第二十話、刀と太刀
シイの依頼二日目、テイビトとマエコちゃんを呼んだ。
シイの刀とは
昨日の夜から雨が降り出し、今朝は雨だ家を早めに出た。
ダンジョン入り口に待ち合わせの二十分前に来たらシイも少し後に来た。
「おはようシイ」
「おはようノーバンさん」
シイは大きな武器ケースを持っていた、昨日の刀だろう。
町で武器の携帯は禁止だから、持ち運びには錠前の付いたケースに入れる、鍵は家とダンジョン施設内の自分のロッカーに一つづつの二個だ。
鍵は持ち歩いては意味が無いので持ち歩かない。
だが鍛冶師であるシイは武器持ち歩きの特別許可が有る筈だ、真面目なのか幼く見えるから、武器を奪われない様にする為だろう。
「助手を頼んだから二人来るはずだ、宜しく頼む」
「こちらこそ宜しく頼むよ」
シイと話をしているとマエコちゃん達も現れた。
「おはよう」
「「おはよう」御座います」
マエコちゃん達と軽く挨拶を交わす。シイにも気付いている様だ。
「紹介するよ依頼人のシイだ、幼く見えるがドワーフの大人だ」
「こちらが俺が助っ人に呼んだテイビトとマエコちゃんだ」
「よろしく頼むよ」
「こちらこそ宜しくお願いします」「お、おう」
マエコちゃんとテイビトは挨拶しながら、訝しげに俺を見てきた。
やはりシイが幼く見えるのだろう。
「装備を整えて四階層へ行こう」
「「はい」」「おう」
各自、装備を整えエレベーター前で待ち合わせ、四階層へ降りた。
「今日は子供が多くないかい?」
「外は昨日の夜から雨が降っているから、スライムが大量発生するんだ」
シイは鍛冶師でまだダンジョンの事は詳しく無いのだろう、聞いてきた。
「ダンジョンにも雨が降るのかい?」
「いやダンジョンの中は降らないが、雨が浸透して来るのだろう、スライムは水系で大量に分裂や発生するんだ」
「そのスライムを狙って小銭稼ぎに子供が多いと?」
「そう言う事だ」
子供が多いとは言ってもダンジョンは広いし、熊を狩に来る子供じゃないから邪魔にはならない。
但し熊を倒しチョコレートを持って出たらどうなるかは分らないが。
俺達四人はPTを組んで安全地帯をでて光の柱の有るボス部屋へと向かった。
俺は昨日と同じく大太刀、マエコちゃんは弓と鞭、テイビトは刀、シイは昨日の刀を装備していた。
「まずは俺が熊を無力化してシイが止めを刺す、二人は良く見ていてくれ」
「はい」「おう」「よろしく頼むよ」
ボス部屋の前まで来て簡単に打ち合わせをして中へ入った。
昨日と同じ様に熊の肘と膝を壊し背骨も断ち、うつ伏せに倒した。シイに合図を送り呼んだ。
「はあああ!『バスッ!』」「はああああああ!『バスッ!』」
「斬れない?」
シイは昨日の様に切飛ばす気だったのだろうが、刀では難しい。
刀は骨に当たった辺りで止まり、皮も当たった部部の一部が切れる程度だ。
シイは四回ほど刀を振り下ろし、力無くその場にへたり込んでしまった。
俺が止めを刺し、ドロップを拾った。
「シイ一度外に出よう」
「ぁあそうだね」
俺がシイに手を貸し二人にも声をかけて外に出た。
数人の子供達が見ている。俺はチョコレートを出し子供を呼んだ。
「チョコレートをあげるから仲良く分けるんだよ、おじちゃん達はここで休むから回りのスライムを倒してくれるかい?」
「「「ありがとう、スライムなら任せて」」」
子供は素直だし、元気で気持ちいい。
問題はシイだ、相当に落ち込んでいるらしい。
「シイ見ていてくれ、テイビト刀で素振りしてくれるか」
「おう?」「ビュッ!」「ビュッン!」
テイビトは二、三度素振りした。良い音だ。かなり大きな音がする
「シイ、テイビトに刀を貸して素振りしてもらってくれ」
「分った、かまわないよ」
「やるぞ」「ヒュッ」
「「「え!」」」
「ヒュッ」「ヒュッ」
