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味方が弱すぎて補助魔法に徹していた宮廷魔法師、追放されて最強を目指す  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
四章

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百一話 歴代最強の騎士

* * * *


「────……よし、逃げるぞ」

「またかよ!?」

倒せない(、、、、)んだから、仕方ないだろ!?」


 俺達と得体の知れない黒いアレとの間に、それなりの距離があった事。

 加えて、先程からずっと逃げ回っていた事。

 それもあって、試しに遠距離から魔法を撃ち放ってみたのが十数秒前。


 直撃をした事で得体の知れない黒い何かは爆裂霧散したかのように思えた。

 だが、魔法で粉々になった筈のソレは、次の瞬間には何事もなかったかのように再生(、、)した。

 魔法の属性の相性。威力の関係。


 考えられる可能性を考慮し、属性を変えてもう一撃。威力を変えて更にもう一撃。

 立て続けに更に一撃。


 計四回、魔法を撃ち放った俺が出した答えは、魔法ではどうにもならない。

 魔力の無駄遣い。

 カラクリが分からないと手が付けられない。


 ここで時間を取られるならば、再度逃走し、先にヴァネサを探すべき。

 そう判断を下した俺は、全員に逃げるように指示をした。

 

「恐らくは幻術の類だと思うが、術者やタネを探すのは時間が掛かり過ぎる! 真面目に相手してたらそれこそ、先に魔力が尽きる! それに、この空間そのものが条件になってる可能性もある」


 この得体の知れない空間が、先の脅威的な再生速度に関係している場合、この空間そのものをどうにかするか、ここから離れるか。

 咄嗟に思いつく解決策はそれしかない。


「……〝古代魔法(ロストマジック)〟で閉じ込める事も考えたが、効率が悪過ぎる」


 大規模でやるには消費があまりに著しい。

 無限に増殖をしているようにも見える相手に使ったところで、焼け石に水だろう。


 やはり、逃げる他なかった。


 だが、その結論にケチつけるように、あからさまにやれやれと溜息を吐く者が一人。

 まさか、あの一瞬で解決策が思い浮かんだのだろうか。

 俺は隠しきれない驚愕の感情を表情に貼り付け、溜息を漏らした張本人であるガネーシャに視線を向け────


「仕方ない。かくなる上は、私がひと肌脱ぐとしようか。この、〝運命神の(フォルトゥ)────」

「それだけは死んでも止めろッ!! オーネスト!!」

「応よ、任せとけ。つぅわけで、死ね〝賭け狂い〟!!」


 待ってました!と言わんばかりの流れるような動作で、轟!! と風を巻き込んで槍がガネーシャに向かって突き出される。

 まるで容赦のない一撃。

 死んでも止めろと言ったのは俺なんだが、そこまでしろとは言っていないと訂正をしようにも圧倒的に時が足りていなかった。

 勿論、俺がその攻撃を止められる訳もなく、殺意百パーセントのオーネストの突きによってこの場が殺人現場に早変わりと思われたが、


「ぬわぁぁぁあッッ!!? おい、お前っ!! 今、本気で私を殺すつもりで槍を突き出しただろうッ!?」


 しかし、ガネーシャは驚異的な持ち前の身体能力で以て紙一重でそれを回避していた。


「気の所為じゃねえか?」

「いや、私が感じた殺気は紛れもなく本物だったぞ!?」


 惚けるオーネストにガネーシャが必死に抗議する。過程はともあれ、ガネーシャの暴走が止まってくれてよかった。

 流石はオーネストである。


「そんな事より、一つ気になってた事があるのだけれど良いかしら。それと、ガネーシャさんはメアさんを抱き抱えてもらえる?」


 そ、そんな事より……!?


 扱いの酷さにガネーシャが愕然としていたが、これまでの彼女の行いを考えれば妥当だろう。

 そして、抜け目なくクラシアがガネーシャの両手を正当な理由で以て塞ぐ。

 最早、完璧としか言いようがなかった。


「メアさん。貴女はそもそも、どうやって逃げてきたの?」


 先の得体の知れない怪物がいる事から、この場が尋常からほど遠い事は火を見るより明らかだ。

 そして、アレの他にも何かが潜んでいる可能性は極めて高い。それが人間かどうかは定かでないが、あの怪物を従える事が出来る存在か。はたまた、あの怪物をどうにか出来る存在である確率は極めて高い。


