スチイの両親
これまでの粗筋、教会のシスターの依頼で少女を冒険者にして欲しいと言われスチイと名乗る少女に会った。スチイは幼少の頃から苛めにあっていた、だが教会内でも苛めにあっている事に気付いた俺は、スチイと共に教会を飛び出し、冒険者のギルド長を訪ね手立てを探し要人リストに知人の名を見つける。知人とはエルフの族長だ、早馬を依頼しようにも高く、自分とスチイでエルフの国を目指し族長を訪ね話す機会を得たのであった。
「今からスチイちゃんの御両親とスチイちゃんの生い立ちについて話すわね」
スチイの事を知っているなんて驚いたが、族長の話を聞くことにする。
「スチイちゃんの髪と目の色は世界に一人なのね、名前は聞いていなかったけれど髪と目を見て確信したわ、ご両親からしっかり受け継いでいるのね」
「スチイの御両親と知り合いだったのですか?」
「そうね私も孫のアールヴもスチイちゃんの御両親も皆同じなのよ、わかる?」
アールヴって確かママの事だろう?種族も年齢も、両親だから性別違いも居る、そもそもスチイの両親を知らない、俺がスチイから何か聞いていると思っているのだろうか?何かの共通点を持った知り合いと言いたいのだろうが分らん。
「全然共通点が見えません」
「そうねぇ、では族長がどうやって選ばれるか知っているかしら?」
「えっと人身掌握とかお金とか武力とか血筋とか種族によって違うのでは?」
「そうねぇ規格外のノーバンでも、その辺りは人間なのね、ウフフ」
「はあ?」
王様や族長になんて成りたいと思って成れる者じゃなし興味も無い。
雲の上の人がどうやって選ばれるかなんて知る訳が無い。
「殆ど直係の血筋なんだけど稀に違う子もいるのね」
「はい?世襲制で途絶えたときが稀と言う事でしょうか?」
「ノーバン、スチイちゃんの苛めの原因はな~に?」
「見た目ですか?」
スチイの苛められた原因と、族長の選出が何か関係が有るのか?
シスターやスチイに聞いた話では金色の髪に赤い目が吸血鬼の見た目に似ているのが原因だった筈だ。
「そうそれよ」
「はあ?見た目で族長が決まると?」
「そうなのよ」
「え!? 冗談ですよね?」
「本当よ」
劇の役者だって顔だけじゃ成れないのに美男美女は得だなって事はないよな?
いま一つ言っている事が理解できない。見た目か?何だろう?
「美女、美男が族長なんですか?」
「あら嬉しいわね、私って美女に見えるかしら?」
「はい、もちろん」
族長はママに似ていて、いや逆かママは族長に似ている、族長の若い頃が容易に想像出来る。俺が惚れるくらいの美女だったろう。今でも十分綺麗だ。
「とっても嬉しいけど話を戻すわね」
「はい」
旦那が居ても何歳に成っても、美女と言われると嬉しい者なのだろうか?
今は旦那も席を外していて俺と族長の二人切りだし、マジマジと族長を見てしまう。何歳かは不明だが、やはり綺麗だ。
「人間以外の殆どの種族が髪の色と目の色で族長が決まるのね」
「え? それじゃ何人も居ますよね?」
なんだか変な方向になってる髪と目の色で族長が決まるなら、世界で一人の組み合わせのスチイなら法王にでも成れるのだろうか、それが原因で何か有ったのだろうか。
「何人もは居ないのね」
「そうでしょうか? 確か、族長とお孫さんは良く似ていますよね?」
「そうね、あの子が次の族長なのね」
「えぇぇ! 本当ですか?」
「本当なのね」
「すみません、町で働いてます、御免なさい」
やばい働いてるのは本人の意思だが俺にも責任の一端はあるかも知れん。
しかも健全とは言え夜の仕事で主に異性の相手に話を聞くスナックだ、ママが手紙に何処まで書いたかは分らないが、俺は肩幅を縮じめ頭も下げて謝る。
「あら、楽しそうにやってるみたいだから平気よ」
「有難う御座います、そう言って頂けると助かります」
良かった、怒っては無い様だが「楽しそうに」って何処まで書いたのだろう?
