手にしている〝星屑の祈杖(ステラティオ)〟へ。


 その先端に、ヒビが生まれていた。


 いつついた傷なのかは分からない。

 だが、一つ言える事はロンと対峙してから生まれた傷である事。

 使えば使うだけ壊れる可能性が高くなる。ロンと限りなく対等に戦う事が出来ているのはこの杖のお陰だ。

 きっと、〝リミットブレイク〟を行使しようものならば、まず間違いなく壊れる事だろう。

 だから俺はその選択肢を選べない。


「……チ、おれは援護に回る!! 女!! おれと代われ!!」


 外套の男は叫び、メアを守る役割を代われと言う。


 そして後退する事でガネーシャが一息に数メートル程の距離を取った事を確認してから、彼は魔法を行使。

 それは、覚えのある〝古代魔法(ロストマジック)〟であった。



「────〝おれの時間は加速する(クロノクロック)〟────!!!」



 這い出る文字列。

 絡みつくように、外套の男の足下へ。

 どころか、それにとどまらず、加えて俺とガネーシャにまで纏わり付いてゆく。


「小賢しいッ!!!」


 応戦。

 張り合うように、ロンの動きもまた、加速する。


 動きが早くなれるのはロンとて同じ。


 『夢』は誰しもが見られるもの。

 『夢』とは誰しもが好きに思い描けるもの。


 そこに、限界など本来はありはしないのだ。


 ────ただし、『夢』に限界はなくとも、『人』に限界は存在する。

 恐らく、外套の男は徹頭徹尾、ソレを狙っていたのだろう。

 唯一の活路がロンの消耗であると理解していたから。今になって、その試みが活きてくる。

 俺もそうだが、俺以上に疲れが見えてきていた。


「……ワタシは、成さねばならない。やり遂げなければならない。何があろうと、成し遂げると決めたのだよ。どれだけの障害があろうと、誹りを受けるとしても。そう、二十年前に誓ったのだよ」


 独り言のように、ロンは呟く。

 己を奮起させるべく、脳に今一度と刷り込んでゆく。そして。


「だから……今更引き下がれる訳も、引き下がる訳もないのだよ……!! ワタシの。ワタシの、邪魔をするなァァアアアッ!!」


 割れんばかりの咆哮と共に、何度目か分からない肉薄が行われる。

 同時、高密度な魔力を帯びた剣が轟、と唸りながら振るわれようとして。


「ッ、成功、してくれよ……っ!! 〝多段術式──複合魔法(コネクティア)〟!!!!」


 即席の、ローザの真似事。

 これまでの俺であれば、失敗した場合を恐れるあまり、手を出してはこなかったが、単なる雷魔法。単なる火魔法のみでは止められない。

 そう理解をして、リスクを掴み取った。


 ずきり、と頭が痛む。

 体調不良の頭痛とは、比ではない痛み。


 だけれど、その代償を受け入れた事もあって、ロンの剣がひしゃげ、使い物にならなくなる。


 しかし、彼の足は止まらなかった。


 同時、展開される氷魔法。

 全力で、全開で、全盛に行使されたガネーシャのソレは、容赦なく周囲一体を凍らせにかかる。だが、凍った側から無力化が始まる。

 僅かコンマ一秒すらも足止めになっていない。理不尽の権化と言わんばかりの現象に、下唇を強く噛み締めながら、ガネーシャは〝運命神の金輪(フォルトゥナ)〟を使おうとして。


 しかしそれよりも早く、ロンの手元に新たな得物が現れる。

 何処からともなく現れたその()は、紛れもなく、〝古代遺物(アーティファクト)〟であった。


「この期に及んで、隠し持ってたのかよ……ッ!!!」


 剣と槍とではそもそもの間合いが、まるで違う。加えて、〝古代遺物(アーティファクト)〟ともなればそこにどんな能力が込められているのか。

 見当もつかない。


 だから、対峙するガネーシャに逃げろと叫ぼうとするが、圧倒的に時が足らなかった。

 外套の男もどうにかしようと試みていたが、それでも間に合いようがなくて。


「────〝寂魔の灰鉄(レイ・ヴァルカ)〟────!!」

「……大丈夫(、、、)。その為にも、わたしはここに戻って来ましたから」


 その声は、俺でも。外套の男でも。

 ましてや、ガネーシャのものでもなかった。


 俺達の前では終始、落ち着きがなかったメアとは思えない落ち着いた声音で口にされたソレは、安堵を齎すほどに冷静で澄んでいた。


 理由はわからない上、子供でしかない見た目のメアとはあまりに似つかわしくないものであったが故に、ロンと同様に疑ってしまう。

 彼女は、メアではない誰かなのではないのかと。

 しかし、思考を巡らせる暇すらなかった。

 突き出されたロンの槍は、何もかもを巻き込み、特大の轟音を齎した。

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