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第百二十話、犬

 今日もアールヴと楽しいデート……、いや階層攻略に行こう。


 そう思いながら昨日ギルド長が言っていた言葉が頭をよぎる「魔石を売った方が早いだろう」と。

 だがアールヴの初めの依頼が階層攻略で、命の魔石が欲しい事は聞かされていなかった、聞いた時には俺も気付いてたし階層攻略も進めてしまっていた、何より俺の希望を報酬として約束させた後で、契約の変更をしたくなかった。

 そしてアールヴとのダンジョン攻略は、まるでデートのようで楽しい。

 アールヴの可愛いお尻も見放題だ、まぁ服の上からだが。


「おはよう、アールヴ」

「おはよう、ノーバンさん」

 軽く挨拶を交わしてアールヴに必要な装備を手渡す。

 今一度自分の装備も確認する、今日は軽装の革装備で盾も手甲より少し大きい程度で邪魔に成らない物にした。

 それから厚手の革帽子を二つ持って一つをアールヴに手渡す。


 武器はステンレス製の刀だが、昨日の刃の欠けた刀はロッカーの中に、今日の刀は反りの少ない打刀で刃渡り約七十cm、そして「()」と言われる様な刀身の溝を無くし薄くした刀速重視の造りだ。


 俺達は安全地帯を出て、八十九階層のフィールドへと足を踏み入れる。

 そこに広がるは草原、他の階層に比べ高い木が少なく低木がちらほら。

 アールヴから少し距離を取り前を歩いていると、魔物が走って来た。


 八十九階層の魔物は犬でフィールドでは小型や中型の者が出てくる。

 犬がイノシシより弱いと言う事も無い、突進力では劣るが犬には細く筋肉質な体を生かしたジャンプ力が有り、立体の動きで襲ってくる。

 首にでも噛み付かれれば致命傷を負うだろう。


 そして犬種によっては鋭い爪も備え、イノシシとは違った強さが有る。

 しかも集団で現れた時には、統率も取れていて、厄介極まりない。

 早い立体攻撃や複数相手にする為、今日は動きの阻害されない軽装にした。


 後ろを振り向けばアールヴが武器を弓に持ち替えていた。良い判断だと思うが戦ってみなければ分らない。

 走って来た犬は一匹だけだ、落ち着いて刀を振り抜き、後ろ足の太腿(ふともも)に斬り付けた。

 反りの少ない打刀だから手首を柔らかく速度を生かして、斬り付けた時の衝撃は手首で逃がす。

 深くは斬れていないが、機動力を削ぐには十分な傷だろう。

 動きの鈍った犬の魔物に止めの一撃を入れる。


 その後も臭いを嗅ぎ付けるのか? 音で知るのか分らないが、何度も犬に出くわす。

 五匹が同時に襲って来た時には少々(あせ)りはしたが、アールヴの放った矢が犬に刺さり、数を減らしてくれたので簡単に倒す事が出来た。

 犬の防御力が低いのか、昨日の狩でアールヴの攻撃力が上がっているのかは分らないが、アールヴの弓矢が通用するのは戦力的に大きい。


 数多く火の魔石を拾い、ボス部屋の前に辿(たど)り着いた。

 八十九階層のボスは大型犬が出て来るのは分っているが、毎回犬種は違うし数も三匹から五匹と毎回違いが有る。

 当たりハズレのある部屋で黒光して毛足の短い犬や、狼に近い者のが出て来たらハズレだ。


 当りである事を祈りつつ部屋に入る、そこには四頭の大型犬が横たわっていた。

 俺の侵入と同時に犬は起き上がり、隊を成して近付いて来る。

 その先頭に狼に似た様な奴が居る、ハズレだ、出来れば先頭の奴から倒したい。


 下手に壁を背にすると逃げ道を塞がれる、かと言って広い場所では周りを囲まれる、あとは自分の装備や技量との相談と言いたいが、そもそも少人数で、こんな深い階層に(もぐ)る奴は居ない。俺は広い場所で足を止めて待ち構えた。

 そしてアールヴの放つ矢が……矢が……飛んで来ない。何かを待っているのだろうか?


 四頭は四方に別れ一頭は回り込み、三頭が正面と前方の左右から襲い掛かってくる。

 左に避けながら端の一頭に軽く斬り付けた。流石に先頭の奴を先に倒すのは無理か。

 振り向き体勢を整えると、回り込もうとした一頭はアールヴの矢で撃たれていた。

 俺の斬り付けた魔物は動きが鈍い、後回しで良いだろう、上手くすればアールヴが始末してくれる。

 元気な二頭を相手に、俺は刀を振り回し、少しづつだが傷を付けて行く。

 この二頭は動きが良く、飛び上がって空中に居ても体を(ひね)り、俺の振りから致命傷を避けている。


 今度は構える刀を体の前から一度後ろに引いて待ち受ける。

 魔物も何かを感じ取ったのか? 今度は飛び上がらずに俺の脚を狙い攻撃を仕掛けてきた。

 俺は回転する様に避けながら全身を捻り、その回転を生かし腕を振る。

 体から腕に、そして手首へと振りと力を集めて加速させ、最速の刀を振るう。


 俺の手に衝撃が走れば二頭の犬の上顎(うわあご)は裂け、ヨロヨロと歩き地に倒れる。

 始に斬り付けた一頭を首を回し探してみれば、アールヴが始末してくれていた。

 四つの魔石が地に落ちている事を確認し、緊張を解いて腰を下ろす。


「お疲れ、アールヴ」

「お疲れ様なのよね」


 今日は目的の九十一階層に行く予定だからか、アールヴは何時も以上に明るく笑顔が可愛い、目が合うだけで顔が熱くなるのを感じた。

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