歌と涙
前話の続きでスナックの中です。
今日はボックス席で少しゆっくりする。
「ミミィちゃんありがとう」
「どういたしまして、それよりママとの話は終わったの?」
ボックス席にはテーブルが真ん中に有り、二対二向かい合いのソファーが有る。
スチイが壁際に座り、守る様にその隣にミミィちゃんが座っている。
俺はスチイの向かいに腰を下ろしながら、ミミィちゃんに返事をする。
「ああ、お蔭様でな、スチイも良い子で居たか?」
「はいパパ」
俺は身を乗り出して、良い子で居たらしいスチイの頭を撫でて『ヨシヨシ』と褒めてあげる。
スチイが俺の事を『パパ』と呼んでも、ミミィちゃんは特に反応していない。スチイから何か話を聞いたのかも知れない。
「凄く良い子だったわよ、色々なお話聞かせてくれて、ね」
「……ん?そんなにスチイが話したか?」
俺はスチイに対して孤児院に居た子だからと、傷や痣等の必要最低限だけ聞いて、他の過去の事は成るべく聞かない様にしている。
スチイも俺との日常生活の事意外は特に話をして来て無いと思う。
「えへへ、後でノーバンにも聞かせてあげるね」
「えぇぇお姉ちゃん内緒にして……恥ずかしいよぅ」
「わかった、わかった」
ミミィちゃんは「分った」と言いながらスチイの頭を『ポンポン』と撫でている。
「ずいぶんと仲良しに成ったみたい……だな? スチイ今度はパパにも色々な話を聞かせてくれないか?」
「……パパには話す事が無い……の、お姉ちゃんにはパパの事を話したの」
なんか悲しい事言われてしまった、『話す事が無い』とか……羨まましくて『キッ』とミミィちゃんを睨んでしまった。
「えへへ、ノーバンには私が話し相手に成ってあげるから大丈夫よ」
「ありがとうミミィちゃん」
ミミィちゃんは俺に勝ったと思っているのか? ニコニコして顔を近付けながら話して来る、少し前屈みに成りミミィちゃんのメロンがテーブルの上に……つい目が行ってしまう。最終的に勝ったのは俺のようだ。がんぷく眼福。
スチイが話を聞かせてくれたお礼にって、今度はミミィちゃんがスチイに色々な話をしてくれている。その会話を俺は聞くだけにして目を閉じていた。
「そろそろ帰るかスチイ」
「はいパパ」
「ノーバン寝てたでしょう?」
「いやちゃんと聞いてたよ、ミミィちゃんは魚が好きで橋から川を覘いてたら川に落ちたとか、くくくく」
「そこは聞かなくて良いの、もぅ!」
今日もミミィちゃんを怒らせて抓られてしまった。
リラックスできたせいか体が少し軽くなった気がする。
スナックを出た俺は、もう一軒、今度はキャバクラへと向かう。
☆ノーバン退店後のスナックでの話
☆ミミィちゃん視点
「ママ、ノーバンと何を話してたの?」
「スチイちゃんの事なのよね」
「聞かせてママ」
ミミィはママに掴みかかる勢いで聞いた。
「どうしましょうぅ、気になるのよね?」
「うんうん気になる」
気になる、聞きたい聞きたい、つい大きく首を縦に振ってしまう。
「スチイちゃんの事? ノーバンの事?」
ママはニヤニヤしながら聞いてくる。
「ママの意地悪、でも今日は負けないもんね」
一瞬、何を言われたのかも分らなかったが、ハッとして自分の聞きたい事に気付いてママに『負けない』と言い返す。
「あら、ミミィちゃん何かあったの?」
ママが首を傾げながら聞いて来た。ヨシッ勝った。っと思ったのは、ほんの一時だった。
「気になる? ママ?」
「そうね、気にならないわね」
ママは興味無さそうに、横を向いてしまう。
「そこは気にしてよぅ」
「しょうがないわね気になるから教えてほしいな、みたいに? ククク」
ママは意地悪にも、横を向いたまま目線だけを合わせて、少し笑いながら問いかけて来る。
「ママの意地悪! もう教えてあげないもん!」
