御両親と報酬
スチイと一緒に治療室に入ったが、今日は黒い布を羽織り見ているだけで済んだ。
この病院の医師が、他の町から来た医師に教えながら治療をして、その後ろに俺とスチイが立って確認をしていた。
その日の治療も終わり、お城に帰る時、スチイは馬車には乗らずに俺と手を繋ぎ歩き始める。
俺は何度もスチイを見た、そうスチイの胸元を何度も、また可愛い下着が見えないかと期待したが、見えそうで見えない。やはり止まって寄り掛かる位に近付かないと見えない、いっそ抱き寄せて見るのも有りか?
でも俺の手をスチイは強く握っていて離してくれそうに無い、今日は諦めよう。
スチイの下着を覗く事を諦め、視線を町の中に戻し歩いていると、ある事に気付いた。今日は、やけにスチイに視線が集まっている。
魔王も連れていないし帽子も被せてある、服装も可愛くは有るが華美には成らず、町中を歩いても可笑しくない姿だ。
では馬車の後を歩いているからだろうか? いや後ろと言っても距離を開けているし、今まで馬車の後を歩いていても、ここまでの視線を受けたことは無かった。
午前中に魔王が視線を集めただけでも、スチイは萎縮してしまった、心配に成りスチイを見てみると小さな胸を張り歩いてる、そして何度も胸元に視線を落としては周りの目に微笑み返している。
よく分らんが大丈夫な様だ、が何かがおかしい、そうだスチイの行動も周りの視線もだ、視線の先がスチイの胸元に向かってる気がする。
スチイの慎ましい胸は確かに魅力的だが、同姓の気を引くほどでは無いと思う。
他に考えられるとすれば、スチイの胸元に輝く真珠のネックレスだが、やはり何か特別な意味でも有るのだろうか?
今日の出発前に聞かれた時、ネックレスの意味をスチイは知っている様だったが聞いてみるか?いや贈った相手に聞くのも何か間違ってる気がする、下手したら嫌われる可能性すらある。
かといって本当にエルフの族長に聞くのも怖い、どの様に弄られ遊ばれるか全然読めない、人をからかうのが好きな族長が素直に教えるとは思えない。逆の意味で信用出来ると言わざるを得ない。
そんな事を考えながら、町行く女性の視線やスチイの胸元を見ていたら、スチイと目が合ってニコニコと微笑まれてしまい、俺は難しい事を考えながらも微笑み返した。
スチイの笑顔を見たせいか、女性の美しさも良いが少女の可愛さも良いと思い、町を歩く少女に目が行き可愛い胸元を見て思った、ネックレスを掛けている少女は多いが、チェーンだけで真珠や宝石等が付いていない。
そしてスチイのネックレスを見て母親に? ねだっている少女も居たが……、あれ? 母親と思われる女性の手に指輪が無い、未婚で子供を授かったのだろうか?
