山下り
エルフの族長が今度はアーサー王に向き直り、アーサー王はエルフの族長に反応してスグに質問してくる。
「吸血鬼を何処へ連れて行った?」
「あらあら怖いのね。もう少ししたらね。ダンジョンの町に戻るのね」
アーサー王は待たされたせいか、すでに怒り気味に話し始めたが、エルフの族長にとっては柳に風と言うか何でも無い事の様に普通に返す。
「本当か?」
「あら本当よ。但し三人一緒にね」
あれ? 三人? 若様とスチイと俺? お母さんは会うだけだろうか?
「いや、まさか人魚姫も誘拐する気か?」
「どうかしらねぇ。ダンジョンの町の孤児院より簡単じゃないかしらね?」
なるほど俺は入ってないって事か、俺を含めて四人と言って欲しかった。残念。
エルフの族長に任せるのがだんだん怖くなって来たな。王様相手に何を言い出すかと思えば誘拐宣言じゃないのか?
「それで何をしたい?」
「そうね、皆が憧れる宝物なのね。守ってあげたいわね」
「もともと引き取り手が無く我が預かった子だ。居場所を知っているなら連れて来い」
「いやよぅ。引き取り手が無い子なら私が預かってても良いのよね?」
「ダメだ返してもらう!」
アーサー王は本気で怒っているのか顔を赤くして怒鳴る様な大声でダメだと言う。
「向きになっちゃって、おかしいわねぇ、何か有るのかしら?」
「何も有る訳無かろぅ」
王様がさっきまでの勢いとは違って、『何も無い』と言いながらも腰が引けたのか半歩下がり言い淀んでる気がする。
「じゃぁペンドラゴンに聞いちゃうわね」
「何も無い!」
王様は怒り言い淀み今度は激怒りだよ。「王様とは忙しい者と見つけたり」と「葉隠れの書」に書いて有った様な無かった様な。
「ペンドラゴン、私は治療薬とお孫さん? スチイを預かってるのね。近い内に人魚姫も頂いちゃうのね。どうかしら素敵じゃない?」
とうとうスチイを預かってると言っちゃったよ。しかも人魚姫の誘拐予告まで。
「何を言いたいか、ハッキリしてほしい」
「そうねペンドラゴン、私ね、一度病気で死にそうになったのね。誰に会いたかったか分かるわよね?」
「あぁ今なら分かる」
エルフの族長が優しく語りかける様に話すとペンドラゴンも少し落ち着いたように天を見上げながら静かに答えた。
エルフの様な長生きでも最後に会いたい誰かっていったい?
「会いたいんじゃないかなぁってね」
「今すぐにでも孫に会いたい」
今更、孫に会いたい? 竜人がスチイの家族を引き離したんじゃないのか? 族長であるペンドラゴンの指示では無かったという事なのだろうか? 分からん。
俺は一瞬怒りを覚えたが誰の指示だったかが分からない為、怒りを抑えた。
「その見返りにアーサー王に何を渡すつもりだったのかしらね?」
「……聖杯のヒントだ」
「ペンドラゴン!」
ペンドラゴンは観念したかの様に俯きながら静かに「聖杯」と言うとアーサー王は怒ったのか焦ったのか大声で「何故話す」と言わんばかりに竜人の族長の名を叫ぶ。
そもそも聖杯なんて存在するのか? 竜に人魚ときて今度は聖杯か? 何処までが本当か全然理解出来ない。
「言い忘れてたけどアーサー王の探し物も、持っていたりするかもしれないわね」
「どこに?」
「そもそも探し物の形も知らないのかしらね。くふふふ、本末転倒よ、アーサー王」
