3、すまん、巻き込むぞ!
そんなこんなで三人でお酒を飲み続ける。
お金は王子様持ちだ。タダ酒とか嬉しすぎる。
ユウさんは酒を飲まないけど食事をバクバク食べてた。貧乏だって言ってたもんね。
「そりゃあさあ、小さい頃の約束だけどさあ、両親も村のみんなも教会の神父様も認めてくれてた間柄だよ? 二人して結婚後の生活の話だってしてたんだよ?」
家はどこを使うか。今は羊小屋の隣に小さな家を貰って暮らしてるから、そこを改築しようかとか。
エルナは教会に通うことが多いから中間地点が良いかな? とかさ。
「だっていうのに、なんだよそれぇ……子供がいるってことは、もう子作り完了ってことじゃないかぁ……」
カウンターに突っ伏して延々と愚痴を言い続けるが、隣の二人も同じ体験をしているだけあって、うんうん頷いてくれてる。
「わかる、わかるよ。私も結構、嫌われてしまったねえ。目も合わせてくれないんだよね。彼女の家に行くと門番にすげなく追い返されるぐらいでさあ」
王子様が悲しげに遠い目をする。
「何かしてしまったんですか?」
「まあ、彼女は幼い頃から商才があったみたいでさ。最初は小さな雑貨屋を経営し始めて、独自の商品を売るようになって、終いには王都でも三本の指に入るような大店にまでのし上げたんだ」
「すごい人ですね、その彼女」
「だろう?」
なぜか自慢げな王子様。
この人、とことんズレてるけど、悪い人じゃないんだよなあ、たぶん。ボクがかなり失礼な口の利き方してるのに怒らないし。何がダメだったんだろうかな、その婚約者さん……まあ、色々とダメか。
「でも、別に何もしてないんじゃ嫌われることもなかったんじゃ」
「まあ、ある日、彼女の店の隣にさ」
「ふむふむ」
「値段は三割安くて、質が四割低い模倣品を扱う店を作ったのさ」
「この人、最悪だ!」
思わずユウさんに同意を求めてしまう。
「最初は彼女も、質が悪い物を買う人を相手にしないつもりだったんだ。でも、お客は非情なもんでね」
「多少質が悪くても、王子様の店で買うようになったと……」
「彼女も高級路線に行ったりしたんだ」
「なるほど競合しないように頑張ったんですね」
羊毛より良い布を売るようにしたんだろうね。
「それと同じように見える商品を出した」
「う、うわぁ……」
ボクもユウさんも顔を見合わせて、げんなりしてしまった。
悪質すぎる。もう相手を潰すためにやってるとしか思えない。
「その上で顔の良い男女に質の良い接客をさせて、お客を上機嫌にさせてね」
「もはやどっちが本物かわかんねえな」
これはユウさん。ボクも同意だ。
「お客に気持ち良く買い物をさせた上に、下級貴族や平民の富裕層たちも
「王子様のところで買い物をさせてもらった」みたいに自慢できるもんで」
「ひょっとして……」
「彼女の店、潰しちゃった。てへ」
「いやいやいや、嫌われて当然だろ!?」
「商売って残酷だよねえ。でもボクは優しいから手を差し伸べたのさ」
もはや悪い予感しかしない。
「なんて?」
「資金を出してやるから結婚しろとね!」
そう彼はキメ顔でおっしゃった。
もう呆れて声も出ない。店中がシンと静まってしまった。
……なんていうかね。もうね。
「その彼女も、馬鹿につける薬を販売した方が良かったかもね」
ユウさんが冷静に結論を述べてくれた。
そのまま、ぐだぐだと飲み続けた夜半過ぎ。
「というわけでダンジョンレースで、勇者ハーレムパーティをぎゃふんと言わせようよ」
何が『というわけ』なんだろうか。
ともかく王子様が本題を切り出したところで、反対隣の異世界人ユウさんが身を乗り出す。
「勝てるかどうかは別にしても、出場者はお金も稼げるんだろ?」
「一位には多額の賞金も出るし、国威発揚の意味もあるし、国民の娯楽にもしたいしってわけでね」
「なるほど。各チームには後援者もつくんだな?」
「さすが異世界人。よくわかってるね」
二人がしたり顔でよくわからない言葉を発し、ニヤリとしてる。
「こうえんしゃ?」
「各チームに出資する商人や貴族たちのことさ」
ボクの言葉に異世界人のユウさんが笑顔で答えてくれる。
「出資……お金を出すことですよね? なんかあるんです?」
「色々とね。店や領地の知名度も上がるし名声もつくってのが一番だし、レースで一位になった店の商品なら品質も間違いないだろうって売り上げも上がったり。どっちにも意味があるのさ」
「……なるほど」
よくわからない。なんかみんな得をするらしい。すごいな。
「だから私たち三人で出ようじゃないか、ダンジョンレースにさ!」
