表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/177

 会話が無くとも楽しい時間とは早いもので、治療に使ってる魔石の効果が薄く成ってきた、俺の手に伝わる痛みに通る魔石の力の効果が比例するから効力が落ちれば直ぐに分る。


「今日の治療は終わりにしよう」

「ぇ、ええ、そうね」

 アールヴは俺が思っていたより痛みに耐えていた様で、だいぶ疲れた声で返して来た。

 俺はアールヴの腕が名残惜(なごりお)しく、一度()でて、ゆっくりと手を引こうとした――が、右手を捕まれた。

 こんな事は初めてだ、今まで手に触れようともしなかったアールヴが俺の手を捕まえるなんて。


「如何した? 俺に()れたか?」

「そうじゃなくて、その右手を見せて欲しいのよね」

 あぁエルフ族の国では母が同じ病気で亡くなり、治療法方を求めてだろう人間族の国に来て医師に聞いても治らず、今度はダンジョンに潜り命の魔石を自分で使っても効果が無かった、なのに……治してしまった、それは知りたいだろう。


「見せるのは構わないが、アールヴ次第だな」

「どういう意味かしらね?」

 正直な所、何も考えずに半ば反射的に出た言葉だ、しいて言えばアールヴともう少し一緒に居たいと思うくらいか。


「そうだなぁ、見せて……えっと説明するには時間が掛かるから、今晩泊まっていくなら教えよう」

「見せてくれるだけで、説明は要らないのよね」

 泊まりたくないという事だろうか? 真っ暗な外を一人で帰る積もりか?


「どちらにしても今日は遅い、泊まっていったら如何(どう)だ?」

「その右手を見せてくれたら直ぐに帰るのよね」

「なら、泊まり確定だな」

「……帰るのよね」

 アールヴの「見せてくれたら帰る」とは「見せなければ帰らない」では無いのだろうか? 結局、見せても見せなくても帰るのか?


「俺はもう眠い、もし帰るなら一人で帰ってもらう事になるが良いのか? 外には狼がいっぱい居るし、泊まっていったらどうだ?」

「狼って、ノーバンさんの事かしら?」

 ダンジョン攻略を手伝い、病気の治療までする優しい狼が居たら会って見たい者だと言いたい。


「わかった送って行く」

「いいの、一人でも帰れるのよね」

 今から俺がアールヴの住む寮に送り届けたら、如何(どう)思われるか想像に(かた)くない、きっと「枕営業(まくらえいぎょう)だ」と噂される事に成るだろう。

 むしろ外泊してしまった方が如何とでも言い訳が出来る。

 泊まって昼間に此処(ここ)を出れば、俺の近所の住人は昼間に遊びに来たと思い、まさか泊まりだとは想像すらしないだろう。

 寮の皆にも「友達の家に泊まって来た」とでも言えば良いだろうに。


 俺はアールヴより先に立ち上がり、台所へ行って(かまど)の火を取りランプに移した。

 居間に戻るとアールヴは、服を身に着け立ち上がる所だった。

 俺が(あわ)てて手を差し伸べたが、アールヴはその手を避ける様に立ち上がる。


 その後も玄関を出た後、門を出た後、と手を差し出すも、ことごとく無視されてしまった。

 今は会話も無いままアールヴの後ろを、半歩下がって歩いてる。

 せっかく病気の治療をする事で築き上げた信頼を、自らの言動で(くず)してしまったかもしれない。


 だが治療法を教えた所でアールヴには自分を完全に治療する事が出来ないと思う、何せ転移性の有る病気だ、全を目にして手が届くとも限らない。

 では何故知りたがるのか、単なる興味本意なら知らない方が良い、そして重大な理由が有るなら泊まる事を拒否(きょひ)したりしない、泊まる事と天秤に掛けてどちらが重要かと言う事だ。そもそも俺に下心なんて少ししかないわけだが。


 何も話が出来ないまま道半ばまで来てしまった、今日だけでも治療には十分足りるだけの命の魔石は手に入れた、早く話をしなければ寮に着いてしまう。


「アールヴ、明日は夕方前に俺の家に来てくれるか?」

「また治療してくれるのかしらね?」

「あぁ、アールヴさえ良ければだが」

「ぉ、願いする、のよね」

 アールヴが生肌を触らせてくれると言うなら俺は(いく)らでも治療をしようと思う。

 キャバクラでは御触り(おさわり)禁止だから、この機会を逃す俺では無い。

 アールヴは何度も俺の方へと振り返りながら、少し迷う様に細切れに「お願い」と言って来たが、実は俺の方からお願いしたいくらいなのだ、良かった。


 話が終わるとまた会話が無くなってしまったが、先程までの冷ややかな空気は無い、少しだけアールヴの機嫌(きげん)も直っ気がする。

 アールヴを寮まで送り届け手を振る俺に、アールヴは小さく一礼すると建物の中へと姿を消した。

 その日は狼が姿を現す事は無く、無事にアールヴを送り届ける事が出来て一安心だ。


 俺も家に帰り、その日は早くに寝てしまう。

 翌日、昼過ぎ小腹が空く頃までダンジョンで過ごし、久々に一人での狩を満喫(まんきつ)した。

 そして約束の夕方前には家に戻りアールヴを待つ――(はず)が、(すで)にアールヴが待っていた。


「わるい、待ったか?」

「今来た所なのよね」

「ありがとう」

「……」


 何となくアールヴの足元を見てみれば、そこだけ綺麗に成っている、意外と長い時間待っていたのではないだろうか? 悪い事をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