第百十話、初見殺し
ダンジョンへの施設へ向かおうとしたら、冒険者ギルドの長に呼び止められ、疑いを掛けられる。
「最近、若い娘を無理矢理連れまわしてるそうだな?」
「はぁ!? 俺が……ぁ!」
「どうやら心当たりが有るらしいな?」
「さぁな! 有り過ぎて分らないと言ったら如何する?」
売り言葉に買い言葉じゃないが、少しイラッと来て余計な事を言ってしまった。
「ギルドカードの没収だな」
その言葉に、自分の血の気が引くのが分った。
「おいおい、冗談だろ? 悪かった、俺のも冗談だから、冗談だと言ってくれ」
勘弁してくれ、カードを取り上げられたら、階層を行き来するエレベーターが使えない、っと言う事は、ダンジョンに潜れなくなる事を意味する。
「もう一度聞くが何か心当たりが有るんだろう?」
「有ると言えば有るが、無いと言えば無い」
ふぅ、なんと答えるのが正解なのかが分らない。
「なら、カードは没収だな」
「まてまて、悪かった。実は訳有りの子なんだ」
依頼人の事をペラペラ話すのもどうかと思ったが、アールヴの事を話せる範囲でギルド長に話た。
そもそも「商業ギルドの対応が悪かった」と、「命の魔石を売らず、八十一階層で命の魔石が手に入るかの様な言い方をした」と。
だいたい「魔物が居る中に、無理矢理に人一人を連れ歩くのは不可能だ」と、「しかも無理にダンジョンへ連れ込んで、女性を襲おう者なら、その隙に魔物に襲われる」と。
可能性が有るとすれば、「ボス部屋の中位だが、ボスを倒している内に逃げられるだろう」と。
それだけ言っても、まだ納得してない顔をしている。
「奴隷の首輪を付けてるとか、手枷や足枷を付けてるなら兎も角、何も付けてはいない」
「ノーバン、何か女の弱みでも握ってるんじゃないのか?」
あれ? 「深い階層に連れて行く代わりに、体を好きにさせろ」とは弱みに成るのだろうか? いやいや只の取引、交換条件、依頼人と請負人の関係だから問題ない、はず?
「ぅ! そっ、それも無いな」
「今のは怪しかったぞ」
何処から情報を? いやアールヴの様な美人がダンジョンに入れば目立たない筈が無いか? お店の方は大丈夫だろうか? ママは何も言って来ないが週明けにでも聞いてみよう。
「悪いが待ち合わせの時間だ、後で紹介するから、それまで待ってくれ」
「お、おい逃げるな!」
取り合えず少し待つ様に言って、逃げる様に部屋を出た。背中に何か聞こえた様な気がしたが今は無視だ。
今日は余計な時間を食ってしまった、手早く装備を整え待ち合わせ場所へ向かう。
八十七階層の安全地帯に、すでにアールヴが待っていた。
「遅くなってすまん」
「今来た所なのよね」
俺が息を切らしながら謝ると、何でも無い事の様に優しく返してくれた。
どうやら俺のハートは射抜かれてしまった様で、胸が締め付けられる。
弱みを握られているのは俺の方じゃないだろうか? 惚れた弱みとか。
何時もの様に腕貫と手甲に鞭を渡し装備を整えた。
今日は八十七、八十八階層の二層を攻略予定にしている。
火曜日の夜にママから「アールヴが……」と話を聞かされて、水曜日には渡世人から情報を得てアールヴを見つけ、ついでに七十五階層を攻略した。
木曜日は七十六から七十九階層を、金曜日には八十から八十二階層を。
そして昨日の土曜日に八十三から八十六階層までを攻略した。
今までは一日、いや半日で三、四層を攻略して来たが、今日行く二層は少し厄介な場所だから無理はしない。昨日の内にお店でアールヴにも説明しているので問題は無い筈だ。
そして今日明日の土日はアールヴの働くキャバクラは休みだが、夕方以降の遅い時間まで狩をしても暗くなり危険が増すだけだ、ダンジョンの中とは言え深夜に成れば真っ暗ではないが、夕日が沈んだ直後より、まだ暗い。
夜の狩を好む者も居るが、俺は昼間の方が得意だし、今はアールヴも居る、いくらアールヴが急かしても、大きな危険は冒したくない。
今日は階層のボスに合わせ、少々重装備で盾も大き目の物を持って来ている、そして武器は軽さの割りに長いステンレス製の大太刀を背中に携え、腰には取り回しの良いサバイバルナイフも身に付けている。
八十七階層のフィールドは、音の魔石を使い、問題無く進み、ボス部屋の前に辿り着いた。
ココのボスは厄介だから、アールヴには絶対に近付けさせたくは無い、初見の者では絶対に対処出来ないだろう技を使い、「初見殺し」と言われてる。
いや、初見でなくても、十分に脅威で、其れゆえの重装備だ。
俺が先に入り魔物の気を引く、数秒後にアールヴが入って来る。
重装備だが、俺は入り口から十m以上は離れた、そしてまだまだ離れてボスの気を引く。
ボスはこれぞイタチと言った見た目で、胴体の大きさが四、五十cmに長い尻尾が付いていて、足は短いが、走りだすと足が見えなくなるほどに早い。
音も無く地を這う様に、滑る様に近付いて来る。だがそれは脅威ではない。
一番の脅威は、見えない攻撃を仕掛けてくる事だ、動きが早すぎて見えないとかではなく、単純に見えない、原理は良く分らないが、硬く細い糸を飛ばされ様に、皮膚などを切り裂く攻撃をしてくる。
冒険者の間では、鎌で切られた様な傷が残る事から、「カマイタチ」と呼ばれてる。
とは言え、たかが鎌だ、いや鎌を持っている訳ではないが、そう金属製の防具までは切る事は出来ない。そして敵が鎌なら此方は大太刀で迎え撃つ。
だが此方は重装備で動きが鈍い、対して敵は身軽な裸の状態だ、大太刀が空を切る。
そして脛や脹脛に、何かの衝撃を受けた、やはり敵の攻撃は見えない。
見えない魔物の攻撃に少しイラッとする。




