九十階層
アールヴが焦って先行しないように、十分に話し合ってから九十階層のフィールドに出た。
九十階層のフィールドは所々茶色掛かった草原に、低い木と高い木が多く散立している。
上空の警戒は当たり前だが、地上にも厄介な魔物が現れる可能性が高い、地上にも意識して歩を進める。
上空からの敵に襲われない様に、腰を落とし入れる位の低い木を依代にしながら進んでいると、始めに現れたのは地上を走る鳥だ。
背丈は人より高く、体重も百kgを超える、そんな大型の魔物が時速、約七十kmで突っ込んでくる。馬の全速と変わらない速さだ、恐怖を感じてしまう。
しかも攻撃は嘴だけじゃない、大きく鋭い爪の付いた足の蹴りは、まともに受けたら致命的な一撃で、仮に盾で受けても吹き飛ばされてしまう。
まずは避ける事に注力し、その上で敵の足に一撃でも入れられたなら幸いだ。
アールヴはすでに木に登り、俺は木を中心に回り込む様に避ける。
通り過ぎ様とするダチョウの首に、アールヴの鞭が襲い掛かった、だが巻き付く事は無く、傷を付けるに終わる。いや巻き付いていたら、鞭を持って行かれていただろうか?
首に傷を受けたダチョウは、見た目以上にダメージを負ったのか、戻って来る事は無かったが、また、いつ襲ってくるか分らない、警戒しながら進むとしよう。
上空に小さな鳥が見えたと思ったら、急降下し俺の目を狙って来た。
橙色の胸に鮮やかな青い羽、そして鋭い嘴。
カワセミだ、目立つ色だから気付いたが、見落としでもしたら、目を射抜かれていただろう。
慌てて目の前に刀を立ててカワセミを切り裂いた。カワセミの攻撃が早過ぎて遠近感が無かったがギリギリだった様だ、刀を構えた瞬間に衝撃を受けた。
カワセミの残した風の魔石を拾いながら少し考える。
今の攻撃がアールヴに向かっていたら避けられたのだろうか?
だがアールヴの様子を伺っても、動揺している様には見えない、大丈夫だろう。
まぁカワセミは、それほど多くは無い、出会う方が稀とも言える、話に聞いていた「綺麗な鳥には気を付けろ」と。でも見るのは俺も初めてだ。
これ以上出て来ない事を祈るも、注意は怠らない。
その後、鳩の大群にも襲われ、俺だけ攻撃を受けてしまうが、アールヴの鞭により撃退した。鞭が羽にさえ当たれば、致命傷でなくとも飛べなくなり地に落ちる。
それを俺が刺して回り今回は俺の方が守られている気がした。
そして鳩の攻撃を受けた俺は、肩や頭が白くなっている。そう鳩の攻撃とは糞だ。
上空から集団で糞を落とし攻撃してくる、何とも恐ろしい。
この鳩の攻撃は、雨を避けるのと同じだ、雨粒の全てを避けられる人など居ない。
嫌がらせの様な遠距離攻撃は俺の精神を削るには十分過ぎる。
そして一見無意味に思える攻撃だが、戦闘後は早めに糞を洗い流さないと病気に襲われる、しかも洗うには水が必要な事と素手で押し広げない事、なかなかに面倒極まりない。もし手持ちの水が足りなければ急ぎ戻るしかなくなる。
だがアールヴは当たってないんだよな、俺だけが標的にされたって事だろうか?
まぁ俺が先を歩き囮役をしているのだから当たり前なのだが、白い液まみれに成ったアールヴを想像しなくも無い訳で……。
妙な考えは捨て去り、周りを警戒しながら手早く水の魔石で糞を洗い流して、再びボス部屋を目指す。
何度もダチョウに襲われながらもボス部屋に辿り着き、簡単に打ち合わせをする。
「何時も道り俺が先に入りボスの気を引く、そしてアールヴは部屋に入って暗かったら部屋の角に身を潜めてくれ」
「はい?」
アールヴは「はい」と言いつつも疑問形だ、もう少し説明が必要か?
「九十階層のボスは猛禽類と言われる大型で肉食の鳥なんだが何が現れるか分らない、中でも厄介なのが暗闇の中を音も立てずに襲ってくる敵が居る、だから部屋の中が暗い時は一番危険なんだ」
「はい、ノーバンさん」
今度は納得してくれた様でハッキリと返してくれた。
アールヴは盾持ちだが何とか弓に矢を番え、俺も刀を構えて部屋に入る。
今回は当たりの様で、部屋の中は明るい、が油断は出来ない。
ボス部屋の中にも高い木が散立し、何処にボスが居るのか分らない状況だ。
見えないが絶対に居る、此方の様子を伺っているのだろう、ならば俺が囮に成るしかない。
手甲より少し大きい程度の盾はアールヴに渡してしまったので、左手にサバイバルナイフを逆手に持ち刀は右手片手持ちにし、俺は部屋の中を闇雲に走る、すると何処かで羽の音がした。
「何処だ? 何処に居る?」
音はすれども姿が見えない。ここはアールヴの弓の腕を信じて、攻撃の事は考えずに囮に徹した方が早そうだ、俺は身を晒し速度を落として走る。
部屋の奥を気にしながら走っていたが、羽音が後ろから聞こえて来た。
いつの間にか背後に回り込まれていたらしい。
俺は僅かな危険を感じて体を捻りながら前に倒れ込み、後方を確認する――と同時にアールヴの矢が放たれる。
「ヒュッ!」
見えなかったが、矢の走る音だけは聞こえた、そして暴れるような羽音。
「バサッバサッ! バタバタ」
羽音に目を向ければ大きな鷹だかワシだかが地に落ち暴れてる、急ぎ立ち上がり刀で止めを刺す。
「ありがとう、アールヴ」
「どういたしまして」
以前、一人でこの階層のボスを倒した時には、飛んでる標的に矢を当てるのに苦労した覚えがある、流石はアールヴだと感心する。




