五階層
四階層を後にし、いざ五階層へ。
デート中は出来る限り手を繋ぐべきだと思い手を繋ぎ、ボス討伐を演劇か演舞でも観るかのように、ミミィちゃんちゃんとデートを楽しんだ。
ミミィちゃんの手の柔かさを心ゆくまで堪能した。
「充分楽しめたから次の階層に行こうか」
「私たちの戦いは楽しかったのですか?」
あれ、変な事言ったかな? みんな変な顔して首を傾げてる。代表したかのようにマエコちゃんが聞いてくる。
「あぁ自分以外の人の戦いは参考になるし、演劇のようで楽しめた」
「……おう、次の階層だな」
「テイビトさん、かっこ良かったですよ」
「そ、そうか、ありがとう」
不機嫌そうなテイビトの返事にミミィちゃんがフォローを入れてくれる。
多分お世辞? に、テイビトは目を丸くして、ミミィちゃんを見ながら返事してる。
マエコちゃんに弓は使わないように背にし、鞭を装備してもらった。
中央の安全地帯を目指し歩き出す。
十五分位で安全地帯まで戻り休憩する。
「ミミィちゃん、俺、謝らなきゃいけない事があって……」
「チラチラ覗こうとしてたこと?」
ミミィちゃんがジト目で変な返事を返してきた。
「いや、えっと、あれは魔物が来ないか見てただけで普通だよ」
「そう言う事にしておいてあげる」
「ありがとう、ミミィちゃん」
「もぅ、やっぱり!『ギュッ』」
お礼を言ったら、ミミィちゃんは頬を膨らませて腕を抓ってきた。痛気持ちいい。
「えっと何を話そうとしたか忘れた」
「何か謝るとか言ってたけど何かな?」
「そう、五階層の魔物がね。猫なんだけど倒すからココで待ってる?」
「あぁ私が猫人だから気に掛けてくれたんだ。ありがとう」
ミミィちゃんは猫人だ。魔物とは言え猫が倒される所は見たくない筈だ。
「魔物とは言え猫の姿だからね。待ってても良いよ」
「猫は猫、猫人じゃないのよ知らない所で一人はイヤ、一緒に行くよ」
一緒に行くよ、と言いながら手を握ってきた。可愛い。
「分った。一緒に行こう」
良かった。正直カップルの相手を一人でするのはイヤだったんだ。ミミィちゃんが居ればカップルの相手も我慢できる。
「少しの間、テイビトとマエコちゃんでミミィちゃんを護ってくれるかな」
「はい、分りました」「おう」
五階層は暖かく、草原、膝丈の枯れ草地帯、細く枝の多い木の林で構成されてる。
四階層とは違って魔物が隠れていて急に襲ってくる。爪も牙も持っている。
「五階層から十階層は珈琲の魔石がドロップされるんだが、その中でもマンデリンが出たら先日の店に持ち込んでくれると嬉しい。俺の好みだ。ママに相場で買い取って貰えるように言っておくから」
「分りました。覚えておきます」
マエコちゃんが覚えておいてくれるなら持ち込んでくれるだろう。
珈琲の魔石は水や炭酸水の魔石に比べ、小さく高価だ。沢山持ち帰れ高値で売れる。五階層の方が稼げると言われる由縁だ。
「猫は大きくは無いが素早く爪も牙も持っているから十分注意してくれ」
「「はい」」「おう」
「猫は焦げ茶の斑点模様で枯れ草地では保護色で隠れてるし、林では木の上にいるから草原から出ないように」
「「はい」」「おう」
枯れ草地へ石を五、六個軽く投げ込み、出て来た猫を包丁で切り付ける。真っ二つとは行かないが倒した。
「あれが五階層の魔物の猫だ」
「あれが猫か? イタチか何かじゃねぇのか?」
「そうですね。私もイタチに見えました」
「うんうん猫人の私が言うのも何だけど、猫はもっと可愛いよ」
三人とも猫には見えなかったらしい。でも俺が猫と決めた訳じゃない、動物学者かダンジョン管理者にでも言って欲しい。
「ミミィちゃんは可愛いから安心して」
「もぅ人前で恥かしい事言わないの『ギュッ』」
また、腕を抓られてしまった。良いフォローだと思ったのに。
「学者の話ではジャコウネコ科でネコ科の猫とは違うらしいが、名前がジャコウネコと長いから冒険者は『猫』と言うんだ。猫に見えないのは当たりだな」
