人魚伝説
若様が俺からの条件を飲んだので診察をする事に成ったが『苦しい顔の若様を皆に見せる訳にはいかない』と適当な事を言いつつ皆を排除したかったが、エルフの族長とスチイは一緒に見ると言い張る。
結局は俺と若様以外にもエルフの族長とスチイが立会いと成り、場所は隣の若様の部屋で執務室を使わせてもらう事になった。
執務室は机と椅子以外にも本棚や、丸いテーブルに六人分の椅子や角にはタンスやベッドも配置されていて奥には扉も見える。
俺達はテーブルを囲み椅子に座り、俺は今一度確認する。
「スチイ、お父さんが苦しんだり大声で泣き喚く姿は見ない方が良いんじゃないか?」
「絶対に声は出しません」
「スチイも一緒に居る、何も出来ないけど一緒に居たいの」
俺はスチイに言ったのに若様まで入り込んで答えて、スチイも居ると言い張る。
俺は諦めて診察の為に準備して来た物をテーブルの上に置く。
御椀に水の魔石を入れ、魔力を流し水を出す。
自分の血管に太い針を刺し水の入った御椀に濃い赤に成るまで血を垂らし、もう一つ別な空の御椀にも少量の血を垂らす。
御椀に入った原液の血で手袋に魔方陣を書き、水で薄めた血は大きな紙に均一に染み込ませる。
手袋に書いた魔方陣は手の平側に、音、水、風、の三種で音を中心に目の様な魔方陣で楕円形の中心に円を描いた様な形だ。
手袋を右手に嵌め魔方陣に合わせて魔石を置き手拭で固定する。
試しに自分の左肘を紙の上に置き右手で魔力操作をして、音の魔石で超音波を発生させ風の魔石の力で増幅し、水の魔石で隙間を埋める様に水を出して肘の中に超音波を送りながら少しづつ移動させる。
下に敷いて有る紙は超音波に乗せた魔力により反応し、薄めた血が濃淡を作り出して肘の骨や軟骨の形がハッキリと浮かび上る。
自分の体で試して分ったのは、魔力操作を誤れば超音波で体内の水分を加熱しかねない事と、痛みは鈍く太い感じで我慢は出来るが長時間となると吐き気を催す気がする。腕一本透過するには桶を用意した方が良いだろう。
今回、音の魔石を使ったのは光の魔石では可視光とその少し外の紫外線と赤外線までしか出せず体の中を透過させるのは難しいと考えたからだ。
念の為に桶を用意してから、診察として若様の左腕に魔力を流し透過した。
若様は右手でスチイと手を握り合い、声を上げる事無く俺の診察に耐えた。
透過させて浮き上がった骨や軟骨を確認すると、軟骨の形状が良くない、俺の肘を透過させた物と見比べると違いがハッキリと分る。
腕の骨も濃淡から見ると密度が薄いと判断できる。
数種類上げた病名の候補の中で唯一完治が可能な病気の可能性が濃厚だ。
病気の原因は大よそ見当が付いたが、皆は紙に映し出された濃淡の模様を見ても分らない様で俺の顔を見ている。
それならばと思い俺は一つの要求をしてみる事にした。
「病気の原因は分りました」
「「「ほんとう?」ですか?」」
俺も絶対の自信が有る訳ではないが、ここはハッキリと言い切る。交渉する上での鉄則だ、弱みを見せない。
皆は一様に驚いた様で言葉が被る。
「ですが治療に当っては報酬を頂かねばなりません」
「幾らでも払います」
俺の要求に若様は即答で払うと言うが、残念ながら俺の要求はお金では無い。
「では報酬として俺は幸せを頂きたい」
「幸せとは何でしょう?……まさか娘を寄こせと?」
俺の要求を聞いた若様は一瞬考えた様だが、俺の視線に気付きスチイを見て抱き寄せながら「娘を」と大声を上げる。
「スチイなら良いよ一生一緒に居るって約束したから」
「……ス……チイ?」
