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赤い猿

 少し離れた位置に有る二つの密林の両方から、ボス猿と思われる大きな鳴き声が響き渡り、それに合わせて俺もアールヴに声を掛ける。


「来る!」

「何時でも良いのよね」

 っと言いつつアールヴは大きく胸を張る。

 いや大きいのはアールヴの胸ではなく鉄の全身鎧だ、しかも鎧と体の隙間には皮の服も着込んでる。

 今のアールヴが胸を張ったからと言っても、心はおろか目すら奪われる事は無い。

 少し残念に思うが、魔物に集中出来ると思えば良い事なのかもしれない。

 一瞬だけアールヴに目遣(めや)り、肩を落として密林に目を向けた。


 視界に有る二つの密林の何処からともなく、硬い木の実が飛んで来た。

 だがその(ほとん)どは俺とアールヴに当たる事無く何処かへと飛んで行く。

 全身に金属の鎧を(まと)ったアールヴに一つ二つ木の実が当たるも、気にした様子も無くジッと構えている。良い判断だ、下手に動けばかえって当たりに行くようなものだから。

 俺も二、三個の木の実を、丸い木の盾で弾いて相手の動きを注視する。


 運良く、二つの密林から出て来た縄張りの違う猿同士で戦い、共倒れに成って魔石を残してはくれないだろうか? 有り得ない事かもしれないが(わず)かに期待せずにはいられない。


 二つの密林から、それそれの猿の群れが飛び出して鉢合(はちあ)い「キーキー」とお互い(わめ)き合った……が、どうやら俺とアールヴに狙いを定めた様で、二つの群れが合流し、此方(こちら)を向いて動き出す。

 その数はおよそ三十体、今にも逃げ出したい気持ちを押え付けて待ち構える。


 草原に出た猿達は、木の実に代わり小さな石を持って投げて来た。

 小さいとは言え固い石を受ければ危険だ、普通の装備なら痛いし怪我もする。

 チラッとアールヴを見てみるが逃げる様子は無い、いくら金属製の全身鎧を身に(まと)っているとは言え怖いだろうに?


 俺は鎖帷子(くさりかたびら)を身に纏っているが、アールヴの様に鉄兜を被っている訳じゃない、体と同じく鎖で出来た覆面の様な物で(おお)ってはいるが目の部分は無防備だ。

 目だけには攻撃を受けない様にと十分注意しながら、飛んで来る小石を大きめの丸い木の盾で受ける。


 唇を剥き歯を見せて「キーキー」と威嚇(いかく)しながら石を投げて、徐々に近付いて来る猿は左側から体毛が黒く手の長い猿が、いや猿なんて皆、手が長いか?

 そして右側からは真っ赤な顔をして体毛の色が薄い猿が来ている。


 手の長い猿を追い立てて飛び込ませた先の密林に居たのが、顔の赤い猿か。

 当然、違う群れの猿が飛び込んで来たら慌てるだろう、そしてお互いの群れのボスの鳴声で号令で飛び出して来た。


 しかし顔の赤い方は厄介だ、好奇心旺盛で悪戯好き、密林から出てでも冒険者の武器や荷物を奪いに来るし、それに対して攻撃や防御をすれば、敵意剥き出しに凶暴化して仲間を呼び集めて攻撃してくる。

 この赤い顔の猿の群れが居るから、階層攻略するにしても無傷でボス部屋を目指すのが難しいと言わせる程だ。


 今回は階層攻略が目的ではなく、命の魔石が狙いだから良いと言えば良いのだが……、いくら何でも三十体は猿が多すぎるか?


 猿が近付くにつれ小石を拾い投げる者と、木の枝や棒を手に持ち走る者との間に距離が開き、同士討ちを避ける為か小石の雨は少なくなる。

 俺はアールヴの右前方一歩前に出て細槍を構えた。

 細槍は二mの笹棒(ささぼう)の先にヒシ形に()いだ穂先を付けただけの簡単な作りだが、長さの割りに軽くシナリ良く手元の節が持ちやすい。


 目の前上に、左手の盾で(ひさし)を作る様に(かか)げて目を守る。

 細槍を右手に持ち腰の後ろまで下げると、一気に槍を押し出し、僅かに右へ左へ手首を動かせば、細槍は生き物の様に蛇の様に、僅かな動きを数倍に増幅して穂先を左右に揺らして猿を襲う。

 一瞬左に動いた槍を猿は右に避けるも、細槍の穂先が今度は右に動いて猿を追いかける様に、その腹を突く。

 すかさず槍を手元に引き戻し再度突き出す。

 突いてから引き寄せるまでには僅かな抵抗しか感じない、穂先に返しが付いた物や三角の物なら抜けなかっただろう、また穂先が長い物なら同じように抜けるとも重くて片手では扱い難かったに違いない。

 然程(さほど)大きくないヒシ形の穂先は、四面とも研いであり抜き差し良く重さも程よく手首だけで左右に振れる。


 そして先程から俺の左の視界では矢が勢い良く何本も飛んで行く。

 一度槍を大きく左右に振って猿を牽制(けんせい)してアールヴに目を向ければ、顔の高さに弓を構えて四本の矢を持った右手で、五秒と掛からず四本とも打ち出している、それでいて全てが猿の胸や腹に刺さるのだから恐れいる。


 胸や腹に矢を受けた猿は、苦し紛れに体から引き抜いた矢を、アールヴに向けて叩き付ける様に投げ返す……、それは悪手だろう。アールヴにとってみたら願ったり叶ったりだ。打ち放ち手放した矢が戻ってくるのだから。


 だが俺もアールヴも猿の頭を狙えない……(ゆえ)に、致命傷を与えるも即死させる事が難しい。

 アールヴには弓の制約、制限で、水平や上方に向けての使用が出来ず、しかも外した時の着矢地が十m以内となれば、いくら顔の高さに弓を構えても猿の顔を頭を狙うには無理が有る。


 俺も細槍では胸や腹より硬い頭蓋骨の有る頭を貫けるとは思ってない、そして目や喉と言った狭い急所を狙うには穂先が揺れ過ぎて難しい。


 倒し切れない敵に、俺もアールヴもジリジリと後ずさる。

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