奴隷商からの依頼
第二章の始まりです。
奴隷の話で暴力的な表現あり、十五才未満の方は見ないで下さい。
また、エンディングもハッピーエンドとは言い難い終り方です。
苦手な方は避けてください。
設定、世界観
地球と良く似た異世界だが科学水準は低く、いまだ電気の無い時代。
但し、神の創りしダンジョンが存在し、魔法も存在する世界。
そして植物や動物に食べ物等は地球とほぼ同じだが人種だけは人間以外にもエルフやドワーフに人魚族が存在する。
「「いらっしゃい、ノーバン」」
「おはようママ、ミミィちゃん、皆もおはよう」
「「「いらっしゃいませ」」」
行き付けのスナックに顔を出すと皆が迎えてくれる。
主に店のママとミミィちゃんが。
ミミィちゃんは茶色の髪でベリーショートに目はパッチリで緑色だ。
他にも女の子が働いているが名前を覚えてない。
「カウンター内良いかな?」
「いいわよ」
一声掛けてカウンターの中へ入り魔石の入った箱一番奥へ、魔石の種類と数を書いた紙をママに渡す。
魔石とは言っても中身はお酒だ、凝縮で水や炭酸水に溶かすダンジョン産だ
洗われた調理器具の配置が気になったがそのままにし、以前、ママにお願いされた出入り口のドアの蝶番を交換した。三個ある内の一つだけだ。
一番上だが、百七十五を越える俺の身長と冒険者として鍛えてるし、中年と思えないほど細い筋肉質の体を持ってすれば楽勝だ
すぐに終わった。
「いつも有難うねノーバン」
「俺の方こそ世話になってる」
「これ税金分のお金ね。残りはいつもの様にサービスって事で良いわね」
「それでたのむ」
俺はダンジョンで酒屋では手に入り難い酒類の魔石を集め、スナックへ納品している。
但し、ダンジョンから外へ出る時に税金は取られる。特に酒やタバコの税金は高い。
払った税金分は貰い、他の酒代は店で俺の分の酒とサービスを受けることでチャラだ。但し、俺がお店の女の子に奢る分は俺の払いだ。
俺に依頼に来る客もスナックに来るから、場所を借りたりお互い助かってる。
お店で酒と会話を楽しんでいたら、俺に誰かが尋ねてきた。
「突然の訪問失礼致します。私は奴隷商で御座いますが、貴方がノーバン様で御座いましょうか?」
「そうだが?」
なんだ? 俺の噂を聞いて女の奴隷でも買えというのか?
奴隷商を名乗る男は、四十代位で背は百六十位だろうか、鼻の下に髭を生やしていて小太りだ。
「ノーバン様に依頼しに参りました」
うん? 売りに来たわけでは無いのか?
一言毎にお辞儀をしてくる。元々なのか余程聞いて欲しい依頼が有るのか?