「成る程」「そう言う事ですか」「ノーバン!」
「ミミィちゃんゴメン。でも、少しは猫に見えるから、気分の良い物じゃないと思ったんだよ」
「ありがとう」
ミミィちゃんが少し怒ってたが訳を話したら礼を言われた。
この階層は依頼で案内する度に、ジャコウネコの説明をしてる気がする。
「冒険者はスライムの事を紫陽花とも言うから、これも覚えておくと良い」
「有難うございます」
「テイビト、刀で同じ事出来そうか?」
「ああ、やってみる」
「マエコちゃんはテイビトから三歩下がった位置で鞭で援護ね」
「はい、分りました」
「二匹まではいいが三匹出たら一度逃げる事。深くは追って来ないから」
「お、おう」「はい」
三匹位は倒せるだろうが、隠れた四匹目が居たら危険だ。余裕を見ないと。
「三匹出て来たら隠れた二匹が居て五匹居ると思って行動してくれ」
「分った」「はい、分りました」
「じゃぁ俺は後ろでミミィちゃんと見てるから始めてくれ」
「おう」「はい」
俺は後ろでミミィちゃんの手をしっかりと握った。護るには必要だ。
小さく柔らかな手は俺が護る。
しばらく狩をした。一度だけ三匹出て逃げた。
「おつかれ」
「「「おつかれさま」」」
二人は五階層でも林に近付かなければ十分狩が出来るだろう
テイビトも今日だけで刀にも慣れて来ている。筋が良い。
テイビトの剣では猫の素早い動きには向かないだろう。刀の方が良い。
「二人だけでも林に近付いたり、多数を相手にしなければ大丈夫そうだ。枯れ草にも隠れているが、林は木の上から首を噛まれるから絶対に入るなよ」
「ああ」「有り難う御座います」
狩を終え安全地帯に戻って来た。
「ミミィちゃんベンチに座ってもらって良いかな」
「うん」
ご褒美の時間だ。「自分で外す」と言われなくて良かった。
「ミミィお嬢様、腕貫を外させて頂きますね」
「有難う存じます」
「右腕より失礼いたします」
ミミィちゃんはお嬢様に成ってもらい、腕貫を四つ全て俺の手で外させて貰った。
ミニスカートは最初から抑えられてしまったのは残念だが、腕も足も堪能させて頂きました。ミミィちゃんの腕も足も触り心地は最高だ。幸せのひと時。
マエコちゃんに見られてる気がしたが、今の俺はミミィちゃんしか見えてない。
ダンジョンを出て三人を誘い食事処へと足を運ぶ、俺のおごりだ。
「俺が払うから、好きな物注文してくれ」
俺は肉、魚、野菜と多目に注文した。
ミミィちゃんは魚と野菜、テイビトは肉中心、マエコちゃんは肉と野菜
俺は多目に注文したので、ミミィちゃんに肉を、テイビトには魚と野菜を、マエコちゃんには魚を取り分けた。主食は全員ご飯だ。
マエコちゃんの胸元には、張の有る大きめのトマトが二つ並んでいる。魅力的で美味しそうだ。
無理やり締め付けている様で苦しそうで、開放してあげたい。
涎が出てきた。これ以上見つめたら気付かれる。夕食にしよう。
「「「「いただきます」」」」
「今日は色々と有難う御座います」
「それに見合う報酬をミミィちゃんから頂いてるからいい」
マエコちゃんのトマトも十分拝ませて頂きました。とは言わない。
「それでも有難うございます」
「食べ終わったら俺も少し話が有るが、先に食べよう」
「はい」
マエコちゃんは礼儀正しく好感がもてる。
俺の下心に気付かず、何時までも素直でいてほしい。
「「「「ご馳走様です」」」」
「話したくない事は話さなくても良いが、いくつか聞きたい」
「はい何でしょう?」
マエコちゃんが答えてくれるらしい。俺とテイビトじゃ話が進まないからだろう。
「質のいい服着て、剣も鎧ごと叩き伏せる代物を持っていて、稼ぐ為にボスを倒したいと言う真意の程を聞きたいと思ってな」
「別に嘘を言った訳では有りません。五階層へ行きたいと思っていました」
今一つハッキリしない返しだ。嘘は言ってない。隠し事か。
「じゃぁ助言だが、熊を何度も倒すと良い。ドロップのチョコレートも人気商品だがボスは魔力の残照が多い。稼ぐには良い相手だ」