「ノーバンがそんな言い方をするって事はアールヴとの間には特別な関係が有るのかしらね、うふふ」
「いえ!何か有ったら良いとは思いますが、特に何も無いですよ」
「あら、残念ね」
「そこは残念がる所ではなく、安心する所ですよ族長」
「そうかしらね? まぁ今は良いわ、話を戻すわね」
「はい、お願いします」
からかっているのだろうが、孫が沢山居るならと言いたいが、ママは次期族長だから孫の中でも特別なのだろうか?
「例えばエルフは、新緑の髪に樹木の茶目で光彩が大きい子が神の祝福を受けた子なのね」
「はい」
神の祝福って何処かで聞いたフレーズ? まあいいか。確かに族長とママは新緑色の髪に茶色の綺麗な目をしていて好感が持てる。
「スチイちゃんのお父さんは竜の末裔ね」
「はい? 竜! 人間じゃないんですか?」
「それはおいといて話を進めていいかしら?」
「はい、すみません」
俺が竜と聞いて身を乗り出したせいか、族長が少し身を引いている。おいとかないで欲しい竜の話とか聞きたいし会いたい。何処かで竜の話を聞くタイミングを見計らおう。狩人も竜人がと言っていたが本当に居るのだろうか?
「竜の末裔は夕日の様な赤い髪に赤い目の子が神の祝福を受けた子なのね」
「はい」
「スチイちゃんのお母さんは人魚の末裔なのね」
「いやいや、流石にもう騙されませんよ、くくくく」
「そんなに可笑しいかったかしら?」
族長は不思議そうに首を傾げて聞いてくる。こんな分り易い与太話を信じるとでも思ったのだろうか?騙されるのは子供くらいの者だろう。
「はい、笑っちゃうくらい可笑しかったです、竜に人魚で、しかも結婚して生まれた子が人間ですか?あははは」
「いいえ、あの子は人間種じゃないわよね」
「はえ?」
笑っている所に突拍子も無い事を言われて驚き変な声が出てしまった、スチイはどう見ても人間にしか見えないんだが。
族長は真面目な顔で笑いの一つも無く、むしろ俺が変な事を言っていると言わんばかりに首を傾げている。
「本当の事しか話して無いから聞いてね」
「はぁ?」
いやいや、どこをどう聞いても本当の事とは思えないんだが。族長の真面目な顔と口調に圧される様に俺の笑いも止まってしまい、半信半疑だが素直に話を聞く事にした。
「えっと、お母さんが人魚の末裔まで話したわよね?」
「はい」
「人魚の末裔は、月の様な黄金の髪に、空と海の様な青い目の子が神の祝福を受けた子なのね」
「はい」
「スチイちゃんはお父さんの赤い目と、お母さんの黄金の髪の両方を授かった子なのよ」
「はい?」
なんだか話が凄すぎて分らん。本当の事なのだろうか?疑いの目で族長を見てみるが真面目な顔で俺から目を逸らしたりしない、本当の事を言っている気がする。
「分ったかしら?」
「いいえ、全然、まったく分りません」
やべ、素で返してしまった。言葉としては分るのだが俺の常識での理解が追い付かないと言うか、何かが邪魔しているような感じだ。
「あらあら、じゃぁもう少し説明が必要ね?」
「はい、お願いします」
まだ何か有るのか、つい「はい」と返事をしてしまったが、全然理解が追いつかないのに余計に意味不明な事を聞かされたらどうなるんだ?
「エルフの神の祝福を受けた子は緑髪、茶目で森の妖精なのね」
「はい?」
「竜の末裔の祝福を受けた子は赤髪に赤目でペンドラゴンなのね、最強戦士なのね」
「はい?」
かっこいい男の追い求める姿と言うべきか名前からして強そうだ、赤い髪に赤い目の竜って炎でも吐きそうだが、最強戦士がスチイの父親なのだろうか?
「人魚の末裔の祝福を受けた子は金髪に青目で人魚姫なのね美人さんね」
「はいいい?」
人魚姫の伝説は昔聞いた事が有る、確かに美人では有るのだろうが最後は泡と成って消えてしまう筈だ。末裔なんて存在するのだろうか?余計に頭が混乱して来た、考えるのを諦めて信じるしかないか?
