第百五話、アールヴ怒る
俺とアールヴは何度も戦闘をしながら、ボス部屋へと辿り着いた。
ボス部屋では、弓の制限が無く水平に放とうが上に向けようが関係無い、何故なら同じPTの者しか同時には入れないのだから、それ以外の者が流れ矢に当たる心配が無い。
そして制限の無いアールヴの弓は無敵と言っても良い、ボスが此方に近付く前にハリネズミの様に矢が刺さり、息絶えてしまうのだ。
「アールヴ……、その……俺に何か出来ること有るか?」
「ええ、十分に役に立っているのよね?」
先程の黒スライムと熊の厄介な敵も、そしてボスさえもアールヴが倒してしまった。
だが俺の気持ちを理解してないのか、普通に返してくれる。
「そうだろうか?」
「ノーバンさんが居なかったら、七十五階層ボスのワニガメは倒せなかったのよね」
「うん?」
「何度も戦ったけど、ワニガメの甲羅は貫けないし、首には刺さっても槍と違って、無限に打てる訳じゃないから倒しきれない、そして頭を狙おうにも硬い嘴が邪魔なのよね」
なるほど、ボス戦では無敵かと思われた弓にも、相性が有ると言う事か。
「そうか、なら後は階層を進めさえすれば、報酬を貰う権利は有るって事だな」
「……そう……ね」
役に立ててるんだと気を良くした俺は、少し浮かれ過ぎたかもしれない、アールヴは俯いて小さな声で同意する。悲しそうなアールヴを見て何も言えなくなってしまった。
七十六階層のボスを倒した俺達は、一度エレベーターの有る安全地帯へと戻る。
ダンジョンで魔物を倒すと、魔物は魔力の残照となり、魔石を残す、そしてボスを倒した時の魔力の残照の一部を、ギルドカードが吸収し、エレベーターで次の階へ行く事ができる様になる。
そう、ボスを倒しても一度エレベーターに乗らなければ次の階へは行けないのだ、階段でも作って欲しいとも思わなくも無い。実に面倒だ。まぁ階層毎の天井も高く階段で降りるのも、また面倒か?
俺とアールヴのダンジョン攻略は順調に進み、一時間に一階層づつ進み、夕方近くには七十九階層を攻略した。
そして俺の中で今日はココまで、と思いつつ中央の安全地帯に戻りアールヴに声を掛けた。
「今日はココまでにしよう」
「えっ! もう少し大丈夫なのよね?」
「いや、シャワーを浴びて食事をしたら良い時間だろう」
「もう少しだけ、お……ね……が……ぃ」
あぁ、何と言うか、こう言う所はホステスなんだよな。
甘え上手と言うか、おねだり上手と言うか。
だが、ダンジョンで焦りや、もう少しは危険だ、可哀想だが今日は諦めて貰う。
「俺は行かないぞ」
「良いのよね、ココまで来れたら、後は一人でも良いのよね」
ちょ! それじゃ俺の報酬は如何なると言いたい。
今のやり取りだと、俺が依頼の途中放棄とも取れる、だとすると報酬が無くなる。
「まあ、まて。また明日にしよう……な」
「いやようぅ」
いやは俺の言う台詞だ、「アールヴの体を好きにしていい」と言う報酬が無くなるではないか。
「ママも心配するから……な、もう戻ろう」
「やぁよぅ」
駄々っ子か? そう思って腕を掴もうとしたが避けられてしまう。
そして、しばらく睨み合う。そうこうしている内にも時間は過ぎてゆく。
「ほら、もう、こんな時間だ、戻らなきゃな」
「ノーバンさんのせいなのよね、もぅ!」
最終的には時間切れで戻る事には成ったが、大分怒らせてしまったようだ。
ダンジョンの施設を出る前に、シャワーを浴びて汗を流し、食事処へと向かった。
まだ、怒っているのか必要最小限しか話をしてくれない。
食事もほぼ無言のままに食べ進めているが、流石に気まずい。何か話さなくては。
「えっと……アールヴは何階層を目指してたんだったかな?」
「言いましたよね……あと少しなのよね」
聞いただろうか? いや依頼を受けたのだから聞いた筈だが記憶に無い。
多分、依頼の内容より報酬が気に成って、そちらに意識が行っていたのだろう。
まぁそもそも、深い階層に潜る訳は予想できてるし、同時に何階層まで潜れば良いのかも分っている。
だが俺より、当のアールヴの方が分ってい無い様な気がする、俺の予想が正しければ、「もう少し」と言うには難しい階層に潜らなければ成らない筈だ。
「そ、そうか、それは悪い事をしたな」
「本当なのよね」
これは、ちょっとやそっとでは機嫌が直りそうに無い、困った。
中々話が続かないが、同伴で入店しなければアールヴに恥をかかせる事に成ってしまう。
そもそも怒らせたのは俺だから、責任は取る。