「まあ、とりあえず座れ」
「有難うございます」
座れと言っただけで礼を言われる事はしてないのだか流石、商人と言った所か。
「お飲み物は何になさいますか?」
「ノーバン様と同じ物をお願いします」
こいつは根っからの商人だな。同じもので共感を誘おうとか俺には逆効果だ馬鹿め。
「はい、チェリーリキュールのソーダ割りです」
くそ、一番高い酒を飲んでれば良かった。何かの記念じゃなきゃ有り得ないけどな。
「落ち着いたら依頼内容を聞かせてくれ」
「はい、奴隷を一人買って頂きたいのです」
「はぁ?! なに?」
やべ急に耳が遠くなった。
「買って頂くと言いましても依頼ですから報酬を払います」
「あ、あぁ」
俺の反応に奴隷商は慌てた様に話を切り返してきた。
これで報酬の金額より奴隷の代金が高かったら、店から叩き出してやる。
「奴隷は只で構いません。依頼の報酬はその奴隷からノーバン様が頂くと言う事でいかがでしょうか?」
「……只より高い物は無いからな!その奴隷に何か有るのだな?」
分かり難い言い回ししやがって、只でやるから好きにしろとでも言えよ。
「その奴隷は少女では有りますが、酷い火傷のせいで、何処も受け入れられなかった者に御座います」
「それで?」
それだけじゃないだろうな? 只だし。
「火傷の患部が膿んでしまい状態も良くなく、最近では気力まで萎えている状態です」
「状態を見てみなければ何とも言えないな」
ここに本人を連れて来れないほどなのだろうか? 二度手間だな。
一応、商売人だ。目線は外さないが言い難そうではある。
「状態は火傷で右頬から胸元まで爛れて首も回せず、右手にも同じような火傷があり手も皮が突っ張り、親指から薬指までが少ししか握れない状態にあり、各部で膿も出ております」
「相当に酷いな、どれくら持ちそうだ?」
まさか死ぬ程では無いだろうが奴隷の環境が分らんし、食事も与えてるか分らんからな。
「医者では無いので分りませんが、衰弱もしはじめて今のままでは長く持ち堪える事は難しいでしょう」
そうとうなもんだな。奴隷だから医者もかかれない訳か、気力も無く衰弱もとなると厳しいとしか言えないな。
「死に掛けの人間の行く所なんて決まってる。俺の所じゃない。病院か教会か……墓の中だ。気力が無いなら救えない」
「病院は訪ね断られました。教会は祈るだけだそうです」
病院も教会もとは、奴隷じゃないのか?
病院に連れて治療費を、奴隷の売却で儲けが出せるのか?
「なら、楽に死なせてやれ。殺せないならダンジョンへでも放り込むといい。きっと神が喜ぶ。」
「神様で御座いましょうか?」
「ダンジョンとは神の創りし場所だ。言わば神の住まう場所、神へ一番近い場所、神の遊び場、ヴァルハラ、そんな場所だ。神に召されるには丁度良い。それで神の興味を引ければ来世では幸せになれる」
生まれ変われるかどうか分らんが、来世で幸せに成れると思えば少しは気も休まるだろう。
泥人形
パンドラの箱
奴隷商は握り拳を作り、意を決した様に力強く話てくる。
「貴方の噂を聞き、もしやパンドーラーの箱ではないかと、縋る思いでここに来ました。どうかお力添えをお願いします。」
何だ? 何の話をしてるんだ? 災いの箱とはいかに?
「美しい少女を与えれば開くと?、だが気力の萎えた泥人形等に興味は無い」
「火傷を負ってしまいましたが、美の女神より贈り物を授かった少女です」
ただ神話を出しただけじゃないのか? いやいや興味を持たせる為の戯言だな。
奴隷商の顔は真剣その者なのだが興味はない。
「あれは少女が開けてはならない箱を開けて、いや開けさせてだったか、世界に災いを撒いた話だったな。なら俺は男だから夫か? 箱の方か?」
「どちらとも言えましょう。貴方が力を解放するには少女が必要です。その少女は私の奴隷です。貴方にその者を捧げます。どうか心を開き希望をお与え下さい。」
パンドーラーの箱は古い話で解釈が幾つか有った筈だが、奴隷商がどう解釈しているかでも変わってくるな。
人により解釈の違いが有る。だから箱とも夫とも断言してないとも言えるか?
でも、捧げるとは言いながら俺に与えると言いたい訳か、神にでも成ったつもりか?
「くふふ、なかなかに学もあり面白いことを言うな」
「お褒めに預かり光栄です」
言葉としては褒めたが、ふざけるなという意思を込めた嫌味だ。分かってて流してるかな?
「箱を開けなければ、少女が死に至ると言いたい訳だな?」
「はい、その通りに御座います」
「だが、それは嘘だな。箱を開けようが開けまいが変わるまい」
「箱の中には希望が入っております」
希望だけを取り出せる秘策が有るなら聞かせて欲しいものだ。
そもそも、箱の中を見ても居ないのに何を言いやがる?
