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貿易再開

ここまで読んで頂き有難うです。

 午前中をスチイと楽しい時間を過ごしたが、午後からスチイはお母さんとお出かけだ、残された俺は魔王とヤギを連れて散歩に出かけた。

 スチイが居ないと魔王も幾分(いくぶん)元気が無い、そして俺も同じだ。

 お城を出て海とは反対に歩き、今は林の中で道草を食べている……ヤギが。

 ここまで来れば人も少ない、魔王のハミも外しヤギの速さに合わせてゆっくりと歩く。


 魔王は木に咲く花に鼻をヒクつかせてみたり、道草を食べたり走ったりと、少しは楽しんでいる様に見える。

 そしてヤギは相変わらず食べてばかりで、ゆっくりゆっくりしか進めない。

 ようやく湖に辿(たど)り着いて、ヤギは自由に動ける様に長い紐で木に繋ぎ(つなぎ)、魔王には自由にして良いと言いながら馬体を叩いた。


 この湖は人工的に造り、川から水を引き込んだと聞いているが水は綺麗だ。

 魚も居るようで水面が跳ねたりもしてる、魔王やヤギに飲ませても平気だろう。

 たまにはヤギも洗ってあげようと思ったが、嫌がるので濡れタオルを俺の体温で暖めてから、全身を軽く拭くに留めた。

 馬は洗ってあげると喜ぶが、ヤギは違うのだろうか?


 その後はヤギを見守りつつ、木陰で休み静かな時間が流れる。

 十分に休み魔王も戻って来たのでお城に戻る、まだ日が明るかったので魔王の足元を綺麗にしてから厩舎へ返した。


 夕食の時間にエルフの族長と少し話をした。明日も休みだが明後日は早朝から病院へ行くとの事だ、完治した患者と、これから治療を受ける患者を集めて、奇病と治療方法の確立を説明するらしい。

 そして医師との引継ぎが終わっている様だから、明々後日(しあさって)には町を出ると言うので、気に成った事を聞いてみる。


「スチイも連れて行くんですか?」

「あら、どうしてかしらね?」

 聞いてるのは俺の方なんだが、まあ良い、思うまま素直に答えてみる。


「どうしても何も、気に成ったから聞いただけですよ」

「スチイちゃんには御両親が付いているから心配は要らないのね?」

 確かに言われてみればそうだ、俺が心配する事も気にする必要も無いのかも知れない、では俺は何が気に成ったのかを考える。


「俺はスチイが幸せに成れるまで見届ける責任が有ります」

「そんなにスチイちゃんと離れたくないのね?」

 スチイを孤児院から連れ出して、町も出てココまで連れて来た責任が有る、御両親に会えたとて過去の話の様に、また引き裂かれないとも限らないから心配だ。


「俺はスチイが独り立ち出来るようにすると契約した責任がありますから」

「スチイちゃんの事が大好きなのね、ノーバンは」

 全然話が噛み合ってないが、ズバリ俺の本音を言い当てられてる気がする。

 だがスチイはまだ子供だ、大きく成ったら会う約束をして今は別れても良い筈だ……、が一時も離れたくないと思う気持ちも有る。


 またスチイとお風呂に入って、体の隅々(すみずみ)まで洗って一緒の湯船に浸かり髪も洗ってあげて、ゆっくりと湯の中で話もしたい。

 たまにお風呂の中でバシャバシャと暴れて俺の大切な部分を蹴られるが、其れも又気持ち良い。体が覚えてる。

 夜だって一緒の布団で眠りたい、夜中に寝返りを打って起こされる事も有るが、それが又可愛くて(たま)らない。

 孤児院の時の様にスチイを連れて逃げてしまおうか?でも今度はスチイの承諾も無しに無理矢理に連れ出す事に成るだろう、俺に出来るだろうか?

