駆け落ち
スチイと話し終わると魔王が来て、俺の服を咥えて引っ張る。
「何だ遊びたいのか?」「ブルルッ」
魔王は大きく首を横に振る、遊びたい訳じゃないらしい、俺の服に何か?
「分った、塩が欲しいのか?」「ヒンッ」
俺は塩の塊の入った袋をスチイに渡して言う。
「スチイ、魔王が塩を舐めたいらしいから手で持ってやってくれ」
「はいパパ」
スチイは自分の両手より大きな塩の塊を胸の前に抱え魔王の前に歩いて行く。
魔王は嬉しそうに塩と一緒にスチイの顔まで舐めている。
「くすぐったいよ、まおう」「ヒンッ」
馬を相手に嫉妬しても仕方ないが、羨ましい俺も何か理由を付けてスチイの顔を舐め回したい。魔王の奴もわざとスチイの顔まで舐めてるよな。
スチイの顔がベチョベチョに成ってしまったので川で洗ってから村に戻る事にした。
村に入ろうとすると魔王が踵を返し川へ戻ろうとする。
「魔王? 村は嫌いか?」「ブルルッ」
村が嫌いなわけじゃないらしい、何だろう?
「食後の運動がしたいの、まおう?」「ブルルッ」
スチイの問い掛けにも、魔王は首を横に振る。面倒な人間の言葉が分るなら喋れと言いたい。
「草をもっと食べたいのか?」「ヒンッ」
草が食べたいと言われても沢山食べただろうに、俺もスチイも昼飯を食べたいし、森林で二、三日迷えば我侭言わなくなるだろうから良いか。
「分った俺とスチイも昼食だから、魔王一人で行って来い」「ヒンッ」
「行っちゃったよパパ?」
「俺達も食事にしよう」
「はいパパ」
スチイが首を傾げるが、森林なら馬の食料は沢山有る死ぬ事は無い筈だ。
でも食事の話しをしたらスチイは笑顔で俺に抱き付いて来た。魔王の事より自分の食事が大切らしい。
昼食を取りスチイを昨日のお姉さんに預け、午後から族長に会いに行った。
族長の部屋は畳敷きの十二畳だ、その部屋に族長が中央に座布団を敷き静かに座っている。
部屋の奥に神棚は有るが、それ以外は何もない少し広いだけの部屋だ。
「お久しぶりです族長」
「嬉しいわ、また会いに来てくれたのねノーバン」
「はい」
俺は一礼して挨拶をしてから、族長の正面に向かい合うように座った。
「ただ会いに来ただけじゃないのよね?」
「はい、でもお土産も持って来ましたよ」
お土産に自信の有る俺は少し顔がニヤケてしまう。
「なにかしらね?」
「その前に、お孫さんは居ますか?」
スナックのママが自分の祖母と言っていたから間違えは無いと思うが、勿体つける意味も含め一応確認してみる。
「孫なら国に沢山いるわね?」
「族長に良く似たお孫さんの事です」
成る程、エルフは長生きだから孫も沢山居るらしい。想定外の答えに俺は少し焦った。
「誰に聞いたのかしら?」
「本人かもしれません」
良かった話が繋がった。族長とママは目の色も髪の色も同じで顔立ちも似ている。
「ちょっと待ってねノーバン」
「なにか?」
「あなた来て頂戴」
長は珍しく慌てた様に声を上げて旦那を呼んだ。
「ご無沙汰しております」
「久しぶりノーバンさん」
族長の旦那さんと間単に挨拶をする。
俺は後ろに隠していた弓と胸元から手紙を取り出し、二人の前にそっと差し出しながら言う。
「こちらを見て頂いても?」
「あら、あの子に渡した弓だわ」
「あの子? アールヴか?」
族長は俺の差し出した弓を手に取り、優しく撫でる様に確認している。
ママの本名は『アールヴ』と言うのか、前に聞いた気はするが夜の街で普通は本名は名乗らないし、最近は『ママ』としか呼んだ事が無いから忘れてた。
「そう、あの子、元気かしら?」
「そのお手紙を、読んでいる間はお茶を飲んでます」
「ありがとう失礼して読ませて頂くわ」
俺は族長の質問に答える事無く、間接的に今手紙を読む事を進めた。
俺の言葉より手紙の方が現状が伝わるだろうし、手紙が気に成って俺の話しに身が入らないのも困るから、手紙を読む時間位は待つつもりだ。
どれだけ書いたんだ? ずっと読んでる繰り返し読んでるのかな? 長いのかな?
