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第七十話、姫様の治療

 そろそろ姫様に塗った(しび)れ薬も効く頃だ、俺は薬匙(やくさじ)を人肌に温めてから、姫様の脹脛に(ふくらはぎ)当て確認し、次に消毒した針を刺す。

 姫様に薬が効いている事を確認してから、包帯を(ひね)り紐にして姫様の脹脛の患部より手前で強く縛り、一時的に血を止める。強く縛ったので十分か十五分以内には治療を終わらせたい。


 次に薬匙を立てて患部に爪を立てた様な痕を付ける。気持ち的には直接自分の手で姫様の柔肌に()れたいが、俺の手に薬品が付き感覚が鈍ったら治療出来なくなってしまう、それ故薬品を塗った部分に直接触れたりはしない。

 看護師から消毒液を含ませた綿を受け取り、患部の周りを丁寧に拭いて消毒する。

 印として付けた墨もほぼ落ちてしまうが、薬匙で付けた痕がまだ残っている、大丈夫だ。


 今度は小型のナイフを受け取ると、患部を丁寧に切開してゆく、にじみ出る血を拭いながら血管に注意して深く切り開いた。

 出血は徐々に少なくなり見やすくなった所で、看護師に患部を(つま)み上げてもらい血は止まり患部が広がる、俺は近付いて色を確認しながら針でアニサキスを引っ掛け、ピンセットで取り出した、急ぎ皿を出してもらいアニサキスを乗せる。やはり診断は当っていた。


 血止めの為に縛った紐を少し緩め、看護師にも患部を放してもらい様子を見る、大きな出血が無い事を確認し、再度紐を強めに縛る。

 台車の上の命の魔石を右手に取り、針で穴を開ける。そして切開部が表皮を残し閉じる様に左手で軽く脹脛を押さえてから、命の魔石で切開部を閉じてゆく、表皮より少し中の部分が魔石により接合されたら、今度は表皮が閉じる様に切開部の上下を軽く抑えて魔石で治癒、閉じてゆく。


 切開部が閉じたら終了だ、血止めの紐を解き、使用した魔石は穴を上に向け綿の上に置いて、看護師に薬匙で穴を押さえ魔力が逃げ難い様にしてもらう。

 魔石で切開部を閉じたとは言え外皮に近い部分だけだ、力んだ時に開かないとも限らない、念の為に包帯を巻いて抑える。


 左手の数種類の魔石と魔方陣を使えば、ほぼ完全に治す事も可能だろうが、俺一人で国中の人を治療するのは不可能だ、医師なら誰でも出来る治療法を見せたかった、覚えてしまえば俺より医師の方が安全に早く処置が出来るだろう。


 摘出したアニサキスを見学者に見せたら……、多くの患者が座り込み手や足を抑えている。


何方(どなた)から治療を受けますか?」

「……」

 俺が患者に聞くも誰も手を上げない、いや少女が上げ様としていたが隣の女性が手を抑え止めていた。少女の母親だろう。

 治療を見せても急には信じられないのか? 手が上がらないので姫様に頼み背中の治療も始める。


 手順は脹脛と一緒だが今度は血止めが出来ない、出血量も予想出来ないが患部を広めに強く摘み上げて対処する予定だ。

 俺はほぼ同じ手順で進め、切開前に見学者に向かって一言言う。


「治療が出来るのは十名程度です、この治療が終わるまでに良くお考え下さい」

「……ざわ……ざわざわ……」

 俺は嘘は言っていない、()()出来るのは十名程度だろうと言う意味で言った。

 皆が半歩近付き身を乗り出し、先程よりも真剣な表情に成った。

 それを見て俺は姫様の治療を再開する。予想よりも出血は少なく簡単にアニサキスも確認、摘出出来た。包帯を巻けなかったので姫様には背中に力を入れたり、皮膚を引っ張る事の無い様にお願いした。