「だが箱はむやみに開ける物ではない。この世の災いが詰まっているだけだ。俺一代の箱で前の持主なんて居ない。ゆえに希望など入ってはいない」
どうだ会心の一撃、これで倒れてくれ頼む。
「中にはきっと素晴らしい物が入っている筈です」
もう、箱の話は面倒だな。
「神に使わされし、初めての女でなければならないはずだが?」
「はい、神により生を受けし無垢の少女です。火傷は有ります故に人間に火を与えた罰の為に贈りましょう」
成る程、少女は無垢と、人間に火を与えた罰の為、送り込まれる少女か、意味が違う気がするが言葉としては、だいたい合っているな。だが俺に兄なんて居ないんだな残念。
「箱を開けるには他にも必要なものがある」
「何でございましょうか?」
「頑張りと覚悟と報酬と言う三つの鍵が必要だ」
俺が依頼を受ける上で必ず確認していることだ。
「随分と厳重な錠前のようで?」
「なにせ災いの入った箱だからな。当然だ」
当たり前の事を聞くなと言いたい。パンドーラーの箱をポンポン開けてたら災で世界が破滅するだろう。
「頑張りはこうして私が担っております。報酬は少女です。覚悟は報酬をもって覚悟として下さい」
「無理だ。他を当たれ」
しつこいな。こいつは台所の油汚れかよと思うほどだ。
「火傷で御座いましょうか?」
「生きる気力も無い少女に覚悟が出来るとは思えん。出来るのは諦める事くらいだろうな」
「私が覚悟をさせます」
何、訳の分らん事を言っているんだ?
「それは諦めさせるを貴方が覚悟と摩り替えているだけだ」
「出来る限りの事は致します。お願いします」
こいつ話を逸らしやがった、覚悟は如何したと言いたい。
「無理だ」
「ノーバン、ママのお願いなら聞いてくれるわよね?」
え! 何故ママが? ちょっとまった。ママは俺の味方じゃ?
「神は残酷で人を好いてはいない。頑張りも覚悟も無い少女を救っても神に笑われるだけだ」
「ノーバン、お願い聞いてくれないの?」
ママが力強く見つめてくる。
こんな訳の分からない、本人も連れて来ない依頼など受けるはず無いだろう。
「ママ!自分と重ねて絆されないでくれ。ママとは違う質の少女だ。救う意味が無い」
「ノーバン、もう少しだけ話を聞いてみない?」
もう散々聞いただろう。十分だよ。でもママを怒らせたくないから聞くしかないけど。
「…………分かった。話だけだ」
「有難うございます」
「ママこそパンドーラーその人ですね。美しき神の祝福を受けた豊穣の女神にして箱を開けさせる女性」
更にママを引き込もうとお世辞言いやがって、神の祝福?魔力光か何か見えているのか?
豊穣の女神と聞いてママの胸元へ視線を向けて見ると、マンゴーを二つ抱えていた。豊穣と言うには心許無いが、とても美味しそうに実ってる。
長生きのエルフであるママが持つマンゴーだ。まだ成長の余地は有りそうだ。
そもそも俺は甘くて美味しいマンゴーは大好きだ。
泥人形
絆された二人
ママの提案で、もう少しだけ話を聞くことにした。
「一つ聞く。何故その奴隷に肩入れし、頑張って金にも成らない事をしている? 貴方は商人で奴隷は商品だろう? 道から外れてる」
「その少女は同郷の者に御座います」
それだけじゃないだろう。話だけして、さっさと帰れ。
「同郷は分った。それだけじゃないだろう?」
「少女には深い縁は有りませんが、その少女の両親に心を打たれました」
心打たれたとか言って期待外れだったら怒るぞ。
「ほう?」
「少女が火傷した後、両親は方々を駆け回り、医者に来てもらい話も聞き、色々な薬を探し、借金を背負いながら民間療法を色々ためし、毎日一生懸命に看病したそうです」
「それだけか?親が子の為に一生懸命になるのは当たり前の話だ」
「ノーバン!」
え! ママが怒ってる。俺は間違った事言ってないだろう?
