誘拐
少女のスチイは冒険者として育てられるのか?確認は必要だ。
冒険者として育てられるかの確認をしたい。
「スチイこっちにおいで」
「怖がらなくて良い、すでにスチイの覚悟は聞いたから何もしないよ、冒険者としてやっていけるか、少しだけスチイの体を診るだけだから」
「……はい今行きます」
あれ? まだ怖がってる、何もしないと言ったのに若干ちじこまってる感じか。
「それじゃまず腕を捲ってくれ、右でも左でも好きな方で良い」
「はい」
「腕を少し触る」
「は、はい」
スチイが俺の側で左腕を捲って立っている、腕の外も内も左右も上下に動かしたり開いたり舐め回すように診た、手が僅かに震えている、俺の手にも伝わってくる。柔らかくて小さな可愛い手だ。
「スチイ今から嫌な事を思い出させるけど、今も耐えてるのも分ってるけど質問に答えてくれるかい?」
「はい」
やはり見られるのも嫌だったのか、それで震えてるのか? 確認なんか後にしてスチイの事を分ってあげるべきか?
「スチイ苛められていた事は本当なんだね、この傷痕は今でも痛いかい? それとも触った時だけ痛いかい?」
「その傷痕は痛くありません」
「分った、院長やはり一度退室して頂けませんか? 俺は何もしません只スチイの体の状態を確認したいだけです、何の仕事でも言える事ですが特に冒険者は体が資本です、体の状態を確認しない事にはダンジョンになんて連れて行けません、退室して下さい」
「私は最後まで見届けます」
何もしないと言っているのに、心配性なのだろうか責任感なのだろうか?
「そうですか院長の為に言ったのですが、覚悟がお有りなら絶対に声を出さずに感情も出さない様にしてください、耐えられなければ耳も目も閉じて下さい」
「分りましたがそれ程でしょうか?」
「私の予想が合っているなら今に意味が分かります」
院長を退室させられないとは、スチイには辛い質問もしなければならないかもしれない。
「スチイ今から両手足とお腹と背中を確認していくから、好きな所から順番に捲ってくれるかい?」
「はい」
スチイは最初の左手の袖を戻し、左足、お腹と診せてくれた俺は時間を掛けて確認しながらスチイの顔の表情を見ながら考えていた。
「ありがとうスチイ、今日は終わりにしよう」
「はい」
「何か有ったのでしょうか?」
誰よりも俺が耐えられなくなっただけだ、スチイは確かに強い俺の理解を超えるほどに。
「何か有ったからではなく何か有るから止めたのです、私が耐えられません」
「分るように説明して頂きたいのですが?」
おそらく院長は今の教会も孤児院も好きで、信じて信じ過ぎているのだろう。
「院長が理解する必要は有りません、今日からスチイは私が預かります」
「そ、そんな事は出来ませんし、すぐには許可は下りません」
「それでも連れて帰ります、依頼主と請負人の関係で依頼は冒険者ギルド長の公認です、本人との契約も確認出来ているので許可はおろか、拒否権すら院長には有りません、苦情が有るなら冒険者ギルドを通して下さい」
「司祭様に確認致しますので少々お待ち下さい」
「俺は依頼遂行の為なら、最善を尽くすとギルドで誓いを立てた冒険者です待つ意味がありません」
「スチイ、院長先生に最後の挨拶をして付いて来なさい、俺が本当の世界を教えるから」
「……分りました、院長様、ノーバン様に全て任せて付いて行きます」
「それでは失礼しました」
スチイが曖昧な別れの挨拶をした後、帽子を深くかぶった、俺も軽く挨拶はしたが返ってくることは無かった。
孤児院をスチイの手を引いて歩いて出て行く途中で数名すれ違う、不思議そうな目を向けられるも何も言われなかった、スチイも立ち止まる事も挨拶する事も無く外に出た。
あぁ何やってるんだ俺は、昨日、今日、長々と契約の内容を詰めて皆が納得した所で全て俺が壊したんじゃないか、この二日間の苦労も全て無駄にしたじゃないか、はぁ手元に残ったのはスチイが一人、まぁスチイが手元に残ったなら俺の勝利だな一人勝ちだ、そう思う事にしよう、はぁ。
日は傾きもう少ししたら紅くなる頃合それを見て、早足で冒険者ギルドに向かった。
「ギルド長は居るかい?」
「先ほど戻ったばかりなので今は忙しいかと」
「ならノーバンが急用で話が有ると伝えてくれ」
「急ぎ伝えてきます」
「ノーバンどうした?」
すぐにギルド長が降りてきた。
「ここじゃ話せない行くぞ」
スチイの手を引き急ぎギルド長室に入り鍵を閉めた。
ギルド長は何か言いたそうにしているが、黙って付いて来た。
「悪いな先に謝るが面倒事に巻き込んだ」
「あああ!? 説明しろ」
ギルド長は俺とスチイを交互に見ながら説明を求めてきた。
「孤児院から子供を一人連れて来た」
「誘拐じゃないんだろう?」
「あぁ本人の同意も得ているし俺の依頼主だ」
何から話せば良いのか何処から話すか、そもそもスチイに聞かせて良いのか考えが纏まらない、スチイに話しておかないとな。
