第百十五話、大人の飲み物
俺はギルド長と渡世人のボスとアールヴを引き連れ歩き出す。
どうせ俺の言葉だけではギルド長は納得しないだろうし、かと言ってアールヴに話をさせた所で脅されたり弱みを握られている可能性を考えるだろう、が渡世人の話なら少しは聞くような気がする。その為に呼び出したのだ。
俺の後を声を聞かれない様になのか少し離れてギルド長と渡世人が何かを話しながら歩き、更にその後ろにアールヴが付いてくる。
後ろが離れ過ぎない様に注意しながら、いつもの食事処に向かった。
お店に入り顔を合わせるや否や店主に大声で話し掛けられる。
「最近、毎日女連れで来てるが、仕事はしてるのか?」
「ああ、あの子はPTの冒険者だ」
まぁアールヴの事なら冒険者と言っても問題無いだろう。
だが少々間が悪いな、しかも厨房の肉を焼く音が五月蝿いいせいか大声でギルド長にも渡世人にも聞かれてしまった。
「はぁ? ノーバンがPTだぁ? ま、まあ仕事をしてるなら良いが、良くない噂も耳にするから気を付けた方が良いんじゃないか?」
「あぁ助かる」
どんな噂かも気に成るが、それよりも今は俺の後ろに居るギルド長が目を光らせて睨んでる。
適当に店主の話を聞き流して歩き出し、一番奥の角のテーブル席に腰を下ろす。
俺が一番奥の角に座り隣には渡世人が、俺の正面にギルド長が座りその隣にアールヴが座った。最悪だ、隣も正面も男ときている。
「わざわざ俺の為に集まってくれて有難う、今日はギルド長の奢りだ、好きなだけ食え」
「おい! ノーバン、そんな事を言った覚えは無いぞ!」
俺の挨拶に対してギルド長は下ろした腰を浮かせて怒鳴って来た。
確かにギルド長は言って無いし俺も聞いてないが、人に話を聞きたければ食事くらい奢っても良いだろう? どうせお金も俺達冒険者から巻き上げて沢山持ってるだろうし……、まぁその大半は領主とかに持って行かれるのだろうけど。
「なら話す事は何も無い、俺は帰る」
「まぁ待て…………奢る……」
ギルド長は渋々と言った感じだが確かに「奢る」と言った、他人のお金で食べる食事は別格で、普段の倍は食えるだろう。
「ギルド長の奢りだ、皆好きなだけ食え」
「おう悪いな」「頂きます」
「……ぁぁ」
俺の掛け声に渡世人とアールヴがお礼を言い、ギルド長は力無く返事した。
まぁ少々ギルド長の財布は軽くなるだろうが、隣に綺麗なアールヴを座らせての食事だ、十分に元は取れるだろう。
女性の時間を金に勘定するのも良く無いが、俺もアールヴとの食事には同伴出勤として一時間分のお金を払って食事を共にしているからな、仕方ない。
何時も俺が通う此のお店は食事処で居酒屋じゃない、故にお酒の種類は多く無くビール系と焼酎系と清酒系位しか置いてない。
その中でも俺は普段飲めない様な高いやつと考え黒ビールを注文する。
渡世人は俺と同じく黒ビールを、アールヴは焼酎でサワーを、そしてギルド長は清酒を注文した。
食事とは別に飲み物に合わせて黒ビールにはウィンナー、清酒には焼き魚、サワーにはローストチキンサラダと適当に俺が注文する。
「「「「カンパイ」」」」
飲み物が出て来たので何はともあれ乾杯した。
黒ビールを一気に飲めば程好い苦味と喉を刺激しながら気持ち良く潤す炭酸、まるで今日の疲れが洗い流される様だ。
口を湿らせた後はウィンナーに手を付ける。しっかりと火は通っているのに弾力が凄い、まるで俺に食べられまいと抵抗するが如く。
だが強く歯で噛み切れば、「バキッ!」っと言って中から芳醇で柔らかな肉と旨味の詰まった肉汁が口の中で弾け飛ぶ。これは旨い! 旨味が口から溢れそうになる。
皆もお酒を片手に料理を口に入れれば笑顔が弾け飛ぶ。
お腹が空いていた所に美味しい料理が出て来て全てを忘れ夢中で食べた。
もう、人の皿だろうが何だろうが構わない、注文しては食べ、食べては注文して飲み干した、遠くの皿にも手を伸ばし喉に詰まり掛けた料理を黒ビールで流し込む。
それは俺だけじゃない、渡世人はワニの様に肉を引きちぎり一口毎に大量の料理を消費し、ギルド長は料理を流し込む様に噛む回数少なく次々と口に運び、アールヴも負けずに皆が手を伸ばす前に美味しい物を次々と自分のお皿に取り分けてゆく。
うんうん良い良い、これで少しは俺の事を疑ったギルド長に意趣返しが出来ると言うものだ。ギルド長の財布よ飛んで行けぇ。
いやぁ食べた食べた。テーブルの隅には空のお皿が大量に積み上がっている。
それでも半分以上は空いた所から下げていた筈だ、余程食べたのだと思う。
お腹が膨れた所でギルド長との話だ、飲み物を水に変えようかと思ったが、食べる事に一生懸命だった為まだ飲み足りない、ビールを片手に話を聞く事にした。
皆にも大人の飲み物を勧め話を聞こうと少しだけ背筋を伸ばす。
これから大切な話だと言うのに、皆は大人の飲み物を片手に幸せそうな顔をしている。