「何処に有る、変わりに何が欲しい?」
いやいや流石に聖杯持ってるはハッタリだろう。言い切ってないし上手く手玉に取られてる感じだな王様は。
「むりねぇ。アーサー王に探し物は見つけられないし使えないのね、ごめんなさいね」
「そんなことはない!」
「ペンドラゴン、孫に会わせるからアーサー王に協力しちゃだめね」
「分かった。薬と娘、よろしく頼む」
「約束なのね」
エルフの族長は言いたい事は言ったと言わんばかりに、途中でアーサー王の事は無視して今度はペンドラゴンと話し始める。
今のは完全にアーサー王を敵に回した感じがする。良いのかエルフの族長。
「帰る!」
「気を付けてねアーサー王」
「わるかったな」
怒ったまま帰るアーサー王に対してエルフの族長は少し笑いながら「気を付けて」と言い、ペンドラゴンは何か謝った様な言葉で見送った。
完全に怒らせたけど仕返しとか怖くないのか?最悪エルフ森林に引き篭りだな。
「そう薬の件ね。すでに早馬で手配に向かってるのね」
「ありがとう」
「ノーバン良いかしら?」
「連れて来ます」
「私も退室するわね、親子孫で楽しんでね」
「何から何まですまない」
俺とエルフの族長も部屋を後にして、入れ替わりにスチイと若様がペンドラゴンの部屋へと入って行き、静かに扉が閉められた。
話が終わった俺達は一度解散となり、特に何もする事の無い俺は部屋に戻り、スチイの服や下着、下着と荷物を纏めて屋敷の使用人に理由と「スチイか若様に届けて欲しい」事を言って渡した。
少し広く寂しくなった部屋で俺は一人、ぼーっとして昼まで過ごした。
昼食にスチイは現れず、他の事を気に掛ける余裕が無く、族長の旦那も居ない事に気付かずに昼食を済ませる。
昼食後、時間を持て余した俺は厩舎へと行き、馬とヤギの世話をしていて馬が一頭少ない事に気付き、慌ててエルフの族長の部屋を訪ねた。
族長に馬が足りない事を報告すると、『旦那が薬の手配の為に出て行ったのよ』と『昼食の時も居なかったのね』と暗に『昼食の時に気付かなかったの?』と言われた気がしたが、その時の俺はスチイの事しか考えてなかったのだろう。一言謝ってから部屋を後にして厩舎に戻る。
厩舎で時間を潰した俺は夕方、お風呂と夕食を頂いた後、部屋に戻ってからの時間が凄く長いと感じる。スチイと一緒の時には感じる事の無かった時間の長さだ。
ベッドに入るも眠くならずに色々と考えてしまう。スチイの事もだが、昼間の内に町に出て今一度竜人を観察して、病気の確証を確かめるなりした方が良かったのではないかと、俺の診察と判断は正しかったのか? と今更に不安になる。
眠れない俺は散歩でもしようと暗い外に出て歩いていると、後ろから魔王が付いて来た。魔王は厩舎を抜け出して来たようだ。
「魔王も眠れないのか?」「ブルッ」
魔王は首を横に振りながら鼻を鳴らす。
「俺が夜中に出て来たから起きて来たのか?」「ヒンッ」
魔王は頷いて一鳴きする。どうやら俺が起こしてしまった様だ。
名前と違い優しい魔王の心使いに礼をする様に、首筋を撫でながら屋敷に目を向けると、明かりの付いた部屋が幾つか見える。あの明かりの何処かにスチイが居るのだろうか? それとも寝てしまっただろうか?