「待たせてしまって御免なさいね」
「いえいえ、お構いなく」
「それで、あの子の事は手紙を頂いたので後で話は聞くわね」
「はい、宜しいのですか?」
族長は隣で覗く様に見ていた旦那に手紙を渡し、俺と向き合って話す体勢を整えてくれた。
「孫の事は、お土産で他に用が有るのよね?」
「はい、では大変失礼ですが不躾なお願いが有って参りました」
流石は族長だ、用件が有って尋ねてきた事を忘れてない。
「何でも言って頂戴ね」
「何処から話したものか、端的には領主に圧力を掛けて頂きたく思います」
説明するのは長くなるから後回しにして、「何でも」言われたから先にお願いから言ってみた。
「また、すごいお願いね、構わないけど聞かせてくれるかしら訳をね?」
「昨日一緒に連れて来た子供は、孤児院から許可無く連れ出した子なのです」
「あら、駆け落ちかしら? 若いって良いわね」
絶対分ってて、からかってるやっぱり血は争えないか、ママと似ている。
「えっと、幼少から苛められ、孤児院でも苛められていてつい連れて来ました」
「つい、で連れて来ちゃったの?」
「はい、申し訳ありません」
「ノーバンらしいのかしらね?」
やはり第三者の視点から見ると異常なのだろうか? 悪い事をしたつもりは無いが、族長には迷惑を掛けるだろう、取り合えず先に謝っておく。
「それが元で孤児院のシスターから司祭様まで連絡が行き、孤児院の養育費の関係で領主様まで動く可能性がありまして」
「それを止めて欲しい訳ね?」
「はい御迷惑お掛けします」
「子供を救う事は迷惑とは思ってないから安心してね」
「有難うございます」
良かった「子供を救う」と言ってくれたから助けてくれるのだろう。少し安心した。
「ノーバンそんなに可愛い子なの?」
「はい可愛い女の子です」
「あらあら惚気ちゃってしょうがないわね」
「いえ、まだ子供ですから」
「でもノーバンが助ける可愛い女の子なんて興味しんしんだわね」
「はぁ?」
「あなた、手紙を何度も読み返してるならノーバンの彼女を連れて来てくれないかしら?」
「あ、ああ待っててくれスグに連れて来る」
旦那さんは俺の話より手紙が大切な様で、ずっと手紙を読んでいたが、族長にスチイを連れて来るように頼まれスグに動き出す。
「くふふ、あの人もノーバンからのお土産が気に入ったみたいね」
「喜んで貰えて俺も嬉しいです」
旦那がスチイを連れて来るまでは、昨日の村での歓待や夕食での騒ぎの事を話し御礼を言った。
しばらくすると旦那とスチイが一緒に部屋に入ってきた。
スチイは着替えさせられた様で午前中と違う服で、少し厚手の黒い大人用のワイシャツだ、ボタンの掛け方が男用だろう袖は手首まで捲り、ボタンは首元とその下も外していて、胸元の下着が少し見えている。
腰紐でリボンに結びシャツの裾は膝に掛かる程長い。
中に短パンを履いているだろうが、見た目はシャツだけだ。スチイの白い肌と黒いワイシャツのコントラストが良い、下着も少しだけ見える所がまた良い。
「連れて来たぞ」
「こんにちは、可愛い彼女ね」
何も聞かされずに連れて来られたのか彼女と言われたせいか、周りを見回しているスチイに小声で「名前を教えて上げて」と言った。スチイは我に返って挨拶をする。
「スチイと言います宜しくお願いします」
スチイに『良く出来たね』と小声で褒めてた。
「私はエルフ族の長でノーバンのお友達よ、『おばあちゃん』って呼んでね」
「スチイを助けてくれる、おばあちゃんに紹介したいから全て話すよ」
「はいパパ」
スチイは俺の隣に座り、俺はスチイを守る様に少し抱き寄せて話をする。
ホンの少しだけスチイの胸元を覗き見る、実に可愛い、涎が出そうだ。
「スチイの苛められていた理由をお話します」
「おねがいね」
「驚かないで聞いて下さい」
「はいはい長生きしてるから少し位では驚かないわね、くふふ」
長生きは良いが何年くらい生きているか聞いた事は無い、聞いてみたい気もするが例えエルフでも何歳でも女性に年齢を聞くのは良くない事だ。我慢する。
「では、スチイは、月の光のような金色の髪に、夕日のような赤い目、その月と太陽、両方を兼ね備えた子なのです」
「……えっ? もう一度良いかしら?」
驚いたように夫婦で見合って、もう一度確認してくる、言い回しが洒落過ぎたか?