「スチイこの人が冒険者ギルド長でとても偉い人だ、何か有ったらギルド長がスチイの事を守ってくれるから、顔覚えてギルド長と覚えておくんだ」
「ノーバン様一緒に居てくれますよね?」
ギルド長の紹介をしたら縋る様に尋ねられてしまった。
「おいノーバン早く説明しろ」
せっかちだな俺だって口は一つしかないんだ、同時に二人に話は出来ない。
「分ってるから待て……、俺はスチイが自立出来るまで一緒だ、だから孤児院にも教会にも帰る必要は無い」
「わかりました」
「取り合えず座ろう」
「はい」
俺が内鍵を閉めたのでお茶も出て来ないがソファーに座り一息つく。
「よく聞いてくれ、孤児院の院長は丸めて来たが司祭か領主が来るかも知れん、そこは孤児院の院長が誰にどんな話をするかで変わってくる」
「依頼を受けてどうしてそうなる?!」
ギルド長が高圧的に聞いて来た。ギルド長に成る人間だけあって圧が凄い。
「スチイごめんな耐えていてくれ……、スチイが苛めにあってたから我慢出来なくなって連れ出した、俺は悪くないからな、ギルド長が変な依頼を俺に回したからだ、ギルド長の責任だ」
このままギルド長に責任を押し付けてやる、司祭や領主なんか相手に出来るか。
「ノーバン、個人依頼だよな? ギルド依頼じゃ無いよな!!」
「子供の前で大声でそんな汚い事言うな、可愛そうだろ責任取れ!!」
流石に簡単には行かないな、子供まで使うなんて最低だな俺。
ダメだ頭がぐるぐると違う意味で廻って良い考えが思いつかない。
「少しは協力するが司祭はともかく領主はだめだ」
「あぁ流石に領主までは出て来ないだろうし、こっちは何も悪くない、そんな訳ですぐどうこうじゃないから今日は一度帰って明日の朝、また来る」
「それは構わないが鉢合わせするなよ」
「気を付ける、取り合えずありがとうな」
「あぁお前の為じゃねえけどな」
「またな」
「また」
挨拶も済ませてギルドを出る空は暗くなり始めてる、日が傾き始めると早いものだ。
「飯を食べに行こう」
「はい……、宜しいのでしょうか?」
「遠慮するな明日から働いてもらうから、いっぱい食べて体力を付けろ」
「はい」
働かせるかどうかはまだ未定だが、取り合えず飯を食べて元気に健康に成って貰わないとな。
行き付けの食事処に入った、疲れてるが少し歩いてでも知ってる店の方が気が休まる。
スチイも疲れてるだろうに文句一つ言わずに付いて来るが逆に怖い、いつ急に限界が来て壊れてもおかしくないんじゃないかと思う、心も体も。
「卵焼きと焼き魚と肉と野菜の炒め物、ご飯とオレンジジュース、全部二人前頼む」
「ノーバン、メニューを見て言え、もう一回注文言ってくれ」
「オレンジジュースとご飯二人前づつと少し軟らかめで栄養のある物、疲れてるから早めで頼む」
「あぁ分った先にジュースを置いとくぞ」
「ありがとう」
「「頂きます」」
まだジュースしか無いが飯だ。
「魚は食べられないのですが……」
「嫌いか?」
「そうではなく食べられないのです」
嫌いじゃなく食べられない?アレルギーか何かか?無理に食べさせない方が良さそうだ間違って食べさせない様に注意しなくては。
「そうか?他にも食べられない物があるか?」
「海老も駄目です、申し訳ありません」
「いや、謝らなくて良い」
落ち着いてから聞いた方が良いな、アレルギーなら海老は危険だが、魚は良くわからないな?もし小麦と言われてたら何にでも使われるから慌てただろう。
「店主この子、スチイは魚と海老が食べられないそうだ、調理始めたのは俺が食べるから、スチイの分は一応魚介類を外してくれ……、と魚の代わりに牛乳とか有るか?」
「カルシュウムとか気にしているなら、鉄鍋で調理したヒジキが丁度有る、鉄分も豊富だ」
ヒジキは海の物だよな、海藻類だったか。
「スチイ、ヒジキが有るそうだが海藻類とかは平気か?」
「はい大好きです」
ヒジキが好きなのか海藻類が好きなのか分からないが、取り合えず頼むとするか。
「店主ヒジキ頼む」
「分った付け合わせ用なんだが、可愛い譲ちゃんに少し多く盛り付ける」
やはり可愛いは正義だ、まだ帽子を被っているから、店主が本気で言っているのかはかは分らないが。
俺は魚を食べながら旨いのに、スチイは可哀想だと思う。
食べ終わってスチイが食べ終わるのを待ってから席を立つ。
「お勘定頼む」
「はいよ」
「また明日からも来るから子供の栄養考えながら頼むわ」
「メニュー見て、いや、譲ちゃんの為だ考えてやる」
店を出てから、スチイの小さな手を引いて家に帰り着いた。
タンスから俺の寝巻きを出して渡す、スチイに着替えさせ俺の布団に寝せた。
俺は座布団とバスタオルを寝床にして眠りに付いた。風呂は早朝に立てよう。
少女の誘拐は主人公の暴走です。この先のストーリーが全て無駄になりました。
今後の展開は未定です。主人公のアドリブで何とか。




