良い意味で我侭
今日は食事をしてきての同伴出勤だから、肴は軽めに数種類のフルーツ盛り合わせを頼んだ。
そしてママも気を使ってくれたのか、アールヴが呼ばれる事も無く静かな時間が過ぎてゆく。
薄明かりの中で表情は分り難いが、今日のアールヴは何時もより少し機嫌が良いように思える。
その日は、ママも俺の席に来る事も無く……、ママが来てアールヴを連れ戻した分の報酬の話をされてアールヴに聞かれたら、如何しようかと内心不安では有ったが杞憂におわる。
お店の弊店までお酒を飲み、同伴出勤のオープンラストで締めた。
そして席を立つ前に、アールヴと明日の待ち合わせの話をし、午前中は休み、午後ダンジョン内で待ち合わせる事にして席を立つ。
最後の客として見送られ、お店の扉の所で、アールヴが優しく手を振ってくれる。
何だか胸の奥が熱くなる様な、そんな感じがした。
翌日、俺は待ち合わせの時間より早い午前中から町に出て、渡世人の所に顔を出す。
昨日騒がせた為か、皆が俺の顔を覚えているらしく、対応は良かった。
すぐボスにも声が掛かり話が出来る。
まずは昨日のお礼と、アールヴも無事見つかった事を告げてから本題を切り出す。
「キャバクラのホステスのアールヴと、しばらくの間一緒にダンジョンへ潜る事に成った」
「ほう、それは羨ましいな」
確かにアールヴは美人だし、男なら誰でも羨ましく思うだろう、だが、そこが問題だ。
「そうだろ、羨ましいだろ」
「自慢か?」
俺は少しニヤニヤしながら惚気てみると、ボスは今にも掴み掛りそうな顔で返してくる。
「いやぁ、悪い、ただなぁ他の奴もそう思って何かしてこなければ良いが?」
「我らに護衛しろと?」
ボスは険しい顔から一変、今度は少し考え込むようにして、俺の心の内をさぐる。
護衛はお願いしたい所だが、大事なのは誰を守るかだ。
「自分の身は自分で守るし、アールヴも俺が一緒の時は問題ない」
「そうか、ならノーバンさんは、キャバクラで我侭を言い出す客を懸念している訳か?」
「そう言う事だな」
「そう言った揉め事に対処するのが我らの仕事だ、安心してくれ」
実に頼もしい返事だし、俺からの依頼と言う事でも無くなった。
だが、他にも頼み事が有って来たんだ。
「もう一つ良いか?」
「ああ何でも言ってくれ」
「キャバクラのママに借りを作っちまってな、色々考えたんだが、珍しいお酒とか喜ぶんじゃないかと思うんだよ」
「成るほど、あそこのママなら喜びそうだな」
「そこで相談なんだが、酒の一部を俺が卸す許可が欲しい」
「う~ん、分ったノーバンさんの頼みだ、商業ギルドにも我らの方で話は通しておく」
言われて気付く、渡世人以外に商業ギルドにも話を通す必要が有るのか。
「ありがとう、本当に助かる」
「でも旅から戻ってからのノーバンさんは変わったな」
「そうか?」
「以前のノーバンさんは、お礼すら受け取ってくれなかったのに、今は良い意味で我侭に成った」
お礼か? 確かにお礼を言われる位は良いが、あらたまって何かを贈られるとなると、お礼欲しさの行動と思われるのも嫌だし、また何か有ったら手を差し伸べなければ成らない様な、損な繋がりが出来てしまう様で受け取らなかった。
だが、今は一つの目標の為、そうアールヴからの報酬を確実に受け取れる様、最善を尽くしたい、仮に他人の手を借り、借りを作ろうとも。
「我侭か……」
「ああ、我らも頼ってもらえて、やっと恩が返せるってもんだ」
渡世人のボスも良い奴で、ゆっくり旅の話もしたかったが、そろそろ待ち合わせの時間だ。
切の良い所で話を終わらせ、ダンジョンへと足を運ぶ。
ダンジョンの七十六階層の安全地帯に行くと、すでにアールヴが待っていた。
「悪い、待たせたか?」
「いいえ、まだ時間前で、今来た所なのよね」
「そう言って貰えると助かる」
「本当なのよね」
安全地帯から出る前に、まずは装備のチェックだ。
アールヴの姿を上から下まで正面、横からも後ろからもじっくり観察してゆく。
新緑色の髪は首の下辺りで一つに纏めから背に流し、左右の肩甲骨の間で揺れている。
目は細く一重で瞳は茶色、大きく白い部分が僅かに残る。
体の線は細く、服を着ていても分るほどで、胸には美味しそうなマンゴーを二つ抱えてる。
……いやいや、装備の確認だ、二度三度左右に頭を振って切り替え、再度確認してゆく。
エルフの民族衣装を身に纏い、麻布のような生地の長袖長ズボンで、袖と裾を紐で窄めた形をしていて、濃いめの黄色や赤に橙色が秋を思わせるせる。
背中に矢筒を左手には弓を、腰に短剣が装備されている……が防御面に不安が残る。
アールヴは防具と言える様な物を身に着けてない、手袋すらしてないのだ。
まぁ昨日の時点で、その辺りは気付いていたし、今日も同じ装備だろう予想はついていた、幾つか自分の予備を持って来ている。
一度アールヴをベンチに座らせ、革の腕貫を四つと、左の手甲を一つを見せて話しかける。
「これを装備してやるから腕を出してくれるか?」
「……」
防具の装着を理由に、可憐な体に触れたいのだが、アールヴの返事は?