 そんな存在相手に、人畜無害にしか見えない少女がどうやって逃げ切ったのかと訝しむクラシアの発言は当然のものだ。


「…………」


 メアは口籠る。

 視線を泳がせるその様子は、言いたくないというより、言っていいものなのかと悩んでいるように見える。

 しかし、黙っている訳にはいかないと思ったのだろう。


「逃して、くれた人がいたんです」


 ゆっくりと口を開いたメアは、そんな事を言った。


「……私を『器』と呼んでいた人達から、逃してくれた人が二人、いたんです」

「器……? というより、二人?」


 枷の次は、器。

 話を聞けば聞くほど分からなくなってくる。

 オーネストは考える事を放棄したのか、乱暴に自分の髪をがりがりと掻きむしっていた。


「その内の一人、が、確かヴァネサって呼ばれてました」


 記憶をどうにか探りながら、メアは答える。

 そんな彼女の言葉に、クラシアはこう返した。


「あり得ない話ではないわね」


 ダンジョンの中に位置するこんな場所で、無茶をやっている事に咎めたい気持ちがあったのだろう。

 頭痛に耐えるような苦々しい表情を一瞬ばかり浮かべていたが、ここで何を言っても状況が変わる事はないと割り切り、言葉を続ける。


「元々、姉さんはそういう性格だから、恐らくメアさんの言葉は正しいと思うわ。ただ、やっぱり二人なのね」


 ヴァネサ・アンネローゼに魔法の心得は殆どない事からヴァネサの側に誰かしらの協力者がいる可能性は元々高いと話をしていた。


 それに、逃した人間の一人がヴァネサであれば、姿を既に隠している筈の彼女の名前をメアが知っている事にも辻褄が合う。


「だが問題は、何で逃したのか。何で、そこにいたのかが問題なんだよな」


 正体不明の得体の知れない怪物から逃げながら、思案する。

 メアを逃したのがヴァネサだと仮定して────しかし何故、逃げた筈のヴァネサがこの場所いるのか。

 そして、〝賢者の石〟の危険性を知っている筈の人間が、どうしてメアを保護ではなく逃すという選択肢を取ったのか。



 …………考えが一向に見えてこない。

 そもそも、彼女の協力者は、どんな理由があって協力をしている?

 本当にそれは協力なのか?

 利用ではなくて?



「……分からない以上、俺達に出来る事はその場所に向かう事くらいか」


 ヴァネサがどんな理由でメアを逃したのかは分からない。

 だが、向かうにはメアの記憶だけが唯一の頼りだ。しかし、彼女を連れて行っていいものなのか。

 

 一度、ダンジョンの外に戻り、学院長にでもメアを引き渡しておくべきではないか。


 安全策に走ろうとする俺であったが、その考えは口にするより先に遮られる事となった。


「なら、わたしがあの場所まで案内します。今は、記憶が混乱してますけど、あの場所にもう一度いけば色々と思い出せる気がするんです」


 それに────と言葉を続けるメアの瞳の奥には、揺らぎのない確固たる意志のようなものが湛えられていた。


「それに、あの人達は、お父さんを止める為にはわたしが必要だって言っていたから」


 故に逃げてきたのだとメアは言う。


「だから、わたしが案内します」

「分かった。なら、君に案内を頼もう」

「……何で勝手に了承してるのよ」


 でも、自身の事を『ホムンクルス』と名乗る少女とはいえ、彼女を危険場所に向かわせるのは────と、躊躇する俺達の考えをガン無視して、了承の言葉を口にしたのはガネーシャだった。


「どうせ手掛かりは彼女の存在だけだろう? なら、案内して貰えばいいじゃないか。それに、事態は恐らくかなり動いてしまってる。手遅れになる前に行動出来るなら行動しておいた方がいい」


 尤もな話だ。

 ガネーシャの言い分は正しい。


「だが、一つ気になってた事がある」

「なん、ですか」

「君は、お父さんを止めてくれと言っていたな。それはつまり、君自身が君のお父さんが何をしでかそうとしているのかを知っているという事だ」


 確かに、知らなければ、止めてくれという言葉は出てこない。


「まず、それも話して貰わないと止められるものも止められないぞ。ロン・ウェイゼンの娘、メア・ウェイゼン」

「……ッ、知っ、ているんですか。お父さんを」

「ウェイゼンの名前に引っ掛かっていたんだが、漸く思い出せてな。やはり、ロン・ウェイゼンであっていたか」

「何だ、何だ。知り合いなのかよ?」

「知り合いではない。私が一方的にその名前を知っているだけだ。ロン・ウェイゼンは、魔道王国アルサスにて、二十年程前まで歴代最強の騎士と謳われていた者の名だ」


 オーネストの問いに、ガネーシャは淡々と答えた。


「……謳われていたって事は」

「ああ。ロン・ウェイゼンは二十年程前に死んだ人間の名前だ。だが、ロン・ウェイゼンには奇妙な噂があった」

「奇妙な噂……?」

「ロン・ウェイゼンは、実は生きているのではないのか。そういう噂だ。彼の象徴とも言える影魔法は、使い手が極めて限られる魔法。しかも、歴史を遡っても彼以上の使い手はいないとされている程だ。だから、闇ギルドに所属している〝影法師(怠惰)〟と呼ばれている影魔法の使い手が、ロン・ウェイゼンなのではという噂があった」

 

 息を呑む。

 フィーゼルにて、ギルドマスターのレヴィエルから〝怠惰〟とは戦うなと警告を受けていたから余計にそんな反応になってしまった。


「……だが、死んだ人間が生き返るなどあり得ない話だ。尤も、死んだ筈の人間がここに一人いる以上、説得力の欠片もない話になってしまっているがな。とはいえ、その噂はもう十年以上前からの話だ。彼に限って言えば〝賢者の石〟が絡んでいるという事はないだろう」