今度は分かり易く、洒落た言い方を止めて普通に説明してみる。
「スチイは金色の髪に、赤い目です、それが吸血鬼の容姿と似ているからと苛めにあっていました」
「まあまあ、驚いたわ」
「そんなにですか?」
また夫婦で見合ってる、やはりスチイの目と髪の色の組み合わせは世界で一人って本当らしいな。
そもそも長生きだから驚かないんじゃないのか?
「もっと良く見せてくれるかしら?」
「スチイ帽子を取ってもらって良いかい?」
「はいパパ」
スチイが帽子を取ると夫婦して目を皿のようにして観察してる、少しスチイが怯えてる。
「あの、宜しいですか?」
「え、はい」
「すみませんスチイが怖がっていますから」
「あら御免なさいね、おばあちゃん怖かったかしら?」
「……いえ平気ですパパが隣に居るから」
うん? 間接的に怖いって言ってるけど素直だから良いか。
「あなた適当に人を集めて早馬を例の二カ国へ送って頂戴、但しスチイちゃんの事はまだ言わないで私が訪問するかも知れないとだけ伝えさせてね」
「分ったスグ手配する」
小声で何か言いって旦那を使い走りにしている。族長は偉いんだな、かかあ天下とは少ししか思ってない。
「ノーバンは神様に愛されてるのね」
「いえ神に愛して欲しいとは思ってませんので」
「あらあら理想が高いのね」
「好みの問題かと」
神は人間である俺の事など気にも留めないだろう。むしろ人間である俺の事は嫌いな筈だ。
ただ「愛して欲しいとは思って無い」は言い過ぎか? 好きに成って貰えないからこその強がりだな、自分が情けなく思う。
族長が呼び鈴で人を呼び、俺はスチイに帽子を被せる。
「この子と遊んでて貰えるかしらね」
「はい、わかりました」
「スチイ、お姉さんと遊んでおいで、エルフの国から出なけば安全だから」
「はいパパ」
俺はスチイの背中を押してエルフのお姉さんへ預ける。
「ノーバン、私とても驚いたのよ、こんなに驚いたのは何百年ぶりかしら」
単位がおかしいだろう、全然共感出来なくて少し笑ってしまう。
「やはり珍しいのでしょうか? 金色の髪に、赤い目は?」
「それもそうなんだけど、そこじゃないのよね」
わからん、それ以外にもスチイに何かあると?
「他にも珍しい部分でも?」
「今からスチイちゃんの御両親とスチイちゃんの生い立ちについて話すわね」
「え! ご存知なのですか?」
「名前も知らず会った事も無かったけど話には聞いていたわね」
「名前も知らないのにですか?」
「えぇ特別な人達にとっては有名な話ね」
「はあ?」
スチイの事を知っているなんて俺の方が驚いたよ。数年ぶり位の驚きだけど。
ただ、名前も知らない子供の事を、何故? どれ位知っているかも疑問だ。
以前と同様に会話の「」内が原文で、それ以外の描写等は小説らしくなる様に追記です。
個人的には会話だけで読んだ方がテンポ良く読めて好きです。
いえ小説じゃなくなるのでお勧めはしません。




