依頼の内容(挿絵)
男女二人の依頼人、少し言葉に棘のある男と、とても優しそうな女性からの依頼。
はたして、依頼の内容とその行方は……
沢山のブックマークや感想にレビュー、ありがとうございます。これからという方も楽しんでいって下さい。
俺はこの町で冒険者をやってるノーバン、そこそこ歳の行った俗に言う中年だ。
冒険者として生活している関係上、髪は短い、髪を伸ばせば危険を伴う。
自分では一流の冒険者だと思ってるが、町で悪い噂は絶えない。
夕日が落ちる頃、行きつけのスナックへ足を運ぶ、居酒屋とキャバクラの中間くらいか、そんな感じの店である。癒しの店。
店内はランプの灯りで満たされてはいるが、それでも少し薄暗く、落ち着いた感じの良い店だ。
行きつけとは言っても土曜の夜しか来ないが、座る席は決ってカウンター席の左から二番目だ、ここは店のママ達が酒を作ったり割ったり、料理の盛り付け作業なども見れる席でお気に入りの場所。
ママとたまに会話しながら飲んでいると俺に客が来た、客と言っても俺がウエイターやホストに成って接客するわけじゃない、個人的に何かの頼み事だ。
相手は若く子供を卒業するかどうか位の男女ペアだ、女性が可愛く隣の男が羨ましい。
男は赤髪短髪で青目、女性の方は白髪肩より少し長い位で、灰色の目をしている。
「あんたがノーバンで良いのか?」
「ちょっも少し丁寧に」
「良いんだ、こっちは客だろ」
「もぅ」
男の少し棘の有る問いかけ方に、焦ったように女性が宥めるが、言い返されて半分諦めた様だ。
「あぁ合ってる、ノーバンだ」
「ダンジョン四階層ボスを、攻略する手伝いを頼みたい」
この町にはダンジョンという物が存在する、多くの冒険者がダンジョンで、ドロップの為に中で魔物狩りをしているが、危険な仕事とも言える。
「ま~取り合えず座って酒でも飲みな」
「いや依頼に来ただけで飲みに来たわけじゃねぇ」
「店に入ったんだから飲みな、話はそれからだ」
「ちっ、しょうがねぇビールを二つ頼む」
「はいビール二つね、席は自由に掛けてね」
男が俺の隣に、その向こうに女性が座る、心の中で「ちっ」と舌を打つ。
ビールを頼むって事は二人とも大人か?
「それで話なんだが」
「あぁ四階層ボスだろ、倒してどうするんだ?」
イラッとしながら、少しだけ馬鹿にした様に問いかける。
「話が見えねえな、五階層に行く以外に何かあるのか?」
ダンジョン四階層、正確には地下四階、そこまでは子供でも頑張れば倒せる魔物ばかりだ。
五階層からは大人の領域と言われ、魔物は強くなるが良いドロップ品が出るので、比べ物に成らないほど稼げるようになる。
だが、四階層のボスを倒さなければ五階層へは行けない。
そのボスが難敵だ、ボスは一頭だけだが五階層の魔物数匹分の強さとも言われるほどだ。
「そりゃ人それぞれだ、例えばドロップ目当てや、攻略法の教授や腕試しとか色々だな」
全然分かって無さそうな問い掛けに、呆れながら返す。
「四階層ボスは強いが、五階層に行けばそれほどでも無いと聞いた、五階層へ行って稼ぎたい」
「誰に聞いたか知らんが少し違うし、頼り無いような話を信じて良いのか?」
確かに四階層ボス一頭と五階層の雑魚一匹なら、ボスの方だ断然強い。
だが雑魚は一匹とも限らないし力は弱くとも知能は上だ、鵜呑みにしたら危険しかない。
「信頼できる奴から聞いた」
「じゃ~今から、そいつの事は信頼しない事だな」
なんだか面倒になって来て雑に返す。
「な!」
何かを言い掛けた男の肩を叩き、女性が席を変わる。
「すみませんテイビト、彼は、その言葉が悪くて、私の名前はマエコ、少しお時間を下さい」
「構わんがもう答えは決まってる、その依頼は受けない」
「な!」
「まって、焦らないで」
何か言いたそうな男を見ながら、女性が肩に手を置き黙らせる。
「そんなこと仰らずにと言いたい所ですが、答えは変わらないのでしょうね?」
「まぁな」
女性の方は落ち着いていて、優しげで可愛いし丁寧で好感が持てるし、俺も少し柔らかな答え方になる。
「それで理由をお聞かせ願えるでしょうか?」
「うぅぅん聞かせても良いが、隣の坊やを大人しくさせておけるのか?」
「ぼっ坊やじゃねぇ!」
