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結成されてしまった新たな伝説




 ボクとユウさんが、いきなりの再会に戸惑っているところに、


「サンジョルノぉ!」


 と豪奢な金髪の縦ロールな人が、もの凄い勢いで走ってきた。


「あっはっはっ、久しぶりだねえ」

「こんのクソ王子ぃ! よくもアタシの店の邪魔したなぁ!」

「あっはっはっ、いやあビックリだねえ、潰れるなんてねえ」

「おかげで魔王討伐の資金もなくなったのよ!」

「あっはっはっ、そこに資金が残ってるって借金取りに教えたの私だからねえ」

「やっぱそれもお前かぁ!」

「あっはっはっ」

「何わろてんねん!」


 襟首を掴んでがっくんがっくんと何度も前後に振る縦ロールさん。たしかマリアさんとか言う公爵令嬢だ。

 魔法使いなのか、服装も青いローブを羽織っている。羊毛じゃない。


「落ち着けマリア」

「はっ? ご、ごめんなさい、勇者様」

「取り乱すキミも可愛いけど、今は落ち着くんだ」

「か、可愛いなんて、そんな」


 テレテレと顔を赤く染めてうつむく縦ロール令嬢。あー……これメロメロっすわ……。


「り、里奈」

「ユウくん? どうしたの? こんなところで……え? まさか」

「あ、ああ」

「まさか馬鹿王子の味方になるの!?」

「あ、ああ、そ、そのつもりだ……」


 こっちの異世界人たちも何だか修羅場。

 リナさんとやらは、短い黒髪だけどはつらつとした印象を受ける格好だ。服装も動きやすそうなレンジャー風だ。なお羊毛じゃない。


「信じられない! なんでそんな邪魔するの!? 教えてよ!」

「お、オレにだって事情があるんだ!」

「聞きたくない!」

「どっちだよ!」

「うるさいうるさい! そんな外道王子の味方になるなんて、見損なった!」

「み、見損なった……?」


 ユウさんが膝と両手を地面について、打ちひしがれている。


「見損なったよ!」


 めっちゃ追い打ちかけてるよ、リナさん。


「る、ルーク? ルークだよね?」

「はっ? そうだった!」


 ボクは久しぶりに婚約者だった幼馴染みを見る。

 美しい銀髪に優しげな目だけど、怒ると怖い。そんな彼女が、困惑した顔を浮かべていた。


「なんで馬鹿王子なんかと一緒に……」

「な、なんでだろう?」


 いつのまにか一緒に来てた、とか言えないよなぁ……。

 しかし王子様、勇者ハーレムに恨まれすぎじゃないの。


「えっと」


 改めてエルナを見つめる。二年会ってないうちに、彼女は少し大人びていた。

 銀髪を肩口で切りそろえて、後ろに少しまとめている。ボクより幼い印象のあった大きな目はそのままだけど、全体的に縦に伸びてほっそりとしてる。だというのに、胸元の膨らみは以前より大きくなってた。


「ルーク、どうして! ルーク! ……ルーク?」


 チクショウ! こんな綺麗な幼馴染みがすでに勇者と子作り済だなんて!

 だけど! 今はそんなことより許せないことがある!


「あ、あの、ルーク?」

「送られてきた絵画……見たよ」


 許せない。


「そ……そうなんだ」


 戸惑う顔を見せるエルナ。

 でもやっぱり許せない。許せない。


「裏切ったね、エルナ」

「る、ルーク?」

「よくも裏切ったね、エルナ!」

「え、えっと?」


 本当に許せない。

 確かにボクは弱い羊飼いだ。スキルも『羊に愛され体質』『犬支配』しかない。

 治癒魔法超級を持ってる彼女が勇者のお供として戦場に立つ間、羊飼いであるボクは待つしかできなかった。

 でも。

 でもさぁ。


「なんで羊毛の服じゃないんだ!!! 裏切ったな! エルナ!!」

「え、えぇ……そこ……?」


 彼女は涼しげな白い布の服を着ていた。明らかに羊毛じゃない滑らかな材質だ。


「許さない! 許さないぞ、絶対にだ!」


 思わずビシっと指を鼻先に突きつける。

 戸惑った顔をしても無駄だから!