三人とも驚いたようだ。音が全然違うのだ。
シイの打った刀は殆ど音がしない、僅かな風切り音だけだ。
「これは刀か?剣じゃないのか?」
「大きく別ければ刀だが、細かい事を言うとシイのが刀、打刀とも言ったか、でテイビトのは太刀だな簡単には長さや反りが違う」
テイビトが聞いてきた、三人とも分からない様な目を細め首を傾げている。
「ああ音とはあまり関係ない話だ」
「テイビト、シイにテイビトの太刀を渡してくれ」
「おう」
「見た目以上に軽いな」
シイは太刀の軽さに少し驚いている様だ。何度か軽く振っている。
「ああ二kgも無いんじゃないか、安物だが特注なんだ」
「二kgどころかその半分も無いんじゃないかい?」
「特注で安物なのですか?」
シイはもっと軽いと言い、マエコちゃんは金額的に高いと予想したようだが、金銭感覚は人によって違う俺にとっては安物だ。
「分らん正確に測った事は無いからな」
「この軽さが音の違いかい?」
「そうだな、良く見てくれ刀の腹に軽くする為に、樋と言ったか溝を掘って貰ってるんだ」
「なるほど、ここに風を受けて音が出ると」
「テイビトもう一度シイの刀を、今度は手首も使って最速で振り抜いてくれ」
「おう?」「ヒュッ」「ヒュッ」「ヒュッ」
「うん?この刀は歪んでるんじゃないのか?」
「そんな筈は無いが……今日、熊を斬り付けたからかい?」
シイが刀を受け取り色々な角度から見ている。
「いや、真っ直ぐなままだよ」
「そうか?手に振動と言うか違和感が有るんだが」
「流石だな、テイビトに助っ人を頼んで正解だった」
「お、おう?」
「テイビトの刀速が切っ先で音の速度を超えている証明と、振動を感じ取れる感覚だな」
「音の速度ですか?」
マエコちゃんが俺の方を見て問いかけて来た。なんと答えたら良いものか。
「山彦は知っているかな?」
「やっほーって言うものですよね……そう言う事ですか分りました」
質問を質問で答えてしまったが、マエコちゃんは理解してくれたようだ。
「物が音速を超えようとすると振動する、だが太刀は反りでもって振動を抑えられるが、テイビトでは樋の入った太刀では、音速は超えていないだろうな、音が出る分だけ空気抵抗が大きくなるからな」
「そもそもシイは何故太刀でなく刀を打ったんだ?」
「客が刀と言ったから刀を打っただけだが?」
「そうか多分だが、その客は太刀か大太刀が欲しかったんじゃないか、よく有る話だ、刀の事を知らずに他人が使ってる所を見て欲しがる奴が、太刀を刀と言って注文するんだ」
「それじゃアタシは、この刀は……」
「この手の問題は普通、間に入った商家が何とかする筈なんだが?」
「商家は客から理由も聞いて無いし『作りが悪いのだろう』と返してきた」
シイが幼く見えるからだろうか、でも商家も対応が悪すぎる。
「この刀は使えないのかい?」
「今のテイビトには丁度良い刀だな、だが先ずは熊を倒そう」
シイが不安そうに刀の事を聞いて来た。自分で打った刀だ使えなかったらと思うと色々と不安なのだろう。
「テイビト俺の大太刀を貸すからマエコちゃんと二人で熊を無力化してくれ」
「お、おう」「はい」
俺は大太刀をテイビトに渡しテイビトの太刀を預かる。
「太刀じゃなく此の大太刀を貰えてたら、楽に熊を倒せたんじゃないか?」
「どうだろうな、当時のテイビトでは扱えなかったと思うぞ、振ってみれば分る」
テイビトは大太刀の長さに感心しながら、大太刀を欲しそうな事を言って来た。
テイビトが大太刀を軽く振る、軽くで良かった、もう少しで地面を斬る所だ。
「確かに振ってみて分ったが長すぎるな」
「テイビトが大太刀に慣れたら、熊を狩に行こう」
テイビトが大太刀に慣れるまでマエコちゃんとシイと両手に花だ。幸せの一時。