「ちょっ少し離れてて」
俺の素直な疑問に、いや坊や呼ばわりされた事に怒ったのか男が声を荒げ、女性が慌てた様子で両肩を掴んで、離れた席へ移動させる。
ママも男のグラスや、お通しの皿に箸と手拭を移動させている。
「これで宜しいでしょうか?」
「ふぅ仕方なしか、まぁいい聞かせてやる」
「有難うございます」
女性の髪は纏める事もなく、櫛で良く梳かれた様な綺麗さだ。
僅かに香る髪の香りに俺の心も和らぎ、もう少し話す気になる。
「そもそも、フリーの冒険者なのか?」
「はい、何処にも所属していません」
ダンジョンに入る冒険者の殆どが、何処かの商家に雇われている。
冒険者はドロップ品を持ち帰り商家に納め、商家が歩合制で冒険者へお金を払う。
フリーより貰うお金は少ないが、怪我をして暫く働けなくても実績に応じ生活は保障されるし、その間商人の教育も受けられる。
怪我や年齢で冒険者として働けなくなっても、商人として面倒を見てもらえるメリットも大きい。
「一度は何処かの商家で働いたのか?」
「いいえ、色々と有りまして、それもしていません」
一度でも雇われれば初心者講習を受けられる事と、慣れるまでは同じ商家の雇われ上級冒険者達と、同行や実地訓練等、色々メリットがある。
一度も何処にも雇われず、フリーの冒険者は珍しいし早死にする。
「何処かで雇って貰う気は無い様だな?」
「はい」
「まあいいか、理由だったな?」
「はい、お願いします」
フリーの理由を聞いても話さないだろうし、話されても困るから深くは聞かない。
「まずは君達の目的だ。それと報酬かな」
俺もただ働きはしたくない、報酬は当然だ。今回は受ける気がないからどうでもいいが。
「テイビトの態度とかが理由じゃないんですね。私達の目的が間違っているのでしょうか?」
「そうだなぁ目的以前だ。先ほど話したように情報が頼りないし、そんな情報を信頼出来ると言い切る彼も、情報源も危ない」
態度「それも有るが」と言いたかったが、本人にならともかく、少し上品で丁寧な子に言っても仕方ないので堪える。
女性は長めのスカートを履いた膝の上に、手を置き拳を握ってしまった。気になり見ると、僅かに震えてる気がした。
「情報源はテイビトの親友の兄で、私も何度かダンジョンでお会いした方です。その疑うというのも」
女性の小さな瞳と唇が僅かに震えているのが見てとれる。
「なるほど、疑う事で親友との友情にもヒビが入ると思っているのなら、それは親友ごっこだ。その兄も端的な、もしくは弟を通した間接的な質問に答えた程度のものだろう。もう一度時間を取って貰い、四階層ボスを倒せる実力も無いのに、五階層で余裕を持って稼げるのか相談してみる事だな」
こう言って置けば俺の説明は半分で終わる、情報源の奴に押し付けてやる。
女性は若干俯いていた顔を上げ俺を見て来た。手も首も耳にも見える範囲では何も装飾品は無く、清楚な感じでとても好感が持てる。
「有難うございます。考えて、いえそのようにします。それから報酬の件ですが」
お! 考えるじゃなく、そうするか、俺の中で更に好感度が更に上がる。
「あぁ君達に払える物で、俺の欲しがる物があるとは思えないからかな」
「金額でしょうか? 身なりを見て判断されているのでしょうか?」
身なりは冒険者より商家の娘と思える良い物だ、その上、スタイルも良いし指も細く綺麗だ、見た目は冒険者と思えない。
「噂を聞いて此処に来たんじゃないのか?」
「では噂通り女性の体ですか? 私ではその……あの……えっと……」
そう、俺はこの町で碌な噂をされてない。スケベ、変体、体目当て、女好き、もろもろ中には口にする事を憚れる様な噂まである。ただ、金の無い女は報酬を体で払える利点はある。
「君は魅力的だが彼が許さないだろう?」
男の方へ視線を向けながら答えると、女性も一瞬だけ其方を見て顔を戻す。
「テイビトは彼氏ではありません。噂が本当だとしても何処までの要求か分からないので、その時は私の許せる範囲ならと思っていました」
可愛いとは思っていたが「許せる範囲なら」なんて良い事、言われたら凄く凄く可愛く見える。
しかも俺の顔を真っ直ぐ見て言って来た。俺の方が照れる。