「あらあら困った子ね、なら私も教えなくて良いのよね?」
うぅ気に成る、どうしても聞きたい。
ミミィは大勝負に出る。
「ママ! 取引しましょ、ミミィも教えるからママも教えて!」
「ミミィちゃんはお魚の次位にノーバンが好きなのかしら? 川に落ちちゃうわよ、クククク」
ミミィが意を決して大勝負に出たのに、ママは気にした様子も無く軽く返してきた。
それよりもママはずっとカウンターの中に居たはずじゃ? 離れてて聞こえる筈は……。
「ママ……聞いてたの?」
「そうねぇミミィちゃんとスチイちゃんの話くらいは聞こえてたかしらね」
「嘘だもん聞こえてるはず無いもん」
本当だろうか? でも聞こえる筈が無いと信じて強がってみる。
「はいはいミミィちゃん教えてくれるかな? ノーバンをスチイちゃんに取られちゃう話し」
「もぅママ嫌い! 意地悪!」
うぅぅ、今日もママに負けちゃった。悔しい。負けた事もだけど……。
後日、土曜日にノーバンを待っても来ないから、ママに聞いてみた「あら? 言ってなかったのよね?」と「ノーバンもミミィちゃんにだけ言わなかったのよね?」とママは首を傾げながら答えた後に教えてくれた。
「……ノーバンはスチイちゃんと旅に出たのよね」
ミミィちゃんは愕然とし……ガクリと崩れて放心した。
☆話は戻りスナックを出たノーバンの行く先。
リラックス出来た俺はスチイを連れて、もう一軒、今度はキャバクラへと向かう。
「よう」
「いらっしゃいませ」
キャバクラに入ると黒服が迎え入れてくれる。一瞬スチイを見た様だが何も言わずにBOX席へ案内してくれ、スチイを壁際に俺が守るように通路側に座る。
渡された、おしぼりで俺とスチイは手を拭く。
スグにママが俺の席に来て相向かいに座る。何時もなら隣に座るがスチイが居るからだろう、対面に座るママも顔が良く見えて偶には良いかもしれない。
ママはとても綺麗で目は海の様にキラキラと輝き、腰のくびれも良く胸には夏みかんががしっかり存在を主張している。見ているだけで涎が出る程だ。
「いらっしゃいノーバン……と、お嬢様?」
「あぁ俺の妹だ」
「パパ?」
スナックでは「俺の子」と言って失敗し学習した、「妹」と言ってみた。
俺が「妹」と言ったら隣でスチイが「パパ」と呼び、袖を引っ張りながら大きく首を振っている。
あれ?「俺の子」は良くて「妹」は駄目なのだろうか?難しい。
「違うみたいねノーバン?」
「ごめんごめん、俺の子だ」
隣のスチイは俺の袖を離してくれた。俺の子に成りたいのだろうか?
「あら、じゃぁママの子でもあるのね?」
「……パ……パ?……マ……マ?」
お店のママが妙な返し方をするから、スチイが目を丸くし口をパクパクして、俺とママを交互に見ている。
「スチイ驚いたか? スチイのママだよ」
「……はじめましてスチイです」
俺もママの冗談に乗りスチイに話しかけたら、スチイが本気にしてしまった様だ、背中を伸ばして挨拶しだした。
「宜しくねスチイちゃん、ママって呼んでね」
「はい宜しくお願いします」
いやいやい、まてまて不味い本気にしてる気がする。
どうしようか? と考えている内にママが何か言ってきた。
「ノーバンさっきの『スチイちゃんのママ』って言葉、本気にして良いのよね?……嬉しいわ、プロポーズよね?」
ママがプロポーズだと受け取ってくれたら俺は嬉しいけど、冗談で言ってるのだろう、先に言い出したのはママの方だし。
「えっとスチイ少し言い方を間違えた御免な、此の人は此のお店のママで、スチイのママでもあるけど『皆のママ』なんだ、呼び方はママで良いからね」
「ママ?」
「なぁに? スチイちゃん」
駄目だ、このままでは話も出来ない。話を切る為に俺は飲み物を頼んだ。