スチイは嬉しい事を言ってくれるが、俺の望みは少し違う、だが今はまだ材料不足だから勘違いさせたままの方が話しは早い。
「治療さえすれば国中の竜人の方が助かりますよ、如何します?」
「……わかった、治療をお願いする」
若様はスチイを抱き締め、スチイは一つ頷いて見せ、心が決まった様に若様は了承してくれた。
「まずは病名から……、カルシュウム不足です」
「カルシュウム?」
エルフの族長は病気の原因は理解した様だが『本当に?』と言わんばかりに俺の方を見る。若様はカルシュウムが分らないかの様に聞き返す。
「他の可能性の毒物、重金属、病原菌、等では発生源を抑えても体内に入った物を取り除いたり、死滅させる事が困難でしょうし、ホロモンバランスや原因不明の病気では対処のしようが無く、候補に上げた中では唯一治せる病気です」
「はぁ? で薬か何か頂けるのでしょうか?」
やはり若様はカルシュウムの事を理解してないと思える、本当に病気をしてこなかった種族なのだろう。
「薬はお出ししますが、町に牛やヤギは居ますか?」
「いいえ、竜人には角の生えた生き物を食べる習慣が無いので居ません」
「そうですか、今薬をお持ちします」
俺は少し席を外して隣の部屋で待っているエルフの付き人にミルクを頼み席に戻る。ミルクが届くまでに若様にカルシュウムに付いて説明した。
カルシュウムが歯や骨を形成するのに必要な事、筋肉を動かすのにも必要な事、魚やミルク、ヒジキ等に多く含まれる事、吸収するにはビタミンDが必要で日に数分でも良いから日光に当たった方が病状の改善が早いだろう事等を話した。
俺が説明を終えたタイミングでドアがノックされミルクが運び込まれる。
「魚ですかぁ」
「人魚の国との諍いの事が心配ですか?」
若様は溜息をつき天を仰ぎながら疲れた様に一言漏らした。
「それも有りますが一つ昔話を聞いて頂けませんか」
「はい勿論」
若様がミルクを飲み干し空に成ったコップに俺がミルクを注ぎいれる。
それを見ながら若様はスチイを膝に乗せ語り出す。
「太古の昔、竜と人魚は海に居たそうです。
夕日の様に真っ赤な竜は、魚が大好きで海を駆け回り食べていました。
でも人魚だけは食べませんでした。
なぜなら、竜は人魚の姫の美しい歌声が大好きだったのです。
嵐が来て困っている人魚を見れば竜は天に昇り雲を散らしたそうです。
人魚の姫は竜の元へ赴いては歌を歌いました。
人魚の姫は竜の頼もしい強さが大好きだったのです。
ある日、月の光の様な金色の髪と、空と海の様な青い目をした人魚の姫が、嵐の中イカの化け物クラーケンに襲われ、それを竜が助けました。
ですが竜は深手を負い海に沈んで行ったそうです。
姫は竜を海の中から引き上げ陸まで運んだそうです。
看病をしたいが陸では何も出来ず、魚を取って竜の近くに運ぶ事しか出来ませんでした。
姫は人間の気配がしたので海に隠れ、次に来た時には人間も竜も姿は見えませんでした。
竜は人間の気配で目が覚め、何故か近くに有った魚を食べ。人間は『私が助けた』と言うも、竜は話も聞かず魚のおかげで僅かに戻った力を使い、傷を癒すと言われる霊峰に向かいました。
竜を探す為に人魚姫は美しかった声を捧げ、代わりに足を授かり竜が傷ついたなら霊峰へ向かった可能性があると聞かされました。
竜が大好きだった魚を持って、授かったばかで言う事を聞かない足を引きずり、竜が居るか居ないかも分らないのに、険しい霊峰を登ったそうです。
霊峰にて竜は徐々に傷は塞がるが、鱗は輝きを失っていくのでした。
