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ゾーン

戦闘シーンに若干、グロテスクな描写が有ります。御注意を!


 猿に痛手を負わせ致命傷を与えるも、即死とは行かず倒し切れない猿を相手に、俺もアールヴもジリジリと後ずさる。


 ここは(あせ)って逃げてはいけない、そんな事をすれば本気で猿に追われ、何が飛んでくるか分らない、攻撃は最大の防御と言うがダンジョン内では度々出会う境遇(きょうぐう)だ。(はか)らずしも此方(こちら)の攻撃が牽制(けんせい)となり猿共の足を鈍らせている。


 俺とアールヴそして猿の魔物との攻防(はげ)しく、猿の奇声が辺りに響き渡り、それに釣られて俺も意味の無い声を上げた……その時、猿の動きがゆったりとした時間の中に(ただ)い、戦闘中だと言うのに凄く冷静な自分が居る、そして(おそ)い来る全ての猿の動きが視界の端まで見て取れる。


 ゆったりとした時間の中にそれは見えた、一匹の猿が魔石に変わる瞬間を……そして見えない筈のアールヴの視線が。

 魔石を見たアールヴの動きが止まる、いや一瞬の出来事かもしれないが敵は待ってくれない、そして今の俺にはその一瞬が数十秒にも引き伸ばされ歯痒(はがゆ)くもじれったい。


「アールヴ!!」

「……っえ!?」

 俺の声に反応はしたが声は上ずっている、何を考えていたかは大よそ想像が付く、多分魔石を拾いたいとでも思ったのであろう、だが戦闘中にする事ではない。

 俺は次の言葉を用意した……が、必要は無かった。

 アールヴはたった一言だけで我を取り戻し、戦闘に意識を、身を戻す。


 やはりアールヴが欲しい、そう思わせる切り替えの早さだ。

 だが、先ずは現状の建て直しだ、一瞬とは言えアールヴと猿との距離が縮まってしまった、視界の端に後ずさるアールヴを見つつ俺は足を止めて猿を少し引き付ける。

 戦闘に集中出来てる今の俺なら、仮に囲まれても平気だ。

 普段は感じる事も捉える事も出来ない武器に(まと)わり付く空気の重さや、猿共の足が地面に着いてから重心の移動、そして爪先が着いて蹴り出すまで全ての動きが見てとれる。


 今の俺ならばと思った事を、考える間も無く行動してしまう。

 猿が前の足を伸ばし地に着き体重が乗る、そして地を離れた後ろ足を前に出そうとする瞬間を狙い、細槍で外から後ろ足を軽く叩いた。「キーキー!」

 叩かれた猿の後ろ足は、軸にしている自分の前足に掛りその場で「ズデッ」っと転倒してしまう。

「クァハッハハ」

「……ノーバン(NO-BAN)さん?」


 予想以上に上手く行った事と、倒れた猿の間抜け(ズラ)を見てつい笑いが込上げてしまった。いかんいかん戦闘中だ。

 そして小さく(ささや)かれたアールヴの声もしっかりと聞き取れた、いける!

 そう思ってからの戦闘は早かった、柳か(ムチ)かと思うほど(しな)る細槍の先の動きまで全てが手に取るように分る。

 そして猿の動きも見えているとすれば狙うは急所のみ。


 槍の手元を低く持ち、撓りを利用し下から穂先を跳ね上げ猿の眼球を貫く、死角から頭蓋骨(ずがいこつ)に飛び込んだ槍は、眼球で止まる事適わず脳を貫いてから引き抜かれる。

 辺りにはおびただしい血の様な物が舞い散るが、細槍の穂先には何か白い物が付着していて戦闘中の高ぶりが無ければ吐いていたかも知れない。


 引き抜かれた穂先は次の獲物の喉元を貫き、また次の獲物に狙いを定める。

 だが(くや)しいかな――心の臓を見極める事が出来ない。

 魔物だからと言う事もあるが、魔物でも似た様な器官は有り体内で血の代わりに魔力を循環させている。

 だが多くの魔物は肋骨(ろっこつ)等で守られていて、しかも体毛の有る魔物では正確な位置を見極めるのは至難の業だ。


 心の臓を(とら)える事は出来なかったが、草原に下り立ち追って来た猿は(すで)に一桁に成っている。

 だがアールヴの矢も手に持つだけとなった、余裕が有る訳ではないらしい。

 猿も数が減って混雑が無くなったせいか? 強い者が残ったのか? 動きが早く良くなり扇状の(おうぎじょう)陣形をなしている。

 俺は(ひさし)にしていた左の盾を下ろし、盾を細槍に添えて連続で猿を突く。


 狙いは甘くなるが手数を増やした、猿の足を陣形を乱せればそれで良い。

 そしてアールヴが最後の矢を放つ。

 俺は一度、槍を大きく振り回し牽制する、その一瞬にアールヴは投げ返され地に落ちていた矢を三本拾い上げると、瞬き(まばた)する間にその三本の矢を同時に撃ち放ち、それぞれが別々の猿に突き刺さる。


 そう、三本の矢を一掻(ひとか)きで弓に番え力強く放ち、三体の猿の胸に突き刺さった。

 俺が牽制している間に逃がそうと思っていたが、まさか矢を拾い上げ至近距離で放つとは思わなかった、大した度胸と行動力だ。

 そして全身鎧を着ているとは思えない良い動きだった。


 無傷の猿は残り一体のみ、自信とか確信が有った訳では無いが、集中し(ノド)を真正面から貫いた。

 手には「ゴリッ!」っと嫌な感触が伝わり、喉の裏、そう脊髄(せきずい)までも貫いた事が分った。

 その猿は一瞬で硬直し「パタリ」と倒れて、痙攣(けいれん)したかと思うと直ぐに魔石へと姿を変えた。


 魔物とは言え心に鳥肌の立つ様な死に方だ、だが(いた)んでいる暇は無い、手負いの魔物がまだ残っているのだから。

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