払えない報酬
元気の無いアールヴを後ろに、自分の家に向かう。
日は落ちて暗い夜道だが、真っ暗と言うほどではない、星の明かりも有れば疎らにランプの明かりも有る。
大通りから、そして繁華街から離れ賑やかな冒険者の声も聞こえなくなる頃、宿屋の看板とそれを照らす明かりが多く目立つようになってきた。
更に進むと今度は明かりが少なくなり、窓や木戸から漏れた光しかなくなる。
そして一軒の家の前で足を止めた、そこは他と違い漏れる光が無い。
「アールヴ、ここが俺の家だ」
「…………」
一度立ち止まった俺に合わせてアールヴも止まる、一声掛けてから門を通り小さな庭を玄関に向かって歩く――がアールヴは門の前で止まったまま動かない。
夜に男の家に上がるのは怖いだろうが、報酬の件は先に話したし覚悟もした筈だ、明日の明るい時間に待ち合わせしな直しても良いのだが、来る保証が無い。
取り合えず家に上がってもらわなければ話も出来ない、少し安心させるか。
「変な事はしないから家に上がってくれるか?」
「変な事をする人は皆そう言うのよね、多分」
アールヴは俯いた顔を半分だけ上げて、上目遣いに目線を合わせ反論して来た。
何を持って変とするかは難しい、例えば動物が子孫を残そうとするのは当たり前で別に変な事ではない、まぁ確かに俺はアールヴの体に興味が有る訳だが……。
素直に聞いてもらえないなら脅すようで悪いが、最後の手段を使うか。
「命の魔石が欲しいんじゃないのか?」
「……もう……興味は無いのよね」
命の魔石はが良い餌に成ると思っていた俺は、アールヴの返答に唖然としてしまう。
「ど! どうして急に?!」
「興味が無くなったの、それだけの事なのよね」
まったく意味が分らん、自分の体を賭けても欲しがっていた筈なのに。
だが今更いらないと言っても、既に依頼は達成している。
「分ったハッキリ言おう、命の魔石が要らなくなっても依頼は達成した、だから報酬は頂く」
「……その事を話そうと……機会を伺っていて此処まで来てしまったのよね」
「それで?」
「その……払える報酬が無くなってしまったのよね」
うん? 言ってる意味が分らない、いや言葉としては分るのだが……。
目の前に報酬であるアールヴが居るのに「払える報酬が無い」払う気が無いって事だろうか?
「報酬なら俺の目の前に居るじゃないか?」
「ノーバンさんは報酬を受け取る為に死ぬ覚悟は有るの? わたしには死ぬ覚悟があるのよね」
何だか焦らされてる様なハッキリとしない言い方だが、手を出そうとしたら死ぬと言いたいのか? それとも俺を殺して自分も死ぬのか? 冒険者ギルドで検査を受けて出てきてる以上、刃物等は持っていない筈、とすれば毒か?
早死にはしたくないが、もう少し突っ込んだ話をしないと、アールヴが何を思い何を言いたいのかが分らないな。
「俺は冒険者だ、何時でも死ぬ覚悟は出来ている」
「そう……? だけど、そうじゃないのよね。わたしに触れればノーバンさんも死んでしまうのよね」
うん? 触れれば死ぬ? やはり毒か? いやいや、「ノーバンさんも」と言った、ならばアールヴも? 既に自分の体に毒を塗ってある? そんな筈は無い、あれほど命の魔石に執着したほど生きようとしていたアールヴだ。
考えろ、「命の魔石に興味が無くなった」「死ぬ覚悟がある」「触れれば死ぬ」「ノーバンさんも」何となく分った気がするが確信は無い、おそらく肌を隠している事、そして人に触れようとしない事、そう病気と何か関係が有るのだろう。
そして「払える報酬が無くなった」と言ったが「報酬を受け取る為に死ぬ覚悟は有るの?」とも言っていた。
それはまるで「俺に死ぬ覚悟があるなら報酬を払っても良い」とも聞こえる。
ならば、その体で払ってもらうとするか。
少々強引だが、俺はアールヴの手を掴んで声を掛ける。
「来るんだ」
「ちょっ! 待って、わたしに触れたら病気が……」
やはりな、そしてアールヴは自分の病気の事を何も分ってない。
「大丈夫、移るもんじゃない」
「えっ? 何故病気の事を? えっ? 何の病気か知ってるの? えっ……?」
「取り合えず中に入ろう、話はそれからだ」
「えっ? 何故? どうして?」
俺は困惑している内に、アールヴの手を強めに引いて家に連れ込み玄関を閉めた。
これで二人きりだ、やっと話しが出来る。