「火傷のせいで醜く爛れ、村では奇異の目に晒され、村で誰かが病にでも罹れば殺されかねない様相で必死に守って居たそうです」
「親が子を守るのも当たり前の話だよな?」
何となく予想はしていたが当たり前の話ばかりだ。まぁ当たり前が出来るかは別だが。
「村には置いておけないと覚悟を決め、私に託す時は娘の未来を案じ、奴隷ではなく、顔も手も隠せるような貴族や商人の下働きをと希望しておりました」
いや、奴隷商に託してそれは、ただの贅沢だ。
「それで?」
「村を出る時には両親は借金の為、包帯も買えず自分達の今着ている服以外の服や布を全て包帯にして私に託し、こまめに包帯を替えてくれる様、土下座して何度も何度も地に頭を擦り付けておりました。」
まぁ少しは感動できるな。ただ気になるのは着ている服以外全てとはそう両親が言ったのを鵜呑みにしたのか、それとも家捜しでもしたのかで違ってくる。
「それで?」
「これが心を打たれずに居られましょうか?」
いやいや共感を訴えられても困る。話だけだと言った筈だ。
話し終わったなら、さあ帰れ今すぐ帰れ。
「終わりか?」
「どうか今一度お願いします」
「約束通り話は聞いてやった。終わりだ。帰れ」
はぁなんとか終わった。
「……」
「ノーバン何とかしてあげて」
え! 話を聞くだけじゃ? ママは何を言い出してるんだ? 絆されてるな。
ママが神にでも祈るような仕草で俺を見つめている
「二人とも神の事を知らないんだ」
「ならノーバンは知っていると言いたいのかしらね?」
先ほどの祈るような仕草と違い、突っ込み方も口調も厳しいな棘がある。が負けたくない。
「あぁ知ってる」
「神様とはどの様なお方で御座いましょうか?」
「神は女だ」
なにやってるんだ返し方を間違えた、女だけとは決まってないはずだ。
「そうよねぇ。ノーバンの神様は女性よね。なら神を救って差し上げないとだわね」
「……」
「どうかノーバン様の神をお救い下さいませ」
うわ!ママに言い負かされた。少し上機嫌に勝ちを確信した様に、ニヤつきながら返して来た。そもそもママが出て来た辺りから負ける気はしていたが。
「二人がそこまで言うなら受けよう」
「有難う御座います」
「ありがとうノーバン」
ママの機嫌が急に良くなるし、人は怖いとつくづく思う。
「だが結果には期待するな。本人の気持ちしだいだからな」
「はい、そのように少女にも言い聞かせます」
一番の不安要素は本人に直接会っていない事だが、ママにあそこまで言われては受けるしかない。受けた以上は最善を尽くすが気が重い。はぁ……↓
「ノーバンお疲れ様」
「明日の午前中のご予定は如何で御座いましょうか?」
「それで大丈夫だ」
「それでは明日の午前中お待ちしております」
「ああ、場所だけ教えてくれ」
町で奴隷商と聞けば場所は分かるだろうが一応聞いておいた。
奴隷商は紙に地図を書き渡してきた。
早く帰れ!と心の中で毒づく。
「失礼いたしました」
「また明日」
「おきをつけてお帰りください」
「ノーバンお話は終わった?」
「ああ」
「じゃぁ隣いい?」
「いや今日は帰る」
「えぇ~もう帰っちゃうの?」
「ミミィちゃんまた来るから」
「うん待ってる」
「ありがとうミミィちゃん」
文字数が少なかったので数話分纏め投稿です。
途中に章と部の題名が入りますが気にしないで下さい。
パンドラの話参考文献……http://hukumusume.com/douwa/pc/world/03/17.htm……