病名
枇杷茶で少し咽を潤してから再び話しかける。
「アールヴの病気、多分、治せると思うぞ」
「えっ! ほんとうに?」
「だが……それには先ず服を脱いでくれるか?」
「……先に報酬って事? 成功報酬じゃダメかしらね?」
あぁなるほど、治療に対しての報酬の事を言っているのか? そもそも命の魔石の階層まで連れて行くと言う依頼に対しての報酬すら、まだ受け取ってないのだが。
「治療の報酬と考えてもらっても良いんだが、ダンジョン攻略の報酬だな」
「……」
「あぁ、何もしな……くもないが、変な事はしない、その……病状を見るだけだ」
「本当なのよね?」
「あぁ本当だ、変な事はしない」
疑り深いな、そもそも報酬に「アールヴの体を好きにさせて欲しい」と言った筈だ、俺の好きにさせて欲しい。
少し不満気な顔に成ってしまったかもしれないが、目の前でアールヴが上着を脱ぎ始めれば、先程の不満はどこへやら、「後ろを向いてて」とか言わずに脱ぎ始めたアールヴは最高に美しい。それだけでドキドキしてしまう。
アールヴは不安の中で迷っているのか、ゆっくりと脱いでゆく、それが焦しながら脱いでいる様に見えて何とも堪らない。
アールヴはエルフ族の衣装であろう上着を脱ぎ、畳んで脇に置く、上着を脱いだが半袖の下着を纏っていて裸ではない、予想はしていたが中に肌着も下着も着ていなかったらと期待しなかったわけじゃない。
しかも肌着は目の詰った濃い麻色の布で出来ていて、下着の線すら見えない。せめて下着無しで、薄く白い肌着を身に着けてほしかった。残念。
「寒かったら言ってくれ、俺が温めてやる」
「遠慮するのよね」
ほんの冗談なのに身を引いてまで嫌がる事も無いと思うが……。
気を取り直してアールヴの診察をするか、そして診察と言えば触診に限る、そう診察だ、下心は少ししかない。
「腕を見せてくれるか?」
「ぇぇ、」
アールヴは手を引っ込めるように肩を竦めながらも、恐る恐ると言った感じに俺の方へとゆっくり右腕を伸ばして来た。
その細い腕を手に掴むと、僅かに震えている事が分る。
「そんなに緊張しなくても良い」
「き、緊張している訳じゃないのよね」
分ってる、少し誤魔化してみただけだ、怖がっている事は口にしなくとも分る。
だがそれも緊張の一種ではないだろうか? っと俺は思う。
このまま触診しても良いが、力が入り硬いままでは触り心地があまり良く無い、隣に座って肩を抱き寄せて診察するか? それとも背中から覆い被さるようにして診察するかして、少し緊張を、恐怖を、拭い去らないとダメだろうか? そんな事をしたら、かえって強張ってしまうだろうか?
少し迷いはしたが、そのままの位置で手を伸ばし、力が入り硬くなったアールヴの腕を優しく触り診察する。
虫刺されなのか、粉瘤なのか、軟性線維腫または、皮膚線維腫か? くらいの識別は出来る……が、このままでは良くない、アールヴの腕を左手で引き寄せながら、右手で二の腕の深い所を優しくサワサワと触った――瞬間「キャァッ!」っと手を引っ込められてしまった。いや俺の方がビックリした! 少し力を抜いて欲しいと思っただけなのに、そこまで反応するとは。
「わるい、少し擽ったかったか?」
「そんな所に腫瘍は無いのよね!」
少し怒らせてしまったようだ、でも先程の反応は可愛かった、もう一度見てみたいと思うが、嫌がる事を二度三度繰り返すと本気で嫌われる、我慢しよう。
それでも、先程の行動で、怒った事で、少しは緊張が解れたのか、再び伸ばされた腕の力が僅かに抜けている。なんとも触り心地の良い腕だろうか、何時までも触っていたいと思わせる。
そしてジックリと触った事で、一つの確信を得て語りかける。
「アールヴの病気は皮膚線維腫だな」
「ええ、人間族の医師にもそう言われたのよね……だけど……」
「大丈夫、俺が治してやる」
「本当なのよね?」
「ああ、信じてくれ」
アールヴに「治る」と伝えたら、少し安心したのか完全に腕から力が抜けたようだ。これで俺の診察、触診も捗ると言うものだ。
本来の触り心地であろう柔らかさ、そして白くすべすべの肌、堪らない。涎が出そうに成る。
でも、力が抜けた事で良くなったのは触り心地だけではない、緊張で腕に力が入っていては上手く診察が出来ない。特にシコリのような硬い部分と、そうでない部分を見極めるなら尚更で、その深さや大きさを確認する事はとても重要だ。
線維腫が皮膚と肉だけなのか、それとも骨にまで達しているのかでは大きな違いがある、線維腫と言えど骨にまで達していたら大変な事に成る、それがましてやエルフとくれば尚更だろう。
俺はアールヴの右腕を撫でる様に診察しながら、反対の左腕にも目をやる、右腕とほぼ同等の症状に見える。
後は足や体も見たい、いや気に成るが如何だろうか? 嫌がるだろうか?
今日の所は腕だけにして、数日かけて膝下、太腿、そして体と少しづつ距離を詰め、信用を勝ち取り、そして最後に……。
俺は暫しの間、アールヴの腕の柔肌を触り楽しんだ。下心は少ししかない。




