すずらん
依頼の最終日は槍、試し切りはいかに。
俺は挨拶をしシイの家を後にして、知り合いの冒険者を探し飲み屋街を歩いた。
三件目にして探し人を見つけた。
「よう! 久しぶりだな」
「ノーバン久しぶり」
知り合いの冒険者に声をかけ、話を聞いて貰う為に一杯奢った。
「頼みがあってな、明日会わせたい人が居るから、昼に四階層の安全地帯に来てもらえるか?」
「ノーバンの頼みなら行くが詳しく聞かせてもらえるか?」
「ああ今から話す」
俺はシイの事を話し、冒険者の雇い主の商家にも明日の朝、話しに行く旨も伝えた、予想以上に長い話になり三杯は奢った。
「明日よろしくな」
「こちらこそ」
冒険者と別れて家に帰った時には深夜だったが、風呂に入ってから寝た。
翌朝は早起きして昨日の冒険者の雇い主の商家へと向う。
午前九時少し前、商家開店の少し前に着いた。
「おはよう俺はノーバンだ、オーナーに話が有るんだが取次ぎ頼む」
「少々お待ちください、それと御用件をお伺いしても宜しいでしょうか?」
少し待たされたがオーナーと話は出来た、時間が無いから簡単に話をして夕方前に来る事を約束してダンジョンへと向かった。
俺が着いた時には時間ギリギリで三人とも揃っていた。
「おまたせ」
「「おはようございます」」「おう」
簡単に挨拶を交わしダンジョンへと入った。
各自装備を整えエレベーターで四階層の安全地帯へ降りた。
俺は大太刀、テイビトは太刀、マエコちゃんは鞭と弓矢、シイは槍と両手剣を持っていた、重そうだ。
「シイ両手剣は預かる、お金は夕方帰りに払う」
「ありがとう」
シイは俺に両手剣を預けてくれた、別れを惜しむように。精魂込めて作ったのだろう大切な剣だ、色々な思いが篭っているのだろう。
俺はテイビトを連れて少し前を歩いた。
「テイビトこの袋に髪用の石鹸が入ってる、後でテイビトからだと言ってマエコちゃんに渡してくれないか」
「何の意味があるのか分らないが自分で渡せばいいだろ?」
俺は袋を渡しながらテイビトにお願いするも、テイビトは何かを疑っている様だ。
「深い意味は無い、先日テイビトには太刀を贈ったがマエコちゃんには何も贈って無いと思っただけだ、が俺からよりテイビトからの方が喜ぶだろう?」
「どうだかな」
取り合えずテイビトは袋を預かってくれた。
後ろでは女の子同士で楽しい話をしているようだ、笑い声が聞こえてくる。
ボス部屋前に着き間単に打ち合わせをする。
「先に俺とシイで熊を倒すから、最初はテイビトとマエコちゃんは見学だな」
「無力化するなら、私達でももう出来ますが」
俺の話にマエコちゃんは少し疑問に思ったのか、気を使ったのか無力化出来ると言ってくれる。
「一度は俺が無力化しないとシイから報酬が貰えないからな」
「……分りました」
「では行こう」
「「はい」」「おう」
ボス部屋に入り俺は熊を無力化してシイを呼んだ。
「はああ『ドスッ』」
シイは槍を突き刺す、が抜けない、石突に指を掛け無理やり引き抜いた。シイは二、三度突き刺した後、手を振って来た、十分という事だろう。
俺は熊に止めを刺しドロップ品を拾い一度ボス部屋を出た。
今日は子供が少ない、ボス部屋周辺は長めの草が覆い茂っている、草が短く少し開けた場所に移動して休憩する事にした。
「槍は少し難しかったようだが落ち込むことは無い、シイは冒険者ではなく鍛冶師なんだからな」
「そうだね」
シイは言葉的には納得しつつも元気が無い。
「シイ槍を貸してくれ」
「かまわないよ」
俺はシイから槍を受け取り、代わりに大太刀を渡す。
「テイビトこの両手剣で練習していてくれ、後で熊を倒してもらう」
「お、おう?」
テイビトに両手剣を渡すと、持っていた太刀はマエコちゃんに渡し早速素振りを始めた。
俺も穂先を確かめてから槍を何度か振ってみた、がやはり撓らない。
「今度は槍を使って俺一人で熊を倒すから見ていてくれ」
「突いたら抜けなくなるよ」
「そうかもな」
シイが助言してくるも俺は何でも無い事の様に返す。
俺達は再びボス部屋へと入った。
俺は熊から少し離れた位置まで走り寄った。
槍を水平にして胸前で横に構え。熊が手を上げて距離を詰めて来た、槍の間合いに熊が入るのを待ち槍を横に振った。
熊は反応する事も出来ずに腹に傷を受ける。
俺は半歩下がりお腹の高さに槍を構え、熊が間合いに入った瞬間に横薙ぎに熊の太腿に切りつける。熊の移動速度は明らかに落ちた。
俺は槍の間合いで熊を近付けずに一方的に切り刻み熊を倒した。
ドロップ品を拾い一度ボス部屋を出た。
「シイ槍は突くだけじゃ無いんだ、突く、斬る、叩く、投げる、槍は幅広く使え種類も多い、それ故に難しいとも言える」
「流石だよノーバンさんは」
シイの造った槍で熊を倒したせいか少しシイは元気に成った様だ、今は顔をあげ俯いていない。
「冒険者ならな、次はテイビト一人に両手剣で倒してもらう」