「分ったかしら?」
「全然理解出来ませんが本当の事なんでしょう、族長がそこまで言うなら」
「あらあら私からしたらノーバンの方がもっと信じられない事なのね」
「俺は只の人間ですよ」
「ノーバンの魔法に比べたら森の妖精もペンドラゴンも人魚姫も途絶えた事はないのね」
「はあ?」
途絶えた事が無いとは、族長という事だろうか?俺の魔法はダンジョンで身に着けた知識と魔石の力で言わば借り物の力だ、大した事じゃない。
「ノーバン、見た目はエルフも竜人も人魚も、人間とあまり変わらないのね」
「成る程、それなら少しは理解できます」
見た目は人間と変わらないのか、エルフ族も耳が隠れていたら見分けは付かないし、ドワーフも幼く見えるが人間と変わらなかった。
スチイも人間にしか見えないから、竜人も人魚もそういう者なのだろうか?
「落ち着いたかしら?」
「ええまぁ、したら、おかしいですね?」
「何がかしら?」
「スチイの両親が王子と姫君って事じゃないですか?」
両親が王子と姫君なのに誰がスチイの事を苛めたと言うのだろうか?
使用人や権力争いのとかの関係だろうか?他にも色々と疑問が有る。
「そうねぇだから問題なのよね」
「はぁ?無いです、王子と姫君の子が孤児院ですよ有り得ませんよ」
「それが有るから困っちゃうのよねぇ」
「いえいえ、それこそ困らないで力を貸してくださいよ」
族長は頬に手を当てて首を傾けて困った顔をしながら答えてくる。
そんな顔をされたら俺の方が困ってしまう、それはスチイが困る事に成ってしまうから何とか頑張って貰うしかない。
「もちろん手は貸すわよ」
「有難うございます」
「あら報酬は体で払って頂けるのかしら?」
「え? 報酬ですか?」
報酬? 体で? 何言い出すんだ族長は、まぁ同じ事を俺は何時も言ってるが。
何も考えずにエルフの族長なら無償で力を貸してくれると思い込んでいた俺の考えが甘かったのだろうか、今からでも何か対価を考えた方が良いか。
「そうよう孫の手紙に沢山書いて有ったのよねノーバンの事、好きなのかしらね?」
「何が書いて有ったか知りませんが全部嘘です、捨てて下さい」
「あらあら、見ないで嘘つき呼ばわりで孫の手紙を捨てろなんて悲しいわよ」
おかしいと思った、報酬を体で払えなんて族長が言う筈がない。
成る程余計な知恵つけたのは孫からの手紙なら納得もする。
族長は体を屈めて上目遣いに、悲しい顔をしながら縋る様に言ってくる。涙は見せていないが女の武器を使われている気がする。
「分りました、せめて忘れて私に力を貸して下さい」
「はいはい私も孫も救ってくれたノーバンの頼みだもの協力するわ」
「有難うございます、救われたのは俺もですが」
なんだかんだで俺も救われたし報酬も頂いたしな。こうして今の俺が有るのも族長のお陰とも言える。
「大丈夫よ今回の件は貸しにしておくわね」
「はい、それでお願いします」
「素直ね」
族長は少しニヤニヤと笑いながら受け答えをしている、ママからの手紙と実際の俺の反応を比べているのだろうか?
そもそも只でお願いと言いたいが、言えないだけだ。
「はい他に頼れる方が居ませんから」
「そう言えばまだ話には続きがあるのね」
「はい?」
何処まで話したんだったか、スチイの両親が王子と姫君までは聞いたか。
話の続きって何だろう、スチイがダンジョンの町に流れてくるまでの事かな?
「スチイちゃんの両親は生きてるのね」
「え? 王子と姫君が生きてて子が孤児院って捨て子ですか?」
「違うのよね」
「はあ?」
居るなら連れて来てくれよ、それなら俺も誘拐犯じゃなくなる。
いやいや色々と有り得ない事ばかりだ、理解出来なくて頭が痛くなって来た。
何故に族長は平然と話が出来るのか、長生きだから少しぐらいの事では驚かないのだったか。
「あまり大声では言えない話なのね」
「大丈夫です余計な事は言いません」
「じゃぁ話すわね」
「……はい宜しくお願いします」
俺は少しだけ時間を掛けて、心を落ち着かせてから話を聞く体制を整えた。
ここまで聞いたら最後まで聞かなくては気になって仕方ないだろう。
俺が誘拐の罪から逃れる為にも、スチイの幸せの為にも話を聞く決意をする。
数日休載して短編投稿しました。そちらもご賞味下さい。