ママは軽く手を上げ、黒服を呼び三人分の飲み物を頼んでくれた。
「明日からスチイを連れて旅に出る事にした」
「あら急ね、何か有ったの?」
ママは首を傾げて、長く綺麗な髪をさらりと揺しながら聞いてきた。
「何も無いがスチイに広い世界を見せたいと思っただけだ」
「あら、ママも広い世界をノーバンと一緒に見てみたいなぁ……新婚旅行に」
今日のママは何処かおかしい気がする。無視して話を進める。
俺はママに、知り合いの商家の連絡先を書いた紙を渡し話す。
「俺が旅に出ている間に希少な酒を頼むなら、この紙に有る商家を尋ねると良い、そこの冒険者がワニ亀を倒したと言っていた、七十五階層は行ける筈だ、珍しい酒でも予約しておけば特別料金無しで採りに行ってくれる筈だから」
「助かるわノーバン」
キャバクラの客は金持ちも多いのだろう、俺も良くママに希少な酒を頼まれる。
次に魔石の入った箱をママに渡す。
「中にお酒以外にキャビアも入ってる今日の飲み代だ」
「ありがとうノーバン、税金分は帰りに払うわね」
お金で受け取るのも良いが、次に何時来れるか分らない。ママにお願いが有る。
「ママ今日は税金分も要らないから、ママの歌声を聞かせてくれるか」
「良いわよ、うふふ」
ママは快く引き受けてくれる、ママは歌も上手く人魚かセイレーンかと言う程だ。
「海ララ~~人魚がラララ~~海の様なララ~~夕日の様なラララ~~」
お店の小さなステージでママは歌い、客もホステスも皆が聞き入っている。
今日は何か歌と言うより、海の物語の様に感じたが美しい歌声で聞き入っていた。
歌が終わり皆が拍手する、俺も拍手をしようとして気付く、スチイが俺の手を強く握っている事に、不思議に思い顔を覗き込むと涙を流している。
俺はハンカチを持って……無い、スチイにも買ってない、男一人では駄目だな。
「ママごめん乾いたタオルもらえるか」
「はい、ただいま」
ママが黒服に頼み、黒服がタオルを持って来たので礼を言って受け取った。
スチイの顔にそっとタオルを当てて軽く抱き寄せる。
「大丈夫かしら?」
「あぁ多分ママの歌声に感動しただけだ、スグに涙も止まるさ」
本当は何故泣いてるのか分らない、もしかしたら苛められていた過去を思い出させたのだろうか?親の事だろうか? 聞くに聞けない。
スチイが俺から離れタオルを返してくれる。
「もう良いのか?」
「ありがとうパパ」
大丈夫なようで少し安心した。が何時か俺に話して欲しいと思う、何が有って何を思ったのかを。
ママにスチイの事情を話して、遅い時間になったので俺達は帰る事にする。
「ママ有難う」
「有難う御座います」
「またいらしてね」
暗い夜道をスチイと手を繋ぎ家に向かい歩き出す。
家に帰り着き、風呂の準備をしながら一緒に歯を磨く。
歯を磨き終わったスチイは少し眠そうにしている。
「スチイ、そのままで良いから少し寝なさい」
「……はい?」
「お風呂が沸いたら、起こしてあげるからね」
「はいパパ、そうする」
睡魔には勝てない様だ、手伝うとか一緒に待つとか言い出さなかった。
寝てるのを起こすのは可哀想だが、明日から旅に出たら風呂に入れるかも分らない、今日は入れた方が良い。
風呂の水量を見たり、火に薪をくべたりしながらスチイの寝顔を見に来る。
スチイの寝顔は可愛い、寝言で『パパ大好き』とか言ってくれないだろうか?
可愛いスチイの頬にキスしたくなるのを我慢して湯加減を見に行く。
お風呂はまだ、ぬるいがスチイが入るには丁度良いだろう。
今日も一緒に入ってくれるだろうか? 期待と緊張を胸にスチイを起こしに行く。
次話スチイちゃんに主人公が。
主人公からスチイちゃんを守るのは筆者の役目だとここ数日思う様になりました。
何とか助け出せれば良いのですが。




