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第百二十五話、悪魔の微笑み

 逃げる猿の魔物を追いかけようとするアールヴ。


 今はまだ密林の手前、猿の縄張りの外に居るが、このまま追って中に入れば必ず痛い目に合う、体を張ってアールヴに抱き付いてでも止めなければ……いや抱き付いても鉄の鎧じゃ抱き心地も何も無いか?

 っと考えてみたがアールヴは言葉だけで止まってくれた。


 九十一階層のフィールドは足首程の高さのに草が()(しげ)り、場所により枝葉を広く伸ばした木が大小様々生えた密林が点在し。

 その密林の一つ一つが猿の魔物が住まう各群れの縄張りと成っている。

 そして群れ毎に(ごと・まい)猿の種類も違い、逃げ足の遅い猿や、強暴だが大きく向かって来るような(マト)になる者を探して歩くのも良いだろう。


 だがそう言った類の(たぐい・るい)獲物は少なく、探すのに時間が掛かる事も多い。

 自分一人ならそれも良いが、今のアールヴが時間を掛けた狩を望むとは思えない、下手すれば一人で狩に行きかねない様相(ようそう)だ。

 ここは少し無理してでも短時間で狩をする事が、大きな無理をしない事に(つな)がるだろう。


 ダンジョンでは強い魔物が多く、出来る限り無茶や無理をしないのが望ましい。

 今まで何度もアールヴの我侭(わがまま)を押え付けて来たが、今日だけは、今だけは……。


 猿の去った密林と草原の境界線を見ながら、隣の密林近くまで軽く走った。

 左右にそれぞれの密林が見える位置、だが互いに猿の種類は違う、いや同じ種類の者だったとしても各々の縄張りやボスは別物だろう。


 アールヴに小石を三つほど持たせ、「その場で待機し、俺の口笛を聞いたら密林の中央に向かって小石を投げるように」と言い俺はその場を後にする。


 初めての階層で一人置き去りにされるアールヴは心細いだろう、少し心配になり振り返るも、平然とした顔で立つアールヴの姿が見えた。

 俺に対する信頼だろうか? それとも肝が据わっているのだろうか? どちらにしても最高の人材だ、本気でアールヴの事が欲しいと思った。冒険者としても、そしてそれ以外でも……。


 だが今は狩に集中しよう、アールヴも落ち着いている様で安心だ。

 密林に沿()うようにアールヴから離れて行き、やがて木の枝に葉に(さえぎ)られてアールヴの姿が見えなくなる。

 一旦息を(ひそ)め整えてから、意を決して密林中央へと向かい走り出す。

 多くの猿が「キーキー」と甲高い声を上げながら木から木へと飛び移り散り散りに逃げ出した。

 ……が密林の端に居た数匹の猿は逃げようにも、俺が中央に向けて走った為に密林奥、中央に向かう事も出来ず、俺から遠ざかる様に木を伝い密林の端に沿ってアールヴの居る方へと逃げだした。


 それを横目に俺は二mもある細槍で木を打ち鳴らしながら合図の口笛を吹いた。

 一瞬の間を置いて甲高い音が「カンッ!」「カンッ!」「カンカンッ!」と二、三度密林に響き渡る。

 弓の上手いアールヴと言えど石を投げるのは勝手が違う様だ、枝の間をすり抜けて中央にまで射線を通す事は(かな)わず、意外と手前の方の木に当たった様に音は近くで聞こえた。だがそれで良い。


 密林の端に沿って逃げていた数匹の猿は、アールヴの投げた石に行き場を失い密林の外へと向かう、俺は横目に其の数匹を追いながら細槍で木を打ち鳴らす。

 森の中央の方から、今までの鳴き声より低い空気を震わす様な声が密林に響く。ボスか?

 いつまでも密林の中に居たら囲まれる、さっさと離れよう。


 数匹の猿を追い立てながら走れば木の隙間から草原が見えて来た、そこには矢を右手に左手に弓を構えたアールヴが見える……、が密林から逃げ出す猿との間には距離がある、フィールドでは水平以上に矢を放つ事も十m以上の着矢も禁止されている、討ちたいのを我慢しているのだろう。遠くて分らないがアールヴの手が震えている様な気がした。

 猿を追い掛けると、縄張りの密林内に逃げ場を失った猿は草原に飛び出し、追われるままに隣の密林へと飛び込んだ。


 密林から出た俺は追い討ちとばかりに、逃げた猿が分け入った密林に小石を拾て投げ込む。

 その頃には今まで居た密林の奥が騒がしい、急ぎアールヴの元へと駆け寄って声を掛ける。

「魔物が大量に襲ってくる可能性がある、気を引き締めてくれ」

「今度こそ命の魔石なのよね?」


 は? いや確かに猿の魔物を倒せば命の魔石を落とすが、もう少し緊張して欲しい者だ、それでも緊張し過ぎて動けないより全然良いのか?

 アールヴの返しに、問いに言葉を失ってしまい、首を左右に振りそうに成るのを止めて微かに首を(かたむ)けた状態で、何とか頭を縦に振った。自分でも分る程にぎこちなく。


 それを見たアールヴは矢筒から更に矢を(すく)い上げ、右に四本の矢を手にして口の端を僅かに上げて、悪魔の様に微笑んでいる。

 その微笑みは美しくも背筋が冷える様な姿で、つい目を()らしてしまった。


 その時、密林から一際(ひときわ)大きく地を震わす鳴き声が響き、それに応呼(おうこ)呼応(こおう))する様にもう一方の密林からは空気を震わす鳴き声が響く。


「来る!」

「何時でも良いのよね」

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