 姫様の背中の治療が終わる頃には、見学者の殆どの人が治療を希望して来たので、一度待合室に戻ってもらい、少女達を優先的に治療すると伝える。

 姫様は別室で安静にしてもらい、一緒にスチイと女王様が付添って行った。


 俺はエルフの族長の監視の下に日が傾くまで働かせられた、途中で医師に交代を申し出たが、族長が目と口を三日月にして見て来るので、頑張って治療を続けた。枕をネタに族長に対して言葉の矢を放ったのが悪かったのだろうか?今後は気を付けよう。


 今日は何人もの治療を行い疲れた、治療をした殆どの患者のアニサキスは血管の近くに潜んで居たが、太い血管を傷付ける事も無く無事に終わった。

 最悪の事も考え左手に用意した魔石も使わずに済んだ、もし太い血管を傷付けたら即座に血管修復の治療を出来る様にと、アニサキスが動き回ったり、血管の影だったりしたら、氷の魔石でアニサキスを凍結しようとも思っていた。

 出血が酷い場合は凍結範囲を広げてアニサキスを摘出した後に、光の魔石で暖かい光を放ち解凍しながら、水と命の魔石で修復も可能だ、人の体は六、七割方は水分で、水の魔石の補助で治療効率を高めようと考え準備をしていた、良い意味で無駄に成ったが。


 治療を終えた人達には、治療部分に血や(うみ)や水の様な物が溜まる可能性と、開いてしまう可能性も説明して、経過観察の為に明日も来院する様に言った。


 俺は医師にお願いして姫様の為に、痺れ薬と消毒液を少量もらって退室する。

 俺と族長が姫様の休んでいる部屋へ行くと、女王様が人差し指を立てて口に当てる。静かに部屋の中を見ると、姫様とスチイがスヤスヤと寝ている。

 如何した者かと考えていると、族長と女王様がお城に戻ると言うので姫様とスチイに声を掛ける。そして姫様は起きたがスチイが起きない。


 俺は静かにスチイを抱き上げ帽子を被せ、スチイを乗せる感じに少し胸を反らして歩き出す。ドアの有る出入り口等はスチイの頭が当たらない様に気を付けながら病院を出た。歩きながらスチイの顔を見ると一瞬目を開き視線が合った、がスグに閉じてしまう、どうやら目を覚ましたが寝た振りをしている様だ。

 前にも似たような事が有ったなぁと思い出す。スチイは寝た振りが下手だ。

 俺は気付かない振りをして馬車の前まで歩いて行く、馬車に乗った女王様に手を伸ばされたが、俺は首を振って一歩下がる。


 馬車は走り出し、皆もそれに付いて行く、俺はスチイを抱かかえ遅れてゆっくりと歩く。

 俺の腕が限界に近づいた頃、スチイに話掛ける。


「スチイ、そろそろ起きようか」

「んぅぅん」

 スチイは小さな声を出しながら強く抱き付き、俺の肩に顔を埋める、可愛いし可哀想だが、もう腕が限界だ、スチイを強く抱き締める、そう強くだ。


「ぅぅう苦しいよぅパパ」

「じゃぁ降りるかい?」

「……」

 スチイは何も言わずに抱き付く力を抜いた。それに合わせ、ゆっくり屈みながら俺も腕の力を抜きスチイを降ろして『良い子だ』と頭を撫でる。スチイは少しはにかんだ様に笑う。


 今日のスチイの服は、青と白に水色を使った海の様な色合いのワンピースで、(ひじ)まで有る(そで)は波の様に数枚重ねられ、腰紐は太目で幾つかの貝殻が飾られている、そして背中で大きくリボンに結ばれ、ワンピースの(すそ)は波の白に海砂の肌色、そして何かが小さくキラキラ光り輝き砂浜の様だ。