 嫌がるスチイを無理矢理に御両親から引き離すなんて事、出来ないだろうな。

 なら、スチイと一緒に居る方法は一つしかない。


「スチイがココに残るのなら俺もココに残ります」

「あらあら、ノーバンったら困ったわね」

 何だか族長に子供扱いされている様な気分だが、人間の年齢で考えたら曾孫(ひまご)玄孫(やしゃご)でも利かない位に離れているんだろうな。

 そう思うと子ども扱いされても、腹立つ事も無く素直に受け止められた。

 そうだ、今の俺は我侭を(わがまま)言う子供の様な者だな、だが素直な気持ちでも有る。


 族長は「困った」と言いつつも一つ頷い(うなず)てその場を去った。

 族長の頷きが何を意味するのかは分らなかったが、悪い事には成らないだろう。

 夕食を終えた俺も部屋へと戻ってゆっくりと寝た。


 翌朝は何時も通りに三人でヤギのミルクを絞り、一度戻って朝食の後はスチイと一緒に魔王の世話を始めた。

 魔王の馬体を洗っている時にスチイが魔王に話し掛ける。


「まおうは、洗われるのが好きなの?」「ヒンッ」

 どうやら魔王はスチイに洗って貰える事が嬉しいらしく、俺の方ではなくスチイの方を向いて頷いている。いや聞いたのがスチイだから当たり前か。

 俺的にはヤギも洗ってあげたいが、嫌がるから軽く拭くだけに留めている。


 スチイは魔王の嬉しそうな返事を聞いて、更に一生懸命に洗っている。

 そんなスチイに今度は俺が話し掛ける。


「お馬さんは綺麗にしてあげないと病気に成っちゃうんだよ」

「そうなの?」「ヒンッ」

 そこで何故、魔王に聞く?魔王も知ってか知らずしてか返事をするし。


「特に足元を綺麗にしてあげて異常が無いかを常に確認が必要なんだ」

「足元も綺麗にしてあげるね、まおう」「ヒヒンッ」

 スチイに足まで洗ってもらえて、魔王が羨ま(うらや)しい。

 その間に俺は魔王に一本づつ足を上げさせて、足の裏も綺麗にしてゆく。

 硬いブラシで洗って、必要ならピンセット等も使って一足づつ丁寧に。

 だがスチイに足の裏の手入れは、まだ任せられないから俺が四足とも見る。


「洗い終わったら水で綺麗に流して、良く拭き取って暖かい所で乾かすんだよ」

「日光浴だね」「ヒンッ」

 まぁスチイが日光浴をしている間に、魔王の馬体も乾くから丁度良いのか。

 でも、もう少し教えておいた方がスチイにも魔王にも良いだろう。


「綺麗にして乾かさないと、冬場の人の手の様に荒れてしまうんだよ」

「赤くなって痛く成っちゃうの?」「ヒンッヒンッ」

「そうだね『ケイクン』って言って怖い病気に成っちゃうんだよ」

「そうなんだ、いつも綺麗にしないとね」「ヒヒンッ」

 良し良し、スチイは素直で良い子だ、これで毎日スチイと一緒に楽しめる。

 魔王の手入れはスチイと楽しむ為の口実でしかない、本当はスチイに洗わせなくとも厩舎には係りの者が居るから病気に成る事は無いと思う、むしろ俺やスチイよりも綺麗に洗える筈だ。つい(ほほ)が緩んでしまう。