 それだけは許さないからなぁ!

 そんなボクらに割り込むように、


「ま、まあルーク君だっけ? キミも落ち着いて」


 と勇者が割り込んできた。


「お前が勇者か!」

「ボクが勇者リヒトさ」


 少し影のある男前、という感じだ。服装もシンプルな黒い服だけど、素材がエルナとお揃いだ。

 きっとお高い服だな! 許さない!


「お前が、お前がエルナをこんなにしたのか!」


 羊毛じゃない服を着るようになるなんて! こんなに変わってしまって!

 ボクが詰め寄ろうとすると、こいつはエルナの肩を抱いて下がらせる。


「嫉妬は見苦しいな、ルーク君」


 やれやれと肩を竦めてため息を吐いた。なんかイラつくね、この人。


「なんだと?」

「ところでキミ、今度のダンジョンレースに、王子チームで出るのかい? 覚悟はあるんだろうな?」

「今まで出るつもりなんてなかったけど、気が変わった! お前たちをこてんぱんにしてやる!」

「たはは……こてんぱんと来たかぁ」


 何を男前に苦笑いしてるんだコイツ。チクショウ、男前だな! 許さない!


「でもルーク君、ダンジョンレースのルールによると、妨害ありだよ」

「それがどうしたっていうのさ!?」

「つまり」

「うっ!?」


 リヒトとかいう勇者がボクの襟首を掴んで、片手で軽々と持ち上げる。


「俺たちに勝てるの? 魔王軍と正面切って戦える俺たちにさ? 戦う覚悟はあるのか?」

「く、は、離せ!」


 足をジタバタさせてもがくけど、まったく外すことができない。


「や、やめてあげて、リヒト!」

「ダメだよエル。ここで思い知らせてあげる方が、彼のためさ」

「でも、ルークはただの羊飼いなのよ! 何の力もないの!」


 エルナがリヒトに縋り付いて止めようとする。

 すると彼はニヤリと笑い、ポイッとボクを放り投げた。


「あいたっ げほっ」


 床の上に尻餅をつく。めっちゃ痛い。喉も痛くて上手く声が出ない。


「大丈夫かい、ルークくん?」

「おい、ルーク、しっかりしろ!」


 王子とユウさんがボクに近寄ってきてくれる。


「おい馬鹿王子、それにユウ」


 リヒトが見下ろしてくる。

 その殺気に何も言えなくなるボクら。


「お前たちみたいな覚悟のねえ奴らに邪魔されるのは許せねえ。当日出て来たら、こてんぱん(・・・・・・)にしてやるからな」


 そう言ってリヒトが手をかざし、


「オール・スタン」


 と何かの魔法を使った。

 その効果かわからないけれど、ボクら三人はそのまま冷たい床の上に倒れて気を失っていった。










 目を覚ましたのは、洞窟の外にある青空の下だった。


「……ここは?」

「そういうときは、知らない天井だって言うんだよ、ルーク君」


 いや空じゃん。天井じゃないじゃん。


「王子?」

「おはよう」


 ゆっくりと体を起こして、ベッドの横に座る王子を見る。


「ぼ、ボクらは?」

「勇者リヒトの魔法『オール・スタン』で、一発で気絶させられたみたいだね」

「ユウさんは?」

「とっくに目を覚まして、あっちでお食事中」


 ガツガツと肉っぽい何かを食べてる。ブレないな、あの人は……。異世界人は食事にうるさいとかよく言うしね。


「あの、勇者たちは?」

「彼らは何やら忙しいらしくてね。目を覚ましたらいなかった」

「そう……」

「ちなみにエルナさんは、子供たちが心配だから、とか帰っていったよ」

「そ、そうですか……」


 がっくり項垂れてしまう。

 そうだった。エルナは勇者リヒトと子供を作ったんだった……。


「それで、どうする? ルーク君?」

「え?」

「いや、勢いで連れてきちゃったけど、ダンジョンレースも本番となれば、彼らと本気で戦うことになるよ」

「そ、それは」

「さすがに命までは取られないだろうけど、ケガをする可能性だってある」

「そう……ですね」


 さっき襟首を掴まれて持ち上げられたとき、ボクの力じゃビクともしなかった。あれが勇者の力なんだろう。

 そんな項垂れるボクの肩に、王子が手を置いた。


