特別な魔石
アールヴがイタチの魔物を狩り、矢を打ち尽くし声を……。
「どうして……」
木から下りガックリと膝を付いて落ち込むアールヴに、手を差し伸べる……が、左右に首を振ると自力で立ち上がる。
本来なら目的の階層まで連れて来たので、依頼の達成という事で良いのだろうが、本当の意味での達成とは言えない。
おそらくアールヴの望む物は、階層の攻略ではなく、命の魔石だろう、自分の病気を治す為に。
「アールヴ、もし良かったら、九十一階層を目指してみないか?」
「どうして?」
当然そう言う返事に成るだろうと予想はしていた、だが安全を確保しないとゆっくり話も出来ない。
「そうだな、少し木の上で話すか?」
「ええ、そうね」
大分落ち込んでいる様で、何かを考える事すら手放しているように思える。
まぁこれだけ落ち着けば、いや、落ち込めば、俺の話も聞けるだろう。
「アールヴは、何か特別な魔石を求めてるんじゃないのか?」
「ええ、そうなのよね……、命の魔石が欲しくてギルドにも行ったのだけれど『貴族様の予約で一杯だ』と、それでも執拗に話を聞く内に『八十一階層以降で手に入る』と……」
やはり命の魔石か、だがギルドも不親切だ、いや話からして冒険者ギルドじゃなく、商業ギルドで話を聞いたのか? それなら売買の話も、ダンジョンの話が曖昧なのも分る。
このダンジョンで出る属性の魔石は、土、水、火、風、命、氷、音、光、の八種類で八十一から八十七階層までは土の魔石しか出ない、だが領主が自兵を使ったり、ギルドや商人を通して買い上げ、領内の農村地帯へ配り、豊穣を祈願するらしい。
そして水の魔石は、低階層でも沢山出る為に、安く飲料用として取引される。
火の魔石は調理や冬場の暖に、風と氷の魔石は夏場の涼に、光の魔石は夜の灯に、音の魔石は虫除けや旅での獣除けに、そして命の魔石は怪我の治療や贈呈物として、貴族に多くが消費されている。
命の魔石の効果は大きくないが、貴族は何が有っても顔に傷は残さない、幼子の居る貴族では、庭師やメイドまでもが命の魔石を持って見守ると言う。
但し、実際に使う事は少なく、その殆どが数ヶ月で魔力を失い、新しい物と交換される。
「確かに八十一階層以降と言えば、そうなのかもしれないが、命の魔石なら正確には九十一階層以降だな、八十一階層から属性の魔石が出ると言われていて、少々勘違いしている者も少なくないが、八十七階層までは土の魔石しか出ない」
「……そ、それじゃぁ……、ノーバンさん! 連れて行ってもらえるのよね?」
アールヴは少し離れた別の枝で、縋る様な今にも泣きそうな顔で、見詰めながらお願いしてくる。本気なのか演技なのかは分らないが、そんな顔をされて断れるはずが無いし、そもそも俺から切り出した話だ。
「まっ、報酬の為なら連れて行くさ」
「ありがとう、ノーバンさん」
あれ? 今度は「少し考えさせて」とは言わないんだな、まぁ追加報酬を要求した訳じゃないから当然か。
アールヴと話が付いてからは、音の魔石に穴を開けて腰に付けた。
八十一階層から八十七階層までは、イタチ科の魔物しか出て来ない、そして音の魔石の効果は抜群で、魔物は近付いて来ない。
そしてボスもイタチ科だ、小さく素早いとは言え、俺が囮に成ればアールヴの放つ矢の敵じゃない、簡単に攻略できる。
それでも今日は余計な狩をしたし、アールヴもまだ少し落ち込んでいる感じだ。
八十二階層のボスを倒した所までで切り上げる。
最近の流れ的にシャワーと食事を済ませてから、アールヴと同伴出勤する。
そして今日、数は少しだが高級ワインの魔石をママにプレゼントした。
まぁ数個だし魔石一つでグラス一杯分だから、本当に気持ち程度だが、とても喜んでもらえて俺も嬉しくなる。
そして俺は遅くならない内に帰宅する……が、アールヴがまだ仕事だと思うと、何とも言えない気分になってしまう。
朝を迎え、昨日と同じ様に、ダンジョンの施設に入り装備の手入れと準備をして、アールヴを待ってからダンジョン攻略を進める。今日は八十三からの攻略だ。
フィールドでは音の魔石のお陰でほぼ戦闘が無く順調では有ったが、徐々にボスが強くなる。
昨日のボスは、フェレットやオコジョと言われる者らしい小さな敵であったが、今日は大型のイタチが相手で毛皮も硬いのか、深い階層の魔物ゆえなのか分らないが、アールヴの弓を持ってしても一矢二矢では倒せない。
俺も攻撃はアールヴに任せれば良いと思い込み、今日の装備は左に盾で右手に短剣と、刀ほどの切れ味も長さも無く、少々時間が掛かってしまった。
それでも装備を換えに戻るのも面倒で、そのまま攻略を続け、八十六階層のボス部屋の前まで来てしまった。
確かココのボスもイタチ科と言う話だが、猿と熊を合わせた顔に犬の鼻、狸の様な体に強靭で大きな爪と牙、どう見てもイタチで無いだろう魔物だ。
確かクスリだかグズリとか言ったか?
むしろ他の階層で見かけるハクビシンの方がイタチに見える、でも、そう言う事でもないらしい。
どうにも分類をする学者やギルドの考えが、俺には理解出来ない。
八十六階層のボスとも成ると、アールヴの弓が何処まで効くかが分らない、念の為に魔石を渡しておいた方が良いだろうが何を渡すか?
アールヴには、俺とボスが近くても打てる様に、効果範囲が局所的な氷の魔石を三つ渡し、自分でも取り出し易いポケットに数種類の魔石を移す。
準備を整えた俺達は、ボス部屋に足を踏み入れた。




