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名前の由来

 部屋で一人ミルクを飲んだ俺は、朝食へと向かう。

 少ない人数で静かな朝食を頂いた後に、俺はエルフの族長に話しかける。

「昨日は暗く成って治療出来ませんでしたが、早めに姫様の治療をしましょう」

「それなんだけどね、少し待ってもらえるかしらね」

「はぁ?」


 俺は今日も早く綺麗な姫様を拝みたいと、診察と称して柔肌に触れたいと思い、早めの治療を進言するも、族長は軽く眼を閉じて何か考える様に返して来た。

 そして考えが纏ま(まとま)まったのか、おおよその時を指定してくる。

「午後からにしましょうね」

「はい、分りました」

「宜しくね、ノーバン」


 少し気落ちした俺は真剣に聞いていなかった為、最後の「宜しく」とは何に対して言ったのか分らなかったが、族長の悪い笑みから察するに(ろく)な事ではないだろう。


 今日の午前中は時間が空いたので、魔王を迎えに町の宿屋に向かった。

 宿屋の店主に声を掛け連れ出す事を伝え、久々に魔王に会い撫でようと近づいたら……、頭に噛み付かれてしまった。

 ドウドウと(なだ)めながら首を摩るも、中々離してはくれない、大分お怒りの様だ。確かに一緒に連れて行くか、もっと早くに迎えに来るべきだったが、俺も忙しかったと言い訳をしておこう。


 俺は時間を掛け、やっとの思いで魔王に許してもらった。こんな時にスチイが居てくれたら、魔王の機嫌もスグに直るのにと思ってしまう。

 町中を歩く為、もしもが有っては成らないと思い、魔王にハミと鞍を着けてから厩舎を後にする。俺がお城へ向かおうとすると、魔王は反対へと行きたがる。


 仕方なく、俺はお城と反対に歩き出し町を出た、木の陰に入ると魔王のハミと鞍を外し、軽く叩くと魔王は元気に走って行く。

「捕まるなよ」「ヒンッ」


 俺は色々有って精神的に疲れてるせいか、魔王を放した後はその場で寝てしまった。

 どれ位たっただろうか、誰かに腕を引かれる感触に目が覚める。慌てて目を開けると魔王が俺の腕を引いている。

 魔王は走って来た様子で、馬体は汗でキラキラと輝いて見える。本当に頭の良い馬だ、俺が引かなくても自分で散歩して帰ってくる、手間の掛からない馬だ。

 俺は魔王にハミと鞍を装着してから町へ入り、手綱を引いてお城へと向かった。


 お城の敷地内へ正門から入り、塀に沿って歩く、塀の側に木は無いが庭の中には花壇や木が有り、何か甘い香りでもするのか魔王は鼻をヒクヒクさせている。

 庭園を見ながら裏庭へ行くと、表とは違い隅に厩舎や倉庫が有るだけで、平坦な何も無い土地が広がっている。

 広い裏庭には、乗馬の訓練や、騎士の訓練をした様な足跡が沢山残っている。


 厩舎の近くまで行き、スチイを探しに行こうか迷い魔王に話しかける。

「スチイも呼んで来た方が良いか?」「ブルルッ」


 魔王は鼻を鳴らしながら首を振る、会いたいだろうと思ったが所詮は馬か?っと思ったら、魔王は急に前足を上げて、棹立ち(さおだち)したかと思うと、大きく一鳴きする。

「ヒヒイーン」


 俺は驚いた、魔王は力は強いが大人しく棹立ちなんてした事も無い、大きな声で鳴く事も無かった。声の大きさにも驚いたが、魔王の大きな馬体で、棹立ちした迫力に驚かされた。


 だがココは厩舎の近くで馬が鳴く事は珍しくない、驚いたのは俺だけの筈だが、二階で窓が開く音がした。目を向けると遠目でも分る可愛い女の子が顔を出す、スチイだ。俺は手を振り、魔王は棹立ちしたままで、水を掻く様にスチイにおいでおいでと促しているみたいで、少し笑ってしまう。


 それから少し経ってからスチイが走って裏庭に来て、魔王に飛び付いた。

 魔王も鼻息荒くスチイを舐め回す。それを見て俺は今朝の事を思い出す、顔にミルクのかかったスチイを舐めようとしたが出来なかった事を、魔王が羨ましい。

 俺は理性を忘れ、たまらず魔王の舐めてる反対側のスチイの頬を舐める、少しだけ口を開き舌を出して、スチイの頬を軽く舐めた。


「くすぐったいよぅ、もぅパパまでぇ」

 スチイは「擽っ(くすぐ)たい」と言いながら、魔王の前足に抱いて、大きな馬体に顔を隠してしまう。

 スチイの頬は、うっとりするほど美味しかった。ミルクの甘い香りに微かな塩味だったが、スチイの汗だと思うとどんな料理よりも美味しく感じた。


 スチイを美味しく味わった後は、二人で魔王を洗い始める。スチイは動き易い服に着替えてから降りて来た様で、半袖半ズボンを着ている、水で濡らしたら透けてしまうだろう。洗われてる魔王は目を閉じて首を伸ばし、気持ち良さそうにしている。

