プライド
少し元気の無いシイと買い物デートです。元気になってくれたら嬉しいです。
「シイ少し買い物に付き合ってくれ」
「……ぃいよ」
シイは少し元気が無い様だ、返事の声が小さかった。
化粧品店にシイを連れて行く。
「いらっしゃいませ」
「髪用の石鹸で、サラサラに成って櫛の通りの良くなる物を、香りは此の子選ばせてくれ、薄い紅も一つ頼む」
「畏まりました、可愛いお嬢さんですね」
店員はシイに微笑みかけながら屈むように腰を落とした。
「髪用の石鹸は、化粧品の様に使ってみる事は出来ないよな?」
「出来ますが、別料金で乾かすのにお時間も掛かりますよ」
「では此の子に使い方も教えて欲しい」
俺はシイを店員へと背中を押して前に出した。
俺は店内を何気なく見て回り、髪用の石鹸の一つに目を留めた。
スズランの香りと書かれていた、何となくマエコちゃんを思い出す。
三十分ほど見て回っただろうか、奥から店員とシイが出て来た。
シイの髪が綺麗になり、口紅も引いてとても可愛らしい。
「シイ色っぽくなって大人に見えるぞ」
「アタシは元々大人だよ」
シイは少し顔を赤くしながら反論してきた、少しは元気になったようだ。
シイの白紫色の髪が輝きながら揺れている。
「シイの髪用の石鹸と紅とは別に、スズランの髪用の石鹸も一つ贈り物用で包んでくれないか」
「畏まりました」
シイには聞かれない様に、別の髪用の石鹸も一つ頼んだ。
化粧品店で精算ししてお店を出たが、昼少し過ぎ位だ。
「まだ食事処が混んでる筈だから、もう少し買い物を楽しもう」
「アタシはいいが……」
シイが合意してくれたので高級服店へ行くことにした。
「いらっしゃいませ」
「「こんにちは」」
店長が出迎えてくれた、何度も来てるので顔を覚えてるらしい。
「此の子に可愛く少し大人な服を頼む」
シイの背中を押して店長に差し出す。
店の奥から他の店員も出て来て、シイは着せ替え人形だ。
俺も十分楽しみ、中から一セット選んで精算した。
「明日の午後に引き取りに来るから、その時に着替えも頼む」
「お待ちしております」
高級服店から出て来た時には午後二時頃だった。
化粧品店を出た時にシイは少し元気に成ったと思っていたが、高級服店を出た時には、また元気が無い様な気がした。
「遅くなったが食事にしよう」
「ノーバンさん……」
シイは何かを言いかけたが、その後何も言わずに付いて来た。
何時もの食事処で食事にした。シイは元気も無く注文も迷っているだけで、決まらないので俺が二人分の焼肉少しと生ハム、ウィンナーとポテトにサラダにパンと飲み物を頼んだ。
「食べよう」
「「頂きます」」
シイは食事を食べている内に少しは元気が出たようで、話しかけてきた。
「ノーバンさん服や化粧品まで有難う、でもアタシは見た目ほど金は持ってない、ノーバンさんに依頼した理由の一つだよ」
「気にするな、俺自身の為だ、本当のシイを見てみたくなっただけだからな」
見た目ほどとは、家の工房や沢山の武器の事を言っているのだろう。
俺に依頼に来た理由か、確かにお金が無くとも女性の依頼なら受けると噂がある。
俺は本当の気持ちも含め、適当に誤魔化す様に返した。
「もしかしてアタシが落ち込んでると思ったのかい? アタシはノーバンさんに呆れてただけだよ」
「そうなのか?」
どうだろう、どう見ても落ち込んでいたとしか思えなかったが。
そんな思いが言葉に乗ったのか、語尾が上がり聞き返す返事をしてしまった。
「そりゃねアタシが自分の武器で傷一つ付けられない熊に、初めて持つ武器で簡単に無力化して見せるんだからね」
シイの言葉は冒険者である俺に対して、侮辱にも当たるが、そのまま言っても素直に受け取られるか分らない、理解出来るように言わなくては。
「俺が冒険者で、シイは鍛冶師だから当然の事だ、俺が武器を作ってシイより出来が悪かったと落ち込むようなものだな、ははは」