「マエコちゃんは出来る限り膝を狙ってくれ」
「テイビトは肘と膝を狙って、自信が無ければ刃の裏の峰で叩いても良い」
「はい、頑張ります」「おう」
テイビトが熊を引き付け、マエコちゃんが矢を射る。
テイビトの動きも良くなってるし、マエコちゃんの矢の威力も命中精度も上がってる。
熊に慣れている事も有るのだろう、二人は難なく熊を無力化して合図をくれる。
シイは力なくゆっくり歩いて熊に向かう。
「シイ今度は刀で刺してみてくれ」
シイは言われるまま無言で熊の太腿に刀を付き刺した、が抜けない。
「シイ刺す時の三倍の力で抜けと言われる位で、熊を足で蹴る様に抑えて抜くと良い」
シイは、苦労しながらも刀を引き抜いた。
「筋肉に対して平行に刃を入れないで、筋肉の繊維に対して直角に成る様に刺すと抜きやすく、ダメージも与えられる筈だ」
シイが何度も刺して熊は魔力の残照となりドロップ品を残し消えた。
「一度外に出よう」
「「はい」」「おう」
ボス部屋から出て俺は子供達を呼んで、またチョコレートを渡し周辺のスライム狩りを頼んだ。
シイが何を思って何かを考えているのか、落ち込んでいるのか分らないが静かだ。
「シイ刀を交換してくれ、次は俺がシイの刀で熊を無力化する」
「そんなこと出来るのかい?」
「簡単な事だ」
「この刀の使い方を見せてくれ」
本来の依頼内容から離れて行ってる気がするが、乗りかかった船だ。
今度は武器が短い、熊の間合いに入らなければ成らない、が熊の攻撃は単純だ後は恐怖を克服さえすれば難しくは無い。
休憩してから再びボス部屋へ入った。
俺は右手に刀を持ち、熊の右手側の懐に飛び込んだ。熊は右手を振り下ろしてくる。
俺は熊の右手に背を向け、屈み込みながら右手の刀を掲げ熊の内肘内肘に突き刺した。
熊の腕の下を潜り抜けながら、刺した刀を、てこの原理の様に熊の肘を破壊しながら手元に引き寄せた。
熊の腕を潜り抜けた俺は熊の背に回り込み、右の内膝に刀を横に刺し、刺した場所を支点にして刀と一緒に回り右膝も破壊した。
熊が後ろに倒れ込もうとするも、背中を蹴りふら付いた所に左膝裏の腱を断ち崩れ落ちる。
背骨を断ち蹴り飛ばし、うつ伏せにさせた。
熊の背中に立ち左肩に三度刀を突き立て破壊したが、引き抜くのは力が要る。
「シイ来て今度はその太刀で先ほどと同じように刺してみてくれ」
シイは無言で何度も刺しては抜き、抜いては刺した。
何度も繰り返してるうちに熊が魔力の残照となる。
取り合えずドロップ品を拾い、外に出た。
チョコレートは子供にあげ、休憩しながらシイに話を聞いた
「太刀で刺した感想はどうだ?」
「反りが有る分、刺す時に若干の違和感が有るが、抜き刺しは軽い」
「だろうな、そういう物だ」
シイは俺の問いに答えた後、黙って俯いてしまった。
一遍に色々教えたし見せたから考える事も多いだろう、もしかしたら落ち込んだりもしているだろう。
「今日は早いが終わりにするか?」
「はい」「おう」「……かまわないよ」
皆が納得したので、交換していた装備を戻し安全地帯に戻る事にした。
「マエコちゃん達は、この後五階層で狩りかい?」
「ええ、そうしようと思います」
「そうか、明日も同じ時間に待ち合わせたい」
「分りました宜しくお願いします」
「では気をつけてな」
「はい、有難うございます」「おう」
明日の予定と挨拶を交わし二人とは別れた。
俺とシイがダンジョンを出た時には雨は止んでいた。
ダンジョンを出たは良いが、まだ昼前で食事には早い。
「シイ少し買い物に付き合ってくれ」
「……ぃいよ」
シイは少し元気が無い様だ、返事も少し声が小さかった。
刀の説明は少し簡略化したかったのですが、中途半端になってしまう為、これ以上は削れませんでした。
シイの事を何とか元気付けたいです。




