女性限定
これから大切な話だと言うのに、皆は大人の飲み物を片手に幸せそうな顔をしている。
俺はビールを片手に顔をギルド長に向けて、クイッと少し顎を上げ用件を話すように促した。
ギルド長はお酒で口を湿らせてから話し出す。
「ノーバン、ここ数ヶ月姿も見せず大人しくしていたと思ったんだが、また最近噂が広まってるぞ」
「あぁただの噂だ、気にするな」
数ヶ月間姿を見せなかったのは俺が旅に出て町に居なかったからだ。
ギルド長の話が始まり、アールヴと渡世人は我関せず的な雰囲気で別な話をしながらお酒を飲んでいる。
「火の無い所に煙は立たずだ」
「煙じゃなく噂だからな、火が無くても立つもんじゃないのか?」
本気で言い返してる訳じゃないし、ギルド長も本気で疑っている風でも無く、少しじゃれあっているに近い雰囲気だ。
「だいたい以前にも似た様な事が有って調べてみれば、噂通り四階層で幼い子供にチョコをあげて手を出していたじゃないか」
「おっ、おいっ! 言い方! 『手を出した』と言っても手を伸ばして軽く頭を撫でてただけだろう」
ギルド長の話にアールヴは細い目を丸くして俺とギルド長を交互に見ている。
渡世人はまたその話かと言わんばかりに呆れ顔だ。
「言い方も何もワシが子供達に聞いた話では、少女には優しく撫でて男の子相手には叩いていたそうじゃないか」
「男の子は撫でても喜ばないから拳を突き合わせたり胸を叩き合ったりしただけだ」
わざとか? アールヴに誤解される様な言い方をして楽しんでるのだろう。
「それだけじゃない、子供相手に何をしているのかと聞いてみれば、『誰々の姉が美人だ』とか『何処其処の八百屋の子が可愛い』とか、そんな話をして居たそうじゃないか」
「子供たちがチョコのお礼に教えてくれただけだ」
確かにそう言う話もしたし有益な情報だと思った、その情報を元に町の中を歩いたり買い物に行った事もある。まぁそれだけじゃないが……。
「それでなくとも悪い噂が多いんだ」
「そうか?」
噂をされてる事は何となく分るが、直接本人にその話をする奴もそうは居ない、丁度良い機会だから、その噂話とやらをギルド長に聞いてみる。
どうやら俺が一人で深層の魔石を持って帰る事から「一人で深層の魔物を倒せる筈が無い」と「盗みを働いてるんだ」と噂が有るようだ。
他にも冒険者ギルドの受付嬢からは「目がいやらしい」等、言われているらしい。
俺にとってはどうでも良いようなくだらない噂だ。
ギルド長は一瞬アールヴに視線を向けてから今日の本題を話し出す。
「ノーバンなら、必ず何時か何かをすると信じてたさ」
「何だ、その過去形の言い方は?」
まるで何かをしたみたいな言い方だ。俺はギルド長を睨み付けた後に、説明してやってくれと言わんばかりにアールヴへと視線を流す。
視線を受けたアールヴはギルド長を見詰め、お互いの目が合ったようだ。
「お嬢さんノーバンに何か弱みを握られて脅されているんだろう? 力になってやるから何でも言ってごらん」
「それなら、命の魔石が欲しいのよね」
ギルド長の話から何となくどんな噂が流れてるのか分った気がする。
そんな事を考えていたらアールヴが本音を言い出し、予想外の返答だったのか? ギルド長が俺の方を見るが、視線を外してビールを飲む。
ギルド長は顔をアールヴに向けて目だけで俺の方を見る、そしてニヤニヤしながらアールヴを誘惑するように言葉を重ねる。
「被害届を出せばノーバンを牢屋に入れる事だって可能だぞ」
「『何でも言ってごらん』って……命の魔石以外はどうでも良い事なのよね!」
ギルド長はアールヴの返事に諦めたのか、今度は渡世人に視線を投げ掛けるも我関せずと言う態度に、そちらも諦めた様だ。
渡世人が俺の援護をしてくれると思っていたが考えが甘かった、まぁ俺の誘いとは言え、今日の飲食がギルド長の驕りと成れば下手な事は言えないのだろう。
アールヴは命の魔石にしか興味は無いと言うし、渡世人は我関せずときては、自分でギルド長に話を付けるしかなくなった。
「聞いての通りアールヴは命の魔石が欲しいと言う事で、むしろ俺の方がつき合わさせられてるんだ」
「ふ~ん?」
ギルド長は疑う様な目で見ながら納得のいってないと言う様な唸り声を響かせた。
これ以上疑われるのも面倒なので仕方なく依頼を受けた事を話す。
「アールヴから依頼されたんだ」
「ほう、ノーバンはギルドで受けない依頼を受けてくれるのか?」
契約内容や報酬の事を聞かれると思ったが、嫌な笑みを浮かべながら変な所に付け入って来た。だがアールヴからの報酬の事を聞かれるよりはマシか。
それと気に成ったのは「ギルドで受けない依頼」と言う事は、冒険者ギルドでアールヴの依頼を断ったのだろうか?
「……あぁぁうん、そうだな女性限定でなら受けても良い」
「よしよし」
何が良いのか分らないが、どうせ碌な事じゃない。
俺も冒険者の一人だから冒険者ギルドで色々な依頼を受けている事は知っている。
依頼主は公表されないので正確には分らないが領主や商業ギルドだと思う、深層のレアドロップで希少な銘柄のお酒の魔石とか、火の魔石や氷の魔石といった季節により消費の多い物の依頼が入ると、ギルドの掲示板に「特別買取」と貼り出しされる。
そして最近では、アールヴが商業ギルドや商家に行っても購入出来無い位には命の魔石が不足している様で、掲示板に「命の魔石特別買取」と貼り出しがある。
特別買取の時は通常の二割り増しの金額で買取され、物によっては即日終了するが、命の魔石の階層は厄介な魔物だけあって簡単には解消されない、まだしばらく不足が続く筈だ。
そして命の魔石が不足しているからこそ、ギルド長もアールヴの要求に応えられなかったのだろう。
それにしてもギルドには面倒な依頼でも来るのか? それを俺に回す気だろうか?
ギルド長の嫌な笑みが気に成るが女性に限定した事で、ある程度は回避できるだろう。