「なるほど……確かにそうかもな」
なんとか棘の少ない言い方をしてみたが、シイは納得してくれた様だ。
シイは、ようやく顔を上げてくれた。
シイと食事を終えて精算する時に店主に依頼した。
「明日の午後一時頃にまた来るから、ステーキを二人分頼むよ、今度は中まで火を通してくれ」
明日はシイの依頼の最終日だ、少し美味しい物でお祝いだ。
ニヤニヤしていたら店主が苦い顔しながら話しかけてきた。
「ステーキは良いんだがノーバンこの一月で何人の女を連れて来た?」
何の話をしたいのか分らないが答えるしかない様だ、それだけの威圧がある。
最近ではミミィちゃん、マエコちゃん、ミディアム、シイ、四人だが、マエコちゃんはテイビトが居るからな。
「四人か」
「四人もだ、しかも精の付く料理ばかり食べて行くだろう」
そうだろうか?肉は頼んでいるがスッポンとかは食べた覚えが無い。
「そうか?」
「そんなノーバンを他の客が見て、どんな噂をするか考えた方が良い」
「良い噂か?」
分ってる、良い噂のはずがない。
「悪い噂しかないだろ! 皆羨ましいんだよ、妬んで悪い噂をするんだ」
「なるほど助言ありがとう、気をつけるよ」
店主が心配してくれている事は分った有り難い者だ。
店を出て、シイの家に向かった。
「あがってくれ」
「おじゃまします」
「先に今日の報酬を受け取って欲しいんだが、どうしたらいい?」
先にって言う事は、報酬の後に何か有るって事かな、まあいい。
「今日は座っていてくれれば良い、少し痛いが我慢してくれ」
「わかったよ、服と化粧品の分も好きにしてくれて良いんだよ」
「そうか、明日までに何か考えておく」
シイが嬉しい事を言ってくれる、可愛いシイを見たくて俺が勝手にした事なのに。
綺麗になって可愛く着飾ったシイを愛でて思い切り抱きしめたい。が一日ある妄想しながら、もっと良い報酬をゆっくり考えよう。
今日は治療がメインだ、魔方陣が無いと効率が悪いが、毎回、魔方陣を書くのも大変だ、手袋に血で魔方陣を書いて来た。
手袋を嵌め魔石を手の甲の上に乗せ手ぬぐいを巻いて固定した。
昨日と違い治療の効率が良い、魔石の魔力を使い切るまでに全ての火傷と傷痕の治療が終った。
「シイ痛みをよく我慢したな、火傷の痕は治ったが、数日したら少しだけ赤くなるかもしれない」
出来るだけ綺麗に火傷を治そうとしたせいか痛かったのだろう、シイが我慢するも少しだけ声を上げていた、見た目と違い艶っぽい声だった。
俺はシイの事を褒めながら、頭を撫で回した。
「ありがとう」
「シイの撫で心地は最高だな」
「その為の髪用の石鹸なんだね」
「そうだな」
シイは撫でられつつも薄い橙の瞳を上目遣いに聞いてくる、抱き締めたくなるほどの可愛さだ。
シイの事を十分堪能してから、解放した。
解放されたシイは一本の槍を持ってきた。
「明日使う槍を見て欲しいんだよ」
「ああ見せてくれ」
シイの可愛さを堪能しシイ成分を十分補充した、少しは仕事をするか。
槍の先端の刃物の部分、穂は両刃、諸刃で短い、柄は長く二m五十cm位、丈夫でしなりもしない。
「槍だよな? 長くないか?」
「客の依頼で『長い槍が欲しい』って言うから長い槍を作った」
なるほどと思う回答だった。シイは素直だが素直が常に良い結果に繋がるとは限らない。
「槍も種類や使い方が色々有ってだな、長い槍ではなく長槍が欲しかったんだろうな」
「いや確かに『長い槍』と注文を受けた」
シイは真っ直ぐ過ぎる、注文道り作ったのだろう、おそらく客は長く撓る槍が欲しかったのだろう想像はつく。
「槍はひとまず置いておいて、両手剣は何と言われて作ったんだ?」
俺は何だか嫌な予感がして両手剣の事も聞いてみた。
「剣は『多少の金額差は良いから良い両手剣が欲しい』と言われたから、両手剣を刀と同じように作ってみた」
なるほど、『多少の金額差』か客だか商家の言い方が悪いな、『少しの金額差』と言う意味で言ったのであろう、刀と同じように剣を作ったら家より高くなる。