「まぁ、多分君と彼の許せる範囲は違うだろうし、きっと彼は俺に対して君に指一本触れさせてくれはしないだろうな。君から見て、今日の彼が何時も以上に警戒し、棘が有ったなら、そう言う事だ、たぶん」
「分かりました有難うございます。とても参考になりました……もしダンジョンでお会いしたなら宜しくお願いします。今日の事で貴方みたいな方に嫌われたら悲しいので、その……お願いします」
とても良い子だ、次は一人で依頼しに来て欲しいもんだ。
嫌われたくないと、好かれたいが同義とは限らないが。
「あぁ俺、名前も顔もあまり覚えられない方だから、見掛けたら君達から声を掛けてくれると助かるな。まぁ君みたいな可愛い子はそうは居ないから、幾ら俺でも覚えてると思うけど」
「お世辞だとしても嬉しいです。それではテイビトを呼んできますね」
「あ、あ~お世辞じゃないんだけどな」
歩いて行ってしまったので俺の声は届いていないだろう。
女性は椅子を回し俺に背を向け、スカートを摩りながら立ち上り歩いて行った為、つい小さな可愛いお尻に目が行き見惚れてしまう。
「何を話したか知らねぇが、おそらく噂以上のスケベって事なんだろう? 俺は最初から反対だったんだ!」
「すみませんお別れの挨拶も出来ませんで、帰ってから良く話しますので、それじゃおやすみなさい。失礼しました」
支払いを済ませた彼の背中を押して店から先に出し、彼女は目が合うとお辞儀をしながら、静かにドアを閉めた。
「あら、気に入っちゃったの? 最後、目が追っていたのよね」
「そんな、少しだけな」
「そうよねぇ。そうは居ない位に可愛い子なのよね」
「いやママの方が可愛いよ。その焼餅なのか嫌味なのか分からない事を言わなければね」
「あら、ノーバンの方が一言余計よ。でもちょっと嬉しいのよね」
あの少し上品で丁寧な所が気に入り、見入っていたかもしれない。
ニヤニヤしながら俺の言葉を、拾って来たように投げかけるママに苦笑いしながら、お世辞と嫌味で返す。
「いらっしゃい。ノーバン、依頼はどうだった?」
俺の客が帰ったのを見て、猫耳の可愛いホステスが隣に座りながら元気に声を掛けてきた。
「おはようミミィちゃん依頼は断ったよ、カップルだったし当て付けかよって感じで困ったもんだ」
「じゃぁあミミィが付き合ってあげる」
「ありがとうミミィちゃん、それならママとミミィちゃんに一杯づつお願い」
「ご馳走様ね」
「もぅ」
ママに注文を言い財布からお金を出してカウンターに置く。
ママには素直にお礼を言われた。
何故かミミィちゃんに細い指で抓られた。良く分からないが一杯じゃ足りないって事かな?
「「「乾杯!」」」
ママが俺の分も含め三つビールを用意してくれたので、慌てて前のグラスを飲み干し、三人で乾杯して旨い酒を飲みなおした。
「依頼は断ったものの、あれだけの相談に相談料は要らなかったの?」
「あ! しまった、少しで良いから手でも握らせて貰えば良かったか」
「もぅ!」
ママの疑問に素で返したら、またミミィちゃんに抓られた。良く分からないがそれじゃ安すぎるって事かな? 俺以外にはプロ意識が高そうだからなミミィちゃんは。
俺が酒を配達してくるから、ミミィちゃんは俺の事を酒屋だと思ってる節がある。
「向こうの席まで、男の子の驚いたような怒ったような声が何度か聞こえてたし、ノーバンの仕事の話なんでしょ。ミミィも詳しく聞きたいなぁ」
そう言われてはと思いお金を適当に出し、軽食と摘みとお酒を出してもらい、いつもより少し長居してミミィちゃんと話をした。
話の途中で何度か抓られ、カウンターで入り口の跳ね上げ式板の蝶番の鳴る音を遠くに聞きながら、幸せな気分で飲むことが出来た。
今回は人物紹介を依頼人のマエコに絞っています。
一話目なので擬似短編ふうにしてみました。
第一章まだ続きます。お楽しみ下さい。
設定:地球とは異なる世界、神が存在し魔力の有る世界、夜空に月は無いが星が多く真夜中でも晴れていれば星明かりのみで夜道を歩けるほど、おそらく銀河のほどほど中の方の星の多い場所なのであろう世界。
※挿絵は二次配布禁止につき閲覧のみ許可、作成ツール(ページ)『こんぺいとう**メーカー』