俺は首を振った後、前に向き直り、星空の元を魔王と明け方近くまで散歩した。
翌朝、朝食の後にエルフの族長から、今後の予定が話される、今日一日で旅の準備をして明日の朝に出発するとの事だ。
俺は今日出発すると思っていたので一日余裕が出来た。町の人々に会う事にする。
俺は一日掛けて待ちの中を歩き回り、色々な食べ物を見て少しづつ買いながら色々な人に話を聞き、自分の診断に確信が持てて安心して旅に出られる。
日が赤くなる頃には屋敷に戻り、お風呂と夕食を頂いた後に眠れない夜の中で旅の準備をした。
翌朝、屋敷の庭に旅に出る者と見送り人が集まったが、その中に現族長のペンドラゴンの姿は無かった。
旅の仲間にスチイのお父さんと馬が一頭増えたが、エルフの族長の旦那と馬が薬の手配の為に別行動と成ったので、人数的にも馬の数も一緒だ。
俺達は簡単に挨拶をしただけだが、若様は多くの屋敷の者に見送れられながら顔を隠してから、屋敷の門を抜ける。
若様の服には鳥の羽が多く飾り付けられ、とてもカラフルだ。
元気の無い町の人々を見ながら歩を進め町の門へと向かう。
昨日までは病気の事やスチイの事で一杯で町の人々の服まで見えていなかったが、門を抜けるまでに見ていると皆が鳥の羽飾りを身に着けていて目に美しい。
そして果物にも目が行ってしまう、竜人の女性はエルフに比べて少し大き目の果物が好きな様で桃や夏みかん、中にはメロンを抱えている女性も居る。
服に飾り付けられた羽飾りも、果物に乗って影を落し更に強調してとても美味しそうに見えた。俺は去り際で大切な物に気付き、竜人の国に来て何を見ていたのだろうと今更に後悔した。
隊列は少し離れた前を狩人が、エルフの族長の前後を付き人とお姉さんが守る様に歩き、それに若様が続き其の後ろには俺とスチイで殿はヤギを連れた魔王だ。
馬に乗るのは族長と若様だけで他の馬は荷物持ちで、魔王はハミを外し、ゆったりした首紐を俺が持ち、鞍には長めの紐でヤギを繋いでる。
俺は左手にスチイの右手を握り、右手は魔王との繋がりを持っていてる。両手とも塞がってしまうがスチイと手を繋ぐには之しかなかった。
スチイのお尻を見られないのは残念だが、手を繋ぎ歩くのも又幸せだ。
出立時に若様とスチイが一緒だと思っていたら、若様は長距離を歩くのは無理との事で馬に乗ると言う。カルシュウム不足の弱い骨で落馬したら死ねると思うが乗馬には自信が有るのだろうか、一緒に旅をすると言い切った。
若様が『一緒に歩けない』と言うと、スチイは魔王を引こうとしたので俺が手を繋ぎ魔王にはヤギをお願いした。
魔王には当然の如く交換条件で馬体を洗う事を要求されたが、それでスチイと一緒に歩けるならば俺にとっては細事だ。
そうして楽しいスチイとの旅が再び始まった。と言いたい所だが若様がチラチラと何度もスチイの方を見てくる。スチイも、その若様に微笑み返す。
いっその事、スチイを連れて俺だけ別行動をしたいと思ってしまう。
そんな俺の事を救ってくれるのは魔王だ。ヤギの道草に付き合う振りをして足を止めスチイと若様の距離を調整してくれている。本当に頭の良い馬だ。
町を出てから尾根に上がり竜人の町に一箇所立ち寄って一晩を過ごし、翌日は山を下り始めた。
馬での下りは厳しいだろうと思い、魔王にお願いして若様を乗せてもらう。
始は俺が頼んだが首を振られ、次にスチイが頼んだら魔王は素直に若様を乗せてくれた。
乗り慣れない馬は怖いかもしれないが、俺とスチイは魔王を信じてる。
ついでにスチイの事も魔王に任せて、俺は最後尾で若様の馬とヤギを引き連れて歩く。
山下りでも途中に山小屋が有り一晩過ごして、翌日の夕方には麓の町まで辿り着いた。
町の入り口には槍?では無く銛を持った男が立っている。
「下着」という単語が被っていますが間違えではありません。
文中に族長が数名出てくるので「エルフの族長」となっておりますが、後日「族長」と省略する可能性がありますが気にしないで下さい。
次話、人魚の国?




