納税
ギルド長室に通され、深くソファーに腰を下ろす俺とアールヴ、低いテーブルの上には命の魔石が入った革袋、そして向こう側にギルド長が座る。
アールヴの元気が無いとは言え、命の魔石を目にしたら如何なるかは分らない、それだけの執着が見て取れる。気を付けておこう。
アールヴ同様に、命の魔石を欲しがるギルド長へ革袋を差し出す。
ギルド長は受け取った革袋から中身をテーブル上に出す、緩衝材の草と一緒に命の魔石が沢山出てくる。
命の魔石は卵の様に割る事が出来るが、形が球状に近い為、割ろうとしなければ簡単には割れないほど硬い、緩衝材は念の為に入れているだけだ。
四十個以上の命の魔石がテーブル上に広がる――が、隣に座るアールヴを横目に確認すると何の反応も無い、良い事だが命の魔石に何の反応も示さないなんてアールヴらしくない、何となく胸がザワつくと言うか心配する気持ちが膨れ上がる。
だが今は取引の最中だ、考えるのは後にしよう。
俺とギルド長が同時に一個づつ命の魔石を手元に引き寄せる、そして最後に一つ残る、奇数だったか! 最後の一つに俺が先に手を掛け……そっとギルド長の方へと滑らせ手を離す。
「良いのか?」
「ああ……でも只じゃないぞ」
まぁ税率七割五分の所を五割にしてもらい十分な譲歩をしてもらっている、一つ位は只で渡しても良いのだが……。
俺は自分の取り分の魔石を革袋に詰めながら、そしてギルド長は徴税済みの証明を板に書きながら、お互いに話をしながら片手間の様に作業をする。
話の内容は難しい事じゃない、今朝子供達から仕入れた情報の「四階層の東を狩場にしている背の高い男の子がボスに挑む仲間を集めてる」とか「北では太った子がボス部屋を覗いたらしい」と言った子供情報だ、そして奇数の命の魔石の最後の一つ分の御代として誰かに見に行かせる様に言う。
ダンジョンは子供であっても生死すら自己責任と言う考えも有り、ギルド長は少し渋い顔をするが俺はそう思ってない、自分がそうであったから、自分も先人に救われた事が有ったから。
本当は自分で様子を見に行きたいが、今しばらくはアールヴの傍を離れる訳には行かない。
元気の無さも気に成るが、報酬を受け取るまで逃がす訳には行かない、只働きは御免だ。
ギルド長との必要な話は終わったが俺は命の魔石とは別の魔石も持っている、先程ギルド長が書いた徴税済みの板には魔石の種類と数が書かれている。
徴税済みとだけ書いてくれれば、種類や数が書いていなければ他の魔石は脱税出来たかもしれないのに、余計な事を。
下のギルドで精算するより、今ここで精算した方が早いだろうと思い、他の魔石もテーブルに出して板に追加で書いてもらう、当然、相応の税も納めた。
「ノーバン、また宜しくな」
「しばらくは休みだ」
ギルド長が「また」と言って来たが良い様に使われる訳にはいかない、ワザと少しズレた返しをした。
そしてギルド長は元気の無いアールヴにも目を向けて挨拶をしようとするので、俺は首を振って立ち上がると、ギルド長も何かを言うのを止めてソファーから立ち上がる。
そして遅れてアールヴも立ち上がったので二人で部屋を後にした。
すでに精算を終えてる俺達は簡単な検査を受けて、冒険者ギルドのゲートを通り抜ける。
冒険者ギルドを出て見れば外は夕日で真っ赤に染まっていた。
もう少し早いと思っていたが、意外と時間が掛かってしまったようだ。
「飯にしよう」
「……ぇぇ」
後ろに振り向いて声を掛けると、小さいながらも良い返事が返って来た、多分「帰る」とか言わないのは俺が命の魔石を持っているからだろう、そうでなければ……、もしアールヴが命の魔石を手にしていたら、逃げてでも俺から離れたのではないだろうか? 命の魔石は報酬と引き換えだ。
馬に人参、アールヴに命の魔石、これを持って歩けば勝手に付いて来る。そして何時もの食事処へと入った。
そして此処でもアールヴの元気の無さを指摘される、これ以上余計な刺激を与えて欲しくは無いんだが、いや、皆の心配も親切も分るが勘弁して欲しい。
無言のまま食事を終えた俺とアールヴは静かに店を出た。
そして向かうは俺の家なのだが――アールヴは店の前から動かない、戸惑っているのだろうか?
「アールヴ、付いてきてくれるか?」
「……」
俺の問いにアールヴは無言のまま小さく頷いた。
食事をしている間に日は落ちて、外は大分暗くなっている、そこで知った顔とは言え男に付いて来いと言われれば不安だろう。ましてや報酬の件もある、何をされるのかと考えても不思議ではない。
だが! 命の魔石は俺の手の中にある。ふふふ。
俺は後ろを気にしながら、ゆっくりと歩き出す、少し遅れてアールヴも付いてきた。よしよし、それで良い。
元気の無いアールヴには悪いが、俺はドキドキ、ワクワクで今にも顔がニヤケそうだ。「御免よアールヴ」心の中でそっと囁いた。