「……ガネーシャさんって随分と物知りなんだね」

「一応私の故郷がアルサスだからな。ロン・ウェイゼンの話は家族からよく聞かされたよ。清廉潔白で、人望の厚い騎士だった、とな。だからこそ、噂程度に留まっていた。仮に生きていたとしても、彼が闇ギルドなぞに身を寄せる人間ではないと信じる人間が未だに多いが故に」


 道理で詳しい訳だと、ヨルハの問いのお陰で理解する。


「まあ、こんな事に加担しているんだ。噂は本当だった、と仮定すべきだろうな。それで、ロン・ウェイゼンは何をしようとしている?」


 一切の容赦ない棘のあるガネーシャの言葉に、メアは悲しげな表情を浮かべる。

 しかし、先の言葉に対して否定をするのではなく、メアはその問いに対する答えを口にした。


「……わたしも、何が本当なのかは分かってません。聞いた言葉を、ただ鵜呑みにしているだけですから」


 前置きをひとつ。

 あくまで耳にした話であると言った上で、メアは言葉を続けた。


「『ワイズマン』の復活と────『()』の開放。そう、言っていました」

「正気か?」


 聞き慣れない言葉に、眉根を寄せる。

 だが唯一、ガネーシャだけは真っ先にその言葉に反応した。


 『ワイズマン』の復活についてはチェスターから聞き及んでいた。

 だから、然程の驚きはない。

 しかし、『獄』とは一体何なのだろうか。


「……まさかここで『獄』が出てくるとはな。流石の私も、都市伝説の類だと思っていたぞ」

「その『獄』ってのは何なんだ?」

「手に負えない極悪人が収容されている、と噂されている場所。それが、『獄』だ。だが、あくまでそれは噂でしかない。誰もその場所を知らないし、誰もその場所を見た事もない。だから、都市伝説の類だと思っていた。いや、思っている(、、、、、)


 メアから話を聞いて尚、信じるに値しないとガネーシャは思っているのだろう。


「一説によれば、ギルドを創設した『大陸十強』の一人が密かに管理している……と、噂もされていた筈だが、あくまで噂の域を出ないものだった筈。だが、もし仮にそれが本当の事ならば」

「本当の事ならば?」

「『獄』に収容されている者が解放される事があれば、このメイヤードは間違いなく地図から消えるぞ。それも、一日も経たずにな。……一体、何を考えてるんだ。ロン・ウェイゼン」

「……その履行が、わたしを生き返らせる為の約束って言ってたんです」

「だから枷なのか。……物事が複雑過ぎて嫌になってくるな。で、だから止めたいと。だから、助けてくれと。そういう事か」


 どういう理由が絡んでいるのかは知らない。

 その背景に何か大切な理由があるのだろう。

 自己犠牲を省みず、自己満足の為に突き進めるだけの理由があるに違いない。

 だが、自己満足で一方的に助けられた人間は、はたして本当にそれを望んでいるのか。 

 それで、本当に救われるのか。


 少なくともメアは、望んでいなかったのだろう。だから、こんなにも悲しそうな顔をしているのだろう。


「となると、時間はねえかもな。それに悪りぃが、そのロン・ウェイゼンって奴を止めるには恐らくてめえの存在が不可欠だ」


 少女を巻き込む事は気が進まないが、ロンの行動の理由にメアが深く関わっているならば、彼を止めるには彼女の存在が必要不可欠である可能性が高い。

 ガネーシャの記憶が確かならば、一国の。

 それも、歴代最強とまで謳われた騎士ならば、相当な手練れである事だろう。


 ヴァネサが何故、メアを逃したのか。

 共に行動しているのは一体誰なのか。


 不明瞭な部分が些か多過ぎる気もするが、そうも言ってられない。


「……分かってます。これはそもそも、わたし達の問題ですから」


 どこか安全な場所に逃げ、誰かに解決の全てを委ねる気はないとメアは言う。


「決まりね」


 行動方針は決まった。

 唯一、この空間の道を知っているであろうメアに案内をして貰う。そんな時だった。


「ところで、メアちゃんはどうしてボク達に頼ろうって思ったの? 疑う訳じゃないけど、ボクがそんな状況に置かれてたら誰でも彼でも信用しようとは思えないなあ……なんて思っちゃって」


 それだけ余裕がなかったから。

 と言ってしまえばそれまでだが、ヨルハは何か違う理由があると感じたのか、そんな質問を投げ掛ける。


「わたしを、助けてくれた男の人が教えてくれたんです」


 何気ない質問。

 しかし、返ってきた有り得ない返答に、俺達は全員驚く羽目になった。



「この先を逃げていけば、五人組の男女に出会う。その人達に出会ったら、助けを求めろって。きっと、力になってくれるだろうからって」

「は?」



 まるで、そうなる未来が見えていたかのような助言を受けたメアの言葉に、素っ頓狂な声が五つ、重なる事となった。

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