「え、でも……お二人はともかく、ボクなんてモンスターと戦ったこともない羊飼いだし……ロクなスキルもないし……」
「いやいや、勇者ハーレムに婚約者や好きな人を取られた仲間だからこそ、意味があるんだよ。一緒に頑張ろうじゃないか」
「王子様……」
「私のスキルには、大きな制限があるからね」
「制限?」
「ああ、私が真の仲間と認めた人間にしか効果が発揮されないんだよ」
少しだけ苦笑いを浮かべていた。
「あ、ああ……それは確かに王子って立場なら微妙ですね……」
ボクが言うとユウさんも同様に自嘲し、
「オレは戦えてたけど、強いスキルの元になってた加護を取られちゃったからね」
と肩を竦めてから、肉を頬張る。食い貯め中か。色々と台無しな人だなホント。
「隣国の勇者集団は、与えられた加護からスキルが発生するらしいしね」
「そうそう。オレたちはちょっと変わってるのさ。元々、異世界出身だしね」
少し遠い目をしながら、今度はサラダをモゴモゴしてる。どんだけ腹が減ってるんだ。
「でも、そうなると、ボクらがダンジョンレースでしたっけ。それに参加しても、勇者チームに勝てないんじゃ……」
「そこはやりようだと思うんだよ、私は」
「やりようって?」
粗雑な作りのグラスが似合う王子様が自信ありげに微笑む。
「簡単さ。審判を買収する」
どうだと言わんばかりの顔で王子様が歯を光らせた。
「最悪だコイツ!」
「これがうちの王族だなんてダメかもしれない!」
もちろんユウさんもボクも非難を浴びせる。
「という手も考えたんだけど、なんか参加チームの背後から、撮影妖精さんというのがついてくるらしくてね」
「撮影妖精さん?」
「新しい魔法技術で、これは勇者くんが開発したらしいんだけど、妖精さんが見た映像が、ダンジョンの外に映し出されるらしい。観客はそれを見て応援するそうだよ。すごいよね」
……それって王子様の不正を心配したんじゃないだろうか、と隣のユウさんに視線を送る。
彼も苦笑しながら、無言で同意していた。口にいっぱい食べ物が詰まってるからね。
さてどうするんだろうとか色々悩んでいるボクとユウさん。
「まあ、とにもかくにも、まずはダンジョンレースの開催地を体験しようじゃないか!」
そんなボクらの肩を叩いて、彼は笑顔満面で提案してくるのだった。
「ここが会場さ」
翌日、ボクたち三人は王都郊外に程近い、枯れたダンジョンに辿り着いた。
枯れたというのは、中で得られる資源やアイテムは取り尽くされたって意味だ。鉱山と似たような表現だと思う。
「元々は枯れたものを再利用できないかって、ここを領地にしている貴族から相談があったところから来てるんだ」
「へぇー」
ボクらが周囲を見回していると、頭の大きな妖精さんが羽根をパタパタしながら近寄ってきた。手には筒みたいなものを持っている。
「これが最近発見された『撮影妖精さん』で、あっちが撮影妖精さんと仲良しな『受像樹木』」
ユウさんが撮影妖精さんに手を振ると、すぐ近くにあった木の表面にユウさんの姿が映る。
「ライブカメラか。すごいな、これ」
異世界人という彼がうんうんと頷く。ユウさんの世界にも似たような技術があるのかもしれない。
「これすごいですねー」
「だろう? 最新技術さ。まあ、実現したのは勇者だけど、元は私の元婚約者が考えてたのさ」
「お、おう」
思わず生返事になってしまう。
ほんと優秀だな、王子の元婚約者。
「じゃあ行こうか、ルーク君、ユウ君」
「あ、はい」
「安心して。事前調査は平等に許されてるからね」
良かったよ。わりと本気で『良かった』って思ってる。
「本番は召喚士たちが魔物を配置するけど、今日はいないから安心してね。では行こうか」
そう言って先導しようとする王子様に、一人の騎士が近寄ってくる。
「殿下、本日は?」
「ちょっとした下見さ。他にも来てる?」
「はい。今日は先ほど一組入られたばかりです」
彼の報告に、ボクとユウさんは顔を見合わせてから、王子の方を見る。
「他?」
「ああ、言ってなかったっけ。一応、三組ほど同時に競うことになってるんだよ」
「あーやっぱりそうなんですね」
「もちろん妨害ありさ」
「そ、そうなんですね、やっぱり」
「それじゃ行こうか-」
意気揚々と手を上げて号令をかける王子様につられ、ユウさんもボクも手を上げ、
『おー!』
と答えてしまう。
そこでふと気づいてしまった。
特に参加表明をしてないのに、すでに巻き込まれているということに!
次回、勇者ハーレムチーム登場