 今も俺達が魔王を連れ出している間に、寝床の(フン)の清掃や(ワラ)の敷き替えをしてくれている、本当にありがたい事だ。


 そして今日はスチイに魔王の足元を洗ってもらった後、肩車をして「目と耳は注意するんだよ」と言って魔王の顔も洗って貰った。

 水で流す時も肩車をしたまま、耳の中に水が入らない様に時間を掛けて、手で優しく洗い流させた。その時間が俺を楽しませてくれる。

 スチイは魔王に一生懸命で、肩車をしたままに右へ左へ前へ後へと、グリグリお腹を俺の頭に押し付けて、太腿(ふともも)御股(おまた)を俺の首に擦り付けて来る。

 時には太腿で俺の首を絞めて来て、苦しくも気持ち良い時間を過ごす。


 俺も十分楽しみ魔王の馬体も洗い終わったので、何時もの様に日向ぼっこだ。

 魔王に守られる様にして、俺とスチイは並んで寝転がるが、スチイの微かに下着の透けた服に、俺は横目に見入ってしまう。

 少女とは思えない程に欲情的で美しい、そして寝顔がとても可愛い。

 俺は目を閉じる事も無く、数十分か何時間か分らないが、スチイの事をずっと見続けていた。こんな日々が何時までも続く様にと思いながら。


 スチイの服も魔王の馬体も乾き、俺はスチイと午後からのデートの約束をしてから、魔王を厩舎に帰してお城の中へと戻った。



 その日の午後は、この上ない程に楽しく幸せな時間を過ごした。



 そして翌日は朝早くから病院へと向かう。

 馬車にはスチイ達親子と女王様の四人が乗り、エルフの族長は馬に乗っている。

 若様を連れて来たのには何か意味が有るのだろう、族長は奇病と治療の説明と言っていたが、それだけじゃない様な気がしてきた。


 俺達が病院に着いた時には、病院の前に仮設の演説台の様な物が設置され、その周りには多くの人が集まって居る。

 付き人の手を借りてエルフの族長が馬から下りて、もう一人のエルフのおば……お姉さんが馬を引いて行く。

 狩人は族長を守る様に警戒しながら先を歩いて演説台へと向かい、俺は黒い布を(かぶ)り族長の後に続き背後を警戒しながら歩く。まさかとは思うが人が多いので念の為だ。

 馬車からは女王様が騎士に守られながら降りて、やはり演説台へと歩いて来た。

 そして二人の族長が皆に自己紹介をする。誰も疑う様な者が居ない所を見ると顔を知っているのか、髪と目の色で族長と分るのであろうと思う。


 そして奇病の説明を始め、アニサキスの事、その宿主で有る海老や魚の事を話した所で民衆から声が上がる『何を食べて生きたら良いのだ?』と、その問いに人魚族の族長である女王様は『竜人族との貿易を再び始める』と言った。

 付け足す様に海老や魚は、火を通しても違う奇病の可能性も有る事も話した。

 だが民衆は思う所が有る様で、多くの者が受け入れ難いような反応を示す。


 俺はエルフの族長にスチイを連れて来る様に言われ、馬車へと向い黒い布を被ったスチイをエスコートして、演説台に上がった。

 それを見てか女王様が奇病の治療法の確立を説明し、その貢献者としてスチイが紹介されて、黒い布を取り払われ正体を明かされる。

 今日のスチイは金色の髪に赤い目をしている、そう髪を白く染めてないのだ。

 民衆の息を呑む様な音が聞こえた気がした、その後にざわめきが広がる。

 スチイが居なければ治療法の確立は無かった事、そもそも竜人族と仲違いをしなければ奇病の発生は無かった事も話した。


 そして俺はエルフの族長の指示で、もう一度馬車へと向かい、若様と姫様を連れてスチイの後ろまで案内した。

 女王様の美しい声で若様と姫様が紹介され、若様が竜人族の次期族長である事も、姫様の旦那でありスチイの父親だと言う事も説明された。

 紹介を受けた若様は、次期族長の名を持って人魚族との貿易の再開を希望する事を話した。


 民衆の中にサクラが居たのかは分らないが、治療を受けて奇病が治ったと、人魚族と竜人族の次期族長同士の子供のお蔭で治ったと、ちらほら声が聞こえ徐々にその声は大きくなる。

 病院の前には、治療を受けて経過観察に訪れ(おとず)た者と、治療を受けたい者を集めるとか何とか言っていた気がする。

 助けられた者と、すがりたい者の集まりと言っても良い、演説が終わってみれば納得させるのは簡単だった。

 この日の為に、病院にスチイを連れて来ていたのだと今更に気付かされた。


 俺達がお城に戻る頃には、集まった人々の数は始めに比べ数倍にも膨れ上がり、始めから聞いていた者が後から来た者に話す声が、彼方此方(あちこち)から聞こえ今日の話が町中に広がるのを実感した。

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