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第六十五話、奇病の原因

 俺が優しくスチイの背中を摩りながら考え事をしていたら、ドアがノックされ、騎士が部屋の中へ入って来た。

 此方の返事も待たずに入って来た騎士に、皆は驚き身を引いてしまう。

 騎士は当然、部屋の主である姫様に用が有るのかと思いきや、エルフの族長の前で跪き(ひざまず)書状を差し出した。


「女王様よりの緊急の書状です」

「ご苦労様です」

 流石はエルフの族長を務めるだけの事は有る、急な騎士の言動にも落ち着いた対応をしている。族長が書状を読むのを確認すると、騎士は扉の所まで下がる。

 書状を読み終えたらしい族長が、騎士に聞こえない様な小声で俺に声を掛けて来た。


「ノーバン、先ほどスチイちゃんに言った事は本当かしら?」

「病気の事でしたら、自分の中では、ほぼ間違えないと思ってます」

 俺は族長の持つ書状の内容を聞きたかったが、先に族長に質問されては話が終るまで聞くに聞けない状況に、何だかイライラ、モヤモヤする。


「では治せるのね?」

「患部の場所にもよりますが、多分治せます」

「では、痛み止めの薬は要らないのね?」

「……いいえ、治療に当たって強い痛み止めが必要に成ります」

「それは困ったわね」

 族長が何を言いたいのかが分からず、俺は首を傾げて族長を見ていると、書状の内容を教えてくれた。


『アーサー王が尋ねて来て、今後も痛み止めが欲しければヒントを教えろと言われました。もし奇病が治るのであれば、アーサー王にはお引取り願いますが如何でしょうか?』

 急いで書いた物か挨拶文も無く、短く(まと)められている。

 文中のヒントとは聖杯のヒントの事だろう。

 奇病が治せないので、人間の国から痛み止めを輸入しているのだろうか? もしそうなら人質を取られているのと同じだ。


「俺の診断が当たっているなら、治療には強い痛み止めかモルヒネ錠の魔石と、命の魔石が必要になります」

 治療には魔石が必要で、ダンジョンが複数有るのか一ヶ所しかないのか分らないが、エルフの族長なら知っているかもしれない、モルヒネ錠の魔石がどんな物かの説明はしないが、族長なら察してくれるだろう。


「そう、困ったわねぇノーバンは、あの親子三人を守れるかしら?」

「スチイだけなら何が有っても守りますが、親子三人となると難しいですね」

「じゃぁそれでお願いね、ノーバン」

 族長の勢いに流され、何をどうお願いされたのか意味も分らずに、俺は頷いてしまう。そして頷いた俺を見るや族長は何かを書き始め、騎士に渡した。


「アーサー王の事は任せて、ノーバンは治療を始めて欲しいのね」

「では準備の為に町へ出かけて来ますが、その間に一番強い痛み止めを用意していて下さい」

 俺はエルフの族長に治療を頼まれたので、治療に必要な物と、確証を得る為の材料を求め、町に出る事にした。

 部屋を出る前にスチイに目を向けると、俺と両親とを何度も見比べている所を、姫様に背中を押され俺の元へと走って来た。俺はスチイに手を伸ばし重なると一緒に町へと出かける。


 俺とスチイは雑貨屋、金物屋、漁師用の店等、色々と巡り、小型の刃物を何種類も買い、ピンセットも金属の物、竹製の物、大きさも様々と数種類買った。

 今度は海辺近くの魚が天日干しされている場所まで歩いた。

 近くに有る小屋を訪ね、開いて干されている魚を見せて貰えるように交渉するも、欲しいのなら町で買う様に進められる。俺は再度交渉しながら金をチラつかせて何とか今朝(さば)いた魚を拝むことが出来た。

 干されてる魚は数百を超え数え切れない程有るが、まだ水分の残る物から順に一枚づつ見てゆく、部分的に変色し白、黒、黄色い物を探し三枚選び買って、お城に持ち帰った。

 お城に戻った時には、日も沈みかけていたが、姫様の部屋を借りて皆を集める。

 集まったのは人魚女王、人魚姫様、エルフの族長、若様、スチイ、俺の六人だ。

 俺は買って来た魚をテーブルに置くと、魚の身で黒く変色した部分を指差す。

 皆が確認してから俺はピンセットを取り出し、魚の身に潜んでいる寄生虫を取り出した。

 皆が一斉に身を引くので、もう少しでソファーごと後ろに倒れる所だった。


「これはアニサキスと言う寄生虫です」

「これが奇病の原因?」

「多分そうでしょう、今から寄生された魚を、姫様と同じように体内を写して見ます」

 皆に説明してから、魚に超音波と魔力をを当てて内部を写し取る、そこには姫様と同じ様に、爪楊枝を丸めた様な影が写っている。


「これで間違えないでしょう」

「そうね、でも如何治療するのかしら?」

 皆が二枚の紙を見比べる中、エルフの族長が、アニサキスを(にら)みながら治療法を聞いてくるも、どう答えたら良いのか俺は考えてしまう。


「これを見せて言い伝えを守るようにすれば、今以上病人が増えることは無いでしょう」

「ノーバン様、お母さんを治して」

 俺が族長の質問をはぐらかす様に答えると、今度はスチイが(すが)る様な目で見つめながらお願いしてくる。患部の処置は出来るとしても、今一つ気に成る事が有って明言を避けたが、スチイに頼まれると弱い。


「患部が手足なら、切開して取り除けます」

「そうでなかったら?」

「少し考えて見ます」

「そう、お願いねノーバン」

 俺は簡単に言ったが手足でも、太い血管や神経を傷つけたら危険だ、言うほど簡単には行かないだろう。そして問題は手足以外の首や体で、町や村の話では顔や頭に発症した人は居ないらしい。そして取り除けるとは言ったが、治るとは、完治するとは言えない俺がいる。つい唇を噛締(かみし)めてしまう。