ふと気に成り子供連れの女性を探しては見ているが、左手の薬指に指輪を嵌めてる女性は少ないが、指輪を嵌めてない女性は真珠のネックレスをしている。逆に真珠の指輪を嵌めてる女性は真珠のネックレスを掛けていない。
たまたまだろう、何か思う所は有るが、何も見なかったし、気付かなかった。
少女がチェーンだけのネックレスなのも、いくら海が近いとは言え、真珠は子供のお小遣いで買えるような物じゃない、ただそれだけだ。多分。
俺は何も見てないし気付いてない。そう人魚の国では結婚指輪の代わりに真珠のネックレスを贈るなんて事は思いも寄らないし考えもしない。ゆえに俺は何も知らない。そう思うことにした。
「スチイ、確か俺からなら欲しいと言ってたか?」
「真珠のネックレスの事?」
俺は歩きながらスチイの胸元を見て聞いてみた、そしてスチイは俺の視線に気付いて自分の胸元の真珠を見てから聞き返してきた。
「『スチイのお母さんもネックレスをプレゼントされた』って言ってた時かな」
「スチイはノーバン様からだから受け取ったんだよ……、エヘヘ」
下手な事を言うと、真珠のネックレスの意味まで聞かされそうで怖かったから、少し濁しながら遠まわしに答えながら聞いた。
スチイは俺に真剣な眼差しを向けながら答えた後に、照れた様に耳まで赤くして足を止め、握った手を自分の頬に当てて目を瞑ってしまう。
この反応を見て先程の考えがより確信へと近づいた気がして、スチイが大人に成るまで、真珠のネックレスの意味は聞かない様に気を付け様と思った。
多分、聞いた時点で責任と覚悟を伴うだろう、そしてスチイが大人に成るまでには気が変るかも知れないし、それまでは気付かなかった振りをする。
そうすれば、もしスチイの気が変って俺にネックレスを返すような事に成っても、スチイの傷は小さくて済むのだから。
俺は心の中で一つの答えに辿り着いたかの様に、ネックレスの事を考えるのを止めて、スチイの手を少し強めに握り特に話をするでもなく、視線を合わせてはお互いに微笑み合って幸せな思いで歩いた。
お城に戻ってから、何度目かの姫様の経過観察をする事に成った。
立会いは若様に女王様、スチイとエルフの族長も居る。
姫様の治療した部分は思っていたより綺麗に治っていた、治療後に化膿する事も無く、しかも切開部が引っ張られて白く成る事も無かった。
人魚族は体毛も少なくスベスベの綺麗な肌ゆえに、体毛の長さや生え方を見ても切開部が分らない程に綺麗だ。
だが油断は禁物だ、治療後一、二週間は患部を引っ張る様な動きはしない様に気を付けてもらう事にした。
姫様の奇病も治り再発や転移の兆候も無く一安心だ、そして若様の体調も大分改善された様で、とても元気そうだ。
これなら家族三人で何処ででも生活が出来るだろう、俺の役目も終わりか?
そんな事を少し考えていたら、若様が話し掛けてきた。
「治療の報酬の件を宜しいでしょうか?」
「えっ、はい!」
何故今、何故今日なんだ!いや当然と言えば当然か、もし真珠のネックレスにそう言う意味が有るとしたら、俺の『幸せを頂きたい』といった言葉と合わせて、スチイを下さいと言った様に思ったのだろう。
なんて馬鹿な事をしたんだ、御両親の病気が共に治るんだったら濁さずに報酬をはっきり言っておけば良かった、『親子三人で暮らしてスチイを幸せにして下さい』と『それが俺の幸せであり報酬です』と。
だが、その時は二人の病気を治す自信が無かった、自分でも分ってる。
スチイに真珠のネックレスを買う時も、店員に言われた言葉の意味を深く考えるべきだった。
確か『人魚族の女子に贈るなら気持ちを伝え受け取ってくれるか聞く』とか言っていた、良く考えてみれば意味深だと気付いて理由を聞き直せば良かった、そうすればこんな事には……、スチイの事は好きだが幼さが問題だ、大人だったなら何も問題無いのだが。
スチイはデートの意味も分ってない様だったし、好きも全て一緒くたで異性に対しての恋愛感情も理解して無いだろう、そして結婚しただけで子が授かれると思っている様な子供だ。
俺がしばらく考え、中々答えを出せないで居ると、若様の声が再度かかる。
「やはりスチイに贈った真珠のネックレスが答えでしょうか?」
「俺は真珠のネックレスを贈る意味を知らない、俺は自分の思いを込めてスチイに贈った、今はまだそれで良いよな……、スチイ?」
「……はい、ノーバン様」
急に話を振られたスチイは一瞬戸惑った様だが、『はい』と答えてくれた。
だが、ここまで言ったら意味を知ってると、気付いてると言っている様なもんだが、今しばらくはこれで通そう。
「御両親の病気が治ったのですから、家族三人で一緒に暮らして、二人でスチイの事を幸せにしてあげて下さい、スチイの幸せこそが俺にとっての幸せですから」
「……有難う御座います」
若様は姫様と目を合わせ、姫様はニッコリと微笑み返してる。
またネックレスの話をされるかと思い、矢継ぎ早に言葉を重ねたが、言い終わってから自分の言った言葉にハッとした。『スチイの幸せこそが俺にとっての幸せ』なんて言ったら皆は如何受け取るだろうか? いや嘘は言ってないから良いのだが、なんだか今言うべき言葉では無かった様な気もしなくも無い。
まぁ言ってしまった言葉は戻らない、誰も気にしない様に自然に流そう。
と思っていたら、スチイが何かを言い出した。
「スチイの幸せがノーバン様の幸せ?……なら一生一緒だね!」
何だか自然に同意を求められてる気がするが、何と答えたものか?