 魔王と旅をする様に成ってから、他の馬と見比べているが、魔王程の大きな馬は見ていない、他の馬より一回り半は大きいだろうか。

 遠目には分らないが、厩舎等で並んでいると違いがハッキリと分る。


 その大きさ故に洗うのも大変だ、スチイを抱き上げ魔王に乗せて手伝って貰う。

 魔王を洗い終わり、水で流す為にスチイを抱かかえて魔王の側に降ろした。

 そして勢い良く魔王に水をかけ、スチイにも水が跳ねてしまう、わざとだ。

「うぅぅん冷たい、けど気持ちイイ」「フルフルッ」


 スチイに水をかけたのは俺だけではない、水を被った魔王もフルフルと水を弾き飛ばしスチイに掛けている。スチイは濡れた帽子を外し頭を振っている。

 スチイの体には濡れた服が張り付いて、青い海の様な色の下着が透けて見えている。眼福眼福。

 もう少し楽しみたいと思い、スチイの体を俺の方に向かせようと話しかける。

「スチイ、お城に魔王を連れて来た時に、どうやってスチイを呼ぼうか迷ってたら、魔王がスチイの事を呼んでくれたんだよ」

「ありがとう、まおう」「ヒヒンッ」


 魔王の話は単なる話のネタに過ぎない、案の定スチイは俺の方へ体を向けてくれた。

 俺はスチイの体が良く見えるように、しゃがみ込みスチイに目線を合わせる。

 スチイは張り付いた服に、透けた下着、小さな体に、細く白い可愛い手足、水に濡れ白と金色に輝く髪、クリクリした可愛らしい赤い目。とっても可愛い。


「魔王は本当に頭の良い馬だよ」

「そうだね、パパ」

「始めに名前を『馬鹿』と付けなくて良かったと思ってるよ」

「そうだよぅ可哀想だもん」「ヒンッ」

 スチイは名付けの時の事を思い出したのか、少しだけ頬を膨らませ、魔王もそれに賛同している様だ。


「本当は、俺がその後に考えたのは、水で体を洗うのが好きそうだから、『鹿馬(カバ)』と付け様と思ったんだよ」

「えぇぇ、パパって意地悪?」「ヒンッヒンッ」

 馬鹿なら兎も角(ともかく)、「カバ」も駄目なのだろうか?カバは水浴びが大好きで力が強く、大きなスイカも噛み砕いてしまう動物で、悪い名前では無い筈だ。


「そんな事は無いよ、ちゃんと意味は有るんだよ」

「えっとぅ『鹿の様に軽やかに』?」

「それも有るが、魔王の色はどんな色をしてる?」

「黒に近いこげ茶に、影の様に茶色が混ざってる」

 スチイの言う通り魔王の馬体は一見黒く見えるが、真っ黒な青毛の馬と並ぶと焦げ茶だと分る。そして前足と後ろ足の大きな筋肉の周りと、お腹近くは茶色がかかっていて鼻先も少し茶色だ、そして足は黒に近い焦げ茶色をしている。


「とても良い色合いで、馬体も大きく筋肉も発達しているし、毛艶(けづや)も良く早く頑丈そうだね」「ヒンッ」

「はい、まおうは頼りになるしカッコイイよね」「ヒンッヒンッ」

 魔王は褒められている事を理解しているのか、嬉しそうに何度も頷きながら一鳴き二鳴きしている。意外と可愛い所も有ると思った。


「そうだね、そして魔王の様な色合いの馬の事を『黒鹿毛(くろかげ)』と言って、黒い鹿の毛と書くんだ」

「だからパパは『鹿』の名を入れ様としたんだね?」「フンッフンッブルルッ」

 スチイは素直に俺の話を聞いてくれるが、魔王はそっぽを向いて鼻を鳴らしてる。俺がスチイの色っぽい姿を楽しむ為に、今作った話だと見抜いてる様だ。

 俺は誤魔化し(なだ)める様に、魔王の首や体を撫でながら話を続ける。


「そうだよ『鹿』の文字を入れたかったが、良い名前が思い付かなくてね、俺に嚙み付く程の強さから、馬の王で『馬王』と思ったんだよ」

「あれ?でもパパの呼び方は『()』を強調してないし切って無いから、馬の王じゃなく魔界の王の様に聞こえるよね?」

 そこに気付くとは、スチイには俺の心の声が聞こえているのだろうか?俺は単純に強い者のイメージで「魔王」と言っていただけで深くは考えて無い、魔王でも馬王でも、どちらでも良かった。スチイとの話を盛り上げたいが為の作り話だ。


「良く気が付いたね、スチイ」

「パパなんでぇ?」

 俺はスチイの少し伸びてきた髪に手を置いて、グリグリと頭を撫で回しながら、笑顔で褒めるて話しを続ける。


「馬の王なんかより、もっと強く成りそうだし、黒鹿毛の黒や馬体の黒さから、雰囲気的に魔界の王の方が合ってると思って付けたんだよ」

「良かったね、まおう」「フンッブルルッ」

 スチイがニコニコと魔王に話し掛けるも、魔王は俺の作り話だと思ってか、あまり嬉しそうにはしてない、頭は良い筈なのに雰囲気、空気は読めない()()


「嬉しくないの?まおう」「ペロペロッ」

 スチイに質問された魔王は、明言を避け顔を舐めて誤魔化している。


 十分にスチイの色っぽい姿を堪能した俺は、スチイを抱き寄せて、俺の胸の中で回し、ある程度の水気を体で拭き取り、二人と一頭で(すみ)に生えた短い草の上に寝転がり、日光浴をしながら服と体を乾かした。


 ふと二階の窓を見てみると、若様が姫様の肩を抱き寄せ此方を見ている、羨ま(うらや)しいが美しいとも思ってしまう。何時から見られていたのだろうか?気には成るが考えても分る筈が無い、見なかった事にしよう。









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