お坊ちゃんとお嬢様
依頼を断り、依頼人が帰った後のお話し。
スナックと言う聞き上手なプロが居るからこその話しやすさ
誰に得があるのか無いのか
「ノーバンの仕事の話なんでしょ。ミミィも詳しく聞きたいなぁ」
そう言われてはと思い、いつもより少し長居してミミィちゃんと話をする。
本来、依頼を断ろうとも守秘義務とか有るのだろうが、どのみちママには聞かれているし、他人に聞かれて不味い話ならスナックで話したりはしない。
酒の肴代わりに話す事でも無いけど、俺の口の軽さかな。
話が一段落した所で、ミミィちゃんが何かを言い出す。
「あの二人はきっと、良い所のお坊ちゃんとお嬢様だよね」
「そうなの?」
「質の良い服だったし、髪もいい香りがしたからそうかな~て」
「流石ミミィちゃんだね」
やはりフリーの理由は、聞かないで正解だったらしい。
「そうね、上品で礼儀正しく丁寧なのよね」
「ママもそう思うよね」
ママとミミィちゃんは、何だか分かり合ってる気がする。
ママはともかく、ミミィちゃんは何処から見ていたんだろうか?。
「貴族とか大商家とか関わると碌な事が無い、依頼を断って正解だな」
「あら、心配じゃないのかしらね、そうは居ない位に可愛い子なのよね?」
「そうなのノーバン?」
「そうだなぁ」
またママはニヤニヤしながら、余計な事を言い出してきた。
思い出しながら少し上を見て思ったまま返したら、ミミィちゃんに抓られた。本気で痛い。
「ミミィちゃん本気で抓った?」
「本気じゃないもん。軽くよ」
あれで軽くとは、本気で怒らせたら殺されかねないな。気をつけよう。
ミミィちゃんのスカートの中で、尻尾が動いてる気がする。店内で風も無いのにスカートが揺れている。頬は膨らませ小さな口を尖らせて、可愛い。
「ミミィちゃんの方が可愛いから怒らないでくれ」
「怒ってないもん!」
いやいや、「まだ口を尖らせているんですけど」とは言えない。
「まぁ多分もう会う事も無いから」
「そうなの?」
「うん、多分ね」
「見に行ってあげないの?」
あれ、何言い出すんだろう? 依頼は断ったのに。
ミミィちゃんも怒ってた筈なのに気に成るのかな?
「うん? 何故?」
「え、心配じゃないの。可愛い子なんでしょ?」
「一応、話は聞いたし、親友のお兄さんとやらに相談するんじゃないかな?」
「そうかなぁ? 女性はともかく男性は勝気な感じがしたよ」
成る程、勝気か。俺的には冒険者だし、あの程度は普通に居るから気にしなかった。
でも、それで死んでも俺の責任じゃない、忠告もした。
「少しだけ見に行ってあげたら?」
「階層が違うからなぁ。もしミミィちゃんが一緒に行ってくれるなら、見に行っても良いけどね。くくく」
自分が行かないから好きな事を言うけど、こう言えば大変さが理解出来るだろう。「それは無理」と言うミミィちゃんを想像して、少し笑いが溢れてしまった。
「ノーバンが護ってくれるなら、一緒に行っても良いよ」
「はあぁ!? いやいやダンジョンの中は危険だよ」
その返事は俺の予想の外で、びっくりして変な声が出た。
ミミィちゃんが考え直すように、少し脅かしておく。
「護ってくれないの?」
「いや護るけどさ、それでもね……」
「あらあら、ミミィちゃんデート? 良かったわね」
「ママぁ!」
面倒な事に成って来た。でも俺から条件を出した以上、それを飲むと言うなら行くしかない。ミミィちゃんはママに、からかわれて顔を赤くしてる、楽しそうで良いな。
「危険だけど、それでも行くの?」
「うん、本当はノーバンだって気になってるんでしょ?」
はっきりと『うん』と言われては……確かに少し気には成る。
「……明日、明後日お休みだよね?」
「うん、休みだよ」
日曜日と月曜日はこのお店がお休みの日だ。一応、確認で聞いてみた。
農家の少ない町の人は曜日と言う七日一週を基準に生活している。
この考えは神から与えられた知識だとされ、他にも長さや時間の単位等、昔の人々は様々な知識を神から授かったと言われている。
「したら明後日の午後で良いかな?」
明日は日曜日で多分、四階層までは混むから明後日の約束を取り付ける。
俺もミミィちゃんも、一日余裕が有った方が準備もしやすい事もある。
「うん、分った。何か用意する物有る?」
「動きやすい服装で長袖長ズボンが良いな。ズボンの上からなら短めのスカートを履いていても良いし」
猫人用の尻尾対策である。ズボンだけだと尻尾の付け根が見えてしまい恥ずかしいらしい。だからその上から短めのスカートで付け根は隠す。以前、猫人の冒険者に聞いた事が有る。
ミミィちゃんは、お店で長めのスカートだが逆に短いスパッツを中に履いているらしい。
「他に何かいる?」
「うん、耳に大き目のリボンかな」
「ばかぁ!」
今、勢い良く掌が飛んで来た……が、二の腕に当たる前に失速して、その手で抓られた。びっくりしたぁ!
「冗談だから、他は俺の方で用意するよ」
「わかった。明後日の午後ね。待ち合わせ場所は?」
「この店の前で待ち合わせようか?」
「うん、それでお願い」
この町では待ち合わせや予約で午後と言えば、昼食後の意味で理解される。
ミミィちゃんは何だか嬉しそうにしている。余程依頼人の二人が心配だったんだろうか?
閉店後
「ママ、ママ~! 大変だよ。ミミィが、ミミィが」
「あらあら、どうしたのかしらね?」
「ミミィがね~ダンジョンに行くんだってよ」
「ええ知ってるのよね」
「え!? ママ止めなかったの?」
「止める必要ないのよね?」
「お客様の話で良く聞かされるけど、ダンジョンは怖い魔物がいっぱい居る所らしいのよ。危険よ!」
「ノーバンが一緒だから安心なのよね」
「……えぇ~~! それ違う意味で危ないからママ! 止めてあげてミミィを」
「どうしたものかしら?」
「ママもミミィも、あのお客さんの噂を知らないのよ。ね?」
「噂ねぇ?」
「そう噂、『女好き、スケベ、変体、体目当て』とか『触れただけで妊娠させる』とか、もっと酷い噂も有る位なのよ」
「まだまだ子供ね。触れただけじゃ妊娠しないのよ。キスしなければ平気なのよね」
「と、とにかく、色々な噂が有るのよ」
「その噂、今度聞かせて貰えるかしらね。うふふふ」
「笑い事じゃないのよママ、ミミィがお嫁に行けなくなっちゃうよ」
「あらあら大変、お婿さんを探さないとだわね」
「違うからママ、違うから! 兎に角ミミィを止めてあげて~!」
ちょっとした騒動に成るのでした。
設定、世界観
地球と良く似た異世界だが科学水準は低く、いまだ電気の無い時代。
但し、神の創りしダンジョンが存在し、魔法も存在する世界。
そして植物や動物に食べ物等は地球とほぼ同じだが人種だけは人間以外にもエルフやドワーフに人魚族が存在する。