癒しのお店
新章スタート
時は少し遡り、スナックのママがキャバクラで働いていた頃の話。
そして俺が個人的な依頼を受けた始り。
俺はこの町で冒険者をやっているノーバン、そろそろ中年と言われ始める歳。
冒険者をやってる関係上、髪は短い、長ければ危険も伴う職業だ。
自分では一流の冒険者だと思う。
今は、ある依頼を受けて、美人のエルフと二人でダンジョンに来ている。
そして、その依頼達成の暁には、とてつもない報酬が待っている、そう報酬とは美人エルフの体だ。何が何でも依頼を達成して報酬を頂きたい。
何故そうなったのか? 更に時を少しだけ遡る。
俺は夕日が落ちる頃、行きつけのキャバクラに足を運ぶ、癒しの店だ。
「いらっしゃいませ、お席へご案内します」
黒服が先を歩き、BOX席へと案内してくれる、普通の飲食店の様なカウンター席は無いのだ。
ホステスが来るまで、おしぼりで手を拭いて、つい顔まで拭いてしまう、おやじ臭いと自分でも思う。
「いらっしゃい、ノーバン、お久しぶりね」
「あぁ久しぶり、ママ」
俺の席に着いたのは、このキャバクラのママ、こお店で俺に付くホステスはママ以外には居ない、始めは色々な子が付いたが、何故か今ではママだけに成ってしまった。
誰の事も指名しなかったのが不味かったのだろうか? よく分らない。
とは言っても、ママはこの店一番の美人だ、何も文句は無い、それどころか人気が高く忙しい筈のママが相手してくれるのだから、俺は幸せ者と言えるだろう。
そうそう、このお店はキャバクラだが、ママが居て経営者を兼ねている。
軽く挨拶を交わしたら飲み物の注文だが、俺は気分で毎回違う物を頼むから面倒かもしれない。
「今日は何が良いかしら?」
「米焼酎でホットのウーロン割を頼む、茶葉は持込みでコレを使ってくれ」
俺はそう言って茶葉をママに渡し、ママは受け取った茶葉を片手に、もう片方の手を上げ黒服に飲み物を伝える。
珍しいお酒に持ち込み料を払う者は居ても、お茶に金を払ってまで持ち込むのは俺が初めてだろう。
そして黒服が去ると、ママは俺の顔を覗き込みながら、変な事を聞いてきた。
「急に来なくなって、何処で浮気してたの?」
「いや、そんなんじゃない、少し旅に出てたんだ」
お店で言う所の浮気とは、他のお店の事を言っている。
俺の答えに、ママは少し顔を離し遠くから見つめて一言。
「そう言えば、何処となく雰囲気が変わったかしら?」
「そう見えるか?」
「ええ、ますます良い男に成ったんじゃないかしら」
「ありがとう、ママ」
どうやら信じて貰えたようで良かった、しかも「いい男」との褒め言葉付だ。
少し舞い上がるも、このお店はお触り禁止だ、気を付けなければならない。
黒服が飲み物とグラスをトレイに載せて来て、静かにテーブルへ置いて行く。
ママがグラスに焼酎入れて、熱いウーロン茶を手に持ち、眺め始める。
「ウーロン茶? じゃ無いわよね?」
「うぅぅん、みたいな物かな?」
首を傾げながら、今度は香りを嗅ぎ始める。
「色も香りも良いわね、ローズヒップティーの様な?」
「『当方美人茶』って言うらしい、ママへのお土産だよ」
「まぁ嬉しい、じゃぁ早速頂きましょうか」
「あぁ」
焼酎の当方美人茶割りは、俺も初めてだが実に美味しく飲みやすい。
そしてランプの薄明かり中でも綺麗な桃色で、花の様に良い香りがする。
何とも言えない優雅な気分に成れる。
「これで、わたしも美人に成れるかしら?」
「ママは今でも美人だよ、何時までもそのままで居てほしい」
「ありがとうノーバン」
ママと他愛無い話をしていると、席の横を耳の長いホステスが通り過ぎて行く、何となく目で追ってしまう。
いけない、いけない、隣に美人のママが座っているのに、と思ったが遅かった。
「気になるの?」
「あっあぁぁ、いや、何となく見ない顔だなぁと思っただけだよ」
「ぅふふ、何となくと言いながら、しっかり目で追っていたわよ」
俺は何も言えなくなってしまった、何を言っても下手な言い訳にしかならないだろう。
その後は話題を変えて、少し旅の話を交え楽しく過ごす。
今日は火曜日で客はそれほど多く無いが、ママは他の席に呼ばれてしまった。
いつもなら、ママは挨拶してスグに戻ってくるのだが、今日は違うらしい。
先程の耳の長い女性がヘルプで付いた。いや、そもそもママを指名している訳じゃないからヘルプと言うのも微妙だが、似た様なものだろう。
「アールヴです、宜しくお願いします」
「ノーバンだ、よろしく。何でも好きな物を頼むといい」
「それじゃぁ同じ物を頂きます」
「食べ物も何か頼んで良いよ」
「有難う御座います」
ごく普通に当たり障りの無い会話で始まり、ごく普通に接客をしてくれているが何か違和感がある。
取り合えず少し待ってみるが、遠慮してか肴を頼む気配が無いので、無難にカラ揚げにウィンナー、ナゲットやポテトフライが入ったオードブルセットを頼んだ。
耳が長いからエルフだろう事は分るが、それにしても綺麗だ、ママが絵画の中から飛び出して来た様な美しさなのにに対し、アールヴはコスモスの花の様に可憐な美しさだ。
但し線の細さもコスモス並みで、ママを夏ミカンに例えるなら、アールヴはマンゴーと言った所だろうか? 何処とは言わないが、まぁどちらも美味しそうではある。
そして二人で会話をしていると、チラチラと他のホステスの視線を感じる。
そんな視線の中でも、俺はアールヴの体、服を舐め回すように見て行き、違和感の正体に気付いた。それは肌の露出が極端に少ない事だ。
他のホステスは皆、自分に自信の有る部分を強調する様に見せている。
それは二の腕や、肩であったり、谷間であったり、そして多くのホステスが短めのスカートを履いている。
中には超ミニを履いて、座る時にハンカチで隠す者まで居る、思わず唾を飲んでしまう程だ。
だがアールヴに至っては、肌の見える部分と言ったら、首から上と手首より先だけだ。
腕を全て隠してしまうほどに袖は長く、足首さえも見えない長いドレスを着て、胸の谷間を隠す様に内着を身に着けている。
まぁそれでも見惚れてしまう美しさが有るから、客も付き指名は貰えるだろう。
少し気には成るが、気にしない振りをして会話する。