姫が辿り着き竜の大好きだった魚を渡すと、美味しそうに食べ僅かながら鱗が輝いたそうです、輝きを失った鱗と魚を食べた時の一瞬の輝きを見て、姫はまだ不自由な足で何度も何度も霊峰と海を往復し魚を運んだそうです。
竜の鱗も徐々に輝きを取り戻すも人魚姫は一言も話してはくれませんでした。
美しい声で歌う事は有りませんでした。
ある日、人間の王女が訪ねて来て竜に『助けたのは私だ』と言います。
『海から助け魚も与えた』と言います。
いつも魚を届けてくれる姫は何も言いません。
人間は竜に一緒に城へ来て欲しいと言い出します。
それでも姫は何も言いません。
困った竜は自分の命とも言える、竜の宝玉と自分の逆鱗を、死の痛みに耐え剥がし、人間に与えました。
『それを持って清らかに願えばどんな望みも叶う』と『私の力の全てだ』と言う。
竜はその言葉が本当であるかの様に力を失い人の姿に成りました。
人間の王女はそれを見て何故か竜ではなく宝玉と逆鱗を手に城へ戻りました。
姫は何も言わず力を失った竜を見ても今まで通り霊峰と海を往復し、魚を何度も竜に届けたました。その甲斐有って竜の傷は完全に癒え失った力も僅かばかり回復しました。
竜は力を失うも姫のお陰で僅かに回復した力で姫をいつまでも護り続けました。
二人は、力も歌声も失いましたが、幸せに暮らしたそうです。」
そう若様は静かに話を閉じる。
「とても良いお話が聞けたわね、代々伝わるお話かしら?」
「いいえペンドラゴンと人魚姫と半分づつ聞かされていた話を、私達が夫婦に成る事で抜け落ちた部分が埋まり一つの物語と成りました」
俺が感動に浸る中、エルフの族長は若様に質問をしている。
「ここに居る者意外誰かに話したり知っている人は居るのかしら?」
「いいえ私達と娘以外で話したのは、あなた方が初めてです」
「では内緒よ、誰にも話してはいけないわ、話したら殺されかねないのね」
何か物騒な話が聞こえ一瞬にして顔から血の気が引く、エルフの族長が言うのだ何か有るのだろう、俺も気をつけなければ。
俺の知っている人魚伝説とは違ったが、若様の話を聞いて俺にも確信が持てた気がして一応話しをする。
まずは俺の診察方法を他言しない事を約束してもらってから話し始めた。
やはりカルシュウム不足だと言う事、発病も早く発病者も多く症状も重いのは種族的な事が大きく関係しているだろう事。
竜人は始祖が竜との事で鱗が有った筈だ、今は鱗が無くとも鋼の様な体を作る為にカルシュウムや鉄が他種族に比べ必要なのかも知れない事。
俺の話を聞いた若様が納得した様に話し出す。
「そうですね、竜人は鱗を失っても最強を誇る戦士です、鋼の肉体と言われ鱗を失ってもその体の維持に魚が必要なのですね」
スチイのお父さんだけならヤギ一頭で事足りるが、国中の全員にとなると俺の手には負えない、頼むしかない。
「族長、牛やヤギのミルクや魚やヒジキの手配をお願いできますか?」
「私にも何か頂けるのかしら?」
「若様に聞いて下さい」
「冗談よ、明日にでもペンドラゴンに会って請求するから良いわ」
エルフの族長は何やら嬉しそうにニヤニヤしながら一応引き受けてくれた様だ。
ペンドラゴンとは現族長の事だろうか?請求と言っていたが何を要求するのやら?俺は危険を感じて族長から少し距離をとる。
診察と会談を終えて元の会議室の様な広い部屋へと戻り、他のエルフの方々にも簡単な説明と、まだ他言しない事をお願いした。
後半は御伽話で一行毎に「」括りにしようとも思ったのですが、見難いので省略しております。
人間族に伝わる伝説や御伽話とは少々違うようです。




