ママと族長夫婦
族長夫婦を連れてスチイと一緒に行き付けのスナックに向かっているが、何日ぶりだろうか? いや何週間? もっとだ、数ヶ月ぶりに成るだろう。
俺はスナックのママに何て言って町を出た?『スグに戻る』みたいな事を言った様な気もしなくも無いが今更如何にも成らない、でもママには大きなお土産が有るから何とか誤魔化せるだろう。
町に戻って来るのが遅くなった事で少し不安に成ったが、族長夫婦を連れてスナックに行って、ママが驚く姿を想像すると気分も足取りも軽くなった。
急に族長夫婦が入ったら大騒ぎに成ると思い、ママに合わせる前に俺の方から簡単に説明する為、族長夫婦にはお店の前で少しだけ待ってもらって、俺とスチイが先に入って声を掛けた。
「「おはよう」ございます」
「いらっしゃい……ノーバン、久しぶりなのね」
ママは変わらず優しい笑顔で迎えてくれる、が猫耳の可愛いミミィちゃんは接客していて気付いてくれない。まぁ仕方ないかと肩を落とす。
気を取り直してママに向き合い、スチイをカウンター席の一番左に座らせ、俺は二番目の席に座って、旅の事より先にエルフの族長夫婦、お婆さんとお爺さんを連れて来た事を手短に話す。ママも少し驚きはしたが、俺とスチイがエルフの国へ行った事を知っているので、すぐに信じてくれた。
始めは何も言わずに引き合わせて、ママを驚かせようとも思ったが、スナックは客商売で他のお客の迷惑に成る様な事は避けた方が良い、しかも俺すら久し振りに会うわけで驚かせ過ぎるのも良くないと思っての配慮だ。
一度席を立って出入り口の扉を手にして、族長夫婦に声を掛けると二人は音も無く静かに店内に入って来た。
「御婆様、御爺様……」
「「アールヴ……」元気そうね」
ママも族長夫婦も、お互いに目が合うと一瞬凍り付いた様に動かなく成り、静かな声だけを交し合う。
ママは兎も角、族長夫婦は凄く会いたそうにしていたから、てっきり抱き付いて涙でも流すと思っていたので、静かな再会とは意外だった。
立ったままでは何かと問題が有るので、族長夫婦に席を勧めて座ってもらう。
族長夫婦が席に着いた事で、ママも少し落ち着いた様に客として持て成し始める。
本当は俺も久々に会えたママに旅の話をしたいが、今日ばかりは族長夫婦に譲ろうと思う。
そしてスチイと二人でジュースを飲みながら静かに話していると、俺とスチイの間にミミィちゃんが割って入り顔を出す。
肩と肩が触れ合うほど近くて、とても良い香りがする。ミミィちゃんの横顔を覗いたら、スチイの方を向いて頭を撫でている様だ、タイミングが合わない。
どうやら接客中の席のお酒が切れて取りに来た様で、ママに頼んでいる。
ワザワザ俺とスチイの間に来なくても、空いている所は有るのにと思いつつもスチイと一緒に挨拶をする。
「ミミィちゃん、久しぶり」「お姉ちゃん、おはよう」
「『ギュッ』『痛い!』」「元気そうで安心したわ、スチイちゃん」
二人でミミィちゃんに挨拶した筈なのに、俺は抓られてスチイには挨拶を……不公平だと言いたい。先ほど顔を見ようとしたら、スチイの方を見ているからと、視線を下げて胸元のメロンに魅入っていた事に気付かれたのだろうか?
でも、太腿ではなく腕を抓られていて、ママからも見えて注意が入る。
「お客様に御痛しちゃ駄目なのよね」
「どうせママのお客様だもん!」
「あらあら、困った子ねぇ」
流石に今日のママは俺の味方をしてくれる、族長夫婦を連れてきた甲斐が有った。
でも、ミミィちゃんは何か怒っている、それほど深くメロンを凝視した積もりは無かったのだが、他に何か起こらせる様な事をしただろうか?