 そして姫様も背中を指し示していたが、切開出来るかどうかは深さにもよる、肋骨の(あばらぼね)内側なら、切開して取り除く事は難しいだろう。

 どちらにしても今日は遅い、俺は持ち込んだ物を片付け部屋の出口に向かう。

 部屋を出る前にスチイを見ると俺に手を振るので、俺はニッコリ微笑み小さく手を振り部屋を後にした。

 部屋を出て作った笑顔を崩した俺は、きっと無表情か悲しい顔をしていただろう、一人自分の部屋へと向かい、肩を落としてトボトボと歩き出す。


 俺は部屋に戻り病気の事を考える。医者や患者も町人や村人も内臓には発病しないと言っていたが、魚は内臓にも寄生される、痛みが出ないだけで内臓にも寄生されているとしたら? もう一度姫様を診察台に上げるしか確認のしようがない。

 明日、もう一度診察と治療は必要だろうから、その時に聞いてみよう。

 上手く行けば姫様の胸は無理としても、お腹や背中の柔肌を直接触れられるかもしれない、明日が楽しみだ。


 そして俺は色々な意味、眠れない夜を過ごす。

 そう、スチイが居ない寂しさに、病気の心配、そして姫様の柔肌を想像しては、今日の姫様の艶っぽい姿を思い出し、下半身に血を集め眠れずに枕を抱えてしまうのだった。


 翌朝、ミルクをと思い族長の付き人を誘って厩舎に出向くとスチイに会った。

 そもそも、俺はスチイ程はミルクが好きな訳でもなく、かといって竜人の国の様な標高の有る土地でもないので、今は特にミルクが飲みたいと思った訳ではなく、付き人のお姉さんが乳を(しぼ)る色っぽい姿を楽しみたかっただけだ。

 でもスチイが来たなら楽しさは二倍だ、スチイとお姉さんの二人が、顔に白い液体をかけられながら乳を絞る姿は実に良い。朝から元気が出る。


 スチイは顔に付いた白い液体をそのままに、お姉さんは猫が顔を洗う様に拭き、その手を舌を出してペロリと舐める。色っぽく可愛い。


「スチイ、顔にミルクが跳ねてるぞ」

「うそぅ」

「あっ、ごめんハンカチ忘れたから、俺が舐めてあげよう」

「うぅぅ……恥ずかしいからヤダ」

「えっ?」

 俺はスチイの顔を舐めたかったが、スチイは恥ずかしいと言いながら、顔を俺の胸に押し当てて拭いてしまった。勿体無い。

 スチイなら何でも俺の言う事を聞いてくれると思っていたが、段々と大人に成りつつ有るのか?俺の事を男として意識しだしているのか? そう思うと嬉しいけど、やはり寂しい。もっと素直に俺の言う事を聞いて欲しいと思ってしまう。


 ミルクを調理場に持ち込み、加熱している間にスチイが話し掛けてくる。


「昨日ね、お風呂でお母さんといっぱい話したんだ」

「お母さんと一緒のお風呂か、良いなぁ俺も一緒に入りたかったな」

「パパのエッチ『ギュッ』」

 なんだか久々に「パパ」呼びされて、(つね)られた足の痛みも嬉しく感じてしまう。


「それで何を話したんだい?」

「えっとぅ……パパに出会ってからの事」

「パパって俺の事?」

「そうパパの事」

 スチイは『パパの事』と言って恥ずかしそうに、俺の胸に顔を埋めてしまうが、耳が真っ赤でとても可愛い。俺はスチイの事を強く抱き締める。

 抱き締めるスチイを見て思ったが、さっき変な事を言ってなかったか?『お風呂でお母さんと話した』とか何とか、スチイが話し聞かせたって事だろうか?

 俺はスチイを一度解いて、抱き上げてから顔を見て聞いてみた。


「スチイが、お母さんに色々と話を聞かせてあげたの?」

「そうだよ、いっぱいいっぱい話したの」

「お母さんは黙って聞いてくれたのかな?」

「うううん、お母さんにも色々聞かれたよ」

 スチイは俺の質問に『何言ってるの?』と言わんばかりに首を傾げながら、また変な事を言って来た。お母さんに色々聞かれた?分らん。


「お母さんは、どうやって聞いてきたのかな?」

「うん? 普通に聞いて来たよ」

 ……?


「スチイのお母さんは声が出せなかったよね?」

「あっスチイとはね、お風呂の中でなら話が出来るの」

「そっか、それなら俺も一緒に入りたいな、お風呂」

「お母さんは駄目」

 また『エッチ』と言われると思ったら、お母さんは駄目? スチイとは良いって事なら今度誘ってみよう。

 だが不思議だ、お風呂の中でなら話せるとは、人魚族はイルカやクジラに近いのだろうか?もしかしたら超音波診断では不快な思いをさせてしまっただろうか?

 俺は世界は広いと、まだまだ知らない事だらけだと、つくづく思う。


 今日のスチイは、潮とミルクの香りが混ざり、顔や手を舐めたくなるほど美味しそうだ。

 俺は抱かかえながら、スチイの背中と柔らかい太腿(ふともも)を十分堪能してから、降ろす。

 そして加熱処理したミルクをスチイは家族三人で飲むだろうから多めに、俺やエルフ族達の分は少なめに分けて、部屋へと戻る。

話中では古い言い伝えの為、海老と魚しか言われてませんが、イカ等の他の海の生物にもアニサキスは寄生してます。古くにはイカ、タコ、ナマコ等見た目的に、貝類は毒を持つ事もある為、言わずとも食べなかったようです。

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