「なんとなく連れてきたけど、嫌なら帰ってもいいよ」

「え?」

「意外そうだね。いや私だってね、さすがに無理強いまではしたくないし。彼らが強いのは実際に本当の話だからね」


 珍しく困ったような顔で笑う王子。今までの無駄に自信のある表情は鳴りを潜めていた。

 ……でも確かにそうだ。

 ダンジョンレースは妨害自由だって言ってた。今日より痛い思いをするかもしれない。

 それに彼らは強い。魔王軍と正面切って戦うぐらいだ。


「当日は撮影妖精によって映される。だから、私達の無様な姿も王都民に見られるかもしれない」

「……そう、ですね」

「正直、民もそれを期待してるかもしれない。無様な王子とその仲間が、勇者にこてんぱんにやられるところをさ」


 確かにそれはカッコ悪い。

 勇者ハーレムパーティは英雄だ。それぞれが強いスキルを持ってて、羊飼いみたいな一般人に勝てる相手じゃない。


「だから断ってくれても良いよ」


 王子がそう力なく笑った。

 でも。

 ――何の力もないの!

 エルナの言葉が思い出される。

 悔しかった。

 とっても悔しかった。

 よくわからないけれど、エルナに悪気なんてなかったかもしれないけれど。

 でも。

 ……悔しかったんだ。

 王子とユウさんの顔を見る。

 二人とも力なく笑ってはいるが、心の中に悔しさを抱えているんだろう。


「王子……ボク……役立たずかもしれないけど……」


 戦闘力なんて無いに等しい羊飼い。羊に愛され犬を操るぐらいしかできない。

 体はひ弱で、生まれてからずっと同じ村で暮らしていた世間知らず。

 そんなボクに彼は、


「とっても心強いよ」


 と言って微笑んだ。

 確かに性格はねじ曲がってるかもしれないけど、悪気はないし、同志だってお酒を奢ってくれたことは、とても嬉しかった。


「……王子、出ます! 出させてください!」

「……いいのかい?」

「はい! このままじゃ終わりたくないんです!」

「そうか……そうか、ありがとう!」


 王子が手を差し出してくる。一瞬何のことかわからなかったけど、すぐに気づいて握り返した。

 そこにもう一本、手が伸びてくる。


「もちろん、オレだって出る」

「ユウさん……」

「このままじゃ終われないよな、絶対に」

「はい!」


 三つの手が重なり合った。

 そこで王子が、


「私達のチームの名前を考えなきゃいけないね」


 と笑う。


「名前?」

「登録名さ」

「よくわかんないんで、お任せします」

「じゃあ、私たちがこれから始まる伝説を作り上げるという意味で、ニュー・トラディショナル・レーサーズ、でどうだろう!?」

「なんかわからないけど、カッコ良いですね」


 ボクが褒めると、ユウさんは、


「オレたちが勇者に負けない星だって意味で、オールスターズにしよう」


 と得意げに付け加えてきた」

「じゃあ、決まりだね!」 

 そしてボクらは重ねた手の上で視線を交わし合う。


「私たちは絶対に勇者ハーレムパーティに勝つ!」

「おう!」

「はい!」

「今、ここにニュー・トラディショナル・レーシング・オールスターズの結成を宣言する」

「おう!」

「はい!」

「略して、NTRオールスターズだ!」

「おう!」

「おー!」


 全員で拳を突き上げて気勢を上げる。 

 こうして、ボクらの戦いが始まった。

 いずれも似たような境遇の人間たち。それが、ダンジョンレースという一つの土俵で、この国最強の戦士たちに復讐を誓う。

 ボクたちが、ボクたちこそが、NTRオールスターズだ!





 後でNTRが寝取られという意味なのを知って、めちゃくちゃ後悔した。










これの執筆中は、頭が空っぽになってるのを感じる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] すごい面白かった 頭空っぽにして読めました けどここで完結ですか?
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