そもそも此のフレーズを気に入っているだけなのか、本当に一緒に居たいと思ってくれているのか? ただ結婚の意味を理解してない事だけは確かだ。
「俺はスチイと何時も一緒だ、でも今しばらくは御両親に甘えると良い」
俺は否定する事も出来ずに、スチイの言葉に同意した答えしか返せなかった、ただ少しの時間は稼げたと思う、その間にスチイも大人に成り色々な事を理解し、見えて来るだろう。
と思ってら、今度はまた若様が声を掛けて来た。
「やっぱり結婚の約束を?」
「まだ結婚の意味も分って無い子供の言う事ですから」
姫様が声を出せないからまだ良い、二人相手でも大変なのだ三人相手だったら逃げ出してるかも知れない。
そして俺は若様に対して、暗に子供の言葉を本気にしないでくれと言った。
が今度はスチイだ。
「意味も分ってるよぅ。結婚したらスチイとノーバン様の子が出来るんだよね」
「……子供を作るって大変な事なんだよ、とても痛い思いをするんだ」
子ども扱いされたせいか、少し怒ってた様に口を尖らせて抗議して来た。
俺もスチイが大人に成り意味を理解して、それでも俺と結婚してくれると言うなら喜んで結婚するが、意味も分って無い子供を騙す様な事はしたくない。
少し意地悪な言い方に成るが、少しだけ教えても良いと思い説明を始めた。
「どれくらい?」
「体を半分にされちゃうくらいかな」
子供を生む時の痛みを聞かれても、男の俺に分かる訳が無い、兎に角スチイが大人に成るまで諦める様に痛そうに目を細め顔を歪ませながら答えた。
「えっ、それでも頑張るぅ」
えっ?『体を半分にされちゃうくらい』の痛みにも耐えて頑張っちゃうの?
いやいや大人に成れば分らないが、今のスチイには耐えられないだろう。
もう少し脅しが必要かもしれないと、ちょっと意地悪に言ってみる。
「それだけじゃないんだ全身の皮を剥かれ、全ての爪を剥がされ、全て歯も抜かれちゃう位痛いんだよ」
「嘘だよぅ、そんな事ありえないもん」
「そうだね、でも半分は本当なんだ、スチイのお母さんは凄く凄く痛い思いをして、それでもスチイを産みたくて会いたくて頑張って頑張って産んだんだよ」
大袈裟に言ったのがスチイに嘘だと見抜かれてしまった、だがもう少し大人に成るまで待って欲しいと思い、俺の中の想像でスチイのお母さんの事を話してみた。
「……お母さん……スチイを産んでくれて、ありがとう」
スチイが納得したかは分らないが、上手く話を逸らせたと思う。
だが家族三人とも泣いてしまった、泣かせたお詫びとして何か出来る事が有るだろうか?
考えてみたが何も出来る事は無さそうなので、エルフの族長を連れて部屋を出た、しばし家族だけにしてやるのが唯一今出来る事だと思った。
今まで甘えられなかった分を、今から両親にいっぱい甘えさせて貰って少しでも幸せを取り戻せたらと思う。
スチイには大きく成長して欲しい……、特に体が、そして胸やお尻が……、俺は想像して少しニヤニヤしてしまう。
姫様の経過観察を何時行っていたかは分かりませんが、こっそり見ていたようですね。
報酬の話も終わり、スチイちゃんの家族三人の居場所を探すだけです。
幸せに成れると良いですね。
最後の一行は余計だと思っても苦情は主人公にお願いします。




