林抜け
時間に余裕が有る今日、ボス部屋からの帰り道、ウリ坊を狩り僅かばかりだがアールヴの糧に成ってもらおと、音の魔石に小さな穴を開けてポケットに忍ばせる。
数歩進む毎に現れる魔物にアールヴが矢を放ち、俺が盾で受けて大太刀で突く。
「ノーバンさん!」
「ん? 如何したアールヴ?」
振り向くとアールヴが俺の事を睨んでる。
「何をしたのかしら? この階層に下りた時と同じ様に魔物が多いのよね」
「まぁ、そういう日も有るさ」
アールヴの苦言を半分聞き流し、止めた足を再び前へと動かす。
当然、魔物が現れ囮になり、防御して攻撃を放ち魔物を倒して行く。
チラリとアールヴの顔色を伺うが少し頬を膨らませ、あまり良い顔はしていない。
先を急ぐ気持ちも分るが美しい顔が台無しだ、それでもアールヴの細い体は柳の様に流れ、動きはとても美しい。胸に抱えるマンゴーもとても美味しそうだ。
俺が僅かの時間アールヴの体に見惚れていると、不満そうに声を掛けられる。
「早く次の八十九階層へ行きたいのよね」
「あぁ分ってはいるが、こう魔物が多くてはな……」
少しイラついている様だが、まだしばらくは誤魔化せそうか?
正直な所を言うと音の魔石の事がバレて「捨てなさいよね」とか言われそうで怖い、何とか誤魔化しながら時間、いや、魔力の残照を稼ぎたい。
階層を進む毎に動きの鈍くなるアールヴをそのまま進ませたら、命の魔石を採る前に自分の命を落しかねない、この階層でもう少し狩をしてから行きたいが……。
周りを見渡すと林が五割に草原が二割、畑の様に茶色で柔らかな土地が三割と、見晴らしはそれほど悪くない、故に安全地帯への帰るにも遠回りをすればアールヴに気付かれるだろう。
少々攻撃は受けるが林を真っ直ぐ抜けた方が稼げそうだな、そしてアールヴからの追求も避けられれば尚良し。
今日は俺の装備が重く、柔らかい土地では動きが鈍るし、林の様な木の根が多い所も重装備では歩き難いから草原を歩いて来た、さて如何にして若い女性であるアールヴを人気の無い林に誘うか?
「アールヴ、早く次の階層に行きたいなら林を抜けて真っ直ぐ最短距離で戻ろう」
「そう……ね、任せるのよね」
若干、疑わしそうに考えながらの返答だが、一応は了承を得たのだから林の中で襲われても文句は言わないで欲しいと思う。
俺が先に林に入ると遠くから「カサカサ」と落ち葉を踏みしめる音が聞こえてくるが、木が邪魔で姿を見付けるのが難しい。
ウリ坊の姿を見付けた時は既に二、三mの距離に居た。「クソッ!」
慌ててウリ坊の突進を避けながら、足の爪先だけを残し敵の足を引っ掛け様としたのだが、ウリ坊はヒョイッと俺の爪先を飛び越えて走り去る。
「アールヴ!」
「平気なのよね」
俺の傍を走り去ったウリ坊が、アールヴに突進するかと思い声を掛けながら振り向いたが、アールヴは既に地上には居なかった。
木の上を目で探すとアールヴの白い肌だけは見えたが、それ以外は保護色となり森林に溶け込んでいる。
樹木の様な茶色い瞳に若葉の様な新緑色の髪、服も自然な茶色系で手首や足首まで隠すように袖と裾が絞り込まれたエルフ族の民族衣装を身に纏っている。
流石に森林に住む種族だと感心してしまう。
俺の視線に気付いたのかアールヴが僅かに木の枝から身を乗り出す、すると上半身が木漏れ日の様な光に当てられて胸に抱える果物の下に影を作り出し、美味しそうなマンゴーが立体的に映し出され何時もより大きく見せている。
とても美しい光景を見られただけでも林の中に入った甲斐があると言う物だ。
林の中は木と木の間が一mしかない所もあり、重装備で盾まで持ってる俺は一mの幅では通るだけで一杯だ、長い大太刀を振り回す事など出来ない。
武器は取回しの良いサバイバルナイフを手にして、なるべく木と木の間隔が二m以上の道を縫う様に歩く。
直線的に林を抜けると言ったものの縫う様に歩き結局距離は殆ど変わらず、魔物に多く出くわす。
木々を数本抜ける毎に二、三匹のウリ坊が飛び出てきて体当たりを狙ってくる。
膝下の高さを走るウリ坊を、長さ三十cm位しかないサバイバルナイフで攻撃しようと思えば、姿勢を低くしたり腰を屈めなければ成らず意外と大変だ。
だがサバイバルナイフの刃は重厚で欠ける事も無く安定した攻撃が出来る。
林の中での取り回しも良く頼れる武器の一つだ。
ウリ坊を倒しながら林の中を進み後ろを振り返るが、アールヴは常に木の上に居る。
俺が魔物と戦っている間に一度地上に下りて次の木に移っているのだろうか? それとも木の枝を伝い次々と木の上を移動しているのだろうか?
よく分らないが怪我をしてないならそれで良い。
まぁそもそも音の魔石を持つ俺が一番狙われるのだが。
アールヴの了承を得た上で真っ直ぐ林を抜けて安全地帯に戻ったわけだが、何故か苛立ち苦言を呈される事に成るとは……。




