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八十八階層

今週最後の投稿です。

どうぞお楽しみを。

  金属製の防具を身に(まと)い、大太刀で八十七階層の「カマイタチ」と呼ばれているボスを迎え撃つ……が、大太刀は空を切り。

 そして(すね)脹脛に(ふくらはぎ)に、何かの衝撃を受けた、やはり敵の攻撃は見えない。


 やはり手強いな、敵の動きが一瞬でも止まる様に、壁際に誘い込むか。

 壁に背を向けてすり足で後ずさる、敵は俺の逃げ道を封じる様に、左右に走りながら追い詰めてくる、そしてその間も見えない攻撃が足に衝撃を伝える。


 敵と体を入れ替えたい所だが、結局は俺の方が追い詰められて、動きを封じられたのも俺の方だ、それでも良い、敵も俺と(にら)み合い動きを止めた。

 すかさずアールヴの矢が放たれる。刺さるだろうか? いや手前の階層ボスでさえ刺さらなかったのだから、ここで刺さる期待はしない方うが良い。


 矢が当たり、一瞬注意がアールヴの方へ向いた。ここだとばかりに大太刀を振り下ろし、イタチに深手を負わせた、そして動きの鈍った敵など、倒すのは簡単だ。

 でも、油断はせずに狙い済ませて、突きを入れて倒した。


「ありがとう、アールヴ」

「どういたしまして」

 致命傷に成らなくてもアールヴの弓は十分役に立つ、以前一人で倒した時は、部屋の角を使い、もっと長期戦だった気がする。


 一度安全地帯に戻り、次の八十八階層へと下りた。

 ここまでの戦闘はボス戦位で、そのボス戦もアールヴの協力のお陰で早く片付いた。だが八十八階層は時間が掛かると予想している。

 八十一から八十七階層はイタチ科の魔物だけだったが、八十八階層からは魔物の種類が変わり、フィールドで音の魔石を使っても、効果が有るか分らない。


「八十八階層からはフィールドで魔物に襲われるかも知れない、俺が少し先を歩き魔物を引き付ける」

「よろしくね、ノーバンさん」

 アールヴの甘い声に気を良くした俺は、フィールドへと足を踏み入れた。

 周りを見渡しながら進むと、遠くから魔物が一匹、二匹、次々と増えて十匹ほどが走ってくる。

 おかしい、確かに八十八階層は水の魔石しか出ない為に、一番人気の無い階層で立ち入る冒険者の数が少ないから、魔物が多い傾向には有るが、階層攻略の為に入る者も居ない訳ではない。それなのに魔物が多すぎる。


 この階層の魔物は、豚の鼻に筋肉質の体、そして焦げ茶の体表に茶色の線が前から後ろに向かい、平行に何本も走っている。

 大きさは小さめで二十から五十cmでずんぐりとしていて、顔も含めて見た目は可愛い。

 そして由来は知らないが、冒険者の間では「ウリ坊」と呼ばれてる。


 だが可愛いからと言って弱い訳ではない、地に低く跳ねる様に走るが、すばしこく体も丈夫でイノシシの子供だと思える突進力が有る。

 そんな敵が同時に十匹? いや同時に接敵しない様に、右に少し走り敵の動きを誘導し、更に小石を拾って投げる事で、一部の足を遅らせた。


 これでアールヴの弓で倒せなくても何とか成るだろう。

 それでもアールヴの放った矢が、三匹の敵の鼻に突き刺さる、致命傷では無い様だが其の場で暴れだす。

 残りの敵に襲われ、避けながら一太刀、二太刀入れる、が何か手に良く無い感触が伝わって来た。

 違和感を感じた俺は、切る事を諦め(あきら)、突きに変えて対処する。


 アールヴの援護も有って、何とか倒しきり、大太刀の刃を見ると少し刃が欠けていた。

 多分、魔物の牙か歯に当たったのだろう、小さくて見えないが口を狙うのは刃を傷めるかもしれない。気を付けよう。

 以前来た時には、両手剣で戦っていた為に口を狙って攻撃しても気に成らなかったが、ステンレス製で薄刃の刀には致命的な刃こぼれが起こるようだ。


 そしてもう一つ気に成ったのは、魔物が多く集まった事、もしやと思い音の魔石を七、八m先に放り投げてみた。

 するとウリ坊が現れ、魔石に向かって走って行く。なるほど、音が好きなのか。

 それからはウリ坊に囲まれる事も無く、少数づつを相手にしながらボス部屋へと向かった。

 そして出て来るウリ坊に、開いた口は狙わず、鼻か足元を狙う様にした。

 どうやら鼻が弱点らしく、当たりさえすれば致命傷にならずとも動きが鈍る。


 ウリ坊との戦いに慣れた頃には、ボス部屋へと辿り着いた。

 確か八十八階層のボスも厄介な敵だった気がする、まぁダンジョン内の魔物は全て厄介と言えば厄介だが、手持ちの武器や戦い方に相性と言う物もある。


 簡単に打ち合わせをして、先に俺が部屋に入りボスを確認する、数秒後にはアールヴも入って来た。

 その頃には俺は走り出し、囮の様にボスの注意を引く。

 壁を左手にして、いや左手に盾を持ち壁沿いを走る。

 八十八階層のボスは二m近い巨体で体格も良い、全体を焦げ茶色の体毛で覆われ、口には大きな牙が生えている。そうイノシシだ、しかも大型で二百kg位あるだろう。

 その巨体が俺に向かって突進してくる。猪突猛進とは言うが小回りが利かないと言うわけではない、意外と俊敏(しゅんびん)で、狙いを外す事の無いハンターだ。


 走るイノシシに矢が飛んで行くが、イノシシには見えていた様だ、首を一振りして牙で矢を弾いて見せた。

 俺は壁を背に、盾を前に出して待ち構える。

 イノシシ走る勢いそのままに、数歩離れた位置で頭を下げながら、狙いを定めて突っ込んで来た。


 俺が盾で受け止めつつ、イノシシが突き上げるに合わせて地を蹴り、浮かせた体で今度は壁を蹴って逆さに成りながらイノシシを飛び越える……はずが、イノシシも早い、体を反転させると俺の落下を待ち構える様に、頭を下げて突き上げの体制を整えている。


 しまった!

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