惚れ直し
魔物の死を……鳥肌の立つ様な死に方を見た後だが、手を体を休める訳にはいかない、手負いの魔物を次々と倒す。
「ふぅ、アールヴお疲れ」
「お疲れ様なのよね♪」
どうやら疲れてるのは俺だけの様だ、アールヴは挨拶もそこそこに近場に落ちてる命の魔石を拾い上げ、嬉しそうに頬擦りしている。
俺も魔石になりたい。……いや鉄兜で頬擦りされても痛いだけか?
俺も息を整え命の魔石を拾い集める、すると少しづつ嬉しさが込み上げて来た。
何はともあれ、これで依頼は達成だ、後に待つ報酬の事を考えれば自然と顔がニヤケてしまう。
アールヴも喜んでいる様だし良いパートナーに成れそうな気がする。ふふふ。
拾い集めた魔石を、何時もより大きな革袋に入れてアールヴに声を掛けた。
「魔石を落とすと勿体無いから、一度俺が預かるよ」
「ぇっ、ぇそうね……」
何か悪い事でもしただろうか? アールヴは返事の声も小さく、先程までの浮かれた雰囲気は消えて少し俯いた状態で魔石を差し出して来た。
一時預かりだけで此の反応では、ギルドで税金代わりに半分も没収されたら人を殺しかねないのではないだろうか?
報酬の為にも直ぐ戻りたかったが、少し機嫌をとる必要がありそうだな。
「……もう少し狩をしていくか?」
「はい! ノーバンさん」
良かったぁ機嫌を直してくれた様で、アールヴの明るい声が戻った。
先程の戦闘だけでも三十以上の魔石が集まった、半分を税金で失うとしても十五個も有れば十分な気もするが、アールヴの機嫌が良くなるなら少しくらい付き合うさ……。
とは言っても、全身鎧のアールヴに長距離を歩かせたり走らせる訳にもいかないから考え物だ。
「今から魔物を連れてくる、アールヴは弓の準備をして待って居てくれ」
「待ってるのよね」
良かった「一緒に付いて行く」とか言われると思ったが、どうやら命の魔石を手に入れた事で少しは落ち着いているみたいだ。
アールヴが素直に待っていてくれるなら期待に答えないとな。
それには猿を誘き出す必要がある訳だが、好奇心旺盛な顔の赤い猿の、群れが居る密林が分ってしまえば簡単な話だ。
少し心配では有るが、アールヴを残して赤い顔の猿が居る密林の様子を見る。
先程、魔石を入れた革袋以外にも予備で持って来た革袋に草を詰めて膨れさせ、細槍は軽く持って疲れた様に足を引き摺って歩く。まぁどうせ革袋には魔石が割れない様に草を詰める積りだったから、少し前倒しに成っただけの話だ。
これで好奇心旺盛な顔の赤い猿にとって、俺の事が良い鴨に見える筈。
歩く事、数分、密林から猿が三匹ほど出て来て荷物を奪いに来た。
俺は慌てた振りをしながら踵を返し、アールヴの居る方へと軽く走り出す。
猿は罠に嵌るだろう事にも気付かず追ってくる。
俺は何度も振り返り恐怖に怯えた振りをして、一定の距離を保ち誘き寄せた。
猿はアールヴの姿を見ると僅かに速度を落とした……が、弓を隠し持ち微動だにしないアールヴに油断したのか? 再び速度を上げて俺の方へと迫って来る。
俺がアールヴの傍を通り過ぎ、振り返った時には既に三匹の猿の胸に矢が刺さって倒れていた。
アールヴは猿を見下ろし、戸惑い無く止めの矢を射掛け魔石へと変えてしまう。中々に容赦が無い。
「そろそろ戻ろうか?」
「もう少しだけお願い、なのよねぇ?」
猫撫で声で甘える様に言われても、全身鎧なわけなんだが……、まぁ可愛い声で言われてはな。
その後、「あと少しだけ」と「もう一度だけ」と可愛い声でアールヴに頼まれ狩をして、合計四十個以上の命の魔石を手に入れた。
これではアールヴ以上に、ギルド長が喜びそうで何だか釈然としない。
アールヴは、まだまだ狩を続けたい様子だったが、あまり長居をすればお楽しみの時間が減ってしまう、「赤い顔の猿の数が減って釣れが悪く成った」と言って適当に切り上げた。
狩を終えた俺とアールヴは安全地帯に戻り、エレベーターで地上一階へと上がるまでに、珍しくアールヴが今日の狩の事を聞いてきた。
「何時も凄いと思うけど、沢山の猿が出た時は異常だったのよね、身体強化を使ったのかしら?」
「俺ってそんなに凄い? 惚れ直してくれたか?」
話の内容は兎も角、女性に「凄い」と言われれば嬉しくもなる。
つい、茶化す様な事を言ってしまうのは仕方の無い事だ。
「惚れ直すも何も、惚れていないのよね!」
「ぇっ、まぁそうか?」
いや、そうだよなぁぅ↓ アールヴと俺は『依頼人と請負人』の、そして『ホステスと客』と言うそれだけの関係、付き合ってる訳じゃない、でもハッキリ「惚れてない」なんて言われると少し落ち込んでしまう。でも「嫌い」と言われなかっただけマシか? はぁ……↓
「話を戻して教えて貰えると嬉しいのよね」
「あっあぁ、身体強化の話だったか?」
沢山の猿が出た時の話だったか? おそらく目の奥や喉元を突いて多くの猿を即死させた事を言っているのだろう。
「そうなのよね」
「あれは身体強化では無く……『ゾーン』と言うやつだな」
「ゾーン?」
「『超集中状態』……っと言ったら分るか?」
その後、ゾーンについてアールヴに少し説明した。「冒険者になりダンジョンで狩をしていて、身の危険を感じた時や集中力が高まった時にゾーンに入る事がある、危険を感じた時は数瞬から数秒、集中力が高まった時には百メートルを駆け抜けられるほど長い時間ゾーンに居る事もある」と。
「教えてくれて、ありがとうなのよね」
「どう致しまして」
そろそろ地上一階に着くな。