俺が何気に首を傾げて、ミミィちゃんを見ていると……ふと目が合った。
「ミミィに内緒の旅は楽しかった?」
「……あ! ごめんミミィちゃん」
何が言いたいのかを理解して、俺が謝る頃にはミミィちゃんはカウンターを後にしていた。確かにミミィちゃんに何も言わず町を出てしまったが、ママに聞いていると思って特に気にしていなかった。次からは気を付けよう。
そして後でミミィちゃんに何かプレゼントしようと思う。ご機嫌取りではなく、急に顔を出さなくなって心配を掛けたお詫びとして。
まぁ建前は何であれ、ミミィちゃんに嫌われたくないと言う気持ちが大きい。
今日のママは族長夫婦に取られてしまったし、ミミィちゃんは怒っている、そしてスチイが眠そうにして居るから早めに帰ろう。
一度スチイを送り返してから、閉店時間頃に族長夫婦を迎えに来ようと思って話してみると、ママの所に泊まると言うので俺とスチイは帰る事にする。
族長夫婦の分も含めて多めにお金を払い、お店を後にした。
お店を出るとスチイと繋いだ手は力無くして垂れ下がる、大分眠いのだろう。
「スチイ、眠いか?」
「……うん、少し」
目を擦りながら頑張って『少し』と返事をしているが、とても少しとは思えない。
「スチイ、おんぶしてあげるから、一緒に帰ろう」
「ありが……とう……」
スチイの前で屈み込み、背中に乗せると一度スチイの両手を俺の胸元で交差させてから、柔らかくも弾力の有る太腿に手を掛けて静かに立ち上がる。
背中には押し潰される様に小さなサクランボの柔らかな感触と、全体的に暖かい体温が伝わり背中が暖かい、耳元では静かな息遣いが聞こえ少しくすぐったくも気持ち良く、ついニヤケてしまう。
より一層背中の感触が楽しめる様に、少し前屈みに成って歩きだす。
出掛けにはスカートを履いて欲しいと思ったが、今、背中に伝わる幸せを感じると、今日はズボンを履いてくれていて良かったと思う。
スチイと少しでも長く一緒に居たいと思う気持ちも有るが、寝ているスチイを起こさない様に落とさない様にと、少しづつゆっくりと足取りで宿屋まで戻った。
受付では静かに挨拶して、姫様の部屋へと向かって扉の前で軽く叩く。
姫様だけで良いのに若様まで顔を出すので、若様には寝ているスチイを預けて、入り口には俺と姫様の二人だけに成る。
「明日は町を案内したいので、朝食後にお迎えに上がります」
「……」
姫様にだけ聞こえる様に小声で話し、誰をとは言わずに綺麗な青の瞳を見つめる。
俺の意図を理解してか、声の出ない姫様は無言で頷きで返してくれた。
お休みの挨拶に姫様は目を細めた笑顔で手を振り、そっとドアが閉まる。
スチイは此の町に住んで居た、まぁ孤児院から外に出る事は少なかったと思うが居た事には変わり無いし、今日も俺が連れて歩いた。
そして若様は男だから、一人で町を歩いても何の危険も無い。
この町の案内が必要なのは姫様だけだ、俺の気持ちは伝わっている筈、明日を楽しみに帰宅の途についた。
翌日の朝食後、姫様の部屋に迎えに上がると……、親子三人で出て来た、いや予想していた事だが当たって欲しくは無かった。姫様と二人きりには成れ無いのかぁ、残念。
宿屋を出て町の大通りに出ると、スチイは御両親を見ているが、姫様に背中を押されて俺の隣に来て手を繋ぎ、笑顔で振り返って姫様に何か言っている。
まぁ大通りとは言え人も多いから、親子三人で横並びは邪魔に成る、二人づつで丁度良いと考えてくれたのだろう……が若様に睨まれている。
「若様、スチイと歩きたいなら代わって差し上げますよ」
「…………案内を頼む」
俺は気を使って声を掛けた積もりだが、姫様とスチイは頬を膨らませ、若様は姫様とスチイとを交互に見ながら明言を避けて返してくる。
スチイは良く分らないが、姫様が頬を赤く染めて照れてくれる事を期待していた俺は、頬を膨らませる姫様の気持ちも分らなくなってしまった、俺に気が無いのだろうか? 若様の返事次第では俺と姫様で手を繋いで歩けたのに。
町の中を歩き始めるとスグに視線に気付く、俺達は見られている。
今日はスチイが帽子を被っていないからだろうか? いや、視線はもう少し高い位置を差している。そして若干後ろだ、振り返って見る。
成る程、姫様の美しさに視線が集まっている様で、少しは若様の容姿にも寄る所も有るのかも知れないと言った感じだ。
後ろに、体型も整い背が高く、二人揃って美男美女と来たら見ない方がおかしい。
スチイは兎も角、後ろの二人は次期族長と言う立場から、人の視線には慣れているだろう、スチイに集まる筈の視線を代わりに集めてくれる、矢避けの様な者だ。
今日のスチイは帽子も視線も気にする事が無く、楽しそうに笑顔で歩いてる。
そして始めに案内するは散髪屋だ、俺もスチイも此の町を出てから数ヶ月間一度も髪を切って無い、二人とも前髪が目に掛かるほど伸びてしまった。
風に揺れた髪が目に入り、目が悪く成ったり病気に成る? それも有るがダンジョンに入る者にとっては命に関わる、もし髪の毛が目に入り痛みで閉じた瞬間に攻撃を受けたならと思うと……想像すらしたくない。
俺の散髪はスグに終わるが、スチイの散髪には時間が掛かった、しかもスチイの髪が気に入ったらしい店長に、また連れて来る様に約束までさせられてしまう。
まぁスチイも髪を褒められてニコニコしていたので、また誘ってみようと思う。
姫様と若様を待たせてしまったが、二人はスチイの笑顔を見ているだけで幸せそうにしているから少し位は平気だろう。
スチイの髪は縛れる程の長さは無いが、切り揃えられて少女らしく更に可愛くなった。いっその事、服も可愛い服を着せて町の中を歩こう。
そして向かった先は高級服店だ、ただ大人数で入ってしまっては邪魔に成るだけだと思い、スチイの事は姫様と店長に任せて、俺は若様を連れて二時間ほど町の中を案内してから戻った。
戻った俺が目にしたのは、すっかり少女らしくなったスチイで、何時も男の子の服や旅用のズボンを履いて、帽子を深く被り髪と目を隠していた子とは思えない。
俺が見惚れている間に、若様は姫様の肩に手を回して、もう片方の手でスチイを抱き寄せて『かわいい、可愛い』と繰り返してる。
先を越されてしまった俺は、スチイを抱き締める事は叶わず、声を掛ける。
「とっても可愛いよ、スチイ」
「ありがとう、ノーバン様」
薄く柔らかい緑系の色をしたワンピースドレスで、刺繍をを施されてフリルも付いているが華美ではなく、色と合まって少し落ち着いてスチイの可愛さを引き立てつつ、胸元のネックレスも浮かび上がらせる。
胸元の果物も何時もより、ふっくらして見えて頭の代わりに撫でてみたいと思うほどだ。
スチイは本当に可愛い可愛いぃ。