「お、おう? 一人でか?」
「そうだなマエコちゃんは俺と見学だな」
「おい!」「はいノーバン様」
テイビトは少し怒り気味に、マエコちゃんはニコニコしながら了解してくれた。
「大丈夫だ、元々両手剣を使ってたし、長さも大太刀に近いから今のテイビトなら使える筈だ」
「お、おう」
「剣を大上段に構えて熊が間合いに入ったら、全力で真っ直ぐに振り下ろせば倒せる簡単だ、自分の腕とシイの打った剣を信じろ」
「おう」
本当は俺が両手剣で熊を倒す予定でいたが、槍でシイが落ち込んだ事が想定外だった、見せ場をテイビトに譲る形になってしまう。
再びボス部屋に入った。
テイビトは両手剣を携え熊に近付いて行く、ゆっくり大上段に構え待ち構えた。
熊が間合いに入るのを待ちテイビトが剣を打ち下ろす、熊は手で防御するも熊の手は斬り飛び、剣は熊の頭から腹までを真っ二つにして見せた。
「お! おい!! なんだ、この剣は!」
一番驚いたのはテイビトのようだ、俺は予想の範囲内だ。
シイとマエコちゃんも驚いたように目を見開いてはいるが大声は出していない。
「それは両手剣だな、俺が買い取る予定だ」
「ノーバンほどの腕が有ったら、こんな物騒な剣は要らないだろう、鬼に金棒と言うが実際いたら、危険と恐怖しかないだろうが!」
テイビトは錯乱したかの様に、わめいている、が本当はシイの打った両手剣が欲しいだけだろうと思う。
「それは譲れないから諦めろ、その代わりしばらく大太刀を貸してやる」
「お、おう、そうか」
テイビトは少し落ち着いてくれた。
「ドロップ品を拾って一度外に出よう」
「おう」「「はい」」
何時までもボス部屋に居たら熊が再生されない、一度外に出る。
「冒険者は凄いな」
「テイビトだからとも言える、がシイの両手剣の性能が大きいな」
「そう言って貰えると少し嬉しいよ」
シイは両手剣を見ながら、嬉しそうに答えてくれた。
シイから大太刀を受け取り槍を返す、テイビトに大太刀を貸し両手剣を受け取った。
「シイ今後、武器の事が知りたくなったり、試し切りがしたく成ったらテイビトに相談すると良い、ギルドに手紙を預ければ翌日には連絡が取れる筈だ」
「良いのかい?」
「その代わりに鍛冶をしない時は一緒にダンジョンに潜ったり、試作の武器を貸してやって欲しいんだ、そうすれば二人も今より深い階層へ行くのが早くなる」
「アタシはそれで良いよ」
「テイビトには大太刀をしばらく貸しておく、二人ともシイの事を頼む」
「おう引き受けた」
「私も構いませんが、そのテイビトばかり…………」
マエコちゃんが珍しく不満を口にした様だが、聞き取れなかった。
マエコちゃんの不満を察してか、テイビトが腰から袋を取りマエコちゃんに渡す。
「ノーバンからマエコにだそうだ」
「え! ノーバン様から私にですか?」
何をやってるんだテイビトは、せっかく花を持たせてやろうと思ったのに。
「四階層突破の記念にテイビトには太刀を贈ったが、マエコちゃんに何も贈って無いと思ってな、遅くなったがおめでとう」
「有難う御座います、今開けても宜しいですか?」
マエコちゃんは俺と袋を交互に見ながら、嬉しそうに聞いてきた。
「ああ開けてくれ」
「髪用の石鹸ですね、スズランですか?」
マエコちゃんは袋から取り出し、目の前に持ってまじまじと見ていた。
「マエコちゃんは綺麗な白髪でスズランの様だと思ったんだ」
「有難う御座います、私の白髪はお年寄りの様で……その……綺麗だと言われたのは初めてです」
マエコちゃんの髪は年寄りの白髪とは違う気がする。
「マエコちゃんの白髪は、微かに水色が入っているのだろう、白より白いし、白銀とは言わないが、輝いていて綺麗だよ自信を持って良い」
「……そんな、はい」
「白髪は純粋そのものでマエコちゃんの事を良く表していて、マエコちゃんにこそ相応く美しい髪だと思うよ」
「自分の髪が少し好きになれた気がします、とても良い贈り物を有難う御座います」
マエコちゃんは喜んでくれたがテイビトは良いのか?
「良かったなマエコ」
「はい」
テイビトがマエコちゃんの頭を撫でてる、羨ましい。
俺達は昼少し前まで色々武器を替えながら熊を狩った。
休憩した時に話を切り出す。
「昼に知り合いの冒険者と会う予定なんだが、マエコちゃん達も来るか?」
「どうしましょう?」「そうだな?」
テイビトとマエコちゃんは迷っている様だ、商家にも入らない位だ何か有るのだろう。
「何か理由が有るのかも知れないが、俺の個人的な知り合いだし弱小商家の冒険者だから、気にする事は無いと思うぞ」
「お、おう」「そうですね会ってみます」
良かった今後何か有った時の為に、顔合わせをして欲しかったから少し安心した。
待ち合わせ場所の四階層の安全地帯へと向かった。
シイの就職先は小さな商家になるのか。
報酬は?