刀は家が買える金額だ、刀と剣の重さが倍だとしたら、金額も倍だろう。
刀と同じに剣を打ったら二十kg以上は鉄を使っただろう。
その辺の雇われ冒険者が買える金額を遥かに超えている。
「シイは鍛冶師としての腕は良いかも知れんが、一人で鍛冶師としてやって行くには少し早いかもしれないな」
両手剣でシイの技量程度の剣の扱いで熊の足を斬り飛ばした事からも、俺の見立てでも鍛冶師としてのシイの腕は良い筈だ。
「ノーバンさんも父と同じ事を言うんだな……でも今なら少しは話も聞ける気がする、教えてくれ何処が駄目なんだ?」
どこがと聞かれると難しい、鍛冶以外は全てと言いたい位だ。
意思の疎通、読解力、人を見る目、幼い見た目、金銭感覚、と色々だ。
「客との意思疎通が出来ずに、刀は太刀と、槍は長槍と、剣は想定以上の高い物を作ってる事だが、問題はそれだけじゃないんだ」
「対応の悪い商家を選んだ事も良くない、人を見る目とでも言うか」
あまり厳しい事を言って反発されても困る。何を言って良いのか迷う所だ。
「アタシは半ば家を飛び出して来たんだ、鍛冶師として一人でも生きて行けると、でも、もう金も無いしノーバンさんに依頼して駄目なら、夜の仕事をするしかないんだ、だからこそノーバンさんに体を許す覚悟もしたんだよ」
シイは目を赤くして、俺の袖を掴みながら話を続けたが、内容は夜の仕事も俺の事も馬鹿にした様な言葉だった。
そもそも、シイは頼る相手を間違えている、俺ではなく親に頼るべきだ、が出来ない難しさも分らなくもない。
「もしそんな気持ちで夜の仕事に足を踏み入れても、碌な事にはならないな、夜の仕事もそんなに甘くは無いから、家に帰る事も考えた方が良い」
家を半ば飛び出したから、家に戻りずらいのだろう気持ちも分るが、一人では難しいだろう、が保護者的な人間は必要そうに見える。
シイの他人の仕事を馬鹿にした様な言葉に苛立ち、つい家に帰るように言ってしまった、反発されるだろうか。
「アタシにもプライドが有る、一旗上げるまでは帰れないよ」
シイは袖だけじゃなく俺の手首まで強く掴んで来た。
俺はシイの手を掴み返し、逃げない様に両手で包み込むようにして話した。
「シイそう言うのはプライドとは言わないんだよ……、見栄と言うんだ」
「……見栄?」
シイは俯いて小さく首を振っている。
「見栄を張るのが悪い事だとは言わない、俺も可愛い子には良く思われたくて見栄も張る、親に見栄を張る気持ちも分るが、親は甘える事の出来る数少ない相手なんだ、今すぐ帰れとは言わないが本当に困った時には親に甘えると良い」
「…………」
逃げない様に手を握っていたせいか、逃げる事は無かったが、俯いて無言に成ってしまった。少しは嫌われる事を言っている自覚は有るがシイの為と思っている。
「まだ、もう一日ある諦めるな、シイは鍛冶師としての腕は良さそうだからな」
「……」
シイは無言のまま少しだけ頷いた気がした。
「明日シイの両手剣は俺が買い取るから、しばらくは生活も出来るだろう?」
「……本当かい? でも……」
「金額だろ、家二件分位なら払ってやる、安心しろ」
「ありがとうノーバンさん……、アタシもう少し頑張ってみるよ」
「両手剣は施設内のロッカーか? 明日持って来てくれ使う所も見せてやる」
「よろしく頼むよ、あの両手剣はアタシの中では傑作の品なんだ……返されてしまったが、ノーバンさんなら……、今から楽しみだよ」
自分の傑作と思った剣が返品されたんだ、相当に自信を無くし落ち込んだのだろう。シイの気持ちを思うと俺も胸が痛い、何とかしてあげたい。
「よし明日も今日と同じ時間に待ち合わせだ」
「よろしく頼むよ」
少しは元気になった様なので少し安心した。
俺は挨拶をしてシイの家をでて、知り合いの冒険者を探し飲み屋街を歩いた。
シイは少し浮き沈みが有る気がします。