「それは……はい有難う御座います」
「十分に稼げたら五階層で今日の事を忘れず狩をすると良い。但し、猫はスライムと違い爪も牙も持ってる。油断すれば死に至る」
「はい、そのようにします」
マエコちゃんが言うならテイビトは何とかするだろう。
「四階層ボスを狩りする間だけで良いんだが、子供がチョコレート欲しさにボスに挑む様な事が有ったら、実力の程を見て欲しいんだが……」
「多人数なら倒せると思い込み、無茶して誰かが大怪我しないと理解しないんだ。大怪我した子供は、一生怪我を背負う事になるからな」
「ギルドでも注意はしていても、四階層ボスは年に数人、大怪我した子が出るんだ」
「分りました。見かけたら確認してみます」
これで少しでも子供の大怪我が無くなれば良いのだが。
「刀は四階層卒業の記念に贈るよ」
「弓は使用制限が有るが、しばらく貸しておく」
「注意事項はギルド受付で聞いて守ってくれ」
「矢は半分以上折れたが、それを武器屋に持ち込めば安く矢を買える」
「有難う御座います。ですが私たち何も返せるものが……」
「なら二つだけ質問に答えてくれないか、簡単な質問だ」
「はい、答えられる事なら」
マエコちゃんは言い難い事でも有るかのように少し俯いてしまった。
答えられない事も有るって事だろうか? 胸囲や体重と年齢とか女性の秘密。
聞いてみたいがミミィちゃんが居るから無理だ。
「平民で無い事も訳ありも分るが……今、幸せか?」
「……あまり幸せとは……」
「テイビトは今、幸せか?」
「あぁどうだろうな。あまり幸せとは言えないな」
なんとも、まぁ新婚でもなければ「今最高に幸せです」なんて答えは無いか?
男女二人でダンジョンに入ってて、俺からしたら幸せ以外の何者でもないのだが。
「もう一つ聞くが……今、不幸か?」
「今はそれほど不幸とは思っていません」
「同じだな」
今はって何だ? 過去に不幸な時期が有ったって事かな?
何だか考えるように二人とも、ゆっくり答えてくる。
「ありがとう。ならもう少し助言だ鬱陶しいだろうがな」
「いえ、ありがたく聞かせて頂きます」「お、おう」
「今が不幸で無いなら……過去も含め、今が幸せだと言う事だ」
二人とも眉を寄せて何か考えてるようだ。不愉快に思っただろうか?
それでも無理はしてほしくは無い。後悔してほしくない。話を続ける。
「今が不幸だと言う奴は沢山居る事も知るべきだ」
二人の顔の表情は少し和らいだ気がする。俺の言いたい事も少し伝わった様に思う。
「幸せを追い求めて、今ある幸せを見失ったり壊さない事だ。追い求めるあまり今ある幸せを見失い、捨ててまで追い求め、大怪我したりしない事だ。今ある幸せを大事にすることも考えたほうが良い」
「有難う御座います……」「おう、ありがとう」
羨ましい二人だが、ダンジョンで無理して大怪我はして欲しいとは思ってない。
いつかは「今最高に幸せです」なんて言って欲しいものだ。
「ノーバン、私にも何か助言欲しいなぁ」
「ミミィちゃんは可愛いから何時までも今のままで居てね」
「もぅ助言じゃないでしょ『ギュッ』」
今度は手の甲を抓られてしまった。癖になる、痛気持ちいい。
「そうだな、ミミィちゃんには水の魔石を贈るよ。今日は頑張ったから、触れずに割れるかもね」
「あ~やるやる。試したい」
上手く気を逸らす事が出来た。助言なんてポンポン出るわけじゃない。
ミミィちゃんはダンジョンの外でも魔力操作出来るように成っていた。
水やお酒を作る事も多い職業だ。役に立つだろう。
食事も会話も楽しんだ後、二人を家の近くまで送り届け、ミミィちゃんの手の温もりを感じながら、スナックの寮まで送り届けたが、狼は出なかった。
次回より、二章、泥人形、スタートします。
二章、十五歳未満は読まないようお願いします。奴隷の話です。一部暴力的な部分有り。ハッピーエンドとは言い難い終り方です。苦手な方は注意して下さい。




