身体強化
俺とアールヴは八十九階層のボスを倒し、四つの大きな火の魔石を手にして少し警戒しながら部屋を出た。
ボス部屋を出て直ぐ魔物に襲われると言う事は無かったが、犬の魔物は耳が良いのか鼻が良いのか分らないが会敵率が高く、何度も出くわす。
俺が前を歩き敵を引き付けるも何匹かはアールヴに向って行く、だが自力で対処している、同時に何匹もに囲まれない限りは平気そうだ。
それでも犬の魔物も種類が多く、一度噛み付いたら離さない者、立体攻撃が得意な者、イノシシの様に体当たりして来る者と様々だ、油断は出来ない。
二人で安全地帯に戻り少し休憩しながら九十階層へと下りた。
安全地帯を出る前に、アールヴと装備の確認をする。
アールヴは左手に弓を、右手に鞭を持っていて革の帽子を装備し、腕貫も手足に着ている。
九十階層では鳥の魔物が襲ってくる、下手に弓を使われては規約違反で処罰されかねない、弓は背にしてもらい、代わりに俺の装備している手甲より少し大きい程度の盾を渡した。
武器にはクロスボウと言う物も有り、片手で扱える弓の様な物だが、中には矢に紐付きの物もあり、水平より上に向けての射出も許されている、基本原理は一緒なので同じ様に紐付きの矢でも作れば良いのかも知れないが、面倒なので想像しただけに終わらせた。
「九十階層の鳥の魔物は、目や頭を狙って来るから十分に注意してくれ」
「そうなのね、ありがとう」
心配してくれて「ありがとう」と言う事か? 俺の報酬でもあるアールヴの体を心配するのは当然の事だとか思わないのだろうか?
空からの魔物に備えて、アールヴの鞭使いを確認してみる。
一m五十cm位の鞭を軽く頭上に振ってもらうと、まるで生き物の様に蛇の様に、そして水面に広がる波紋の様に手元側から弧を描き、それが手元から鞭の先端へ向かい走り、最後に先端が空を切裂くほど鋭く振れた。
あの鞭でアールヴに叩かれたら、どんなに気持ちが良いだろうか? 少し想像してしまう。取り合えず鞭の使い方が上手い事は確かだ。
アールヴに水の魔石を二つ手渡し、いや、俺は手渡すのだが、アールヴは直接手に触れる事を嫌っているのか? 俺の手には触れない様に魔石を受け取る。少し心が傷付く。
そしてアールヴは、魔力操作を使い、一つ目の魔石で手を洗い、二つ目の魔石の水を飲む。
集中する事無く当たり前の様な魔力操作で魔石の扱いが出来ている。
「アールヴ、水の魔石の殻を溶かす時に使う魔力を感じ取れるか?」
「ええ、手から魔石に伝える時は、少し痺れる感じがするのよね」
俺の期待した答えとは若干違う、もう少し「手に集めて」とか「体中から手に」と期待していたのだが、無意識に出来てしまっているからだろう。
「その魔力を、魔石ではなく全身に巡らす事が出来るか? 全身に水や水の魔石をイメージしても良い」
「少し待ってね、今やってみるのよね」
今度は、少し集中して体内に意識を向けているのか目の焦点が合ってない。
「そのまま、先ほどと同じ様に鞭を振ってくれるか?」
「え、ええ?」
アールヴの返事は曖昧だが、魔力操作に意識の多くを割さいているのだろう。
少し待つと、魔力を意識出来たのか、アールヴが鞭を振るう。
『ヒュッピシッ!』
鋭い鞭が宙に舞い、空気を切り裂き、当のアールヴは首を傾げた。
「今のが身体強化だが、使い過ぎると酷い筋肉痛に成る、いざと言う時意外は使わない様にな」
「え、ええ、ありがとう」
動きは良かったが、まだ、良く理解して無い様に思える。
使い過ぎるのは良く無いが使わないで居るて、いざと言う時に使えないのも困る。
「身体強化は、冒険者の裏技みたいな物だから、あまり口外しない様にな」
「はい、わかったのよね」
本当に分っているのだろうか? 落ち着いてから、もう一度説明した方が良さそうだ。
まぁ無理に身体強化しなくても、魔物を倒していれば魔力の残照を少しづつ吸収し、ダンジョン内では階層に応じた強さが得られる。
但しダンジョンから出てしまえば、一般の人より少々強い程度の力しかない、逆に一般の人が急にダンジョンの深い階層へ入ったなら、普段の半分も力を出せないだろう。
それからするとアールヴの動きは良すぎる、以前からダンジョンへ入っていたのだろうか? エルフの年齢が見た目で判断できないから、何とも居えないし判断も付かない。
それとも、ダンジョン以外で魔力の残照を得る事が出来るのだろうか?
この九十階層を攻略したら、次はアールヴの目指す命の魔石を出る階層だ、だからこそアールヴが焦って先行しないように、十分に話し合ってからフィールドに出た。