 頭には(つば)の小さな麦藁帽子が被さり、白く染めた髪が見えている。

 出来れば髪を染める事も、帽子を被る事も無く町を歩かせたいと思う。


「今日の服は海辺に居る様で、スチイに良く似合っててとても可愛いよ」

「ありがとう、パパ」

 スチイは嬉しそうにワンピースの裾を広げる様にクルクルと回り、俺の目をいっそう楽しませてくれる。

 目が回ったのか疲れたのか、スチイは俺に抱き付いて来る、本当に可愛い。このまま何処か遠い所へ連れ去ってしまいたい程だ。


 そんな可愛いスチイと手を繋ぎ、幸せいっぱいに歩き出す。

 町の中には色々なお店が立ち並び、中には魚を売ってる店も有る、少し複雑な気分だ。だが海の近くの町で漁師も多いのだろう、急に取引先が無くなり魚が売れ無く成ったらどうだろう?漁師も魚の商人も収入が無くなり生きて行けるのだろうか?でも、その為に自分達で消費し奇病にかかってしまう……。


 他にも海藻類を売るお店に貝殻のお店、サンゴや真珠を売ってるお店も有る。

 特に何を買う訳でも無いが、スチイと二人指を差したり立ち寄りながら商品を見ては「あれも良い、これも良い」と言い合い楽しみながら歩いて行く。


 そして俺は町行く女性とスチイを見比べてしまう、いや本気で見比べたらスチイも怒るだろうが、何となくだ、何となくスチイの胸元が寂しいと思った。

 その思いをスチイに気付かれない様に隠し、笑い合いながらお城まで帰った。


 その日の夜、俺とエルフの族長、人魚女王に姫様の四人は集まった。

 先ずは姫様の経過観察をし、痺れ薬を塗り溜まった膿と血を消毒した針を刺して抜いた。完治までに数回必要だろうか。

 姫様の処置が終わると、奇病とそれに付随(ふずい)する問題の話し合いだ。


 俺には何の権限も無い、ただの情報提供者としてココに居る。

 今一度アニサキスに寄生された魚を見せながら説明をする、アニサキスが多くの海の動物に寄生する事、但しイルカ、魚、イカ、海老、貝、等でそれぞれに幼虫だったり成虫だったり、大きさも成長過程で数種類有り様々だと説明した。

 女王様は俺の説明に対し、人魚族の経済や生活を思ってか質問して来た。


「加工、天日干しや焼いた物なら食せ(しょく)るのでしょうか?」

「……」

 少し答えに迷い考えたが、俺は首を横に振り説明を始める。


「イカやタコに貝を人魚族が食べるのかは分りませんが、しっかり中まで火を通せばアニサキスは死にます、但し魚と海老は古い言い伝えが気に成ります。元々この国の始祖が人魚と言うお話なので、魚に近い種族と考えるなら同種食いの罪で神の怒りに触れる可能性も有ります。その場合普通は心が壊されると言われ、頭の中がカラカラに乾いたのヘチマの様に成るとの事です。」

 魚は焼いても、火が通り難く変質し難い骨や油を食べた場合、同種族の扱いならプリオン異状に成る病気が発生する可能性が有る事を、理解し易い様に神罰として説明した。


 俺の説明に女王様は肩を落とす、俺の役目は此処(ここ)までだ、あとはエルフの族長が話すだろう。

 俺は族長に目配せすると、一つ頷いき肩を落とした女王様に語りだす。今の竜人族の現状、そして竜人族も奇病に見舞われていた事を、そして人魚族と同じで食料事情が原因である事を、そして貿易の再開を提案する。

 話の途中に女王様は何度か俺を見たが、その都度俺は頷き族長の言っている事が本当の事だと肯定した。

 女王様も族長の提案に納得した様で、国民にどう説明するかを族長に相談し、二人で明日以降の予定も含め話し合いが進む。

 その中には俺の予定も勝手に決められている。何とも理不尽だ。


 最後に俺は人間族で行われている海藻類の養殖を勧め、人魚族と竜人族の為にヒジキも養殖してほしいと付け加えた。

 女王様が前向きな検討をしてみると言い、話も終わり明日に備えて部屋に戻る。

ようやく竜人も人魚の病気も治せる目処が立ち、一安心です。

後は報酬を頂ければ……。

今話中「寝た振り」に対しての「前にも有った」は第三十八話、「スチイの香り」内のスチイちゃんが眠い振りをしていた事を思い出しているようです。

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